国王様の話1
体力が戻って復活した私はすぐに国王様に謁見を申し込んだ。それはすぐに受理され、私は国王様の元に向かう。
「……大体なんの話かわかっているよ」
「……」
全てを知っていると言ってしまうと、代々の国王と漆黒の髪にしか知らされないという話を漏らしたとしてルリジオン様が怒られることになるのではないか。
下手なことは言えないと言葉を探していると、国王様から先手を取られた。
「聞いているんだろう?魔王の復活とその封印について」
「……はい」
やはり、嘘はつけない。それならば話は早いとばかりに私は問い詰めた。
「何故ですか?国王様は何故平気なのですか?」
「……」
「国を守るために、ご自分の王子を犠牲にする事が正しいとは思えません…」
「……ルリジオンはそう言ったのだね」
「いえ……!犠牲とは仰いませんでした。ただ、何千何万の犠牲が出ることと自分の命を比べたら、安いものだと……」
「そうか……」
国王様のその反応に私は混乱した。ルリジオン様の様子だと、彼に他の選択肢はないと教え込んできた張本人だと思っていたからだ。
「……私は、ルリジオンに真実を話した上で…これは義務ではないと伝えたんだ」
「え……?」
「歴代の国王たちは時には冷酷に、漆黒の髪として生まれた王族の子を魔王を封印する為だけに存在しているのだ説き伏せたと聞いている。でも私は……」
国王様の眉間に深いシワが生まれる。金髪ではあるがルリジオン様とよく似たそのお顔が辛そうに歪む。
「我が子を犠牲にしようとはどうしても思えなかった。私はあの子が可愛い。末の子として生まれて、私によく似ているあの子が。だから、過去の国王はそうだったとしても私はそれを望んでいない。魔王は倒さなくてもいい。そのあと魔王の時代が来ようと、封印なんかしなくてもいいと言った」
「……!」
「ルリジオンは何も言わなかったが、君に聞いてわかったよ。やはり、私は真実を伝えるべきではなかったのだと……私が言わなければ、あの子は何も知らずに生きていられた」
両手で顔を覆った国王様が小さな声で続けた。
「国より我が子が大切だとは国王失格だ。それでも……魔王が世を支配しようとも皆で寄り添って力を合わせて生きていけばいいじゃないかと思ってしまうんだ」
「……私もです」
沈黙が続く。でも私たちが考えていることは同じだとわかり、国王様と心の距離が近づいた気がした。
「前の漆黒の髪は、先々代の国王の弟だった」
「……はい」
「先々代が即位する前の話だ。先々代は少し年が離れた弟である漆黒の髪の王子と大変仲が良かったらしい。しかし、何も事実を知らないまま魔王が復活して先々代は弟王子を失った。魔王の封印に失敗したと思って、共に討伐に行ったが一人で帰って来たイムヌという民間の漆黒の髪の魔導士を叱責されたそうだ」
「……はい」
「ところが父である国王はただ、ご苦労だったと魔導士を労った。その父王が隠居してそして先々代が即位した時に、弟が死んだのは失敗ではなく魔王の封印には避けられない事だったと真実を聞かされ、父王を強く恨んだ」
国王様の話は続く。
「慣例では代々の国王は結婚とともに即位する。その時に魔王の封印には漆黒の髪の魔力が必要だと聞かされるんだ。自分の代で王族に漆黒が現れなければまだいい。もし自分や兄弟の子に漆黒の髪が生まれたら……その子が13歳になる時に真実を伝えてきた。それより早いと幼く、かといってそれより遅いと……魔王は大体漆黒の髪が15歳前後、遅くても成人するまでには復活すると決まっている。だから13歳なんだ」
「ルリジオン様も13歳になられましたものね」
「しかし、先々代のその前の国王は、漆黒の髪として生まれた自分の王子に真実を告げないままだったらしい」
「えっ?」
「今となってはその理由はわからないが……なんでも、その前の漆黒の髪が自分の責務に耐え切れず逃げ出し魔王の封印に失敗したからと聞いている」
(そして、その方は結局自害して魔王が支配する時代が来た、ってことね)
「倒せると信じて討伐に行き、自分の命を以て封印せねばならないと悟ってしまった時の気持ちは…我が子を欺いてまで魔王の元に向かわせた国王の気持ちは……想像もつかない」
また帰れると信じて魔王の元に行き、自らの命を失うことは避けられないと悟ったとき……その王子は絶望したに違いない。魔王はその場の魔力を全て吸い取って相手を絶命させるのだ。
(あれ……?それなら)
「魔導士の方は何故戻って来られたのでしょうか?」
ルリジオン様が言っていた通りなら、魔導士も一緒に命を落としているはずだ。だから、魔王の封印に巻き込むことは出来ないと言われた。
「漆黒の髪の王子に逃げろと言われたそうだ。魔導士はまだ子供だった。一度は逃げたがやはり王子を見捨てられないと戻り、絶命した王子を見つけたそうだ」
「きっと……一緒に命を落として欲しくないと……思われたのでしょうね」
「……そうだろうな」
「何が正しいのか、わからないです……でもルリジオン様には犠牲になって欲しくないのです」
「ああ。本当に……魔王なんて意味がわからん」
随分くだけた物言いだと思った瞬間、衝撃的な言葉が聞こえた。
「ニホンには魔王なんかいねえっちゅーの」
(ええ!?)




