転生先はやり尽くした乙女ゲーム
私はラッキーな転生をしているらしい。
生前ハマっていた乙女ゲーム「光のプリンス」(笑)のヒロインとして生を受けた私。
美しい水色の髪、すらりと伸びた手足、大きく盛り上がった胸(笑)。
そしていかにもヒロインといった美しい顔立ち……
……となるのは約10年後。
私が「日本人」だった頃の記憶を取り戻したのはそれよりも時は遡り、わずか6歳の時。
「その人」と出会った時だった。
と、その前に現在の私を取り巻く環境を簡単にご説明を。
強大な隣国ソレイユ王国に護られる属国である我が国。
忠誠を誓うため、王族の子供たちは代々ソレイユ王国に留学する習わしで。
幼い頃から王族の子供たちは隣国には比較的頻繁に出入りしているのだ。
そう。小さな国とはいえ、私は王族の姫君!名は、エテルネルと申します。
叔父が国王さまで従兄弟達は王子となる。
(実は従兄弟の第一王子は攻略対象のひとりでもある)
私は国王の弟の長女で、兄がひとり。
過酷な身の上が多いヒロインとしては恵まれすぎでは?と思われるかもしれないが、所詮弱小国。更に私は国王の姪であって「王女」ですらない。
留学と言えば聞こえは良いが半ば「人質」としても捉えられる弱小国の王族は強大なソレイユ王国ではやや肩身が狭く、ソレイユ王国の王族は勿論貴族のお嬢様にまで軽く見られてイビられるという設定だった。
そして16歳となった頃、留学先のソレイユ王国で王子と恋をする……はずだったのだが――
――その人を視界で捉えた瞬間、6歳の私はまるで雷に打たれたかのようにその場から動くことが出来なかった。
「彼」の漆黒の髪色はこの世界ではとても珍しい。けれど私には懐かしく、そしてとても惹かれる。
「エテルネル?」
急に立ち止まった私を、それまで横を歩いていた王子が不思議そうに振り返る。
「い……いえ……ルフレ様」
何事もなかったように笑みを浮かべて差し出された手を取る。動揺を隠しながら私は王子に聞いた。
「あの……今の方は?」
「あぁ、あれは私の一番下の弟のルリジオンです。見ての通りの髪色なので私やエタンセルのように将来も軍の統率はしませんしあまり人前に出ることも好まないようです」
「ルリジオン、様……」
「エテルネルと同じ6歳ですが、話し相手になるかどうか……」
ルリジオンという名前を呪文のように呟く私に一気に蘇る、日本人だった頃の記憶。
光のプリンスをプレイしていた、つまらないOLだった頃の自分。いつも楽しみにしていたゲームの続きが気になり、我慢できずに会社からの帰り夢中になってスマホを見ていて人にぶつかり、電車のホームに落ちたという……そんな呆気ない最期を迎えた自分から一転、まさかそのゲームのヒロインに転生しているなんて。
やった!ヒロイン転生!目の前にはあの憧れだったルフレ王子が!9歳のルフレ様も激カワ!
という興奮するシチュエーションだったのに――
ルリジオン様の存在があまりに強烈で……
一目惚れと言っても過言ではない。
弱冠6歳にしてどこか憂いを帯びた表情、サラサラの綺麗な黒髪。ぱっちりと大きな黒い瞳に意思の強そうなまっすぐとした眉。
どこをとっても好みどストライクだったのだ。
シナリオ通り、ルフレ王子に恋をすればヒロインとして安泰のHAPPY ENDに向かうこと間違いなしだったのに。(悪役令嬢たちにイビられるのは少し憂鬱だけど)
恋とは。人の心とはそう簡単にいかないようになっているようだった。
しかし問題点がひとつ。
前世で攻略した乙女ゲーム「光のプリンス」にあんな第三王子はいなかったということだ!