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IF『守護者ルート』その30くらい?(あらゆるネタバレあり)



 それはある日の迷宮十層の隅っこ。


 いつもの泥水ハウスにて――ではなく、いまや多くの『理を盗むもの』が合流したことで立派に進化し切ってしまった大屋敷の中で(『木の理を盗むもの』の建築を初めとした異次元技術で増築されている為、一般探索者は近寄らない。というか近寄れない)、その話は始まった。


 次元魔法で広々とした居間の中央テーブルで、ぽつりとカナミが漏らす。


「……そういえば、本当の魔法・・・・・ってのあるよね? 自分全部ぶつける系の必殺技やつ、あれって僕も使えるのかな?」


 何気ない思い付きだった。

 本当に軽い気持ちで出た単語だったが、多くの『理を盗むもの』はびくりと肩を震わせた。


 まず代表して、妹の『水の理を盗むもの』ヒタキが答えていく。


「はあ。急にまた兄さんは変なことを。その兄さんの馬鹿な夢、すぐにこの私がぶち壊してさしあげます……と、今日も言いたいところなのですが、うーん。……うーん」

「あれ。珍しく歯切れ悪いね」

「実は私、本当の魔法が使えません。なので、今回の件は他の方にパスですね」

「そうなんだ。それじゃあ……」


 見渡そうとして、すぐさまアイドが二番手に名乗り上げる。


「カナミ様! あれはそんなに良いものではありません! もう十分にお強いのですから、あんなもの扱おうとしないでください!」

「いや、なんかやばいのは知ってるよ。その上で、これはなんというか……、興味があるというか……。こういうロマン、セルドラならわかってくれるよね!?」

「あ、俺か? んー、気になる気持ちはわかるぜ。ハイリスクハイリターンとか自傷付きの必殺技とか、俺たち馬鹿な男にとってはロマン。超ロマン技だからな」

「でしょ。なら、セルドラが僕に教えて――」

「だが、それは無理だ。残念なことに、俺は教えれそうにない。俺は使えない……というか、俺自身がそれみたいなもん疑惑があってな。悪い、カナミ」

「なにそれずるい」


 急に話を振られたけれど存在そのものがロマンだったセルドラは、ヒタキと同じく歯切れが悪かった。


 代わりに、ライバルにマウントを取りたいローウェンを初めとして、歯切れのいい面々が次々と話に加わっていく。


「セルドラ、ちなみに君と違って私は使えるぞ。しかも、このメンバーで一番自由に、低燃費で、世界最高の必殺技をね」

「一応、妾も使えるぞー。使いどころのないトンネル魔法じゃがのう。んーむ、この中であと使えぬのは、ノスフィーくらいか?」

「はい。わたくしは使えませんので、カナミ様に教えることはできません」


 カナミに協力的なセルドラとノスフィーが、揃って伝授不可能だった。


 困ったカナミは、さらに見渡して――続いて二人の声。


「「カナミ、本当の魔法はやめておいたほうがいい」」


 アルティとティーダが同時に、苦い顔で首を振った。


 過去、出会ったときに本当の魔法を撃ち合ったと知られている二人は「あれを乱用すれば、世界が壊れる」とストップをかける。

 その真剣な声色にカナミは少し怖じ気づくも、違う味方を探してすがりつく。


「いや、乱用するつもりは全くないよ? ただ、使えるようになってると、格好良くないかなーって。……ねっ、ラグネ。良いものじゃないって言われるところが、むしろ逆に格好良さ増してない?」

「げっ、そこで私に振るっすかー。まあ、確かに、逆に? ぎゃーくに格好良いっすよねー。デメリットのある技が時に反転して凄い力になることなんて、あるあるっす。私もロマン大好き女の子として、切り札は持っておきたいかなーかもっす」

「だよねぇ! やっぱり、ラグネは分かってるぅー!」

「アルティさんもティーダも、別に手札を増やすこと自体には反対じゃないっすよね? もしものときの為の奥の手を」


 意外に仲良しとなっているカナミはラグネと組んで、話を通そうとした。

 それに火と闇のコンビは難色を示すが、交渉でラグネに勝てる気はしないので二人で「それは、まあ……」と頷いてしまう。


「よし! それじゃあ、今日は本当の魔法開発をしよう!」

「いいっすね。強くなるのは大歓迎なので、私も参加させてくださいっすー」

「もちろん、ラグネ。それで、あと本当の魔法を使えないのは――」


 許可を取れたと思った二人は、いつものように遊び感覚で着手していく。

 その軽挙妄動から仲間を守るのは、呆れ顔のヒタキだった。


「ノスフィー、こっちですよ、こっち。そこの馬鹿二人と付き合う必要は全くありませんからね」

「え? ヒタキ様は開発に参加しないのですか?」

「本当の魔法は危険であり、なにより大事なものです。それをこんな……、はあ。馬鹿が移りますから、早くこっちへ」

「た、確かに、今回はわたくしもヒタキ様と同じ感覚です……。なので、申し訳ありません、カナミ様」


 参加・不参加がはっきりと別れる。


 そして、魔法開発の協力者もはっきりと別れていく。

 最初に名乗りを上げたのは、カナミと同じく研究者気質で無謀でもあるファフナーだった。


「仕組みと成り立ちくらいなら、俺でも教えられるか? 魔法の感覚は、代理人の俺より他の奴らのほうが良さそうだが」

「私の一閃は、本当に感覚だけの説明になりそうかな」

「妾も同じくじゃ。おそらく、他の者たちもそうじゃろう。これは個々の魔法であるからのー。それぞれにインタビューでもして、あとはかなみんとらぐねんが地力でなんとかするのみじゃ!」


 と歴戦の『理を盗むもの』たちが答えていき、それが正解だとカナミもわかっていた。


「それじゃあ、教えて貰おうかな。みんなから――」

「わくわくっすねー。久しぶりのパワーアップイベントっす――」


 二人は、先駆者たちの助言を最大限に活かしていく。


 まずファフナーからルールを学び、ローウェンから感覚を教わり、ティティーとアイドからは歴史の重要性を知り、アルティとティーダからは危険性を忠告され――


 カナミとラグネ。

 二人による本当の魔法開発は始まった。



 ◆◆◆◆◆



 そして、その修行の結果。


 無駄に豪華となった10層の屋敷にある大庭にて(アイドとローウェンが仲良く、日ごろから緑豊かな庭の生育と剪定をしている)、二人は驚きの顔で向かい合う。


 どちらも右手に、異常な存在感を持った魔力を纏っていた。

 それを互いに見せ合いながら、恐る恐ると確認していく。


「な、なんかだけど、できてる……よね?」

「限定的っすけど、なんかできてるっすね」


 なんかできていた。


 もちろん、お試しということで、魔法のスケールは限界まで落としている。

 発動は手のひらで対象をタッチしたときのみ。

 だとしても、確かに発動していた。


 たった数日での習得に、二人は心底驚く。


「はやー」

「私ら、変なところで天才っすよねー」


 そう言いつつ、二人とも自分を信じられていなかった。

 知らないところで下地ができていたとしか思えない。

 とりあえず、これまでの『理を盗むもの』との交流あたりが原因だろうと当たりを付けてはいるが……すぐにラグネはソワソワし出す。


 新しい魔法を試したい気持ちは、カナミにもよく分かっていた。


「これを相手にタッチすればいいって感覚があるんすけど、ええっと……」

「ラグネ、いいよ。それ、僕に使ってみて」

「いいんすか? こう言っちゃなんすけど、だいぶ怪しくてやばそーな魔法っすよ?」

「この世界の誰よりも僕は耐性があるし、応用が利く自信もあるから……って、だけじゃないね。一緒に修行したおかげか、なんとなく分かるんだ。この妹弟子の魔法はそんなに悪いものじゃないってね」

「そういうところ、好きっすよ。あと正直、私も弟弟子のお兄さんの魔法が、なんとなく分かる気がするんすよね。同時に、なぜか私のも絶対に分かってくれる気もしてて……、なーんか不思議な感覚っすねー」

「嫌じゃない感覚だよ。だから、ラグネならいいんだ。先に試してみて」

「分かったっす! ここは姉弟子の私が、先に挑戦するっすね!」

「……姉弟子にこだわるなあ。いつも僕のことをお兄さんって言ってるんだから、そっちが妹でしょ」

「いやあ、そこのキャラが被ると怒る人いそうだなーって思って。ちょっと姉キャラにこだわってみたっす」

「あの酔っ払いは、もうほっとけ。あいつが怒る権利、一切ないだろ」

「了解っす! じゃあ全部、カナミのお兄さんの責任ってことで。責任なすりつけターーーーッチ!」


 話が纏まったところで、ラグネは右手を伸ばした。


 接触によって手の魔力は伝っていき、すぐに魔法は成立していく。

 ただ余りに豊富で膨大な魔力のせいか、瞬間、眩い白光が階層を埋め尽くした。


 二人は堪らず目を閉じる。


 そして、恐る恐るゆっくりと目を開いて、結果を確認していく。

 ラグネ・カイクヲラの本当の魔法を。


「これは、もしやっすけど……」

「性別が……?」 


 カナミの姿が変化していた。

 服装はそのままだが、身体が丸みを帯びて、胸部が膨らんでいる。喉仏が消えて、声は高くなった。それとなぜか黒髪が長くなっている。


 その自分の身体を確認しながら、カナミは内面も見つめ直していく。


「効果は、性別の変化……いや、反転? あと……うわっ、精神面にも結構きてる。前に女性になったときに近い感覚だ。……でも、よかった。服のほうはギリギリ平気そうだ」


 常人ならば、その落差で精神の均衡を崩し、錯乱してしまうだろう。

 しかし、もうカナミは慣れていた。


 経験で動揺は最小限に済ませて、ラグネに意地悪を言う余裕まであった。


「というかラグネ、僕をママにしたすぎでしょ。そろそろはっきり言うけど、ちょっときもいよ?」

「えっ!? ち、違うっすよぉ!! そういうのとは、ほんと違うっすー!!」

「正直、食らう前から分かってたけど、ラグネの本当の魔法は相手を『ママにする魔法』だね」

「う、うぁあぁぁぁあ……! ぁぁぁあああアアー、おーーーーう!」


 直球でマザコンと言われているようなもので、ラグネは恥じて呻き、よく分からない咆哮をあげた。

 その醜態をカナミは「ふふっ」と笑って、十分過ぎるほど見守ったあとに頼む。


「じゃあ、効果がわかったところで……。ラグネ、解除できる?」

「……たぶん、できるっす」

「うん、じゃあ解除しようか」

「…………」

「そこでちょっと惜しむから、さっきの評価に辿り着いちゃうんだよ」

「きもくないっすもん」

「もんじゃない。早く」


 カナミからきもいと強い言葉を使われて、ラグネは少しいじけていた。


 その仕草を見て、カナミは和む。

 ラグネとの間に色々と因縁や確執が生まれたものの、基本的には妹の一人のように思っているからだ。

 それもヒタキやティアラと違い、年の近い双子のような。だから――


「まっ。いつでも戻せるなら、別にこのままでもいいよ」

「へっ……? カ、カナミのお兄さんー! そういうところ、大大大好きっすー!」

「今はお姉さんだけどね。いや、ラグネが欲しいのはママか。じゃあ、このときの僕はママってことで」

「そして、この包容力! やって貰っておきながら、ちょっとこっちが心配になっちゃう包容力ぅ!!」

「心配しなくていいよ。もう単純に、この手のに慣れてきただけだから」

「ああ、なるほど。私も含めて、もう散々女の子にされてきたっすからねー」

「あと一部の変態は、嫌がってるのがいいとか抜かしやがるから。顔を赤くしたり、過剰な反応はしたくないんだ」

「パリンクロンさんっすね! そんなマジできもそうこと言いそうなのは!」

「あれを喜ばせないためにも、女になるときは淡泊に、そして毅然とした態度を取るって決めたんだ」


 長らくカナミとパリンクロンの関係は良好だったが、以前の『学園世界』において決定的な亀裂が入っていた。


 その経験を経て、カナミはこれからのスタンスを宣言する。


「もう僕は女性になることを、恥らわない! ネタは堂々と! 照れると、より恥ずかしくなるだけ!!」

「強いっ、偉いっ、賢いっ! でもちょっと芸人さんみたいっす!」


 それはそれでパリンクロンの思惑通りではないかとラグネは感づいていたが、利害は一致していたので止めることなく、むしろ褒め称えた。


 それにカナミは気分を良くして、宣言通りに堂々と振る舞い、ときには女性らしい『演技』を交えて、話を進める。


「よしっ。それじゃあ、次はこっちの番だね」

「もちろん、私が食らうっすよ。当たり前っす」

「ありがとう。それじゃあ遠慮なく、タッチと」


 ラグネのときと全く同じ手順をたどり、強大な魔力が発光していく。

 階層に満ちた光が消えたとき、その効果は一目瞭然だった。


「小っちゃくなった……? これは時間逆行?」


 背が縮んで、服がダボダボ気味となったラグネが、カナミのときと全く同じ冷静さで状態を確認していく。


「ふーむ。時間というよりかは、大人・子供の概念そのものに働きかけているように感じるっすね。とにかく、『相手を子供にする魔法』なのは間違いなさそうっす」

精神こころのほうはどう? こっちは結構やられたんだけど」

「はい、結構引っ張られてるっす。十年分の落ち着きを取っ払われたようで、ちょっとそわそわそわーってするっす」

「僕から見ると、あんまり変わってないように見えるけどな」

「私、早熟だったんで。子供の頃からあんまりメンタル面変わってないんすよねー。あっ、成長してないんだなあとか言わないでくださいっすね? 傷つくっすよ?」


 ラグネは大嘘をついて、子供の頃から長けていた『演技』で自分を覆い尽くす。


 そんな『演技』のおかげで二人は、グッドコミュニケーションを積み重ね続け、互いの認識を深めきる。

 カナミは苦笑して、ラグネも鏡に映したように応える。


「はははっ。これで本当の魔法の確認は終わりだけど……。正直、予想はついていたかもね」

「そうっすね、こんな気がしてたっす。私がママを欲しがってるように――」

「僕は子どもに戻りたいんだろうね――」


 ただの特訓のつもりが、図らずも互いの人生を再確認してしまった。

 こうして、また皮肉にも二人は、無駄に親密度を上げ合ってしまう。


「懐かしい目線の高さっすねー。あー、ママー、凄く綺麗っすー。あっ、ちゃんと格好いい系の綺麗っすよ?」


 その親密さのまま、自然にラグネは、カナミをおだてた。

 それが心底嬉しくて、自動でカナミも――


「ラグネもね。凄く可愛いよ」

「……い、いやあ、お世辞は別にいいっすよー」


 直球で返ってくるとは思っていなかったラグネは照れてしまった。


 いまカナミはラグネの願いに応えて、「できる女性」の『演技』をしているので、普段は言えないことも言えてしまう。


「お世辞抜きだよ。……積み重なったゴミのような記憶のせいで、こういう真っ当に可愛らしい妹が一番だったなあって、最近本気で思ってるところだから」

「……私も正直、ちょっとだけ。カナミのお兄さんみたいな家族がいればなあって、最近思ってたところっすね」

「家族がいれば……? いや、もう家族でしょ? この家にいる『理を盗むもの』たちは、これから先ずっとみんな一緒の家族なんだから」


 それはラグネにとっては禁忌で、カナミにとっては呪いの返答だった。


 だから、ラグネは「えー、私もそのみんなに入れてくれるんすかー?」と、冗談でも聞けなかった。相手の顔を見れば分かる。絶対、入れてくれている。いま目の前には、私の『理想』のママがいるから――


「……ぅ、うう」

「な、泣くほど!?」

「これは、その……。か、身体のほうはどうでもいいけど、メンタルが引き戻されるのが厄介っす、これ!! もう、早く元に戻れええええ!!」


 ラグネはママと向き合い続けることに耐えきれず、自分の本当の魔法を解くしかなかった。

 同じ発光と共に、カナミの姿が元に戻っていく。


「僕のほうも、一旦戻そっか」


 合わせて、ラグネの身長も戻っていき、最初の実験は終わっていく。


 ニュートラルに戻った二人は向かい合い、「ふう」と一呼吸の休憩を入れる。

 少し照れるようなやり取りはあったが、それで関係が悪化することはない。

 むしろ、さらに親密さは深まって、恐れることなく次の実験へと移る。


「ねえ、ラグネ。この魔法、僕自身にも使えるのかな?」

「使えると思うっすよ。子供時代に戻りたいのは、何より自分でしょうから」

「だよね。それじゃあ僕のを僕に、タッチと――」


 もう慣れた感覚で、再度タッチからの発光をさせていく。


 そして、現れるのは、先ほどのラグネと同じく縮んだカナミ。

 ダボダボとなった服をまくり、自信の身体をチェックしていく途中で、ラグネが面白そうに近づいて、その頭を撫でた。


「おー、新鮮っすねー。大人なお兄さんと違って、すんごく生意気そーっす!」

「生意気そう? 言われたことないな。大人しそうとは言われたことあるけど」

「いやいや、かなり目つき悪いっすよ、チビのお兄さん。あはは」


 カナミの自己評価は間違っていない。

 誰が見ても一見では、か弱そうな子供だと警戒心を解くだろう。

 しかし、ラグネだからこそ、その幼少期カナミの中に潜む異常な鬱憤や不満を見抜けてしまっていた。


 さらに二人の理解が深まるやり取りだった。

 深まりが早すぎて、まるで頁を飛ばしてるかのようで――


 そして、ここまで本当の魔法を庭先で連発していると、流石に心配する仲間たちも出てくる。

 最初に屋敷から現れたのは、実妹のヒタキだった。


「に、兄さん、何をっ!? ……そ、その姿は。……なるほど、先ほどから中々の魔力が迸ってると思えば、すでに本当の魔法の一端を掴んだようですね」


 慌てていたが、一目で状況を理解した。

 冷静に、特訓が好調過ぎて予想外のスピードで習得しただけだと分かり、安心して胸をなでおろす。


 ただ、問題はヒタキに続いて、屋敷から出てくる仲間たちだった。

 カナミが子供となっているのを見て、ヒタキの横から一歩前に躍り出るのはノスフィーとティティー。


「カ、カナミ様!? 絶対、カナミ様ですよねっ!! そこの麗しい少年はっ!!」

「おー、かなみんが子どもになっておる。珍しいー」


 興味深そうに近づいて、二人して頭を撫でにかかる。

 それをカナミは受け入れるが、それを徐々に後悔し始める。


「か、可愛いぃいい!! 可愛きゃわわわわわ! この可愛さはもう間違いなく、全次元の全世界で一番でしょう! これは来てます! か、な、り、来ぃて、ま、すーーーー!!」

「小っちゃいかなみん、昔の弟アイドのやつを思いだすの。まー、二人はタイプが似ておるからな」

「はっ!? だ、駄目ですよ、ティティー! カナミ様は、わたくしの弟です!!」

「いや、そこまでは言っておらんよ? あと別に、ノスフィーの弟でもな――」

「さあ、早く! カナミ様、こちらへ! この迷宮では、邪ゆえに暴走しがちな欲深き者共が多いので! このわたくしがお守りいたします! 早く早く早く!!」


 『学園世界』を経て、色々と暴走しやすくなったノスフィーは、呼吸を「はあはあっ」と荒らげる。


 その市井で見かけたら通報されるレベルの興奮具合に困ったカナミは、一時的に逃亡するしかなくなる。

 周囲を見回して、性格や実力を加味して選んだのは、ティティーの後ろだった。


「ティ、ティティイイイイーーー!! この泥棒猫ぉおおおおオオオ!!」

「久しぶりの理不尽! 焼き直してわかるけど、これやっぱり妾悪くないよねぇ! 千年前から思っておったが、そんなこと妾に言われてもぉ!」


 ティティーは親友からの殺意を受けて、嬉しそうに周囲を見回す。

 この状況を打開してくれる立場と実力を持つヒタキに、ちらりと助けを求めるが、


「…………」

「え!? なぜじゃあ!? なんか、ヒタキが静かにキレておるぅ!?」


 兄カナミが、いざ頼ったのがティティーだったことが面白くなかった。

 普段、兄に頼りにされると「不甲斐ない」「情けない」「雑魚」と落胆するヒタキだったが、頼りにされないのはされないでそこそこムカついていた。


 そんな理不尽たちに囲まれたティティーを助けるように、屋敷から次々と『理を盗むもの』たちが現れていく。

 姉ティティーの慟哭を遠くから見守るアイドは、非常に冷静な青年だった。


「やはり、こうなりましたか。となると、自分にも弟ができたみたいで少し嬉しいですね」

「わたくしの息子です。殺しますよ、アイド」


 なぜか一瞬で弟から我が子までグレードアップさせたノスフィーから、即座に殺意が飛び、それをアイドは受け流しながら、本当に興味を持ったほうへと確認を取る。


「わかっていますよ、ノスフィー様。しかし、面白い力ですね。ちなみに、ラグネ様のほうは?」

「隠すほどの切り札になりそうにないんで白状するっすけど、『相手をママにする魔法』だったっすねー」

「こちらも面白い効果ですね。しかし、以前の誘拐事件から考えれば、予測できた力ではあります」


 面白いが、予想外ではなく新鮮さはない。

 そんな感想を、どうしてもアイドは抱いてしまっていた。


「自分と同じく戦闘用ではないところに親近感を覚えますが、正直なところ……」


 それは他の『理を盗むもの』も同じようだった。


 大騒ぎになった庭に、次々と合流していく。

 その中で『闇の理を盗むもの』ティーダが、自身の技量自慢も含めて、アイドの言葉に続いていく。


「正直、ワタシたちでも再現できなくはない魔法だな。もっとやばくて面白いのが出てくるかと思ったら、ちょっと肩透かしだ」

「そうですね。誰かを女性にするのは、すでに自分たちの力で終えています」

「ワタシたちなら、さらに精神面まで自在だ」


 最近いいところの少ないティーダは、無駄に有能アピールをしてしまった。


 もう切り札になることはないとわかった魔法だが、ラグネは唇を尖らせて、負けず嫌いを発揮していく。


「けど、そっちは複数人で組んで、時間をかけての結果じゃないっすか。私たちの本当の魔法なら手軽に、こう……。スッと変換できるのが、強みっすよ。――『湖面に蕩ける星の夢』」


 そう言って、ラグネは無駄のない足運びと魔法構築で、またカナミにタッチする。

 言葉通り、予備動作のない見事な発動だった。


「え、おい! 本当の魔法を重ねる気か! それは不味まず――」

「ラグネ様! その二つの共鳴は――」


 ティーダとアイドは止められず、また発光と共にカナミの姿が変わる。


 性別が女性に変わった。

 しかし先ほどと違い、胸の膨らみが特徴的と言うことはなかった。

 カナミの子供になる本当の魔法と合わさって、幼い女の子と化してしまっていた。


 その姿を見て、アイドは声を震わせて、ティーダは焦る。


「こ、これは……!」

「やはり不味いか!? アイドを押さえろ! 半殺しに! いや、変な真似したら一旦殺してもいい!」


 カナミを女性化させると、いつもアイドは碌なことをしない。

 面白おかしく暴走させるにしても、何の準備もない状態では危険。


「「了解!」」


 それを誰よりも身に染みて分かっているローウェンとファフナーの騎士二人が、すぐさま元同僚の要請に応じていく(セルドラは面白がって、眺めているだけだった)。


 動きは迅速。

 その三騎士の見事な連携によって、最終的にアイドは騎士代表のティーダに取り押さえられる。

 泥を使った入念な捕縛だったが、思っていたよりも抵抗は少ない。


「って、あれ? おかしいな。思ったより、アイドの反応が薄いぞ」


 それに降参ポーズのアイドが、やれやれと溜め息をつきながら答える。


「自分は洗練された王を求めているのであって、未成熟なお姫様は全く必要としていませんよ。強いて言えば、庇護欲が少しあるくらいでしょうか」

「あぁ……、アイドの性癖は年上だけだったか。疑ってすまなかったな。おまえは本物の姉フェチの女王フェチだ。いや、自分より大きな高身長女子フェチか?」

「フェチって……、気持ち悪い表現しないでください。ただ自分は、王佐の宿命を持って生まれただけです」

「それは自分を格好良く表現しすぎだろ。絶対ないから」


 そして、「ははは」と男友達のくだらない冗談を飛ばし合って、アイドは解放されていく。


 それを見届けたローウェンは安堵の溜め息をつきながら、守護の為に寄り添っていた隣の女の子の頭を撫でる。


「大事にならなくてよかった……。アイドが普通なら、これはもう本当に、ただただ可愛らしくするだけの魔法かな。私の殺すだけの本当の魔法と比べると、本当に平和的で素晴らしい力だ」

「ちょ、ちょっと……。照れるから、ローウェン」


 余りに自然なスキンシップだった。

 ローウェンとしては手の届きやすいところに置いた感覚だったが、小さな女の子となっていた(身体だけでなく、精神もそれなりに引っ張られている)カナミは唐突すぎて赤くなってしまう。


「あ、すまない。つい」

「ローウェンは逆に、本当に子供が好きだよね。ついでやっちゃ駄目だからね、こういうの」

「カナミ! さっきのアイドの性癖の話から続けられると、それは誤解が生まれる! やめてくれ!」

「誤解かなあ……? ディアやラグネあたりに、いつも自然とこうしてそう。ふふっ」


 厄介なのが、小さな女の子になった上でラグネの願いである「ママになる」も付属しているところだった。


 カナミがその風貌に見合わない包容力を持ってローウェンをからかったところ――ギリギリギリギリと。歯軋りと共に、嫉妬で睨むリーパーがローウェンの背後の影に見えてしまい、キャラ被りしていることに気づいたカナミは「やぁぁっぱり誤解じゃないね! 変態っぽく見えるから二度と近寄らないでね、ローウェン! きもいよ、ローウェン! ほらっ、しっしっ!」と、すぐさま敵でないアピールをしていく。


 その各々の様子を見守っていたティーダは、状況を整理していく。


「つまり、二人の共鳴魔法なら『母性ある幼子なキャラ』が量産できるという感じか? ……面白いと言えば面白いが、ハチャメチャな発展性までは感じないな」


 そう指摘されたカナミは、不快そうに顔をしかめる。


「母性ある幼子って……。嫌な表現で纏めないでよ」

「ワタシはいつだって適切な表現をしてる。これは『相手を母性ある幼子にする魔法』としか言えない共鳴魔法だ」

「そうだけどさあ。……もうそれでいいよ。すぐ戻るし」


 元の世界の娯楽から考えると、もっと嫌な表現がたくさんあるのでカナミは引き下がった。

 まだティーダがエンタメビギナーで助かったと、早めに変身を解こうとする。


「駄目ですよ、兄さん。すぐには戻しませんよ?」


 しかし、その解除は成功しなかった。

 その妹の器用で反則的な『静止』に、兄は苛立ちを見せる。


「なんで止めるんだ。おまえも嫌だろ、こんな兄の姿」

「いいえ? 兄から姉になられるのはどうかと思いましたが、妹が増えるのは……。なぜだか、そこまで不快じゃありませんね。むしろ、愛おしいまであります」

「嘘だろ。おまえもローウェン側だったのかよ」

「それに丁度いい塩梅なんですよ。その姿なら、ノスフィーの暴走も抑え気味ですし」


 決して独り善がりの願望ではないと、視線を隣のノスフィーに向けた。

 まさしく、妹の一人のように可愛がられている彼女は、姉のようにヒタキを慕う。


「ヒタキ様、ありがとうございます! わたくしも、もう少しこのままを希望します! 今日からカナミ様は、お姉ちゃんとなったわたくしが! このお姉ちゃんが立派な淑女に育てるぅっ!!」

「あと、アルティとティティーも。ついでにお姉ちゃんになりませんか? 女の子同士で買い物しての、兄さんの着せ替えごっこ。どうです?」


 それに加えて、残りの女性陣も味方につけていく。


 アルティは最初嫌がるけれども、ティティーが強引に誘うことで、まんざらではない表情で合流していく。

 そんな予定調和な流れに、ティーダは話を纏め直していく。


「結局、いつもの感じで決着か……? つまらないな。一応聞くが、いまここに、子供に戻りたいというやつはいるか?」


 挙手する者はゼロだった。

 あのティティーでさえ現状に満足しているのだからと、セルドラは首を振った。


「やり直したいことはあっても、いまここで子供になれてもなあ」

「じゃあ、ママになりたいやつは?」


 続けて聞くが、客観的に『理を盗むもの』を見れているファフナーが首を振る。


「ここにいる皆、子供から大人になりきれてないやつばかりだ。変わり映えしない気がするぜ。女性に変身するのも、面白くなるのはカナミくらいだろう」

「やはり発展性がない……。というより、単純に二番煎じ気味なのがな」


 冷静に、話の纏めは終わっていく。

 それを確認して、女性陣は「行ってきますね」と遊びに向かう。


 ティーダの言う「いつもの決着」だった。

 だから、その後の感想も、いつもの。


 カナミは小さな女の子の姿で連れまわされ、玩具にされてしまった。

 大変だったけれども、同時に「思ったよりも楽しかった」と思う。さらに「一時童心に帰れるのは心の健康にいいかもしれない」「みんなとこういう日々が、もっと続けばいいのに」という願いまで持ってしまい――


 そんないつもの流れを全員が見過ごしたことで、最悪の流れが一つ。

 物語の下流で、新たに生まれてしまうことになる。



◆◆◆◆◆



 その本当の■法の開発を■た後日。

 最悪■共鳴から、■■日に。


 ついに。

 どうにか、まずラグネだけが一人。

 目を覚ますことに成功する。


 場所は、例の十層の屋敷。

 自室は持っていないので、客室だった。


「……へ?」


 ベッドは一つ。

 身を起こして、毛布を跳ね除けると、すぐ隣で見知らぬ黒髪の小さな女の子が目をこすっていた。


 一桁ほどの年齢で、服は布一つ。

 その長い髪を垂らした女の子は、一緒のベッドにいるラグネに呼びかける。


「ママ……?」

「え? だ、誰っす? ……いや、この感じは、ヒタキ?」


 ラグネは不意打ちや奇襲に強かった。

 第一声の「ママ」で、臨戦態勢に入れたのも大きい。

 冷静に状況を把握して、得意の『勘』で敵の正体を看破した。


 そして、それはヒタキも同じだった。


「……ハッ!? これは、一体……! 私は何を……!?」

「あ、戻ったっすね。早くて助かるっす」

「あなたは……、ラグネ? 妙に幼くなってますね」

「幼く? そっちもなってるっすよ。幼女ヒタキちゃんっす」


 なぜ?

 と、すぐに二人は思考する。

 同じレベルのバトル仲間となって、二人は仲がいい。


 眠気の限界まで二人で遊んだ後、同じベッドで眠っていた?

 いや、違う。いま、このベッドは縮んでいるから二人で寝られているが、大きな体の状態で密着しながら眠ることはありえない。あるとすれば、昨日の夜も二人は身体が小さいままだった場合。それも精神状態が身体に準じていたから、仲良く同じベッドに入って――


 といったラグネのまともすぎる高度な先読み能力は、異常なチート能力によって置き去りにされていく。


「少し待ってください、ラグネ。…………。……はい、オーケーです。いま、ここまでの流れとこれからの展開が、全て読めました」

「助かるっす。相変らず、お酒入ってないと反則的な力っすね」

「とはいえ、以前のように全てを把握することは出来ませんが。色々と、呪い・デバフを分けて貰えていますので」

「それでも反則レベルっすよ。じゃあ、早くいま何が起きているのか、教えてくださいっすー。ぱぱぱのぱーっと」


 ラグネはチート能力に頼って楽することに抵抗はなかった。


 しかし、これまでの交流で少し考えが変わってきているヒタキは『持ち物』に手を入れながら(当然のようにカナミの上位互換能力を習得している)、真剣な顔で問いかける。


「では、まず確認をします。この先はネタバレです。ラグネ、いいですか? ネタバレですよ」

「え? もちろん、いいっすよ?」

「本当にいいんですか? 超ネタバレですよ? おそらく、今回の物語の探偵役は、私とラグネ。なのに序盤も序盤のプロローグでの超ネタバレです」

「えっと……、この先の展開を教えてくれるんすよね? それも最初から、ちゃちゃっと。いいに決まってるじゃないっすか」

「…………。では、ネタバレしていきます」


 大事なことなので二度確認したが、ヒタキは諦めて『持ち物』からアイド印の酒缶を取り出しつつ説明を始めていく。


「まず兄さんの本当の魔法は、年齢操作じゃありません。現実改変・・の魔法です」

「……か、改編・・? だから、時間操作じゃなくて概念操作に感じたんすね。ってこれ、口にしててやべえやつっすねえ」

「始まりは「少しでもいい未来を引き寄せるもの」程度でしたが、いまは「世界そのものの改変」を行っています」

「こ、こわー。けど、年齢操作に特化してしまったのは……?」

「あの頃に戻りたいという願望が、そう変化させたのでしょう。我流で本当の魔法に手を付けると、そういう弱体化はよくあります。さらに我流で最悪なのは、不完全な本当の魔法は基本的に「まるで『呪い』のように、他者から他者に感染する性質」を持っていることです」

「なーるほどっすー」


 容赦なく完璧に、物語終盤の情報が公開されていく。


 ただ、いまのヒタキは不完全であるがゆえに完璧な情報とはいいがたいのだが……さらに完璧さを貶めるべく、アルミ缶のプルタブをカシュッと開けていく。


 ぐびりと呑み始めたヒタキを、流石のラグネもスルーできない。


「いや、カシュってぇ……」

「私はネタバレが嫌いです。ネタバレするキャラも嫌いです。なので、いま、とても嫌々ネタバレキャラをしてます」

「まあ、そんな気はしてたっす。ただ、今は一大事っぽいんで、そこは抑えて貰ってネタバレしまくって欲しいっすね」

「知ることができたのでなく、知らされてしまうというのは……はあ、本当に最悪の所業です。だから、いま、とてもとてもとーーっても不快でぇぇ」

「それを抑えるためのお酒っすか。マジ不機嫌っすね」

「不機嫌です! こういうネタバレは、もっと大切なときにすべきなんです! もっと並々ならぬ状況に追い詰められて、劇的に! 因縁浅からぬ相手と、運命的にぃ!? 最後は夜空の綺麗なところで、感動的にとかあ!? あーーー、もっとムードいいところで、ネタ明かしを肴に、呑みたかったなあああああ!!」

「はいはい、私が相手で悪かったっすね。世界はそんなに綺麗でもなければ、上手くできてないんすよ。……というか、その姿で飲酒する姿やべえっすねー」


 幼女ヒタキは「ぷはあー」とオジさんのような吐息を出しながら、不平不満も吐き出していく。

 ラグネは話が逸れてしまう前に、いい酔い具合のヒタキから情報を引き出す。


「で、一番大事なネタバレを早くっす。これが感染タイプの魔法としたら、どうすれば解決っす? ささっと最後の頁だけ教えてくださいっす」

「…………。まず術者の兄さんを確保して、魔法を根元から解除させます。それから地道な解除活動ですね。これが今回の問題解決方法となります」

「この本当の魔法、お兄さんはコントロールできてなくないっすか? 暴走中だと、もう本人では不可逆なイメージっす」

「はい、おそらく兄さんは自分では解除できません。そこで、あなたの出番です」

「私の? 相手をママキャラにするだけの変な魔法っすよ?」

「これも風情ゼロなので、いま教えたくありませんでしたが……。おそらく、ラグネの本当の魔法は、因果の逆転」

「…………」

「このクソみたいな現状を、何もかも逆にしてしまいたい。くだらなくて汚い世界は、ひっくり返して綺麗にしたい。最終的に、世の理まで含めて全て、有ったものを無かったものにしてやりたい――」

「その反転・・とやらに心あたりはあるし、ヒタキ相手に粘るつもりはないんで認めるっすけど……。私、強すぎないっす? 理論上、魔法どころか全ての現象を『なかったこと』にできそうな魔法っす」

「まず大前提として、全ての魔法は使い手次第です。現にあなたはその最強っぽい魔法を、性別と精神しか対象に出来ず、相手をママにすることにしか使えない。その心の未熟さゆえに」

「カナミのお兄さんの場合、その未熟な心が原因で、相手を子供にすることしか使えない?」

「子供の頃の兄さんは友達いなかったので、深層心理で色々やり直したいと思ったんでしょう。その原因は確実に、全部私でしょうが」


 酒が回ってきたのか、色々とぶっちゃけるヒタキだった。


 解除できるのが、自分の本当の魔法しかないというのは眉唾だが、ラグネは一先ず感謝を伝える。


「とりあえず、ネタバレ感謝っす。結局、嫌がりながらも目茶苦茶ネタバレしてくれたっすね」

「今回は、私の個人的な理由がありますので。……私は、『幼馴染』の上書きを見たくない。おそらく、いま兄さんは、ラスティアラさんのところにいるはず。自らの最高の幼少期を、新たに作り出すために。真なる『幼馴染』を差し置いて……」

「あー、なるほど。チビお嬢とチビお兄さんが、いま、新たに子供時代の思い出を作っちゃってる感じなんすねー。それも『幼馴染』って言い合えちゃうようになるほどの濃い思い出を」

「はい。なので、兄さんの本当の魔法が、相手を「子供にする魔法」というのは少し外れ。正確には「相手を強制的に『幼馴染』にする魔法」が本質」

「強制的に相手を『幼馴染』にする。それも、上書きできるほどの強烈な捏造記憶をぶつけて……。ほんとお兄さんってば最低っすね! それを止めるのは、私も超賛成っす!」


 ラグネの脳裏に、生まれ故郷の元主人であり『幼馴染み』の少年が浮かんだ。

 その個人的な理由もあって、ヒタキの個人的な要望に同調していく。


「しかも、お嬢を利用するとなると、千年前のティアラ様との思い出の焼き直しになるじゃないっすかー! そんな最低な上書きをしたら、あのクソヤバ邪神女が我慢できずにまた出てきて、嫉妬で世界を壊しちゃいそーっす!」

「……ええ。そんなところです」


 いやティアラは違う。そこはどうでもいい。今回大事なのは『幼馴染み』だと。

 その露骨なヒタキの態度で、ラグネは色々と察する。


 しかし、その稀に見る不安げな姿までは嘘ではなさそうだ。

 とラグネは、少し本気を出そうとやる気を出す。


「とにかく、絶対許されない事態なのは把握したんで、いっちょやってやるかーっす! いやあ最近は、定期的に世界の危機くるっすねー!」

「大変遺憾です。この私が世界壊すのをこんなに我慢してると言うのに、他人はあっさりと世界を危機に追いやってぇ……!」


 ヒタキは友人の協力を取り付けられて、どこか安心したような顔で笑った。

 その冗談ではない冗談を、ラグネも同じく笑う。


「こわっ。やっぱりヒタキも、世界の為に早めにどうにかしないと駄目な存在っすねー!」

「あなたも人のことは言えませんからね? 誰よりも世界を壊す才能があると、私は思ってます」

「えー、そんなの全然ないっすよ? 不名誉なんで、そういう性格破綻者扱いやめてくださいっす」

「でないと、この私と友人なんてできませんよ」


 そう微笑み合いながら締め括り、二人は揃ってお出かけの準備を済ませていく。


 部屋を一歩出ると、カナミの『呪い』の影響範囲内だ。

 放置された感染魔法は一種の結界魔法――しかも、その対象は世界全体ゆえに結界の外と内の概念はなく、逃げ場なし。


 薄らとだが、二人は理解していた。

 『静止』『反転』という同レベルの『呪い』を体内で煮詰めていなければ、自分たちも我に返ることなく、永遠に幼少期を繰り返させられていた。


 凶悪な魔法だ。

 けれど、私たち二人が揃えば負ける気はしない。


 二人ならば最強。

 そんな確かな自信を胸にして、並んで部屋の扉を押し開けて進んだ。

 コミカライズ七巻、11月25日発売!

 ガルドコミックさんのショップとか、Xで左藤先生のポスト案内とかから、予約も出来ます! PR!! 


 丁度治療中やらなんやらで間に合わなかったエイプリルフールのネタですね。

 最強ふたり。確か、おにまい放送時くらいに書いてた気がします。


 それと、来週以降もほんの少しだけ投稿しようかなと思っています。

 投稿場所は、外伝ではなく後日談。なのでちょっと本編の続きから入って、アルティ・ティーダの〝過去、出会ったときに本当の魔法を撃ち合った〟の過去篇の出だしをほんのちょっとだけやれればいいかなーという感じです。


 アルティ・ティーダの新たな表情や視点が見られるコミカライズは、11月25日発売!

 よろしくお願いしますー。


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― 新着の感想 ―
お久しぶりです。面白かったです!強制幼馴染酷い!
生きとったんか、ワレぇ(更新嬉しいヤッター) コミカライズも高クオリティでよいですよね しかし、懐かしいテイストで世界が平和だ かなみんは相変わらず業が深いね
久しぶりのいぶそうに心が躍っております。 カナミン理解者ランキングのツートップが共闘するの、アツいですね!
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