魔法の絨毯!
挿入歌はA whole new worldです……笑
窓の外の光景に仰天して手を口に当てて固まったあと、首だけ前に突き出してまじまじと見つめる。
何度見てもルリジオン様は絨毯らしきものに乗って、5階の高さの外の宙に浮いている。
しばらくその状態でいるとルリジオン様が困った顔をしてもう一度コンコンと窓をノックしたので我に返り、震える手で窓を開けた。
「……開けてくれないのかと思った」
「ごっごめんなさい、驚いてしまって」
苦笑するルリジオン様は手を差し出して私を促す。
「出てきてくれないかな」
「……大丈夫ですの?その、私が乗っても」
信用していないわけではない。それでも、その絨毯は術者にしか有効じゃないとか重量オーバーだったりしたら困ると思ってしまう。
「大丈夫。試したことないけど、多分」
怪しげな返事だけれどルリジオン様の手を取って恐る恐る絨毯に乗った。
高所恐怖症ではないが下の景色を想像するとゾッとして、彼の隣にストンと座って袖を少し掴ませてもらった。
「見せたい場所があるんだ。ちょっと出かけよう」
そう言ったルリジオン様は人間不信で頼りなさげに見えた6歳の頃とは違って堂々として見えた。
(まるで……映画みたい)
日本人だった頃に観た映画の挿入歌が聞こえてきそうな感動を覚えて私はルリジオン様の袖を掴む手に力を入れた。
普段は後ろでまとめている漆黒の髪が珍しく下ろされていて、風で後ろになびいて闇に溶けそうに綺麗に見える。
「こんな……魔法も習得されていたんですね。ご立派です」
「エテルネルの誕生日に間に合わせたかったんだ」
「私の、誕生日に?……ありがとうございます」
そう聞くと嬉しくて顔がニヤけてしまう。
「エテルネルも一緒にとなると、どうやったらいいのか苦戦した」
「それで、絨毯を?」
「そう。部屋にあって、乗りやすくて、飛びやすいものを考えたら……変かな?」
「いえ!箒よりいいと思います」
笑いながら答えると、ルリジオン様が驚いた顔をしたあと考え込んで言った。
「箒……?柄に立つのか?難しいだろう」
「柄の部分に跨ったり座るのが一般的かと」
「一般的??まさかエテルネルは飛べるの?」
「いえ……飛べません……」
これ以上話すと墓穴を掘りそうなので私はその話はやめて周囲の景色を見回してみた。
「夢みたいですわ……素敵」
「良かった。もうすぐだから、待ってて」
ほどなくして、城下町のはずれあたりに到着した。
ルリジオン様が両手を合わせたあと空に向ける。すると、あたり一面に光が飛び散り周囲を明るく照らした。
「わぁ……!」
そこは淡いピンク色のチューリップ畑で、暗い周囲と光とのコラボでとても美しく浮かび上がって見えた。
「エテルネルにはこの色がよく似合うと思って」
そう言ったルリジオン様が花畑から一輪摘み取ると、私に差し出して微笑んだ。
「誕生日おめでとう」
(やば……泣きそう)
「ありがとう、ございます……!」
エテルネルはまだこの世界に生まれてたったの10年なのに、アラサーまで生きていた前世の私よりはるかにいい思いをしている。
(こんなシチュエーション、前の私なら一生縁がなかったわ。ビバヒロイン!)
「本当に、嬉しいです。こんな素敵なお誕生日は初めてですわ!」
「喜んでくれたなら良かった。この前ここを見つけて、エテルネルに見せたかった」
「こんな素晴らしい景色を私にと思ってくださって、ありがとうございます」
嬉しすぎて顔がニヤけてしまい、慌てて花の香りを嗅ぐフリをして下を向いた。
「……もう少し見ていたいけど、そろそろ戻ろう。気づかれたら騒ぎになる」
「そうですわね!」
ルリジオン様に手をひかれて絨毯に乗る。その手は繋いだままで、私はまたドキドキが止まらなかった。




