IF『守護者ルート』その23後編(あらゆるネタバレあり)
50層に完成したのは、木と泥を組み合わせた審査会場。
青空教室のごとく、草原の上にたくさんの椅子やテーブルが持ち込まれていた。
もちろん、マリアの要望したキッチンも完備済みだ。
ただ、その全てが魔法道具だった。使用されるエネルギーは魔力なので、基本的に『火の理を盗むもの』アルティが付き添っての『料理』となる。
恙なく準備は進んだ。
さらに言えば、彼氏審査の『料理』対決は、すでに始まっていて――
最後方のテーブルの上に、各地から取り寄せた最高の食材が積み重なっていたが、既にかなりの量が減っていた。
カナミとマリアが人外の『器用さ』や『速さ』で、次々と食材を『料理』していき、ずらりと審査員席の長机にフルコースを並ばせていく。
――そして、審査員たちが料理に手を付けていって、料理を堪能すること一時間。
審査員の手元にあった色つきの木製の札が上がっていく。
ちなみに、表が白で、裏が黒。
黒はカナミで、白は挑戦者チームの勝ちというゲームだったのだが……。
黒、黒、黒、黒、黒――
次々と上がっていくのは、カナミ勝利の札ばかり。
それを見た応援席のスノウが、指差しながら抗議する。
「……あんの守護者どもめっ! ディア、これ絶対身内贔屓だよね!?」
「ああっ、くそ! だが、まだラスティアラの票が残ってる……! ラスティアラの票には、一万票の価値がある!!」
急なルールの追加だった。
ただ、それを審査員席は咎めないし、対戦相手のカナミ自身も頷いていた。
カナミも「ラスティアラに認めて貰えなければ負け」と覚悟を決めていた。
だからこそ、審査員席の一番端っこに座り、目を瞑って料理を堪能していたラスティアラ・フーズヤーズに注目が集まっていく。
ラスティアラは十分過ぎるほどに、食事を味わった。
さらに眉を顰めて悩み、顔を赤らめながら俯いたあと、彼女が挙げた札は――、黒だった。
「――いよぉおっし、勝ったぁああああ! 僕の勝ちだぁああ!!」
コック帽まで被って本格的な装いのカナミが、天を衝くようなガッツポーズを取った。
同じく、コックのコスプレをしていたマリアは、地に手をついて嘆いていく。
「ま、負け……? この私が負けた? ラスティアラさんに捧げるべく、今日まで磨き続けた私の『料理』が……。あ、愛がっ……、もしかして愛が足りなかったのでしょうか? この私の愛が!!」
「いやっ、マリアちゃん! 愛は確実に、マリアちゃんのほうが多かったよ!? 私好みの最高の感情が、たくさん乗ってた!!」
「なら、私の『料理』の勝ちでは……!? 毎日毎日、ラスティアラさんにお祈りをしながら、愛を込めて鍛えてきた『料理』のほうが上では!?」
「今回は『料理』のスキル勝負でしょーが! 私好みのものばかり並べても、それは違うって、私は思うなー!! ということで、はいっ、あーん!!」
審査員席からマリアを宥めていたラスティアラだが、堪らず決闘場(兼料理場)まで飛び移動した。さらに、自分が食べていたカナミの料理の一部をスプーンに乗せて、その口元まで持っていく。
その「あーん」にマリアは抗えず、照れながらも「あーん」と口に含んで、もぐもぐしていく。
「…………」
「美味しいでしょ? 普通に凄いでしょ?」
「…………」
その間、マリアの隣では、ずっとカナミはドヤ顔で立ち続けていた。
そのうざい対戦相手を前に、マリアは口を噛みつつも、すぐに脱力していく。
「正直……、分かっていました。横目に見ながら、アイカワの『料理』スキルは凄まじいものだと……。たとえ愛では勝っていても、勝負には負けていると……」
「うん。そこで弱気になって、私好みのものばかり並べたマリアちゃんの負けだね。味付けも子供向けにしないで、しっかりと自分の得意分野を活かせてたら、他の審査員も違ったと思うよ」
「ぐうっ、ぬぬぬ……!」
性格と言動に惑わされがちだが、ラスティアラは冷静な思考ができる少女だ。
特に、仲間である子供たち三人の前では、自らの年齢を超えて、大人の判断ができる。
ぐうの音を引き出されたマリアは涙目になって、自分の後ろで助言役をやっていたアルティに向かって、口を尖らせて文句を付ける。
「アルティさん! やっぱり、ダメだったじゃないですかあ……! 何が、好物を並べてあとは珍しいものを食べさせておけばオーケーですか!!」
「い、いや、少し待ってくれ。ラスティアラが珍しいもの新しいもの好きだってのは当たっていたんだ。これとか連合国最大の珍味で、一切れで家が買えるほどの珍しい食材で――」
「珍味は珍味! もう二度と信じませんから!」
「マ、マリアちゃぁぁん……」
異様にマリアを好いているアルティも涙目となった。
その初めて見る『火の理を盗むもの』の姿に、審査員をやっていたノスフィーが驚いて、ファフナーも同意していく。
「珍しく可愛い反応してますね、アルティ……。今回は小賢しすぎて駄目でしたが」
「だなあ。あと正直、アルティは普通の料理に飽きて、ゲテモノ好きになってるところもあるぜ? 感性が俺寄りというか……、この俺より酷いからなあ」
「とにかく、アルティの存在がマイナスでしたね。あのぽっと出の黒髪少女に好かれようと必死になり、全体の流れが見えていませんでしたから」
「へえ……、主は新挑戦者たちのことが、あまり好きじゃないんだな。俺としては、あの黒髪少女はかなりいいと思うがなあ。あの信仰力は、どっかの女神を崇める信徒っぽくて、個人的に仲良くできそうだ」
「気に入ってるなら、とっとと鞍替えしてください。わたくしの嫌いな言葉の一つが、盲信です」
審査員席でも、大人の評価がくだされていく。その評判を耳にして、カナミは完全勝利を確信して、ドヤ顔のままで宣言する。
「はっはっはっ、マーリアー! 二つの世界を通して、『料理』を磨き上げてきた僕に勝てるわけないだろう!?」
妙な展開に流されて、ちょっとした『演技』がカナミには入っていた。
友人である探索者マリアとの関係が一度完全に崩れたので、ミステリアスな先輩後輩の関係をもう諦めていた。代わりに、せめて好敵手らしくあろうと振る舞うカナミの煽りに、マリアは真っ向からぶつかっていく。
「た、確かに今日は負けましたが……。いえっ、よくよく考えれば、厳密には負けていません! だって、そちらの用意した食材に、私の知らないものが多かったじゃないですかー!」
「負け惜しみだね! 食材の把握は、『料理』の基本! 知らないほうが悪い!」
「知らないに決まってるじゃないですか! 異世界の食材とか調味料とか!!」
「知るチャンスは十分にあったから、ただの言い訳っ! そもそも、今回の敗因は知識不足じゃないって、自分でも分かってるはずだよ! 結局、根本的なスキル『料理』の数値の差が全てだ!!」
「し、しかし、たとえ数値で負けていても……! 愛と想いさえあれば……!」
「そんなものは、全て無意味! 大事なのは、この『表示』に映ったスキル値のみだ! そして、無駄に舌の肥えた『理を盗むもの』の注文を聞いては、試行錯誤していく毎日は無駄じゃなかった! あの日々のおかげで、今日ラスティアラの舌を唸らせたのは、この僕! 『次元の理を盗むもの』カナミの勝利だっ!!」
「くっ……!」
マリアは言い返せなかった。
だが、まだ諦めてはいない。
冷静な判断で方向転換を決めて、しおらしく認めていく。
「はい……、わかりました。いまの私が何を言っても、負けは負け。もう降参です。約束通り、何でも命令してくださって構いません。敗者は勝者に逆らえません」
もちろん、それは態と全面降伏することで、相手を調子に乗らせることが目的の『演技』だった。
年下の少女に無茶を言わせて、ラスティアラからの好感度を下げさせたかったのだが……。
「甘いよ、マリア。僕から言うことは一つ。これからもラスティアラと仲良くしてくれるだけでいい。それだけだよ」
「くっ……! ほ、本当に屈辱ですね……! ラスティアラさんは私のラスティアラさんなのに、まるでそちらのモノかのように言うところが、特に!!」
だが、その好感度下げ作戦は上手くいかなかった。
『料理』だけでなく『演技』でも、スキル数値の暴力に遭って、あっさりとマリアは狙いを看破されてしまった。
そのいまにも火炎を噴出しそうなマリアを、助言役だったアルティが宥めていく。
「落ち着くんだ、マリアちゃん。所詮、カナミは点数稼ぎが上手いだけの男。ここはグッと堪えて、次の戦いに活かそう」
「というかっ、さっきから点数稼ぎっぽいのはアルティさんでしょうに! なんか次も私のセコンドに付く口ぶりですが、もう騙されませんし、組みませんからね!」
「えぇっ……!?」
これからもコンビでやっていけると信じていたアルティは、ガーンッとショックを受けいていた。
それが『演技』でないとわかるカナミは、こちらはこちらでショックを受けつつ、かつての師に問いただしていく。
「いや、そもそもなんで師匠は、そっちにばかり肩入れしてんの? 次こそ、僕の味方では……?」
「……ふん。そんなの私の勝手だろう。私はマリアちゃんを気に入ったんだ」
「でも、向こうからは滅茶苦茶嫌われてない?」
「こ、これからだ! こういうのはちょっとずつ絆を得ていくものなんだ! カナミみたいに、一夜でいきなり良い雰囲気の相手を連れてこられるほうがおかしいんだ!」
嫉妬やら恨みやらが混ざったアルティは、感情のままにカナミを拒否してから、新しい親友候補のマリアに近づこうとした。
ただ、当のマリアからは全く信用がなく、ペッと唾棄されている。
――こうして、マリア対カナミの決闘は終わり、カナミは一息つく。
「ともあれ、終わりか。それで、次は――」
「次は『剣術』対決だ。この俺と、剣で勝負をして貰う」
すぐさま、ネクストチャレンジャーが手を挙げた。
ディアブロ・シスが決闘場の中心まで歩き、腰に下げた『アレイス家の宝剣』を抜く。
その正眼の構えは完璧だった。アレイス流の基礎ができていると、『剣術』を囓ったものならば一目で理解出来る。
そのよく知らない中性的な金髪の子の自信満々な姿に、カナミは少し狼狽える。
「け、剣かぁ……。できなくはないけど、正直、不得意分野……」
自信がなかった。
カナミの身体からは妹の魔石が抜けて、スキル『剣術』は失われている。その上で、ずっと師としてきたのは物理特化のローウェンではなく、魔法特化のアルティだ。
千年前の始祖と同じく、完全後衛タイプゆえに剣の勝負を嫌がった。
「不得意ぃ……? 何を言っている、アイカワァ! 男と言えば剣だろう!? ラスティアラも特に剣が好きだ! そのラスティアラと付き合う男ならば、剣に長けた上で、頼れる男でなければならない!!」
「た、確かに……!」
「剣で守れないような男に、ラスティアラを任せるわけにはいかないな! そう例えばっ、この俺のように、『剣術』に長けた男じゃないと! ラスティアラ、どうか見ていてくれ! おまえに相応しい男の雄姿を!!」
「だ、大胆な告白を……! やるな、ディアブロ君!」
「ふっふっふ、アイカワァ! 格好良い男というのは、常に不敵で、大胆であるものだぜ!」
そのディアの持論は、カナミの心に深く刺さる。
なので、この流れのまま、口プロレスをし続けようとカナミは思った……のだが、その前にどうしても聞きたいことが一つあった。
「……で、その格好良いディアブロ君。失礼でなかったら、まず一つ確認をさせて欲しいんだけど」
「ん、なんだ? 構わないぞ」
「ずっと気になってんだけど、君って、その……。お、男の娘ってやつ?」
「うん? ああっ、俺は生粋の男の子だぜ!」
「……ああ、男の娘なんだね!」
「そして、これから真の男にもなる!!」
「なるほど!」
こんなに可愛い子が男の子のはずがないとカナミは思ったが、ナイーブでセンシティブな問題かもしれないので、色々ビビって同意し続けることしかできなかった。
そのまま、『持ち物』から普通の『鉄の剣』を取り出して、宣言していく。
「ならば、遠慮なく!! 少年ディアブロ、かかってこい! 零守護者、『次元の理を盗むもの』のアイカワ・カナミが相手してやろう!!」
「応よ! 真正面から打ち破ってやるぞ、アイカワァ!!」
お互い、ボス戦前の前口上が終わった。
そこで、ずっと控えていた一人の男が動き出す。
「というわけで、剣術審査委員会会長のローウェンだ。審査方法は、剣を手から離したほうが負けの『武器落とし』でやろうと思う」
決闘者二人の間に立った。
それには女性陣営の審査員席から、リーパーの疑問の声があがる。
「え、ローウェンが審判なの? ローウェンは、そっちの金髪っ子の助言役やるって、アタシは聞いて来たんだけど」
「ん? ああ、個人的に彼の応援と助言もしている。ただ、審判については対戦相手のカナミの承諾を得ているから、特に問題はない」
「助言って……、剣を教えてるわけじゃなくて?」
「決闘における精神面の助言をした。『剣術』に関しては一切触れていないのだが……、それでも不味いか?」
「…………。いやっ、それならいいよー! 剣でローウェンが嘘をついたりはしないって知ってるしー!」
「そういうことだ。剣において、私は死んでも死んだあとも公平だと、ここで再度、魂に誓おう」
リーパーが納得したところで、ローウェンは憂いなく応援を始める。
「ディア君、応援しているぞ。剣とは、心の在処。その心構えが、そのまま決闘において最大の武器となるだろう!」
「ああ! 任せてくれ、ローウェンさん!」
その僅かな時間で仲良くなっている二人を見て、リーパーは「ふーん……。へぇー……」と意味ありげに呟いた。
隣に座っているティアラは、その妹(?)の成長を満足げに頷いている。
そして、軽く温度が冷えたところで、ローウェンは宣言する。
「――では、試合開始だ!!」
と同時に、そのローウェンから先手必勝を教えられていたディアは動く。
「ふっ」
息を吐きながら、一閃。
その場で、得意の『魔力物質化』を使い、対戦相手のカナミまで剣先を伸ばした。
しかし、カナミは上体をのけぞらして、それを避ける。
『次元の理を盗むもの』は奇襲でしか攻略しにくいボスキャラであるゆえに、最も奇襲に警戒している。予想通りの初手を対処したあとに、すぐさま魔法を構築していく。
「――次元魔法《ラグ・幻影》」
それは師匠であるアルティから教わった《蛍火》系の応用。
いわゆる、次元の歪みを利用した分身の術だった。
どこかに平行世界でもあれば、《ディメンション・グラディエイト》を使った場面だろうが、こちらのカナミは後衛特化のボスらしい選択を取る。
その分身にディアは驚きながら、その場で魔剣を振り続けて、幻影たちを斬り裂いていく。
しかし、一人掻き消す毎に、また一人幻影は増えていく。
そのクソボス具合に、すぐさまディアからクレームが入る。
「そ、それはなしだろぉ!? 『剣術』勝負じゃないのか、これ!?」
「え、ええ……!? それなら、そっちの剣先を延ばしてウニョウニョさせるのもなしでしょ!」
「このウニョウニョは剣そのもので、『剣術』の到達点の一つだからいいんだ! そっちは堂々と魔法って宣言したからアウトだろう!?」
「宣言次第!? へい、審判! 向こうだけで魔力ありってのは、色々と不公平だよね!?」
どちらも一旦手を止めて、審判であるローウェンの返答を待つ。
「……『魔力物質化』は『剣術』の範囲内だ。おそらく、ここに『剣聖』フェンリルがいても、そう言うだろう。同じく『剣聖』レベルにあるラグネ君も、この前話したときにはそういう認識だった」
「あれぇっ!? 思ったよりも、ローウェンが向こう寄り!? ……へ、へい、そっちの審査員たち! これ、どう思いますか!?」
カナミは続いて、審査員席に目を向けて、返答を待った。
しかし、数秒後に挙がっていく札は白、白、白――
顔を見れば、「ディアちゃんだけあり」「ディアブロ・シスだけあり」「ディアだけあり」と、そう言っていた。
さきほどの審査ではカナミ寄りかのように見えたが、今回の決闘は逆だった。
単純に、審査員席の「カナミが新しい少女たちといちゃついているのが気に食わない勢」や「三本勝負っぽいので、二本目はカナミの負けにするかぁー勢」の思惑もある。
「お、おまえらああああああああ!!」
次々と上がっていく白札に、育ちのいいカナミでも、つい「おまえら」と零してしまう。
ただ、その叫びの後に、黒札が一つだけ挙がった。
一番端にいるラスティアラだった。
「んー。平等にどっちもなしでいったほうがいいんじゃない? 流石に?」
「ラ、ラスティアラ様あああああ!?」
愛するリーダーに裏切られて、ディアの頼りがいのある男のポーズは崩れて、つい「様付け」を零してしまう。
それを見たカナミは、突破口が開けたと安心しつつ、敵の揚げ足を取っていく。
「おいおいおいー、ディアブロくーん!? さっき確か、ラスティアラの票は一万点の価値があるって言ってたよなぁ!? ということで、そのウニョウニョはなし! あははっ、あーっはっはっは!!」
「くそっ! 流石の俺でも、魔力なし縛りでボス戦はきつい……!」
文句を言いつつ、ディアは素直に敵の指示に従った。
その上で決して諦めることはなく、剣一振りだけで向かいながら、叫ぶ。
「――いや! 逆境は乗り越えてこそだ! この『アレイス家の宝剣』に懸けても、必ずおまえに勝つ! アイカワァアア!!」
「はっはっは、いい心構えだぁあああ! しかし、ただの蛮勇! 命取りにならないことを、敵ながら僕は祈ってるよ! あはははははは!!」
それを迎え撃つカナミ――は意外にボス役の『演技』が楽しくなってきたところだった。
それらしい言葉を紡ぎつつ、剣一つで突貫してくるディアを迎え撃っていく。
その様子を、ついこの間まで自分のキャラを見失っていたティーダは見ていた。
小さな声で「……ただの一ボスでも、やはり楽しそうなものだな」と思い直してから、目利きのできる隣の『理を盗むもの』に話しかけていく。
「おい、ティティー。あれ、本当に『アレイスの剣』っぽいが、どう思う?」
「んー? ローウェンが生前に使っていたやつなのは、間違いないかなー。あれで何度か斬られたことがあるのじゃ」
「やっぱ本物か。だから、さっきから本物のほうの怖い『死神』が、あんなに殺気立ってるってわけか」
「じゃな。しかし、『月の理を盗む者』ちゃんと絡んでるときほど拗れはせんじゃろ。あのディアブロちゃんって子は、明確にラスティアラちゃんを好いていて、『剣術』もお粗末じゃからな」
「ワタシはお粗末と言えるほどの腕はないのだが……。確かに、どちらも『剣術』初心者上がりたてといったところだ。構えだけは綺麗でも、他がついていってない」
「こうも生兵法同士だと、どっちか大怪我しそうで怖いのう……。けどまあっ、平気じゃろうて。ここにいる面子なら、もし首が飛んでも十秒ルールでくっつくぞ!」
という評価が話される中で、決闘場のセコンドであり審判のローウェンの感想は、「お粗末」「初心者上がりたて」どころではなかった。
方向性は違えども、どちらも『剣聖』になれる才能がある。
その二人の剣戟に、身体と心が疼いて、つい零してしまう。
「……お、教えたい。すごく教えたい。ああ、もったいないもったいないもったいない」
「ダメだよ。あの二人は、特にダメ。どちらに教えても、ローウェンレベルの災厄になるって、ローウェンならもう分かってるくせにー」
いつの間にか、審査員席からローウェンの影に移動していたリーパーが即答した。
すぐにローウェンは「リーパー、なぜここに?」と聞くと、「審判の審判をしてるだけー」と返ってきた。
それにローウェンは「確かに必要か」と納得して、ならば仕方ないと諦めて――
このもったいない原石同士にできるのは応援だけだと、全力で叫ぶ。
「が、頑張れぇっ、ディア君! 技量はほぼ同格だ! あとは心で負けなければ、剣が応えてくれる!!」
「あ、あぁっ! ありがとう! 頑張るぞ、ローウェンさん!」
そこでまた、つい。
ディアは零し、答えてしまった。
当然、その返答の分だけ呼吸が乱れる。注意が逸れる。
器用ではないディアにとって、それは必然であり、致命的だった。
なにより、対戦相手の能力と性格が悪過ぎた。
「ああっ、同格! だから、この瞬間を待っていた! じれたローウェンの声援! それと君の呼吸の乱れを!!」
「なっ、な――!」
拮抗していた剣戟が緩んだ一瞬。
隙をつくのが上手いカナミが、全力の一閃を放つ。
結果、剣から手を離してしまったのはディア。
飛ばされた『アレイス家の宝剣』が、遠くの地面に突き刺さった。
「いよっしぃいいいいいい!! 二連勝ぅうううううう!!」
カナミは叫び、審査員たちも次々と黒札を挙げていく。
いいわけのできない決着に、ローウェンは呆然としていた。
しかし、自分の声援が決め手になったのを苦々しく思いながらも、審判として「しょ、勝者カナミ……!」と宣言する。
それを聞いたカナミは勝者として、ガッツポーズを取ったまま、仲間たちに向かって「どう!? 完全勝利でしょ!」と子供のように自慢していく。
その様子を、ローウェンと同じくディアも呆然と見つめ続けていた。
そして、状況を完全に理解したとき、その目尻から涙が浮かんで、嗚咽が漏れ始める。
「ぅ、うぅう、ぅううううっ……」
対戦相手の涙に、すぐさまカナミは反応する。
それは近くのローウェンの影にいるリーパーもだった。
「な、泣いてる!?」
「あーあ、泣ーかせたー。間違いなく、大人げないカナミお兄ちゃんと口を挟んだローウェンのせいだねー」
自分たちが原因だと、カナミもローウェンも分かっていた。
しかし、どうしていいか分からずに困惑して――、どうにかできそうな人物を見つけて、丸投げしてく。
「ラスティアラ! パ、パス!」
「私も悪いのだが……、どうかお願いする! ラスティアラ・フーズヤーズ!」
審査員席の端っこに目を向けたが、既に彼女は移動を終えていた。
これが自分の役目だというように、手慣れた様子で抱きかかえて、また撫でていく。
「よしよし」
「ラスティアラ様ぁ……」
あれだけ「男」と強調していたディアから、男らしさと呼べるものは完全に消えさっていた。女神に縋る修道女のように祈りだした姿を、カナミは分析する。
メンタルが弱そうな挑戦者たちだとは、ずっと感じていた。だが、これは別次元の弱さ――いや、罅だらけとも言うべき心の脆さじゃないだろうか?
その正確すぎる分析を終えて、カナミは油断なく、三戦目に意識を移していく。
「と、とりあえず、勝ちは勝ちで……。『料理』、『剣術』ときて、次は……」
大トリである少女に目を向けた。
蒼い髪の竜人、スノウ。彼女は明らかに三人組の中だと大将格で、力強く、最終兵器。
その少女が、すでにカナミの目の前までやってきていた。
そして、堂々と宣言していく。
「……私は、妹対決だよ」
空気は重く、粛々としていた。
ただ、その提案内容は軽く、ふざけたものだったので、カナミは咄嗟に理解しきれず聞き返す。
「え? な、なにそれ……」
「……妹力を競う勝負だよ!」
「いや、訳が分からない……!」
「……どちらのほうが、より妹らしいか。その力を秤り、私のラスティアラ様の妹の座を決める勝負!」
「つ、次は順当に、魔法勝負とかにしない? 君、明らかに魔の者で、古代魔法とか使うよね?」
「……でもっ、対決方法はなんでもいいって! そう最初に言ってたよ! ねえっ、セルドラさん!」
「いや、そうだけどさ。流石に、これは……」
もう妹対決は始まっているのか、スノウは子供のように口を尖らせて抗議した。
それはカナミの兄心をくすぐる仕草だったが、その前に『妹』に一家言ある少女が割り込む。
審査員席に遅刻していた実妹のヒタキが、いつの間にか座ってビール缶片手に観戦しつつ叫んでいく。
「私が許可しましょう! いいですねぇっ、妹対決ぅ! 妹代表として、この私が許可! 文句がある人は私にかかってきやがってくださいな!」
「――っ!! は、はあ!? 何言ってんだぁっ、陽滝ぃ! あと隙あらば酒呑むの止めろっ、はしたない! 恥ずかしい!!」
ティアラの策略で、最近の相川兄妹の仲は悪い。
結果、出会い頭に口喧嘩を始めていく。
「こんな面白い勝負、酒の肴にしないわけありませんよ、兄さぁん! 見逃せない勝負になりそうで、とても楽しみです!」
「最近のおまえは、いつもいつもいつも! 偶には、兄の言うことを聞け!」
「なーにが兄ですかー! 約束一つ守れない駄目兄のくせに!」
「はぁー!? 僕が駄目だとしても、おまえもアル中の駄目妹だからなぁ!?」
「そんなに駄目ならー、妹のお手本を見せてくださいよー! ということで、はいっ、始めましょうか! 妹キャラ審査委員会会長のヒタキちゃんが審判で、三回戦! 兄さんVSスノウさんの妹対決……、開始っ!!」
そして、唐突に始まる三本目。
当然のように、それを止める審査員はいなかった。
力関係による発言権もあるが、全員が妹対決に興味を持っていた。あと単純に、この流れの勢いに任せたほうが面白いと判断していた。
その流れにカナミは歯噛みする。
ただ、同じくらいに対戦相手のスノウも困惑している。
自ら提案したとはいえ、余りに展開が唐突すぎた。
慌てて、きょろきょろと周囲を見回す。そして、一番近くには、丁度ディアを妹のように甘やかしているラスティアラ。
結果、誘蛾灯に引き寄せられるかのように――
「ラ、ラスティアラお姉ちゃーん! 私もーーー!」
「えっ? あ、うん、いいよ。はい、よーしよしー」
「ぅああぁぁああああっ、ラスティアラ様のよしよしが五臓六腑に染み渡るぅうう!」
それでいいのかスノウさん……と、カナミはドン引きしていた。
同時に、この流れを分析していく。
おそらくスノウは、この唐突な試合開始で、当初の妹アピールの予定が崩れている。
しかし、崩れているとはいえ、このまま自分が何もしなければ負けだろう。
とカナミも焦る。慌てる。仕方なく、ずっと自分の近くに控えていた男を頼るしかなかった。
「さ、作戦タイム! セルドラ! 助言役らしく、助言を頼む!」
呼ばれたセルドラは、ついに出番が来たかと犬歯を覗かせた。
だが、すぐに落ち着き払って、もう勝負はついているかのように話していく。
「何も問題ないだろ。あの娘相手なら、いつも通りのカナミで完全勝利だ」
「い、いつも通り!? いつもみたいに、また女装でもしろって? 対戦内容のせいで、さっきからアイドの目が怖いから、絶対に嫌ですがぁ!?」
「落ち着け、カナミ。別におまえが妹らしくしなくても、この勝負は成立するんじゃないのかって話をしてんだ」
「…………っ!?」
『混乱』にすれば+4.00くらいはありそうなカナミだったが、セルドラの歴戦の将軍のような空気に呑み込まれて、その話を呑み込んでいく。
「例えばだ。俺はおまえのことを、どこか弟のように思ってるぜ? 試しに、兄貴って呼んでみろよ」
「あ、兄貴……? ……セルドラ兄貴?」
「ああ、セルドラ兄貴だぜぇ! で、そのまま弟っぽい感じで……。そうだな、あそこのティティーを姉ちゃんって呼んでみろ。中身はともかく、外見的にはそう見えるだろ?」
「まあ、ティティーなら……、お姉ちゃんって言いやすいかも」
「それで慣れてきたら、ローウェンとかファフナーあたりに、兄ちゃんって呼んで絡んでいけ。審査員たち全員の名前を、年下の『演技』をしながら呼べば、それだけでこの勝負は貰いで――」
決闘が始まる前の言葉通り、セルドラは全力で助言していった。
それが勝利に向かう助言だと、カナミに伝わってもいた。
「み、みんなの弟役くらいなら……。よし。とりあえず、その演目で――」
焦り、慌てているカナミは、その助言を演りやすいと受け入れた。
そして、自らのスキル『演技』で、その作戦を全力で実行していき――
◆◆◆◆◆
弟ムーブ。
それはそれとして、その作戦は非常に恥ずかしかった。
その作戦後にカナミは顔を真っ赤にして、両膝に手を置いて息切れしていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! はぁーーーー!」
新しい黒歴史を作ったことを後悔する鳴き声もあげていく。
その隣では、対戦相手のスノウが四つん這いになってショックを受けている。
「……ラ、ラスティアラ様に甘えてたら、制限時間が過ぎていたぁああああ!」
ということで、既に結果は出ていた。
審査員席では黒、黒、黒――
それぞれが「カナミの勝ち」「カナミ様の勝ち」「兄さんの勝ち」という顔となっていた。ただ、その中でアルティだけが「気持ちが悪い」という評価で白札だったが、どこか満足げな表情である。
そして、その出揃った感想を、審査委員長のティアラが笑って締め括る。
「いやあー、ひひひっ! 楽しかったねえ、陽滝姉! 私の妹力もまだまだだなあって、今日の決闘で痛感しちゃったよー!」
「ええ、ティアラ! 最高の妹力でしたねー! 兄さんは、兄でも姉でもなく、妹にすれば良かったんだと、千年前の失敗を少し反省しましたよ!」
特に大満足な二人が、ふふふと談笑しながら席を立って、50層から《コネクション》で去っていく。
その権力者(実力者)二人の背中を見送って、一安心したラスティアラは実妹から残されたカナミに向かって、グッジョブする。
「よし! やったね、私の可愛い妹カナミちゃん! 大勝利みたいだよ!」
「ラ、ラスティアラ……。せめて、君付けで! ずっと僕は弟のつもりだったから!」
「見る人によって見え方が違う、見事な弟兼妹だったよぉ! ただ、私は初めて会ったとき、カナミは女の子だったから……。正直、もうどう接して良いかわからなくなってきたね! 妹カナミちゃん先輩弟くん!」
「呼び名足し算の矛盾が酷い!」
また一つ、関係性という名の糸がこんがらがり、歪な結び目が増えていく。
ただ、その結び目という奇妙な絆でも、カナミは苦笑いを浮かべつつも喜んでいた。
そして、満足し切ったラスティアラは、敗北した仲間たちと共に大人しく撤退しようとする。
「というわけで、私たちの全敗だから……。すぐに連れて帰るよ。みなさん、お邪魔しましたー。また遊びにくるねー」
そのリーダーの判断に、もうパーティーメンバーたちが逆らうことはない。
ただ、全員が揃ってカナミを睨みながら、呪いを言い残していく。
「……わ、私が! 私こそがラスティアラ様の真の妹なんだ! この私がぁあああ!」
「次は必ず俺が勝つ! 剣と首を洗って待ってろ! あと泣いてないからな! 泣いてないからなぁぁあ!!」
「アイカワァ……」
その愉快な三人組に、ついカナミは「ははっ」と零してしまう。そのまま、上から見下ろすように嘲り、嗤い足して、「まっ、何度やっても結果は同じだと思うけどね。挑戦はいつでも受けるよ」と煽った。
当然、三人組は揃って捨て台詞を残すことになる。
「「「お、覚えてろぉ……!」」」
それにカナミは「覚えておくよ」と答えて、審査員席からは普通に「「「またねー」」」という言葉で見送られていく。
――こうして、カナミの三戦三勝によって、ラスティアラパーティーの初挑戦は終わった。
ただ数日後には、またラスティアラが軽い気持ちで遊びに来て、釣られて他三人組も裏口からやってきて(戦いにならないように遊びに来たという名目で)、似たような彼氏審査の決闘が始まることになる。
合わせて、ラスティアラパーティーが審査の為に急成長・人外化していき、『理を盗むもの』に近づき、馴染み出していくのに大して時間はかからないのだった。
IFでも、ヒロインたちとは仲良くできるというお話。
マリアVSカナミの殺し合い友だちは中々良さそうです……。ただ、『理を盗むもの』が減るのではなく、増えるのがIFルートとなりますね。
こちらのIFラスティアラですが、本編ラスティアラと比べて信じる力がありません――という設定で書いています。
覚悟不足で、へたれ気味。なのでヤンデレパーティーを心の底では怖がっており、運良く拾えた命のせいで死を恐れ始めて、仲間の成長は信じることができずに本編のような厳しめの台詞は全く言えず、それでいて可愛い仲間たちが「もしかしたら、私のカナミを奪うんじゃないか」と疑っている感じです。つまり、大分まとも人間。
本編のディア・マリア・スノウは、序盤はラスティアラを「完成された大人の女性」として見て、しかし終盤から思い直して「末っ子の可愛い妹」として認識していました。が、IFだと常に「完成された姉であり母」として見ている感じですねー。
そして、夏コミ!!
いぶそう合同誌! 拝見しました!
以前に増して、どのイラストも素晴らしかったです! 分厚く、キラキラ!
さらに短編も増えていたのが、同じ文字書きとして嬉しくもありましたね。
本当に、身に余る光栄です。
同時に色々な心残りが終わっていき、割内タリサとしての活動の終わりも感じています。
私はここまでになると思いますが、またどこかで会える日まで。




