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ヒロインはHAPPY ENDを阻止したい  作者: ゆきんこ
第二章
14/35

知らされていなかった真実

 ルリジオン様はぽつりぽつりと話し始めた。


「魔王の復活の話には、代々の国王と漆黒の髪にしか知らされない事実がある」

「……どのようなことでしょうか」

「復活した魔王が漆黒の髪の魔力によって再び封印されるというのは聞いている?」

「はい」

「私も、そう聞かされてきた。中には失敗して命を落とす者もいたと聞いているが、魔力が高ければ失敗もしないだろうと思っていた」

「はい」


 私もそう思ってきた。だから、稀に見る強い魔力の持ち主のルリジオン様はきっと無事に魔王を封印してくださるとも。


「……実際は違う。魔王を封印するのは、漆黒の髪の魔力が勝った時ではない。魔王は漆黒の髪の力を贄として喰らい、満足して眠りにつくんだ。力を全て奪われた漆黒の髪は、絶命するしかない」

「贄……なんて……」

「何故この国が近隣国より強大なのか。魔王が眠りについている間、漆黒の髪から奪った魔力を少しずつ周囲に放出しているんだ。私たちの魔力はこの世界の万物から借りたもの。それが再び土に、自然に還る。空気は澄み、作物は実る。豊穣が約束されるんだ。その魔力が尽きるまで」

「そんな……」

「過去に漆黒の髪が贄になるのを恐れ逃げ出し、魔王が世を支配した時代があった。暗黒の時代だったと聞いている。太陽の光は弱まり、作物は育たず、魔物が増えて王都まで脅かされ人口も半減したと伝えられている」


 あまりの事実に言葉が出ない。ようやく絞り出すように問いかける。


「そして……どうなったのですか……」

「……次の漆黒の髪が育つまで、約70年それが続いた。逃げ出した漆黒の髪が自分のした事に耐え切れず自害していたからだ」

「それ以外に……方法はないのですか……」

「ない。だから代々の国王しか知らされず、漆黒の髪も13歳の誕生日を迎えた時にしか知らされない。兄上たちも……なにも知らない」


(あ……だから……)


 ルリジオン様の態度が急変したのは13歳の誕生日を迎えられた頃からだった。そこにはそんな国家的なトップシークレットが絡んでいたのだった。


「それまで私は……祈りの中で常に国の繁栄を願うこと、自分を犠牲にしても国を、そして民を守る義務があると教え込まれてきた」

「義務……それではまるで……」

「そうだ。最初から、魔王の贄になるために育てられてきたんだよ。神官たちもそうとは知らないまま、失敗しないようにと漆黒の髪を洗脳していくんだ」

「……」

「漆黒の髪が死ぬと傍目からは失敗に見えるかも知れない。けれど魔王の封印には成功している。漆黒の髪のその身を以て。だから誰も疑問に思わないんだ」


「前の漆黒の髪は私の曽祖父…先々代の弟となる方だったそうだ。その方は、失敗して魔王を封印したものの力及ばず亡くなったと聞かされていた。でもそれは決して失敗ではなかった。そうなるべくして、自らの命を犠牲にされていたんだ」

「あんまりですわ……」

「仕方のないことだ。だから……もう私には関わるな」

「……」

「この話もするつもりはなかった。他言は無用だ。ただ……」


「傷つけてすまなかった」


 その言葉にルリジオン様の顔を見上げると、今までの冷たいものとは違う、でもはっきりと一線を引いた力強い視線が私を捉えていた。


(本当に、これで終わりにするおつもりなのだわ)


 自分の運命を受け容れ、道を決めた人の決意を覆すようなことは私の力ではとても出来ないだろう。それがよくわかるだけに、心が張り裂けそうに辛かった。


(泣いちゃだめ……泣いちゃだめ……!)


 なのに……どうしても堪えられず涙が一筋流れ、ルリジオン様がその涙を指ですくって拭いた。


「泣かないで……もう私にはなにも出来ない」

「……っ」

「部屋に戻るんだ。そして、これからは危ないことはしないでくれ。もう私は……助けてやれない」


 抱きかかえられたまま、窓から自室へ戻される。

 しっかりと目を見つめられ、視線をそらせないでいるとルリジオン様は窓に手をかけて話を続けた。


「6歳の時エテルネルと出会わなかったら、私はこの国のために自分を犠牲にしようと思えなかったと思う。自分の漆黒の髪を呪っていたこともあったくらいだ。民が犠牲になろうと自分だけでも生き延びようとしたかもしれない」

「……」

「あの時も今も、変わらず私と向き合ってくれてありがとう」

「そんな事……言わないでくださいませ」


 ふっと微笑むと、彼は私の髪をひと房取りそっと口付けた。


「ずっと傍にいると言えなくてすまない。私の事は忘れてくれ」


 そう言うとルリジオン様は夜の闇の中に消えていった。


 そんな謝罪の言葉なんていらない。この国が滅んでも、ルリジオン様に生き延びて欲しいと願うのはそんなに罪深いことなのだろうか。

 魔王だとか生贄だとかそんなものはもうたくさんだった。私が知っている乙女ゲームにはそんなものはいなかったのに。


 そこまで考えると、私は恐ろしいことに気づいてしまった。


 ヒロインが16歳から始まる乙女ゲーム「光のプリンス」に、魔王がいなかったのは……第三王子が、ルリジオン様が存在しなかったのは――


(いやっ……!!!!)


――信じたくない――


書いていてストーリーが勝手に暴走しそうになりました。


ブクマありがとうございます。嬉しいです。

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