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IF『守護者ルート』その23前編(あらゆるネタバレあり)

「学園世界が終わったあとの話」


・お題は「本編ヒロインたち」

・登場キャラクターは「カナミ、ラスティアラ、マリア、ディア、スノウ、ローウェン、アルティ、セルドラ」



 それは例の『学園世界』を乗り越えたあとのこと。


 日常生活に戻ることができていた『次元の理を盗むもの』カナミは、ぶらぶらと街中を散策していた。


 どこかの半身の女の子のように、何気なく歩いては、偶に知り合いに手を振っては、目的なくお店を見て回っていく。


 落ち着いていた。

 色々とあったが、ほとんどの懸念が消えたおかげだ。


 ――もう僕に目的はない。

 目指す『最深部』がない。

 迫りくる脅威もない。

 つまり、敵はいない。

 全部、なくなったのだ――


 そうフラグのように頭の中で「平和、さいこー! いっえーい!」と、カナミが思っていたときのことだった。

 新たな敵が現れる日がやってくる。


 散策しながら手を振っている途中で、かつて『学園世界』を共にした親友が現れる。

 金銀混じる長髪を振り乱し、美術品そのものな顔を歪ませて、その可憐な少女はカナミに手を振り返して、叫んだ。


「あっ、カナミ先輩! こんなところにいた! ちょっと来て! こっち! 急いで!」


 見るからに急用の様子。

 いましがた振った手で、次は「こっちこっち」とジェスチャーするラスティアラ・フーズヤーズに、カナミは目立つのを恥ずかしながら走り寄ってから注意する。


「ラ、ラスティアラ! もっと自分の立場を考えて……! あと、もう僕は先輩じゃないから! あれはもう『なかったこと』にしてるから!!」

「そんなこと言われても、私にとっては先輩だったし……! そんなに先輩が嫌なら、カナミちゃんにでも戻す?」

「そ、それだけは……。というか、最近ただでさえ男らしさを失ってきてる僕から、色々と削ぎに来てない!? せめて、君付けでお願い!」

「じゃあ、カナミちゃん先輩君で!」

「いや、もっと差し引いて!? 削ぐことが全部嫌いなわけじゃないよ!? 要らない部分を削いで整えるのは、とても大事!」

「でも、私の人生に要らない部分なんて一つもないからなー! 人生は、いつだって足し算オンリー!!」


 あの『学園世界』を乗り越えて、二人の仲は急接近して、とても安定していた。


 ただ、二人の性格に関しては、凄まじく不安定。

 ラスティアラの足し算オンリー宣言の通り、二人の『学園世界』前と後の性格は足されて、混じり合っている――という非常に危険な状態だった。


 なので、いまの二人は、気心の知れた同性の先輩後輩であると同時に、気の通じ合った異性の親友でもあった。

 その親友ならではの洞察力で、ラスティアラの要件を察していく。


「というか、いま、めっちゃ急いでたんじゃないの? ただごとじゃない様子だったから……、どこかで喧嘩でもあった?」

「そ、そうだった! 私が口を滑らせたせいで、とにかく大変なことに! お願い、どうか私たちを助けて――」

「うん、了解。すぐに向かおう」

「ありがとう……。あ、でも、うわあってドン引きしないでね。いい娘たちだから」

「うわぁ……? しないよ。もう色々とドン引きし慣れてきてるし」


 ラスティアラから「お願い」の一言。

 それを聞いた瞬間、カナミに迷いはなかった。

 《コネクション》を作って、彼女の願い通りの場所に急行していき――


 連合国中央にある迷宮の奥まで辿り着いた。

 出口の《コネクション》は各地に置いてあるので、その50層まではすぐだった。


 50層は『風の理を盗むもの』の階層で、草原一面。

 ただ、その50層に入った途端、カナミの全身の毛が逆立つ。

 異常な魔力の奔流と気温変化。なによりも、濁流のように膨大な殺気。


 ――ボス戦だ。


 しかも、尋常なレベルのボス戦ではない。


 まず、50層側から入って、北側。

 全長100メートルほどの白く輝く球体が、草原を豪勢に転がっていた。

 そこらの大型モンスターよりも巨大で――しかし、すぐにカナミは《ディメンション》で「いや、球体じゃなくて、これは百面体?」と、敵の本質を見抜いた。

 そして、次の瞬間には、輝く球体の色味が変わり――「いや、これも違う」とカナミは見抜く。遠目には同じ球体だが、これは色彩変化ではなく、形状変化で――「ウ、海胆ウニ?」と近しい形を想起して、冷や汗を垂らしながら呟いた。


 百面体が一瞬にして、億をも超える針の集合体と化したのだ。

 さらに、そのまま光り輝く海胆の棘は伸びて、曲がり、鋭さを持って、とある一点へと向かって、襲い掛かる。


 その一点が何かは、遠目でも仲間ゆえに分かった。

 『鉄の剣』一つで襲い掛かる棘全てを弾く『地の理を盗むもの』ローウェン・アレイス。

 偶に棘を縫って、『魔力物質化』の一閃を振るうが百面体によって防がれて、その視線を海胆の中心に向ける。

 そこには金の短髪の中性的な美少女が浮いていて、その視線に睨み返し、また魔法の海胆となって草原を転がっていっていた。


「うわぁ……」

「あっ、うわぁって言った!」

「ごめん。見慣れてるけど、みんなとは方向性の違ったうわぁだったから……」

「良かったぁー! 新種のうわぁは、まだ向こうにもあるよ!」


 そう言って、ラスティアラは南側を指差した。


 無数の花火が打ち上がっていた。

 もちろん、そんなにいいものではないと、すぐにカナミは見抜ける。

 高速で発射されて破裂するのは榴弾、徹甲弾、炸裂弾――という物騒な近代兵器を思い浮かべつつ、こちらにも術者がいるはずだと探した。


 草原で、黒髪の少女が膝を突いている。

 こちらの少女も睨んでいた。

 両腕をだらりと下げて、天を仰いで――、ぴくりとも動かない。

 ゆらゆらと宙に浮かんでいた金髪少女と比べると、こっちは完全に静止している。

 そして、その闇をも呑みそうな漆黒の瞳だけが動く。


 ぎょろぎょろぎょろと、瞳は標的だけを追いかけ続けていた。

 その視線の先にも、僕の仲間はいた。

 炎の翅を広げて、飛び交い、花火を避け続ける『火の理を盗むもの』アルティだ。

 彼女が《フレイムアロー》《フレイムシールド》《アグニ・ブレイズ》などの魔法で防戦することで、戦場に彩りが足されて、この地獄の集中砲火が花火のように見えていたようだ。

 その敵の黒髪少女を種とした、天まで咲き開く火炎の業華ごうかを見つつ、カナミは思う。


 ――静と動。


 対称的だと思いつつ、分析を深める。


 襲撃者は本当に静かで、無言だ。

 詠唱も魔法名も全く宣言しない。

 さらに、その魔法の形状は、数学的・合理的に適した形状が多い。

 淡々と、殺傷力という棘を敵に刺すことだけを考えている敵だ。

 ……はっきり言って、ロマンもケレンミもなく、僕は嫌いだ。


 対して、守護者ガーディアン側は、基本的に鉄の剣と炎の剣。それと、魔力の盾と炎の盾。

 魔法名どころか予備動作も一切ない敵と違って、しっかりとこちらは魔法名と技名を宣言しつつ動き、ファンタジー的武具を生成している。

 さらに言えば、色々な目を気にして、新しい詠唱もどんどん叫んで、様々で多彩な新技も披露している。

 ……もしこれが演劇ならば、こっちが僕は好きだ。満点だ。


 0点と100点くらいの差はある。

 そうカナミが思ったとき、


「――――――――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!」


 咆哮だ。

 それが『竜の咆哮』だと知っているカナミは、安心感と共に、さらに遠くの上空を見た。


 天を覆うように、こちらも全長100メートルほどの巨竜が飛んでいた。

 セルドラが本気を出していれば安心だと気を抜いたカナミは、その鮮やかな蒼の鱗を見て、すぐに考え直す。


 巨大蒼竜が飛び頭突きする先にいた小さな点も、見知った仲間だった。

 翼と両腕だけを限定竜化させたセルドラが、巨大蒼竜とぶつかり合っている。


 こちらも好みが別れるところだ。

 ロマン溢れる人と竜の狭間にいるセルドラに向かって、カナミは叫ぶ。


「セルドラァアアッ!」


 もうカナミは状況を整理し終えていた。

 挑戦する探索者パーティーは三人。

 防衛する守護者パーティーも三人。


 三対三のとても良い勝負――

 そう。

 恐ろしいことだが、あの『理を盗むもの』でも屈指の戦闘特化の三人で、フェアな三対三の良い勝負になっていたのだ。


 その意味をよく理解しているセルドラは、安堵と喜びの叫びをラスティアラに向ける。


「って、もう援軍来てるじゃねえかあ!? 早く言えよぉおおおお!!」

「セルドラさん、いま見つけて連れてきたんだよぉお! 一人だけど、カナミちゃん君先輩!!」

「援軍はカナミか! ラスティアラ・フーズヤーズ、よくやったぞ! あとは――」


 セルドラは要望を出そうとする。

 その前に、もうカナミは動いていた。

 駆け出しながら、広範囲に次元魔法を展開していく。


「ああ、すぐに僕が後ろにつく! ばらけたタイマンから、チーム戦に移そう! ローウェン、アルティ、セルドラ! 僕の位置交換の次元魔法を信じて! さらに仲間も信じて、全力で戦って!!」


 そして、戦局は変わっていく。


 カナミという司令塔を得たことで、守護者ガーディアンたちの力は何倍にも増幅するというのもあるが、ただでさえ拮抗していた戦いに数の差ができたのだ。

 決着を迎えるのに、大して時間はかからず――



 ――数分後には、50層の草原に拘束された女の子三人が転がっていた。

 魔力を使い切った襲撃者たちだが、カナミの『持ち物』から取り出された特製の手錠などを手足にいくつも掛けられている。


 やっと人心地ついた様子で、勝利した守護者ガーディアンたちは額の汗を拭っていく。


「あっぶねー。けっこー強かったな……ってか、これ、俺の故郷の生き残りか?」

「随分前に、婚約相手の調査をした子だね。確か、種族は竜人ドラゴニュートだったから、そうなんじゃないかな。……こっちの使徒様に似た子は、そのお友達だったはず。いや、なかなかの強さだったねー。太刀筋は酷かったけど」

「…………。マリアちゃん」


 セルドラとローウェンは楽しいスポーツのあとのような表情だったが、最後のアルティだけは浮かない表情をしていた。

 その理由を察しているカナミは、率先して襲撃者たちに声を掛ける。


「君は……、マリアちゃん?」

「…………。お久しぶりですね、アイカワさん」


 殺気が凄まじ過ぎて、呼んだ名前にカナミは自信がなかった。が、すぐに肯定が返ってきてしまう。


 アルティ、カナミ、マリアの三人は知り合いだった。

 それも地上で交流を深め続けて、心を許しかけていたほどの関係で――


「うん……。久しぶり」

「やはり、あなたが『次元の理を盗むもの』でしたか。アルティが『火の理を盗むもの』だった時点で、色々と察していましたが」

「い、いや、隠していたわけじゃないよ? 最近だと、連合国では有名な話だったし」

「知りませんよ。私たち、ずっと連合国にいるわけでもないんですから」

「確か、ラスティアラ関係で『本土』に行って、色々と大変だったんだってね……。ごめん、最初に知らせるべきだった」

「まあ、知らされても、そのときの私たちに事実を受け入れられる余裕はなかったと思いますが」


 心許しかけていた関係だからこそ、急速に瓦解しかけていた。


 その静まらない殺気にカナミは困惑する。

 それと以前と違い、マリアの肌が人じゃないものに変質し始めている。

 それを見て――


 一体『本土』で何があったんだと、カナミは別の襲撃者にも目を向けた。

 セルドラとティティーを足して割ったような竜人ドラゴニュートの少女スノウが、視線に反応して少しだけ殺気を緩めてくれる。


「……個人的に、私はあなたたちに感謝してる。私の結婚話を上手く先延ばしにしてくれたって聞いてるから」


 その話には、金髪の少女ディアも加わっていく。


「俺の縁談も、どうにか誤魔化してくれたらしいからな。俺も感謝してるぞ。あれがなければ、ラスティアラとクソ女の分離だって、きっと上手くいかなかった」

「……あと、私たちのラスティアラを定期的に乗っ取っていたクソ女を、そっちで引き取ってくれた話も聞いてる。あのまま『学園世界』とやらにクソ女を封印してくれてたら、本当に最高で完璧だったんだけどね」

「ああ、あそこまでは良かったんだ、全部……。あそこまでは……」

「……なのに、迎えに行った異世界で、ラスティアラ様が……。ああ、ラスティアラ様ぁあああ……」


 言い淀んでいき、そのまま二人の口は閉じられてしまった。

 なので、その口にするのも憚れる言葉は、マリアから出てくる。


「『学園世界』で想い人・・・ができたと。ラスティアラさんが嬉しそうに、話していました……」


 三人の話を聞く間、ずっとカナミは身構えていた。

 どんな恨み辛みが飛び出そうと受け止めてみせるつもりだった。しかし、その単語だけは予想外で、つい復唱してしまう。


「お、想い人? 僕が、ラスティアラの?」


 予想外で、急でもあった。

 なので、つい首を向けてしまう。

 付き添うように、隣で立っていたラスティアラ・フーズヤーズを。


 目が合った。

 ラスティアラは顔が赤くなり、すぐに首と手を振って、否定していく。


「いやあっ!? いやいやいやいやぁっ、そういうアレじゃないよね! 女同士の友情ありきで、ちょっと想うところがあったなーって話しただけで……や、やだなあ! ちょっと気になる人ができたって程度の話だよ! ね、ねぇーーー?」


 明らかに照れているのを誤魔化そうとしている早口だった。


 ただ、それは対面のカナミも同じ。

 顔を赤くして、テレテレと答えていく。


「う、うんっ! そうだね、ラスティアラ! ちょっと性別がごっちゃになって、距離が近くなってただけで……! そんな関係じゃないよねっ、まだ!」

「え!? あ、うん、まだね! まだまだ私とカナミは出会ったばかり!」

「何もかも、始まったばかりだからね!」

「そういうことー!」


 テレテレテレテレと。

 出会ったばかりの二人は、紅潮し続けていく。


 その明らかに両想いな惚気に、周囲の反応は少し冷たかった。


 まずアルティが額に青筋を浮かべる。それをローウェンが「アルティ、お腹でも痛い?」と心配して、セルドラが「カナミもローウェンも、一回刺されたほうがいいよなあ」と呟いて、襲撃者三人が呟く。

 とても静かに、重々しく、


「「「――殺す・・」」」


 額に青筋どころではない表情だった。

 スノウ、ディア、マリアは言葉を連ねていく。


「……わ、私の英雄様だぞ? 私のものを……、勝手に……、殺す。絶対殺す、殺す殺す殺す殺す殺す」

「ああ。そうだな、スノウ。殺そう。斬り刻もう。細切れにして、叩いて潰してグズグズにして、海にバラまいたら、それで終わりだ。なあ、マリア?」

「…………。アイカワァ」


 その殺意には流石のカナミも気づいて、慎重にラスティアラから離れていく。

 そして、三人の顔色を窺いつつ、状況を分析する。


 ――やばい。特に、マリアがやばい。

 ちょっと前までは可愛い新米探索者と思っていたのに、いまや「灰も残さない」という勢いだ。さらに言えば、「灰も残さなければ、いなかったことと同じ。想い人を想ったことすら『なかったこと』になる――」と次元魔法使いアイカワカナミのお株を奪うような殺害手段を考えているようにも見える。


 あの静かな戦い方と言葉少なさは、口より先に手を出すタイプだろう。

 そこまで分析して、心底怯える。


 マ、マジで怖い……。

 少し前まで、マリアはここまで物騒な魔力を纏っていなかったはずだ……。

 ラスティアラと仲がいいとは聞いていたが……。『本土』でティアラと分離したことが切っ掛けで、何かしらのストッパーがなくなったのか……?


 と高速思考するカナミの前で、襲撃者三人の分析結果も口にされていく。


「な、なあ? 早く正気に戻ってくれ、ラスティアラ。鈍感な俺でも、あの男が胡散臭いって分かるんだぞ? ラスティアラに分からないはずないだろう?」

「……うん。あの優男は、見るからに女を騙して生活してそう。ダメ。絶対にラスティアラ様までダメにされる」

「『次元の理を盗むもの』は空間だけでなく、人をも歪ませていくタイプの存在ボスに私は視えます。ラスティアラさん、この私の視る『炯眼ひとみ』を、どうか信じてください……」


 カナミの評価はボロクソだった。

 なので、すぐにラスティアラはフォローを入れようとするが、


「そ、そこまで言うことは……あるのかな? でも、そこがカナミの面白いところなんだよ?」


 分析自体は的確だなあと感じて、余りフォローはできなかった。

 そこに糸口を感じて、ディアは必死に食いついていく。


「ラスティアラ! 面白いことが欲しいなら、もう俺たちがいるだろう!?」

「うん。みんながいてくれるね」

「俺たちのことが、もう嫌いになったのか……? 余りに私たちが情けないから、もう傍にいても……つ、つまらないって、飽きたのか?」

「ううん、大好きだよ。いまも昔も、ずっとディアは刺激的なまま」

「なら、私の傍から離れないでくれ……。俺が要らないなんて、思わないでくれ……。お願いだ……」

「要らないなんて、一度も思ったことないよ。傍にいるよ。ずっといるよ。だから、大丈夫……」


 いまにも泣き出しそうなディアに、ラスティアラは急いで向かっていって、膝を畳んで座った。


「よしよし」


 そして、ディアの頭を膝の上に乗せて、撫で始めた。

 それを近くで見ていたスノウは、声をあげる。


「あ、あぁっ、私も私も! ラスティアラ様ぁあ!!」

「私もどうかっ、ラスティアラさん!」


 スノウとマリアは拘束されたまま、もそもそとラスティアラに近づいていった。

 すぐにラスティアラは二人の頭も膝の上に乗せて、同じく撫でていく。


「よしよしよし。みんな可愛いねー。私はみんなにこんなにも愛されて、幸せ者だよ!」


 そこに嘘は一切ない。

 三人を抱えて、自分のものにできて、本当にラスティアラは嬉しそうだった。


 その様子を見たカナミはドン引き――することはなく、どこか既視感を覚える。


 これは問題と解答を丸ごとセットで後回しにすることで、なんとか保たれているバランスだ。

 いま崩壊しない代わりに、悪化していくのを二度と止められない。

 緩やかに、いつか必ず破滅すると約束された関係――


 それを見たローウェンはどこか懐かしそうに、アルティは自己嫌悪交じりに、セルドラは開き直って嗤う。


「なんだか……、とても愉快なパーティーの登場だね」

「愉快? 私は不愉快だな。ああいうのは退廃的で好まない」

「退廃的な関係、俺は大好きだぜ。というか、俺たちも退廃度なら負けてないだろ?」


 そして、そこで話が一つ纏まったと解釈した守護者ガーディアン三人は、撫で撫でタイムの四人に話しかけていく。


「おーい。それで、どうするんだ? 反省したなら、今日は見逃してやっていいぜ。ただ、次は66層なんて裏口から入らず、ちゃんと1層から100層まで攻略して殺しに来いよ?」

「ルールに沿ってなら、いくらでもカナミは殺していいんだ。けど、こんな裏技めいたことをされると、こちらだって緊急の対応をしないといけなくなる」

「……私からは特に何もないな。ただ、今日の戦いで10層の『試練』は合格でいい。10層で私に話しかけてくれたら、休憩所に変えてあげよう」


 物騒なようで、非常に穏便な話だった。

 続いて、守護者ガーディアンたちが「なんか僕を殺すの推奨してない?」「私は普通にルール説明しただけだよ」「というか、アルティの贔屓が一番酷くないか?」「私が誰を贔屓しようと私の勝手だろう?」と談笑していくのを視て、マリアは頷く。


 手順さえ間違えなければ、三対一の有利な戦いをしていいと敵側が言っているのだ。

 それを受け入れて、パーティーを代表して提案していく。


「……はい。もう裏口は使いません。アイカワカナミ殺しも……、今日は諦めます。……ただ、一つだけ」

「なんだ? 言ってみろよ」

「そこのアイカワという男が、私たちのリーダーに相応しいお相手かどうか。査定したいんです」


 対応したセルドラは、その提案に表情を変える。

 満更でもなさそうに口元を歪ませていく。


「査定がしたい……。大好きなお姉ちゃんのために、彼氏の見定めって感じか? 面白いところを突かれたな」

「ええ。今日は殺しに来たのではなく、遊びに来たということにさせてください」


 ここまでの短い会話と『炯眼』で、マリアは守護者ガーディアンたちのノリの良さを見抜いていた。

 見抜かれたことを見抜いたセルドラは、遊びと言いつつ殺しのための情報収集を始めたマリアを気に入っていく。


「撫でられたらクールダウンするんだな、面白れえ。それで、どういう風に査定するんだ? ちょっとしたお膳立てくらいなら考えてやるぜ」

「……急に話が分かりますね。さっきまでは侮辱と挑発ばかりだったのに」

「初めての裏口侵入者だったからな。どうしても戦いたかったんだ。変なつっかかりして悪かった」

「無意味な謝罪よりも、査定のお膳立てとやらを早くお願いしたいところですね」

「分かった。ただ、査定するとは言うが……、うちのカナミは器用貧乏の究極。失敗が約束されている代わりに、全てにおいて超一流になれる男だぜ?」


 セルドラは善意で忠告をした。


 そこに誇張や嘘はないと、マリアの眼は見抜き続けている。

 そして、少しでもプラスになる展開を探し続けて――


「……ま、まず私と料理対決です」


 マリアは戦い以外の得意分野を選んだ。

 安易すぎたかと少し悔やみつつも、強気に宣言していく。


「もし私たちの誰かが勝ったら、ラスティアラさんには近づかないでください」

「報酬まで付けるとなると、ほぼ決闘だな。もし、そっちが負けたら、大事なものを失うかもしれないがいいか?」

「ええ、構いません。もちろん、よっぽど報酬レートが釣り合わない場合を除く限りの話ですが」

「よーし!! 決まりだな! じゃあ、すぐに舞台を整えるぞ! ティーダとアイドを呼んで、調理場兼試験会場をここに作る!!」


 挑戦者の勇気ある宣言に感激して、セルドラは威勢良く宣言し返した。

 もちろん、その決闘の当事者は声を張り上げる。


「いつものことだけど、僕を置いて話が進み過ぎじゃない……!? いつものことだけども……!」


 その自認通りに周囲は「いつものだ」と動き出す。

 そして、唯一の味方になってくれそうなラスティアラは、


「私は賛成かなー。楽しそう!」


 裏切った。

 カナミは他に仲間はいないかと、守護者ガーディアンたちに目を向ける。

 ただ一番頼りになるはずのアルティは、すでに襲撃者たちの介抱を始めていた。


「私もセルドラに賛成する。物騒すぎる殺し合いは飽きてきたところだ。……あと急いで、ファフナーとノスフィーも呼びたいところだ。マリアたちは無茶な『魔人返り』を繰り返して、普通の回復魔法を受け付けないところまできている」


 さらに拘束まで解いていく。

 そして、襲撃者たちから感謝の視線を向けられて(マリアだけは、まだアルティに心を許していないが)、少女たちに微笑んでいく元仲間を見て、カナミは敬語を使って問いかける。


「なんか、アルティさん……。急に、向こうの味方みたいな空気出してますが……」

「ファフナーとノスフィーを呼べば、自然と審査員になるだろう? それは、この子たちに不利な話だ。人数差なども鑑みて、私はマリアの味方をする」

「道理は通っているようで、私怨と贔屓をとても感じる……」


 こうなったアルティの懐柔は無理だと、次に信頼する友へとカナミは目を向ける。

 丁度、アルティに続いて襲撃者たちに近寄ろうとしていたローウェンは、真面目に答えていく。


「人数差ができそうなら、私もアルティに続こうかな。向こうは、気になる子が多いし」

「き、気になる子って……。ローウェン、安易にそういう言葉を使うのは危険だからね? 最近のリーパーやばいからね? どこかに紛れて、いまも聞いてるから」

「…………? 別に聞かれても問題ないだろう? そもそも、そんなストーカーみたいなことを、リーパーがするわけない」

「最近のリーパーはするんだよ! 絶対、盗聴とかされてるから! 四六時中!」

「し、四六時中だって……? カナミ、ちょっと変になってないか? 普通の感性があれば、そんなことはしない。スノウ君、そうだろう?」


 近寄って、そのまま知人に同意を求めた。

 ただ、拘束を解いたスノウは、目を逸らしてディアに向かって頷く。


「……そ、そうだね、ローウェンさん。大事な人の盗聴とか、ねえ?」

「あ、ああ。そうだな、スノウ。普通は、しないものだ」


 ディアも目を逸らした。


 明らかに共犯となってダメな魔法開発をしている二人の異変に気付かないローウェンは、得意げに「これが普通だ、カナミ」「いや、リーパーは普通じゃない子に育っちゃったんだって!」「リーパーは身体が特殊でも、普通の女の子だ。この私が保証する」とカナミに言い返していく。


 ローウェンの認識だと、リーパーは無邪気で安全な娘でしかなかった。

 それを痛感したカナミは、仕方なく最後の仲間に目を向ける。

 いつの間にか、千年来の親友のように隣に立つセルドラは、格好付けて笑う。


「心配するな、カナミ。この俺がいるだろ?」

「……一番裏切って欲しいやつが残ってるし」

「そんな悲しいことを言うなよ。俺だけは決して、おまえの期待を裏切らないぜ?」

「裏切れ! 味方しながら、味方の苦悩を楽しむ変態サディストが! 全く勝敗にこだわってない分、ティーダよりも厄介なんだよ!!」

「はー? 何の話だー? いつだって、俺は仲間の勝利だけを願ってきた男だぜ?」

「寄るな! おまえの性癖と千年前にやったことは、もう割れてきてるんだからな!」

「くはははっ。割れてきても、こうやって馬鹿話で付き合ってくれるカナミが、俺はマジで好きなんだぜ。嘘じゃない」

「嘘じゃないのが最悪なんだよ……。はあ」

「ほんと親愛に弱いな、カナミは。そんなカナミなら、最悪のセコンドが付いていても試練を乗り越えられるって俺は信じてるぜ」

「はいはい。分かったから、邪魔だけはしないでね。セルドラ――」

「あと信頼にも弱い。いやあ、チョロすぎて不安になって、もっともっと大好きになるぜぇ――」


 と、こうしてチーム分けがされつつ、準備は進んでいく。


 いつも通り、迷宮内で、ボスたちが楽しげに、『理を盗むもの』らしく。

 ラスティアラのパーティーメンバーによる彼氏査定という『決闘』が始まっていく。




この続きは、会話文しか作ってないのでもう少し時間がかかります。

超不定期にまた戻ります。


そして、本日コミックマーケット100さんにて、異世界迷宮の最深部を目指そうの合同誌第三弾が出ますね。よろしくお願いします。

それではー。

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― 新着の感想 ―
[一言] 先生の作品が本当に大好きです!
[良い点] 目を逸らしていた部分から逸らせなくなってくる 戦い方が見慣れなさすぎて新勢力登場かと思ったら…… マリアが膝付いて脱力気味なのに圧倒的な火力投射してくるの怖かっこいい [一言] 「………
[良い点] ヒロインたち周りの環境が一見悪くなってるように見えるけど、実は本編よりましっぽい? カナミ依存パーティーじゃなくて、ラスティアラ依存パーティーだから、毎度毎度丁寧なケアが約束されているし、…
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