IF『守護者ルート』その15(学園編その4の中)(10章までのネタバレあり)
「アイドがカナミをTS+洗脳して姉にしようとしていたのを、ラグネが横から奪ってママにして『元の世界』に逃亡したものの、その先に待っていたのは酔っぱらった陽滝だった。なぜか《冬の異世界》じゃなくて『学園世界』が展開されて、みんなが取り込まれてしまったから脱出を試みるラグネ。このふざけた世界を打ち破る鍵は、『理を盗むもの』たちが本当の自分に気づくことらしい(ティアラ談)」
・お題は「魔法少女じゃなくて悪の組織」
・登場キャラクターは「ラグネ、ヒタキ」
カナミファンクラブ裏支部での会合が終わった私は、すぐに動き出す。
時刻は深夜。
『理を盗むもの』たちが寝静まる時間帯に、スマートフォンを使って「いま暇?」と軽いチャットをヒタキに送る。すぐに「暇じゃない。けど、勝負するならやる」と文章を返されて、「部屋行っていい?」「いいよ。で、やるの?」「やるかも」「かもって、なんだ」「とりあえず、行く」と中々に怠めな会話をしつつ移動していく。
学園世界の管理者に、色々と不平を言う必要があった。
アイカワ家まで辿り着いて、玄関へ――とは向かわずに、いつも通りに木を登ってから、二階の窓から侵入する。そのとき、歪みを全身で感じるのだが、気にしない。ティアラ様の地下旧図書室のときと同じで、別次元に繋がっているだけだ。
なので、アイカワ家のアイカワ・ヒタキの部屋は、一軒家の外観や構造から考えられないほど広くなる。
その中は、一般的な学生部屋の基準を大きく超えて、教室のようだった(おそらく、望めば更に広げられる)。
そこには生活感のある消耗品や家具などが並び、たくさんの家庭用据え置きゲーム機が放置されていて、中央にはなぜか――
人一人は入れそうな巨大シリンダーが三つほど立ち並んで、怪しげな機械群とコードで繋がっていた。
セルドラが好んで読むSFに出てくるマッドサイエンティストのような部屋だ。
その機械群の横には、高さ三メートルほどのモンスター石人形のような立体が、微動だにせず立っている。
先ほどのアイドのように、その石人形をヒタキは弄り回していた。
私は「うぃーっす」と入室したあと、変な作業をしている彼女の背中に近づく。そして、つい先ほど、カナミファンクラブ裏支部で感じた不安と共に、あの変態たちの更なる弱体化調整を学園生徒として要求していくが――
「――ファンクラブに、私は手を出しませんよ。人工アイカワカナミの生産は……、私にとって問題ありません。というより、『未練』解消による殲滅が、あんな偽物の偽物で達成できる可能性があるのならば、さらなる資金提供をしてもいいほどです」
私の不安なんて知ったことではないと、アイドたちの裕福設定の解除は拒否されてしまった。
なので、私はヒタキの部屋の超高級カーペットをごろごろと寝転がりながら、口を尖らせて反論していく。
「いや、まあそう言うかなーって思ってたっすけどねー。ただ、殲滅できる代わりに、もっと危険な存在が生まれるかもっすよ?」
「守護者お手製のAIのことですね。あとドール」
「アイドお手製ってだけで、なーんか嫌な予感しないっすか? もしかしたら、何もないところから心が生まれるっす」
「心が生まれて、何がいけないんですか? それでAIの人類への反乱みたいなことが起きたとしても、反乱されるようなことをする人たちが悪いでしょうに」
「いや、それもっすけど……。新たな生命を人工的に作るのが良くないというか、人として禁忌というか」
「何をもって心や生命と呼ぶのか、勝手に決めようとするのは『人』の傲慢なところです。私にとっては、出産もAI作りも同じこと。……まあ、もし何かの映画のようにAIが変異して、私の身体のようなえげつない収穫加速の法則を得て、人類を一捻りできるような存在になったなら……。それはそれで、私の目的を一つ達成できて嬉しいことなのです、実は」
「んー……? ヒタキとしては、何でもかかってこいやあ! って感じっすか。なら、諦めるしかないっすね」
否定を重ねられてしまったので、大人しく引き下がっておく。
そして、やはり、この少女は常に『対等』な対戦相手を望んでいるようだ。
だからこそ、特定の分野でそこそこ良い勝負できる私の自由を、こうして見逃してくれているのだろう。
と、そこまで読み取ったところで、ヒタキは石人形を弄る手を止めて、近くに置いてあった缶を手にする。
「とにかく、『理を盗むもの』が楽しんでるなら、それは良いことです。元々ここは『未練』を解消する攻撃系魔法空間ということをお忘れなく……っと、完成です。ふー。さーて、お祝いの一杯っと」
そのまま、ぐいっと一呑みする。
もちろん、それはアルコール飲料。真面目な話をして冷めかけた酔いを戻すように、かなりストロングな度数の一缶を軽く飲み干してから、いつもの勢いに戻っていく。
「っぷはあー! やーーっぱり、これがないと始まりませんよねぇえええ!?」
んー。
こういうところが、本当にママを思い出すから止めて欲しい。
あと酒臭い。
という感想を、そのまま私はヒタキに投げかけていく。
「そろそろ、何かにつけて呑むのやめないっすか? ほんと見てて、ドン引きっすよ?」
「しかし、お祝いですからね。お祝いに呑むのは、仕方ないことなんです。それに呑まないと……、呑まないと、ふふっ、ふふふ……――」
「ほらぁっ、手が震えてるっすよ! もう完全に、やべー人になってるっす!」
「ふふっ、騙されましたね、ラグネ。いまのは演技ですよ、手が震えてる演技です。この私に禁断症状なんてー、出るわけー、ないじゃないですかぁー」
「はあ。ほんとっすか? あんなに一杯缶を空けといて」
酔っ払い特有のテンションと面倒臭さだったが、もう慣れている(これ相手に、もうどれだけ対戦ゲームをやったか)。
冷静に私は、空き缶と空き瓶が詰まっている専用ゴミ箱を部屋の隅に見つけて、疑いの眼差しを向けた。
ただ、すぐにヒタキは指パッチンで、ゴミを『持ち物』という次元の彼方までワープさせて、証拠隠滅を図った。
お酒を止めるのは長引きそうだと私は諦めて、話題を移していく。
「それで、お祝いするほどの完成品ってのが、それっすか?」
「ええっ、安物のセラミックスと魔石を材料にして作り上げた新作魔法人形! 今日はこれで遊び――いや、戦わせて、邪魔者を排除していきますよ!」
自慢するように見せられたのは、天井まで届きそうな厳めしい立体人形。
その胸部には、魔法が動力であることを証明するかのように、大きな魔石が輝いていた。
不思議な話だ。魔法世界出身者が科学技術を駆使して機械人形を作っている間に、科学世界出身者が魔法技術を駆使して魔法人形を作っていたのだから。
「邪魔者排除ってことは……、私にもこんな魔法人形作らせて、二人でバトルしたいってことっすか? 前の泥団子バトルみたいに」
「いいえ、それは違います。確かにあなたは邪魔者で、あの楽しい時間を参考にしましたが……。今回これと戦うのはあなたではなく、姉さんとラスティアラ・フーズヤーズの二人ですね」
「え、その二人……? 意外っすね。なんでっす?」
「実は、あなたには言おうか迷っていましたが……。二人は以前から『魔法少女』化してるのです。あの忌まわしき指名手配中変質者によって……!」
「ま、『魔法少女』化……?」
「ええっ、姉さんが! 『魔法少女』に! ふ、ふふふっ! キラキラ変身! してくれるのならば、本当は遺憾ですがっ、あの変質者に付き合うのは癪ですが! 妹として全力で応援しないといけませんよねえ!?」
「えっと「魔法を使う少女」って意味で、『魔法少女』でいいんすかね? 普通に魔法使いって呼んじゃあ駄目なんすか?」
「そ、そこから!? 概念から説明しないと駄目とは……。あなた、自由時間にいつも何やっているんですか!? せっかくの私が作った世界、もっと娯楽を堪能してください! もうっ、仕方ありませんねぇ!」
と、なぜか怒られ、呆れられてしまった。
私の自由時間は、常にママのことだけを考えている……はずだったのに、最近はおまえの対戦ゲーム中毒に付き合ってやっているから、その時間すらも無いのだ。
と、こっちが怒って呆れたいと睨み返したが、ヒタキは涼しい顔のまま。
『持ち物』から取り出したスマートフォンの画面を見せてくる。
動画が流れていた。と言っても、三次元やVRではなく、一般的なアニメーションだ。まさしく先ほどヒタキが口にした「キラキラ」が似合う子供向け動画だった。
「なるほど……。アニメっすね。これを私に見ろってことっす?」
「いえ……、それを待つのは流石に面倒です。なので、これからはあなたの頭の中に、動画を圧縮して直接流し込もうと思います。こう、脳に『糸』を繋いで、ビビビと」
「んー、どう考えても酔っ払いにやらせていいやつじゃないっす。普通にいつもみたいに、設定情報だけ教えて貰うのは駄目なんっすか?」
「アニメに関してだけは、それでは駄目なのです……。ネタバレだけ聞いて満足するような……どこかの疲れ果てた愚か者のような真似は駄目だと、最近私は気づき始めました。物語は、しっかりと過程を見て、聞いて、楽しむ。その思い出こそが大事だったと」
「でも、その『糸』で、ビビビってやっちゃったら、見て、聞いて、楽しむとかいう過程が、なくなっちゃうんじゃあ?」
「ふふふっ、もう説明が面倒臭い。えいっ。――魔法《ディ・リコレクション》」
質問したものの、酔っ払い特有の雑な判断で『白い糸』が襲ってくる。
それは本当に素早く正確で、あと不可視。いかに『勘』が良くて身軽な私でも、回避し切れない。
けれど、抵抗はさせて貰う。
「――――っ! なんか嫌な予感! なので【反転】させろっす、【星の理】!」
「ふふっ、無駄なことを! というか、いまのあなたの弱い【星の理】だと、日曜朝アニメがバトロワ系アニメになるくらいですよ! ……って、それ便利ですねぇ!? 好きな作品のキャラクターはそのままで、ジャンルだけ変えられる!? お得っ!!」
酔いに酔っているせいか、もうヒタキが何を言っているのか分からない。
なぜか「無駄だ」と同時に、「お得」とも褒められてしまった。その後、私の抵抗は虚しく、【星の理】は霧散させられて、魔法は成功して、突如脳内に見知らぬ記憶が溢れ出す――
――それは家のリビングのテレビで、アニメを眺めるヒタキの思い出。
さらに、ヒタキがアニメを見て覚えた感想や感情までも。
その見て、聞いて、楽しんだ経験が、私の頭の中に、凄い勢いで注ぎ込まれていく――
凶悪な魔法だ。ただ、問題は焼き切れそうな脳への負担や人権を無視した趣味の強制共有ではなく単純に――、臭い。
「ぐぁぁぁああぁあっ! 止ーめーろーっす! なんか魔法が酒臭い! 流れ込む記憶が早い上に、とにかくお酒臭いっ! 子供向けアニメを朝っぱらから泥酔しつつ見るなぁああっす! 子供たちの教育に悪いでしょーが!!」
「面白いものを見るときは、呑んでさらに面白くするのが礼儀なんです! だから仕方ないんですよぉ! あともう私に子供なんていませええん! あの子は、いま妹なんでセーフですうううう!!」
「こ、こんのっ!! 最低クソ親がぁあああ! 死ねぇええええ――!!」
圧縮された記憶が共有されていくのだが、同時に圧縮されたお酒の経験もぶちこまれていく。
あとヒタキの言い訳が最悪過ぎた。ので、酔いまで共有された私は久しぶりの本音を吐き出して、本気でヒタキを殺しに掛かったりして――わちゃわちゃすること、数分。
敗北して、先ほどまで転がっていた綺麗なカーペットに蹲る私がいた。
「――おえぇぇ、気持ち悪……。アルコール全開で、アニメ映像が凄いスピードで通り過ぎていったぁ……。あと微妙に、ヒタキ独自の解説付きなのが最悪だったぁ……」
「なんですか。せっかく、お話が分かりやすいようにと、記憶注入に合わせて色々とストーリー解説してあげたのに……。解説のおかげで、より一層と面白かったでしょう?」
「そういうのは全部見終わったあとに、ゆっくりと二人でするものっす。見てる途中の人に解説するのは、ただの自己満足っすよぉ」
「ゆっくりと二人で……。そうですね、そこはそうすればよかったです……」
ヒタキらしい余計なお世話と最悪な布教の仕方だった。
なにより、これは最悪な洗脳方法でもある。
「うぅ、頭の中に、うわぁ……。アニメの思い出と愛着が、めっちゃあるっすぅ……」
その思い出と愛着は、おそらくヒタキと全く同じもの。
洗脳は見事成功だ。
私じゃなかったら発狂してる洗脳だが、それを行ったヒタキは終始ニコニコ顔だった。
自らの『収束思考』に追随した私の脳が嬉しいようだ。
「アニメ十二話分約六時間分を、約六分への圧縮。……よく付いて来られました、ラグネ。流石、私と張り合うだけのことはある。素晴らしい処理能力です」
本当に自分勝手な人だ。
ただ、私の本当のママ程ではないし、これでも手加減してくれているとは分かっている。
もしヒタキが本気ならば、他の思考スキルも駆使して、さらに約六秒まで圧縮できただろう。しかし、それをしなかったのは彼女と私の間にある友情――いや、二人の『自分ルール』みたいなものだ。
圧倒的な力をもっていながら、しっかりとヒタキはルールを守る。その不器用な敵に苦笑しながら、私は手に入れた魔法少女の記憶を整理していく。
「まあ、おかげで概念は理解したっすよ。んで、ここからの流れもなんとなく」
「ええ! ということで、台本はこうです! 聞きなさい、ラグネ! 私の『執筆』した魔法少女の物語! その脚本を!」
「やっぱり、私たちであのアニメと同じことやるんすね。へいへいー」
強制的に共通の趣味の理解者を生み出したヒタキは、楽しそうに『持ち物』から手作り冊子を取り出した。
それを私と一緒に読み進めていく。
「実は既に、記憶を奪うモンスターたちが街で悪さをするというストーリーを、私とパリンクロンで先々週から進めています……。なので、今回はアニメで言うところの三話にあたりますね。やっと戦いに慣れてきた魔法少女カナミたちは、人々の夢の記憶を弄るモンスターの存在を突き止めて、退治することになります。ちなみに戦闘中は、私が空間を『静止』させますので心配なく。王道らしく、特殊な領域で戦う感じですね。……そして、その三話のボスキャラこそ、いま完成した『対魔法少女カナミ姉さん用ゴーレムスぺシャルマークスリー』君! なんと特殊能力として、睡眠魔法と夢干渉魔法の二つを搭載! 果たして、街で子供達の大事な夢を奪っていく魔法人形を、カナミとラスティアラはやっつけられるのか!? 乞うご期待!」
特にオリジナリティのない脚本だった。
ただ、安心ではある。これがティアラ様やパリンクロンならば良からぬアドリブが入るし、アイドやファフナーがならば変な方向に振り切れる。
ヒタキの純粋さを確認しつつ、私はメインの出し物である『対魔法少女カナミ姉さん用ゴーレムスぺシャルマークスリー』とやらに触れた。
大きさ的に人一人は軽く圧死させられそうだ。
しかし、コンコンッと軽く小突くだけで、腕が揺れる。その軽さに私は驚いた。
「大体やりたい流れは分かったっす。でも、こいつで本当に勝てるんすか? なんか発泡スチロールみたいに軽いっすよ」
「新米魔法少女の姉さんたちを怪我させるわけにはいきませんからね。物理的なパワーはゼロで、とても軽めに作りました。……なので、魔法をメインにして戦う魔法人形です」
「この図体で、魔法メイン……。逆に虚を突いてて、私は好きっすね」
安全性を重視しているようだが、それはそれで奇襲特化だとも思う。
この新しい魔法人形をちょっと気に入り出したところで、またヒタキは『持ち物』に手を入れる。
「あくまで、魔法少女の能力消失のみに特化したゴーレムなのです。序盤は、そういう敵じゃないと駄目……と、戦時法がルール制定されてて……。ええっと、ルールブックが確かこのあたりに……」
「ル、ルールブック……?」
ヒタキは取り出した新しい冊子をぺらりと開いて読み出す。
さらに、その一頁を開いて私に見せて、ルールの説明をしていく。
「ええと、いま姉さんとラスティアラの二人は、首にかけた『マジックジェム』という魔法道具を通じてしか魔法が使えないという設定です。なので、その『マジックジェム』を破壊すれば、私たちの勝利。逆に、魔法人形の胸部の魔石を破壊されると、私たちの敗北。そういうルールになっています」
そのまま冊子を手渡された。
私にも読み込んで欲しいのだろう。
仕方なく軽く目を落とすと、使用していい材料や魔法が細かく制定されていた(だから、モンスターの材質がセラミックスだったのか)。
時間制限は、十二話分。
決着方法は、どちらかの魔法能力の消失。
ルールの著者には、パリンクロンの名が刻まれていた。薄々と気づいていたが、今回の『決闘』相手は私ではなく、パリンクロン・レガシィだ。
私が知らないところで二人は邂逅して、別の『決闘』が始まったようだ。
しかも、私とヒタキのときのように、お遊び寄りの『決闘』。
そういう風に仕向けて、さらには自分有利な戦時法を約束させるのが、あのパリンクロン・レガシィという男は上手い(私という先駆者がいるおかげで、酔っているヒタキの交渉はやりやすかったに違いない)。
――結果、パリンクロンが育てた『魔法少女』二人とヒタキ手作りの『魔法人形』で戦うというゲームが決まって、いまに至った。そんな感じか。
「なるほどっす。特定の魔法道具の破壊勝負……。私の世界の決闘方法『象徴落とし』っすね。ただ、象徴は無形のものも含み、自分の手は汚してはいけないってところが……、ほんと騎士らしくなくて、パリンクロンさんっぽいすけど」
やっと状況を理解できた私は、「なるほど、なるほど」と何度も頷きながら、ちょっとずつ部屋の出口に向かって行く。
けれど、その足は『静止』させられてしまう。
「そういうことです。そして、もちろんあなたも参加者――いや、『演者』です。帰れませんよ、ラグネ」
「……これ、私関係ないっすよね? 私は私で、アイド先輩たちの対応とかで忙しいんすけど」
「この勝負、私は直接パリンクロンと戦えません。自分の手は汚せない……ということは、共通の知り合いであるラグネ・カイクヲラの奪い合いになるんですよ。あなたをどちらが上手く使うかが、このゲームの肝でしょう」
分かっている。ルール的に巻き込まれる気がしたから、いま、迷わずに逃げようとしたのだ。と苦い顔をすると、ヒタキは「はあ」といつもの溜息をつきながら、温情をかけてくれる。
「……別に、そこまで無茶な要求はしませんよ。いまの魔法人形の説明通り、私は兄さんとラスティアラさんが大怪我することを望んでいません。ので、もし危なくなったときは助けてあげられるように、あなたに見張って欲しい程度です。それだけの仕事ならば、どうですか?」
「う、うーん……。まあそのくらいなら、まあ、いいっすよ」
「よーし、よしっ。了承しましたね……! よしよしよしっ! つまり、あなたは三話あたりに出てくる謎の強者! 見知らぬ数々の魔法と力を持つ先輩系魔法少女! 味方と思えば、実は敵組織の女幹部だったり!? ふふふ、隠密に特化したあなたのスキル構成なら、それが可能っ!」
「えぇぇ……」
裏方仕事でいいのかと思えば、がっつりとメインキャラに据えられていた。
そのお助けキャラの概念を、いま私は丁度頭に叩き込まれたところなので、そこそこ重要なのが分かってしまう。
どうにか逃げる方法はないかと悩んでいると、すぐにヒタキは私との『決闘』のルールを持ち出す。
「私にゲームで負け越してる限り、拒否権はなしですよ。負けた分、お願い事を聞く約束でしょう? 私たちのほうの『決闘』は!」
確かに、そういうルールが私とヒタキの間にはある。
もちろん、その二人のルールのお願い事は「勝負そのものを左右するような無茶なお願いはしない」という暗黙の了解がある。なので、大抵は「そこにあるジュースとリモコン取って」とか「お風呂上がりにマッサージお願い」とか軽いものばかりだ。
「一回の出演で、お願い十個分くらいの価値はあるっすよ、これ」
「ええ、何十個分でも構いませんよ。いまある負け分のお願い権全部と引き換えに、どうか出演お願いします」
「それなら、まあ……。仕方ないっすね」
ルールはルール。負け越している私が悪い。ので仕方なく、私も溜息を突き返して了承するしかなかった。
おそらく、ヒタキは次の出演――4話か5話あたりのときまでに、またかなりのお願い権を貯める自信がある。
そろそろ、ヒタキに勝ち越す為の新たな作戦を練らないといけないなあと思いつつも、まずはお助けキャラ役について真剣に考えていく。一度お願いされたことは、自分の出来る範囲で全力で取り掛かるのも暗黙の了解だった。
「というか、そもそもっす。ルールブックを読む限り、このゲームってパリンクロンさんに有利過ぎじゃないっすか? こういうアニメストーリーって、絶対魔法少女側が勝つっす」
「……私が敵役に甘んじているのは、あの男にある種の信念を感じたからです。あの男がその気だったならば、一気に「アイカワカナミの記憶を全て戻す」という選択肢を取れました。しかし、あえて「ちょっとずつアイカワカナミの記憶を戻す」を選んでいます。間違いなく、私への挑発です」
いやあ、ちょっとずつ戻しているのは単純に性癖だろう、あれ。
とはいえ、全く挑発していないということもないか。
そういう一挙両得みたいなのが好きな人だ。
「つまり、パリンクロンさんに舐められてるから……。相手の流儀に則った上で、さらに不利な状況から、完膚無きまでに叩き潰し、大勝利したいってことっす?」
「ええ、そんな感じですね。流石ラグネ、私のことがよく分かっています。ふふふー、やっぱり私のことが好きなんですねー」
「はいはい。……なーんか、不安っす。それ、パリンクロンさんに上手く釣られてないっすか?」
「否定はしませんよ。これはパリンクロンに作られて、誘導された流れです。しかし、だからと言ってパリンクロン・レガシィを過小評価してはいませんよ、ラグネ」
私はパリンクロンの危険性を友人として忠告した――が、その内心を綺麗に読み取られて、心配は無用と答えられる。
むしろ警戒しているからだと、この学園世界の管理者としての貫禄を見せつけられていく。
「あのパリンクロンという男は、強い。それと、まず間違いなく往生際が悪い。たとえ敗北しても、あっさりと敗北を認めることはないでしょう。敗北に自らが納得しない限り、死して、魂だけとなっても、あの世から呪ってくるタイプです。しかも、笑顔で」
「あぁ……。往生際悪い……っすよね、間違いなく。それは同意っす」
「だから、パリンクロン・レガシィの討伐ルールは『面白い流れの上、しっかりと納得させてから、美味しい敗北を味わせる』。そう私は思っています」
美味しい敗北か。
流石は、世界管理者アイカワ・ヒタキ。
最近は酔いどれダメダメ少女のイメージが強かったが、付き合いの長い私くらいにパリンクロン・レガシィという男を理解していた。
つまり、アイドに関しても、ただ甘いだけではないのかもしれない。確かに、ああいう変態は押さえつければ押さえつけるほど、その欲望が拗れて、凝縮して、爆発するものだ。だから、いまカナミファンクラブ裏支部は、実のところ丁度良い塩梅なのかもしれない。
「私もそう思うっす。パリンクロンさんは、楽しいかどうかが重要で――」
「重要です。ので、さらに面白くするために、はいどーぞ」
そこで『持ち物』から取り出されたのは、黒い衣服。
靴から頭のてっぺんまでのトータルコーディネートセットが、近くの机の上に広げられた。
ここまでの全ての会話が、これのための前置きだったかのように、ヒタキは真剣に私を見つめる。
「……なんすか、これ」
「見ての通り、ラグネのために用意した特別衣装です」
私のものだと言われて、確認し直す。
装飾過多な黒い長ブーツから始まり、ゆったりめの裾が広がったズボン。銀色に輝く騎士の剣(安全を期して丸刃なので、ほぼ飾りだ)が用意されていて、上着はシンプルな漆黒のロングコートが重ね着用に三着も。そして、止めには、どこかで見たことのある黒仮面。
およそ、学園世界には似つかわしくないファッションだった。
「――魔法《ディフォルト・アーマーチェンジ》っと」
「ぎゃあ!? ふ、服が一瞬でテーブルのと入れ替わったっす!? なんすか、そのデリカシーゼロの変態魔法は!」
「そ、そこまで言うことないじゃないですか……。朝の着替えも一瞬で、便利なんですよ、これ」
「便利なのは自分を効果範囲にしている間までっす! 女性同士と言えども他人にやったら、ただの変態行為っすよ! 反省してくださいっす!」
と私に怒られると、ヒタキは「確かに。すみません……」と反省してくれた。
酔っている自負はあるおかげで、ちゃんと注意を受け入れてくれるのは有り難い。
ただ、だからといって酔いを覚ますことはない。
すぐにヒタキは酔っ払いのハイテンションに戻って、私の格好を楽しそうに弄り出す。
「と一反省したところで……、いやあ思った以上に、格好いいですね! こういう一色に染まったキャラ、昔はどうかと思っていましたが、いまなら全然いけます! 似合ってますよ、ラグネ! ふふふ!」
「私的には、ちょっと……。胡散臭いなあ。これぇ」
「とか言いつつ、心の隅では格好いいなとも思っているのでしょう? どうせあなたも、こういうの嫌いじゃないでしょうに。すぐ口は、逆のことを喋るんですから」
もうそこそこ長い付き合いになるので、ヒタキは私が私に隠している本心も読んでくる。「胡散臭い」だけでは誤魔化せない友人に向かって、私は素直に話していく。
「そりゃ、嫌いじゃあないっすけど……。見るのと自分が着るのじゃあ、別っす。こういうのは誰かに着せて、いまのヒタキみたいに楽しむのが一番っすからね」
「分かります。……けど、その上で拒否権はなしですから。これまでの対戦ゲームでも負けた分の罰ゲームだと観念してくださいね」
「最悪っす……。でも、この格好でこれまでの負け分帳消しなら、そこまで悪い話じゃないっすね。この姿で正体を隠して、見守って……、名乗るほどでもないって感じで時々助ける感じでいいっすか? 私の『魔力物質化』ならできると思うっすけど」
本当に胡散臭くて、恥ずかしくて堪らない。だが、仕事だと割り切ると決めて、内容を詰めていく。
「そのあたりは適当にアドリブで構いませんよ。向こうの脚本も上手いですから、どう話が進んでもなんとかなると思いますので」
「パリンクロンさんの脚本かぁ……。もし私の正体がばれても、流れが崩れないように準備しているのは、信頼できるっす」
「面白い流れを守ることに関してだけは信頼できますね。そこに関してだけ」
「ええ、だけっす。それ以外は全く信用できないんで、ヒタキも気をつけるっすよ」
と、二人で色々と話を重ねて。
仲良くパリンクロンへの陰口も叩きつつ――
「――ということで、そろそろ『対魔法少女カナミ姉さん用ゴーレムスぺシャルマークスリー』を向かわせますか。行きますよ、ラグネ」
「というか、今日なんすね。いや、だろうと思ってたっすけど――」
二人で悪の組織の出陣気分をちょっと味わって。
ヒタキと共に、私は部屋を出て行った。
ティアラとAIちゃんの導火線ゲージ|||
長くなったので、今回のIF話は上中下に分けます。
そして明日、短い下編を投稿します。
そこで一旦IFは切り上げて、いぶそう本編後日談を7/9に。
3000文字の軽くて楽しい短編を一杯作っていきたい思ったけれど、難しいものです……。




