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ヒロインはHAPPY ENDを阻止したい  作者: ゆきんこ
第二章
13/35

窓から出よう

加筆しました。2020/1/7 21:15




 それから私はルリジオン様に合わせて祈りを捧げ、食事の時は隣の席に行って話しかけたが全く取り付く島もなかった。

 礼拝や食事の時間こそ決まっているので避けようがないが、その他の時間は面白いくらい姿を見られないように避けられているようにも感じる。


 私への嫌悪感が強いのか、その他の理由か。考えられるのは魔王の復活に関することしかないのだけれど。

 魔王の復活がそんなに心の変化を生むものなのだろうか。

 過去に世界の危機を救ってきたとされる漆黒の髪の王族。それは名誉なことではないのだろうか。

 確かに、失敗した人もいて命を落とすこともあったと聞いたことはあるが…稀に見る魔力の持ち主と言われているルリジオン様が失敗を恐れてナイーブになっているのはまた違うような気がした。


 あれこれ考えながらも今日も成果のあがらないストーカー活動に疲れて私は礼拝堂に行って心を鎮めることにした。


(なんだかんだでここに通ったから、落ち着く場所なのよね)


 どうか、この国の安泰を。魔王の討伐で誰も傷つきませんように。ルリジオン様が、傷つきませんように――。


 一通りの、邪念も含めた祈りを捧げたあと礼拝堂を出ようとすると入口に人影が見える。


「エテルネル」

「ルフレ様!」


 16歳となったルフレ様は騎士団の一員として剣術に励んでいらっしゃる。すっかり大人びたその姿が眩しい。


「祈りを捧げているのですか。熱心ですね」

「はい……この国の安泰と…魔王の討伐で誰も傷つかないようにと」

「そうですか。エテルネルが願ってくれると心強いです」

「そんな。ありがとうございます」


 少しの沈黙のあと、遠慮がちにルフレ様が口を開いた。


「ルリジオンのこと、私からお詫びします。あの態度では……きっと傷ついていると思って」

「いえ……ルフレ様が謝られることはないですわ、本当に……気にして下さりありがとうございます」


 本当に申し訳なさそうな顔で謝られ、私のほうが申し訳ない気持ちになる。

 やっぱりルフレ様や他の方たちにも私たちの関係が変わったことがわかってしまっていたと知り、気を遣わせてしまっているのかもしれないと思っていたたまれない。


(もう、ルリジオン様を追いかけ回すのはやめようかな……)


 すると、ルフレ様が屈んで私の耳元で囁いた。


「ルリジオンは最近夜になると外を飛び回っているようです」

「えっ……?」

「周辺の警護と言ってはいますが、城の周囲も見回っているようですしエテルネルの部屋からも見えるかもしれませんね」

「……!」


 顔を離したルフレ様がイタズラっぽく微笑み言う。


「内緒ですよ」


 では私は剣術の鍛錬があるので、とルフレ様がその場を立ち去るのを見送った。すると、ルフレ様が向かう先にルリジオン様がいるのが見えてドキリとする。


(今の、聞かれてないよね……?)


 内心焦りながら私も歩き出し、ルリジオン様とすれ違う前に「ご機嫌よう」と挨拶だけしてみた。

 様子が気になり見上げると、今までで一番の不機嫌な表情をされてふい、と顔を背けられた。ここまで態度に出されるとさすがにこたえる。

 俯いて逃げ出すようにその場を後にして、その日はストーカー活動は行わず大人しく過ごすことにした。


(ルフレ様は、私を応援してくださっているのかしら……)


 夜になり、自室でルフレ様とのやり取りを思い出す。少しでもルリジオン様との接点を増やそうとしてくださっているに違いない言葉は有難かった。


(夜はお城の周囲を飛んでるっておっしゃってたわ……それなら……)


 窓に近づく。いつも同じ部屋に寝泊りするのでこの窓はかつてルリジオン様が連れ出してくれた窓だったことを思い出し、甘く、切ない気持ちに胸が痛んだ。

 窓を開けて外を見てもなにも見えない。ただどこまでも続く夜空と、城下町の明かりだけが見えた。一体どのあたりを飛んでいるのだろう。もう少しよく見える場所はないかとキョロキョロすると、私の部屋の隣の広間のバルコニーが見えた。


(あっ!あっちに移ったら外がよく見える!)


 私は窓から身を乗り出し、隣のバルコニーの手すりを掴む。意外と近く、簡単に飛び移れそうだった。


 ……しかし私は5階という高さの風の強さと、自分の服装を完全に甘く見ていた。


「よっし!えっ?!きゃっ!!」


 うまく手すりを掴んだものの、下半身を窓から出したところで強風に煽られ、私のひらひらしたスカートはあっという間に強い力で外側に引っ張られたのだ。


(やばい死ぬ!)


「危ないっ!」


 叫んだのは私ではなくルリジオン様だった。

 声と同時に落ちかけた身体を軽々と抱えられ、我に返ると私は杖に腰掛けたルリジオン様の腕の中にお姫様抱っこの体勢で収められていた。


「なにをやってるんだ!危ないだろう!!」


 物凄い剣幕で言われ、私は自分がしたことの危険さに今更ながら気がついて身体がガタガタと震えてきていた。


「も……申し訳ございません……」

「こんな高さから落ちたら死ぬんだぞ!」

「はい……」

「一体なんで、こんなことをしていたんだ。死にそうになってまでどこに行くつもりだったんだ!」

「あの……そこのバルコニーに……」

「は……?」

「ルリジオン様が外の警護をしていると聞きましたので、バルコニーからならよく見えるかと……」


 ああ、頭が痛い。そんな声が聞こえてきそうな顔をして、彼はため息をついて言った。


「だったら隣の広間に回ってバルコニーに出たらいいだろう」


 あ……。


「そうですわね……」

「……」

「本当に、どうして気がつかなかったのでしょう……」

「……!」

「本当に……っ」


 ぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。安全な道があるのにも気づかず死にそうになってまでバルコニーに行こうとしたのは、貴方に会いたかったから。一目でいいから、その姿を見たかったから。

 そして今、会いたかったその人は助けに来てくれて、私は彼の腕の中にいる。どんなに避けられていても、それは事実。


「……たかったのです……貴方に……どうしても、会いたかったのです……っ」


 聞こえる、深い溜息。


(やっぱり迷惑でしかないの……?)


「……何故だ。あんな態度をとってきた私にまだそんな事が言えるのか?」

「言えますわ……」

「私といたって……私は聖職者だ。王位に就くことは有り得ない。騎士団のような華やかさもなく欲を捨て祈りを捧げる身だ。兄上たちのような暮らしも出来ない」

「承知しております」

「煌びやかな世界とは無縁だ」

「はい」

「では何故私にそのような気持ちを……兄上たちのオマケでしかなく、敬遠されこそすれ誰にも見向きもされなかった私を……」


 そんなことはない。出会った時から私にとっては鮮烈な存在感を放ち、一瞬で心を奪われた。


「出会った時から、私にはルリジオン様しか見えておりません」

「何故……?」

「何故と仰られましても、私にはルリジオン様しか見えていないのです」


 私は躊躇いながら続きを口にした。


「ご事情は存じておりますわ。魔王との対峙は遊びではございませんもの。集中力を欠いてはならない、それもわかります。決して邪魔はいたしません。どうかお聞かせくださいませ……何故ルリジオン様は私をこんなにも避けられるのでしょうか?私はそれほど邪魔で疎ましい存在なのでしょうか?」


 6歳の時から気持ちは通じていたと思っていたのは私の自惚れだったのだったのですか?

 10歳の時にその気持ちが不動のものだと思ったのは――――


「そこまで言うなら……説明する」


 そしてルリジオン様の口から真実が語られ始めたのだった。


イメージとして、ルリジオンは杖のようなものにまたがるのではなく横に座って飛んでいて、片足は立ててエテルネルを持っていると思っていただけたらと思います!

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