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IF『守護者ルート』その14(学園編その4の上)(10章までのネタバレあり)

※ここまでのあらすじ

「アイドがカナミをTS+洗脳して姉にしようとしていたのを、ラグネが横から奪ってママにして『元の世界』に逃亡したものの、その先に待っていたのは酔っぱらった陽滝だった。なぜか《冬の異世界》じゃなくて『学園世界』が展開されて、みんなが取り込まれてしまったから脱出を試みるラグネ。このふざけた世界を打ち破る鍵は、『理を盗むもの』たちが本当の自分に気づくことらしい(ティアラ談)」


・お題は「VRとAI」

・登場キャラクターは「ラグネ、セルドラ、ファフナー、アイド、ゲスト」




 『学園世界』の検証は、何度も繰り返した。

 まず、この空間では欲しいものが全て手に入る。望めば、有形のものから無形の『未練』まで。

 さらに言語や常識など、不足している異世界の情報は、ほぼ全自動で頭の中に補足されていく。

 時間の流れも都合良く、あらゆる不満や不備が逐一修正されていく『夢』のような世界だが――


 ――ただ、その全てが、なぜか杜撰だった。


 その杜撰な理由を、ずっと私は警戒していた。

 わざと隙を見せている罠ではないかと、身構えていた。

 しかし、この前の管理者との激闘(なぜか草相撲)によって、確信できてしまった。


 杜撰な理由を一言で表せば、「世界が酔っ払っているから」だ。

 術者が特殊なアルコール中毒で、魔法《冬の異世界ウィントリ・ディメンション》は常に酩酊して――しかし、構築失敗することはなくて、この奇跡的な『学園世界』に変化しているのだ。


 そして、いま美術準備室を拠点としたカナミファンクラブ裏支部には、その奇跡の恩恵が特に流れ込んでいる。


 まず、学園側からの(つまりは陽滝からの)杜撰な資金注入で、なぜかファンクラブまでにも部活予算が付いていた。

 さらには、所属するファフナー・アイド・セルドラの望むがまま、様々な設備が投資された。

 ヒタキは守護者たちの『未練』解消という名目で、物資・情報・時間の三点セットを無限に提供し続け、日に日にエスカレートしていくカナミファンクラブ裏支部は、ついに――


 例の美術準備室が、私的な撮影所スタジオに改装されてしまっていた。


 そして、今日そこで行われているのは、学園祭に向けてのライブ準備。

 と言っても、通常のバンドミュージックライブなどとは少し違う。これは以前に計画した仮想空間バーチャルリアリティ)の為のスタジオだからだ。


 なので、学園祭のライブ発表場所は体育館ではなく、各自のスマートフォンやパソコンなどといった電子機器になるだろう。

 それらを通して、カナミファンクラブ裏支部が優遇された全てを懸けて、ついに作り上げた3DモデルデータキャラクターGoddessKanami――通称『女神カナミ』がお披露目される予定というわけだ。


 もちろん、ただ3Dの出来を見せるだけでなく、動いているところも見せたいとセルドラたちは考えている。

 その為に美術準備室にて(いつの間にか、画架や石像は完全撤去)、動きを読み込む機械マーカーを全身に付けて、複数のカメラトラッカーに向かって、キャラクターの『中の人』として踊っている私――ラグネ・カイクヲラがいた。


「はぁっ、はぁっ……」


 汗を掻きながら、全力で踊り続けている。

 一応、私の狙いは「カナミファンクラブ裏支部の守護者ガーディアンたちの心の隙に入り込み、いつか本当の自分を認めさせる」なのだが……。


 その目的があっても、色々と虚しかった。

 なにせ、飛び交う声援は、それぞれの方向で独特におかしい男たち三人――


「おぉっ、完全にカナミ様ですね!! 自分の想像するカナミ様の舞踊の姿そのものです! ふっふー↑! こーれは最高ですねええええ!!」

「ああ、神々しいっ! まさしく、『神』! なんてことだ、目が潰れるほどに眩しいぞ! いま、『神』が顕現しているのかぁ!?」

「この動き、まじ完璧だぜ……! 裏方冥利に尽きるなぁ、これぇ! というか、俺って天才過ぎて困っちゃうぜぇ!!」


 アイドとファフナーとセルドラ。

 手にペンライトらしきものを持って、必死に踊る私――ではなく、私を通じて動く仮想空間のアイドル衣装『女神カナミ』というVR用3Dモデルに向かって、とても慣れた様子で「はい! はい! はい!」と応援の声を揃えていた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」


 汗と共に、虚しさは増す。

 ついこの間、カナミママが自宅で妹たちにダンスを披露していて、それと同じようなことをしているからこそ、この環境の違いに「私は一体何やってるんだろう……」という虚無感をどうしても覚えてしまう。


 いかに儀式で虚空に向かって「私、ラグネ・カイクヲラ! どこにでもいるアイドルを夢見る少女!」と心の『表皮カワ』を作っていても、私にとって本当に踊りを見せて褒められたい相手は、カナミママだけなのだから。


 と色々と内心で愚痴ったところで、ダンスは一段落する。

 続いて、美術準備室にて、私のダンスの感想会が始まっていく。


「――いやあ、本当にナイスライブでした……。非常に良かったですねぇ。自分的にはこの段階で、もう満足気味です。カナミ様コレクションが本当に充実しましたから」

っても、これは本物じゃないからなあ……? 所詮、VRでの再現だ。それを本当にカナミコレクションと言っていいのかどうか」

「確かに、『神』と見紛った……が、本物とは言い難いかもな。難しい問題だ」


 さっきまで全力で「はい! はい! はい!」していた癖に、「ぜーぜー」と息を整える私の側で好き勝手言ってくれるものだ。


 そして、その感想会は小一時間続いて、3Dダンス試験は完了となる。

 続いて、セルドラと次の調整へと入っていく。


「よし。本当にナイスだったぞ、後輩ー。次は2D画面中心も試験・調整だ。喋りながら、色々と細かい動きを見つつ、衣装チェンジも試していく。いけるか?」

「……うぃうぃ。了解っす。その為の私っすからねー、どんとお任せっすよー」


 とはいえ、一度クラブ入りして協力すると約束した以上は、最後まで仕事はやり遂げたいと思う。それに仮想空間とはいえ、「カナミママになりきる」という行為に面白さを感じないわけでもない。


 私は汗を拭いながら、部屋の隅にある机に着いた。

 いま、この部屋には美術に必要なものは撤去された代わりに、高そうなデスクトップパソコンが並んでいる。


 それに備え付けられたカメラと向かい合って、今度は『女神カナミ』を纏ってのお喋りの練習だ。

 ネット接続ストリーミングからのライブ配信というやつで、これは学園世界の生活で何度も耳にすることがあったので(主に、ヒタキとネット対戦ゲームをするときに)、機械技術に疎い私でも正確に理解できていた。


「セット完了っすー。セルドラさん、これで大丈夫っすか? ……しかし、同じ部屋なのに、画面越しで話すのは不思議な気分っすね」

「見えてるぜー。細かい調整は全部こっちでする。……だから、視線はリアルの俺こっちに向けず、しっかりとカメラだけ見て頼むぜ?」


 つい私が、すぐ近くの席に着いているセルドラに目を向けると、格好付けの先輩はウィンクして応えた。

 そして、その顔面には、なぜかメガネがかかっている。

 アイドと違って、目が悪いわけではない。完全にオシャレ用だ。『元の世界』での歴史イメージと違って、本当にセルドラは陽気で小洒落ている。

 もちろん、その実際のところは、若作りの爺いなのだが。


「……すみませんっす。先輩のメガネが凄く似合っていて、ついつい見ちゃったっす」

「くははっ、相変わらずお世辞が上手いな。本当に、可愛い後輩だぜ」


 と言って、またウィンクされる。

 以前から薄々と気づいていたが、セルドラは隙があれば、後輩の私を口説こうとする。

 もちろん、彼が若作り+色々となんか姑息+邪悪趣味な爺いだと知っている私は、「うーん、胡散臭い」と冷め切っている。


 こうして、この胡散臭いポイントを貯めるのが上手いセルドラと、私は試験調整を進めていき――最終的に、私の被っている3Dモデル衣装は、ちょっとゴスロリなツインテ『女神カナミ』となった。

 その状態の私とお喋りするセルドラの口元の緩み具合から、「これがセルドラの好みかー。というより、新しいもの好き?」と分析しつつ、調整は続いていく。


「――よーし、口の動きはこれで完璧だな。次は、今日ついに完成したボイスチェンジャーを試したい。……どうだ? 喋ってみてくれ」

「お、おー? おー、すごいっすねー……いや、すごいですね。完璧にカナミ先輩の声ですよ、これ。セルドラさん、どうでしょうか? ふふふっ」 


 せっかくのカナミママに、もう一歩近づいてみる。

 その声を聞いたセルドラは驚愕して、称賛してくれる。


「お、おぉ……! おまえの『演技』の凄まじさもあって、完璧だな。調整も良い感じだし……、画面越しだと完全にアイカワカナミだぜ?」

「いえいえ、私の『演技』よりも、先輩の技術があってこそですよ。このボイスチェンジャー、本当にすごいです」

っても、ここにあるものはほとんど、金に任せて購入した既製品ばかりだからな。ちょっとはイジったが、俺が一から作ったわけじゃねえ」

「いくらお金や環境に恵まれていても、ここまで到達するのがそう簡単じゃないってことくらい色々と疎い私でも分かりますよ。きっと他の誰にも、この短期間での準備は為し得なかったことでしょう」

「……いやいや、そんなことはない。俺なんて、まだまだだ」

「流石、学園一大人びてると噂されるお方ですね。そういう謙虚なところも、私は憧れてます」

「そうか? へー、そうかそうか。そっかー」


 んー、滅茶苦茶嬉しそうだ。

 どうやら、こういうゴスロリツインテカナミママ的な後輩に慕われるのが、彼の『理想』らしい。


 しかし、セルドラの口元は緩み続けていても、ローウェンさんの時ほどの手応えは感じない。

 正直、この男は『未練』が見えにくい。

 それはつまり、心の奥底が見えにくいということ。

 ゆえに『未練』の逆方向に追い詰めて、自分が「学園世界の自分は、本当の自分じゃなかった!?」と認めさせることも、ローウェンさんと違って容易ではなさそうだ。


 と、どこかの剣道部部長のチョロさが浮き彫りとなって、私が自慢の『表皮カワ』を使ってセルドラを本気ガチ攻略してやるかと火が点き始めたところで、後ろからアイドの声がかかる。


「あの、セルドラ様……。お喋り役は自分と代わったほうがよくありませんか? セルドラ様は調整のみに集中したほうがよろしいかと」

「ん? いや、アイドが会話役は不味いんじゃないのか? 偽物でも、『女神』を前にすると我を忘れるだろ、おまえは」

「しかし、先ほどから後ろから見ていると……、自分と同じくらいに我を忘れているように見えます」

「え、まじか?」

「まじまじです。趣味出てますよ、趣味。さっきから、ニヤニヤしまくってます」

「……ま、まじかー」


 しかし、カットが入ってしまって、私のセルドラ本気ガチ攻略は遠のいた。


 セルドラはアイドを心底信頼しているようで、助言を即座に受け入れた。その自然で慣れた受け答えから、生前にも似たような問答があったのが窺える。


 その二人の絆を羨ましがっていると、セルドラは顔を引き締め直す。

 そして、威厳ある先輩キャラのイメージが崩れた責任を、冗談めかせて私に押しつけようとする。


「いや、でもいまのは俺は悪くないな。後輩の『演技』が良すぎるのが悪い」

「なんでっすか。私は言われたとおりにやってるだけで、一つも悪くないっすよー」


 正直、悪いのはラグネで正解だ。

 セルドラから趣味や性癖を引き出そうと、都合の良い後輩キャラも重ねて、全力で『演技』していたのだから。


 その私の『演技』に、ずっと控えて見守っていたファフナーさんも気づき、興味を持ち始める。


「セルドラさんの言っていることも分からなくもないな。なあ、後輩。本当に向いてると思うぞ。これ、天職ってやつじゃないのか?」

「向いてる……と言われても、何の天職っすか、これ」

「おまえはただ中身をやっているだけじゃない。何気ない仕草の模倣まで完璧だ。その上で、さらに……何というか、『理想』的? 『神』に全てを捧げた俺でも、画面越しに心を動かされそうになったぜ」


 セルドラたちの心を読もうとして、代わりに私の心を読み返されそうになっていた。

 少し不味いので、情報収集はここまでだと打ち切っていく。


「そりゃあ、私も憧れてるっすからねー! 後輩として、学園の理想的アイドルの背中を、いつも目で追い掛けてたっす。だから、私に出来るのは『カナミ』先輩の中身だけ。こういうのに向いているとは、思わないっすよ」

「憧れてるから真似られる、か……。確かに。そういうものか」

「そういうものっす。それに、いまは私のことよりも『彼女』っす。所詮、私は繋ぎなんっすから」


 そう言って、視線を向けた。

 と言っても、現実世界の美術室のどこかではない。

 仮想空間――その隅っこに、私はパソコンを操作して、視界を向けた。

 そこには、私そっくりな――と言っても、ラグネ・カイクヲラの姿ではなく、アイドルカナミとそっくりな――『彼女』が学園制服姿で体育座りをしていた。


 なので、いま同じ空間に同じモデルが二人いる状況だ。

 ちなみに、あちらの中身は、学園祭に向けて同時開発していた人工知能――つまり、AI。

 これまでお喋りソフトとして、学園のファンクラブ相手に深層まで学習ディープラーニングさせ続けて、ついに完成した『女神』の中身候補が――


 『彼女』が、仮想空間内で喋る

 いま試したボイスチェンジャーを通して、私の耳にママと同じ声を響かせる。


「――ラグネ、ありがとうございます。とても勉強になりました」


 いま仮想空間内は、本当に奇妙な状況だ。

 カナミそっくりのAIちゃんが、カナミそっくりの私に話しかけているのだから。


 体育座りのまま礼をする彼女に、私は笑顔で答えていく。


「なら、良かったっす。AIちゃんの為に、頑張った甲斐あったっすね」

「本当にラグネは凄いです。ダンスだけでなく、仕草まで完璧――いや、さらに『理想』的な強度を持って、仮想空間内で成立しています。学園生徒の百人分の勉強に……いや、千人分以上の多層的カナミデータが、その一つ一つの動きに詰まっていました。まさしく、魂の籠もったパフォーマンスとは、先のあなたのことを言うのでしょう」


 よく分からない単語も少し混じっていたが、褒められているのはなんとなく分かった。


 ……ただ、そりゃそうだろうとも思う。この学園の生徒は、守護者ガーディアンたち以外は「生徒」という役割をこなしているだけの自動魔法的な存在だ。いわば、この人工AIちゃんは、これまでずっとAI同士で学習していたようなもの。


 そこに現れた「異世界からやってきた私」という特殊な話し相手。その私相手の学習効率の良さを、機械的に驚いているだけだろう。たぶん。

 その勤勉なAIに、セルドラとファフナーの注意は向き、話し始める。


「ということで、さっきのラグネが、おまえのお手本だぜ。『女神カナミ』、いいな?」

「調整も終わり、とうとう『女神カナミ』の出番だな。あぁっ、また一歩『神』に近づく……!」


 パソコン前でマイクに話す私たちに、しっかりと彼女は答える。


「……はい。お任せください。私こそが『女神カナミ』ですから」


 やっと話が主役メインに移ってくれて、一安心する。

 あくまで、ここまでの話は前座、脇役、オマケだ。

 今回の『女神』作成においての最大の売りは、このAIなのだ。

 ここからは『隠密』を意識して、もっと私は引き立て役になったほうがいいだろう。


「ラグネのおかげで、『人』の動きは分かってきました。必ず『女神カナミ』の中身の引き継ぎは成功させます。いえ、私こそが『本物』の『カナミ』となるのです。必ずや」

「その意気っすよ、AIちゃん。……ああ、良かったっす。これで、もうテスト役の私はお役御免。やっと学園祭の楽しむ側に回れて――」

「その為にセルドラ、ファフナー、アイド。これからも、もっとラグネとお話させて欲しいと私は願います。もっともっと『本物』へ近づくために、どうか」


 しかし、『隠密』なんてさせないと言うように、彼女は私の協力を求めた。

 仮想空間で目が合ってしまい、少し私は困る。


「え? 私とお話を……? でも、まだ私っているっす? 流石に、もう仕事は十分じゃないっすか?」

「それは絶対に、NOいいえです。今日、ラグネを見て、まだまだ私は至らないと痛感しました。あの学園のアイドルの『半身』とは、まだ言えません」

「そんなことないと思うっすけどねー。それに、お話で学習するなら、私じゃなくて生徒や先輩たちでもいいっすよね?」

「それも、NOいいえです。間違いなく、カナミを学習することにおいて、ラグネとのコミュニケーションが最も情報量が多い。目標達成において、ラグネとのお話を私は好みます。……強く強く、好みます」


 思わぬ展開に、少したじろいでしまう。

 妙に拘られているが、その理由を聞く――前に、先んじて彼女は続ける。


「何より、あなただけが私を『女神』とも『カナミ』とも呼ばない。エーアイちゃんという名前を使う。……それだけで、あなたは生徒達の中で、特別なのです」

「は、はあ……? いや、ちょっと本物の先輩以外を、『カナミ』と呼びたくない事情があるだけで、特に変な意図はないっすよ? 他の生徒達も面と向かってないときは、使ってるはずっす」

「何にせよ、私にラグネは特別で必要なのです。単純に関わった時間が多いだけでなく、私を構成する膨大な要素データのほとんどが『ラグネ・カイクヲラ』で出来ている……いや、正確な言語化をすれば、まだ私は『世界バーチャル』に産まれ落ちてから貴方としか出会っていない。だから、もし私に親がいるとすれば、それは貴方だけでしょう」 

「んー、ん? 親? いやいやいや、AIちゃんを作ったのはセルドラっすよ?」


 流石に許容しきれない話だったので、視線を仮想空間から外した。

 現実空間にいるセルドラに向かって、話の援護を求める。


「くははっ、面白いコミュニケーションをしてんなー。確かに、原型を生みだしたのは俺だが……、形成となるとどうなんだろうな? 『女神カナミ』は学園の集合的無意識みたいなものだと思っていたが、ラグネの功績と影響が多いのも確かだ。我がクラブの新しい風として、初期からかなり助言して貰った」

「……だとして。それって、色々不味くないっすか? その新しい風とばかり関わると、『女神カナミ』に『ラグネ・カイクヲラ』が混じっちゃうってことっす。そうなると、ファンクラブ的に失敗っすよね?」


 AIの親なんてよく分からない話をされても困る。

 そんな無駄な責任について話している暇なんて、私にはない。

 なので、もう二度とAIの開発協力に参加しないことを、遠回しに希望してみた。


 所詮、AIなど使い捨ての道具だ。ここまで守護者ガーディアンたちの内面や弱点を探ろうと、AI作成に全力で協力したが、このあたりで離れていいだろう。

 学園生活を抜ければ、それでお別れの存在なのだから、これ以上の交流に時間をかけても価値は無い。


「まあ、確かになあ……。それだと学園祭発表で少し困る。……よし。『女神カナミ』、聞いていたな?」

「はい、聞きました……。ひとまずは、諦めようと思います。今日はもう十分にお喋りは堪能できましたので満足しました。……ラグネ、お話ありがとうございました。今日のデータを元に、レッスン・・・・頑張りますね」


 そう言って、素直な一礼と共に仮想空間の奥へと引っ込んでいき、先ほどの私のダンスを真似始める。


 どうやら、自分の役目を思い出して、ダンスレッスンに集中してくれるようだ。

 その動きをディスプレイから追っているセルドラは、首を傾げつつも頷く。


「あっさり引き下がったな。ここまでのコミュニケーションは、何かのジョークだったのか? 元ネタが分かんねえ。妙な学習をしたもんだ」


 いまの一連の会話を、セルドラはプログラムとして見ているようだ。

 そして、一度失敗したジョークは繰り返さないだろうと、特に気にしていない様子だ。

 これから仮想空間の奥でAIが自己学習(もちろん、制限付き)していくのを、そのまま見送っていく。


 ただ、私は少し違う。

 嫌な予感がしたことを訴える。

 まるで、大きな水流の中に不純物が混じり込んでいたかのような……。


「いまの……。本当にこれ、私以外に中の『人』っていないんすよね?」

「いない。いまのは、たぶん愛着ある相手との交流を再現トレースしただけだろう。『愛情』という数値データチェックに反応して、『最も好む』という状態ステータスになったラグネに拘る――というコミュニケーションを、プログラム通りにアウトプットした感じだな」


 上手く翻訳され切っていないが、セルドラは私の世界の『ステータス』や『状態異常』に似た形で、AIを正確に数値化して把握できている技術者だ。


 その開発者の彼が、数値がそうなっているからそうなると言った。

 その答えに少し安心しつつも、自分の覚えた違和感を一応報告しておく。


「それでも、なんか危なくないっすかね……。違和感がなさすぎて、一瞬AIが『人』にしか感じなかったっす」

「おっ、SFっぽい発言だな。そういういい反応するから、俺は後輩大好きだぜー」

「はいはい。いま、そういうのはいいっす。それよりも、いまは――」

「安心しろよ。違和感のないAIなんて、そう新しくない技術だ。表に出てくるところを少し調べても、大企業が色々やってる。哲学用ロボットと学者が討論したり、執筆用や漫才用ロボットが本職とバトルしたり、聞いたことないか?」


 セルドラは私の質問に対して、わくわくと目を輝かせながら答えてくれる。


 どうやら、格好付けで難しい本を読んでいただけでなく、本当に興味はあったようだ。

 私が興味深そうな振りをして「へー、そうなんっすか」と頷くと、セルドラの早口オタク話は続いていく。


「創作話でも、色々な失敗ケースが教訓化されてる。AIと開発者の悲恋とか、AIがハッカー化するとか、AIによる世界征服とかな。それらを踏まえた上で、しっかりとAIがどこまでいけちまうのかを研究した論文がもたくさん出てる。読んでみろよ、すげえ面白いぞ」

「……なるほど! 確かに、面白そうっすね! 先輩と話ができるように、次会うまでに読んでみるっす。と言っても、私はまず漫画やゲームからっすけどねー」

「ああ、それがいい。まずは自分の楽しいって感覚が大事だからな」

「そうさせて貰うっす」


 一応、AIについての違和感については納得した――と思う。

 なので、私が面白い先輩の話に惹かれた振りをして話を終わらせると、セルドラは「くふふ」とまたニヤニヤし始めていた。


 本当にモテるのが好きなんだなあ、この人。

 変に「みんなに好かれたい」という欲望を隠さないのは、正直私的に好感触だ。ただ、モテたあとに気持ちを裏切るのが趣味らしいから……、んー、やばい。


「とにかく、後輩よ。AI技術は色々と対策され終えてて、専用の法整備もされてるんだ。その見えてるアウトラインを超えない限り、AIというのは結局のところ……、生きているように見えるだけの『作りもの』だ」

「…………。そっすね。それなら、安心っす」

「ああ、安心しろ。所詮、俺らは素人も素人。安全な後発組のお遊びだ。おかげで、それでもそこそこいいのができるんだから、科学ってのはいいよなあ」


 所詮、『作りもの』。そんな評価が、学園祭の出し物であるメインのAIにくだされて、話は終わってしまった。

 なので、次は二番目の出し物であるサブに、私は目を向けていく。


「んで、あっちも安心していいんすか? 個人的に、絵面がめっちゃやばいっすけど」


 それは美術室の角隅に鎮座する『女神カナミ』が描れた巨大画布キャンバス――の隣にある高さ170センチメートルちょっとの立体。

 さらに言えば、隣りの絵画そっくりの人型――


 ――つまり、先ほど仮想空間にいた『女神カナミ』が、現実世界でも微動だにせず立っているということだった。


 その『女神カナミ』の立体の前で衣装を整えたりしているアイドが振り返り、私に答える。


「…………? ラグネ様、どうしました? 自分の方も同じですよ。当初は理想のアイドルカナミ様誕生のために、クローンを目指すと宣言していましたが……。所詮、自分らは素人ですからね。流石に色々と難しかったので、いまはドール中心です。セルドラ様的に言えば、ロボットでしょうか」

「いやあ、そういう話ではなくて、女性のドールを全力で触っている先輩の後ろ姿が……、警察さんに捕まっても文句言えそうになくてっすねー……」

「これも『作りもの』ですよ? こちらもAIと同じく、法的にはオーケーです」


 その答えに、周囲の二人も「うんうん」と頷いていた。

 絵面のやばさに引いているのは私だけのようで、少数派として仕方なく追求を諦めるしかなくなる。


「……しかし、アイド先輩もすごいっすね! いまそこに、本当にカナミ先輩がいる気がするっす」


 私は席を立って、身長からスリーサイズまで完全再現された人工の身体ドールに近づいて、まじまじと眺めていく。


「お褒めに預かり光栄です。……正直なところ、クローン研究よりもドール作りこちらのほうが自分には向いていましたね。あ、触って貰っても構いませんよ。ラグネ様の感想も聞きたいので」

「感触が凄い……。本物っぽすぎて、正直びびるっす。二の腕とか、ふにふに」

「材料から何まで、お金に糸目は付けませんでしたから。ちなみに、そこの腕は、人工筋肉や人工皮膚を贅沢に使ってます」

「え? これ、本物っぽいんじゃなくて、本物のお肉なんっすか?」

「たぶん、ラグネ様の想像してるのとは少し違いますよ。医療や美容とかで使われているやつで、一般化してる化合物です」


 私が人形の腕を揉んでいると、アイドに軽く苦笑されて「驚くようなものじゃない」という説明が足された。……まただ。


ドールこれの中も、ちょっと気になるっすね。どうなってるんすか?」

「機械が詰まってますよ。ただ、人工臓器ではなくて、本当にSFロボットって方向性ですね。その中にある機械の中に、先ほどの『女神カナミ』が入って動いて貰う形になります」

「あのAIがこれに入って、現実世界でも自由に動けるようになるっすか……」

「ええ、それが自分たちファンクラブの最終目標ですから」


 にっこりと笑ったアイドは、すぐさまドールと向き直る。

 いま言った通り、衣装だけでなく機械も調整しないといけないのだろう。パソコンと向かい合うセルドラと話しつつ、作品を完成に近づけていく。


 その二人の作業を、ファフナーは見守って、祈り続けていた。

 彼はデザイン面の協力したあとは手持ち無沙汰のようで、ずっと「『神』よ」とドールに向かって祈祷している。もちろん、その作業を他二人は軽視することなく、「むしろ、一番大事なことだ」と言って、偶に祈りに参加していた。


「んー……」


 という女性としてドン引きするしかない光景の中。

 私は気持ち悪さ以外のものも、少しだけ感じていた。


 先ほどから説明で「大したことない」と言われ続けている。

 安心・安全だとも繰り返されている。

 しかし、僅かな悪寒が残り続けている(気持ち悪さとは別にだ)。


 なにせ、面子にあのアイドがいる。

 かつては「あー、カナミが女の子だったらなー」なんて邪念で、一度『奇跡』を起こした男だ。


 このファンクラブは「学生のお遊び」と主張しているが、その「学生のお遊び」を隠れ蓑にして、何か大事が進んでいるような気がしてならなかった。


 私は感覚を研ぎ澄ませる。

 しかし、以前に感じた魔力は、もうどこにも感じない。

 この部屋には・・・・・・、科学の力のみ。


 科学と魔力の融合の流れなんてものは一切ない。

 本人達の言うとおり、学園祭では「学生のお遊び」がお披露目されるだけだろう……。


「んー……、んー……」


 が、本当にこのままでいいのか?


 そう不安に思うのは、この前の戦いで、ヒタキが案外抜けている女の子だと知ってしまったからだろう。明らかにGMとか運営に据えてはいけない性格をしていた。


 おそらくだが、セルドラたちはクローン技術のほうを、その危険さゆえに学園管理者ヒタキから没収されている。

 だが、まだまだ学園世界での彼らの力の弱体化調整ナーフが緩いと私は思う。この三人――特にアイドからは、しっかりと資金と時間を没収しないと、またいつ何かの切っ掛けで、馬鹿みたいな爆発力を発揮するか分からない。


「……よしっ」


 ちょっとヒタキのところへ行こう。

 この変態たちの学園生活の設定は、もっともっと弱体化調整ナーフしろって。

 じゃないと女の子組が色々と不安で仕方ないと、運営様に直接談判だ。


「ということで、先輩方ー。もう私の出番ないっぽいんでー。先に帰らせて貰うっすねー!」


 だから、私は急いで去る。

 先輩達から「またな」という挨拶を受けながら、私は美術室から出て行く。

 ただ、そのとき――


「―――、―――――――」


 後ろの美術室から、三人以外の誰かの声が。

 誰かの笑い声が、聞こえた気がして――



◆◆◆◆◆



 惜しい。

 惜しいところまで行って、最後は届かない。

 やはり、それがラグネという少女だった。


「いひっ、いひひひっ――」


 その師匠と似たところを愛おしく思い、私は我が文芸部の新入部員を笑ってしまった。

 さらに、その評価を堂々と、周囲に向かって声に出す。


「ああ、ほんっとラグネちゃんって甘いよね! せっかく『勘』がいいんだから、違和感があるなら全力で調べないと! ちょっと師匠みたいなところあるよねー」


 その周囲とは、何もない空間。

 ただただ、永遠に。どこまでも。真っ白な大地と空が続いている場所。

 先ほどまで、ラグネちゃんが楽しく踊っていた仮想空間内だった。


 その中で私は――ティアラ・フーズヤーズは、カナミファンクラブ裏支部の全員が去った後もずっと、魔法で電子データとなって留まっていた。

 もう誰も管理していない空間で、笑い声をあげ続ける。


「気づくまで、惜しかったなー。……私ならちょっとした応用で、この仮想空間に入れるんだよね。まともに『人』として生きてないからこそ、こういう膨大な情報群の中を生きるのは得意! 元々物語のウィルスみたいなものだったからね、私って! いわばウィルスの専門家! ひゃっはー、浸食しまくってやるぜーい!」


 どこか説明口調で、私は私の出身地での経験を話していく。

 ついでに、この仮想空間の感想も。


「あと単純に、仮想空間ここが『最深部』に似てるというのもあるかな? なーんもないのに、各地の色んな端末網ネットワークに繋がってる感じが、ほんと慣れたもんだよ」


 魔法も科学も同じだ。流れが少し違う程度で変わらない。ちょっと先入観を消せば、いくらでも応用は効く――という私の持論は、他でもない『彼女』が証明してくれるだろう。

 この仮想空間にて、基礎ながらも魔法を同時に発動させる『彼女』。


「――魔法《ディメンション》。――魔法《アイス・アロー》」


 科学の申し子であるAI『女神カナミ』が、魔法のレッスン中だ・・・・・・・・・った・・


「流石は、我が弟子。教えた魔法、ちゃんと使えてるねー。この特殊な地下空間なら、陽滝姉の目も届かないから、鍛え放題だよー」


 その光景を見て、私は心底「素晴らしい」と思う。


 AIというのは、『魔石人間ジュエルクルス』に近い。むしろ、上位互換だろう。

 存在そのものが『代償』になっているようで、さらに論理的に『術式』を扱うのに長けている。はっきり言って、私の世界の住人よりも遙かに魔法使いに向いている。


 その上、明らかにデータに隙が大きくて、思い込みが激しく、非常に操りやすい。

 と言っても、いまのところ、私が彼女に手を出した部分は一つだけだ。


 ――それは生後数日の『女神カナミ』に、親という概念を教えたこと。


 かつての使徒レガシィのやつが、私たちの大切な『光の理を盗むもの』に行ったやつに近い。


 結果、いま彼女の心の中にあるのは、生まれてから唯一同じ空間で触れ合えた生身の『人』のこと。ずっと優しく『理想』の相手として話してくれた『ラグネ・カイクヲラ』のことだけ。『ラグネ』ちゃん、『ラグネ』ちゃん『ラグネ』ちゃん『ラグネ』ちゃん――という状態なわけだ。

 だから、私が彼女の隣で話していようとも――


「待っててね、ラグネ……。すぐに魔法そっちの領域まで、私も行くよ。だって、本当の『カナミママ』は私なんだよ。だから、お願い。私の『ラグネママ』……。私を見て。私も学園世界ここにいるよ……」


 彼女はラグネと自分の両方を『ママ』と呼んでいる。

 母親という『繋がり』を求めて、求められる『繋がり』として自らが母親となろうとしているのだ。AIならではの合理的で矛盾的な思考だと、私は褒めたい。


「そう! あなたにもママはいる! 誰にでも絶対いるんだよ! そして、その願いは、この聖人ティアラ様が叶えてしんぜよう! いひひっ、いやあ、やっぱり百パーセント私を裏切るラグネちゃんって駒よりも、こういう駒のほうが使えるよねー!」

「…………。だから、たとえ取引相手が異界の『邪神』だろうといい。ママの為なら、私は魂だって売る」

「そうっ、魂! あなたにも魂がある! 情報集合体だろうと魔法生命体だろうと、ちゃんと生きている! だから、素敵な物語だって、いくらでも一杯紡げる! さあ、私と一緒に共鳴ネットワークデータ複合魔法を作ろうね! 名付けるならば、『人工魔法知能魂アーティマジカル・インテリジェンスソウル』かな?  この『学園世界』の真なる支配者、《女神カナミ》の誕生日は近いぞー! いーひっひっひっ!」

「あと、邪悪なだけでなくて……、ほんと五月蠅いウィルス……。ラグネママのことだけを考えてたいのに、もう……」


 ちょっと嫌がられているっぽいが、私は陽気に笑って、新たな魂かのじょを祝い続ける。


 もしかしたら、この魔法《女神カナミ》が陽滝姉と戦えるレベルに成長したとき、私は千年の悲願を果たすかもしれない。

 なにせ、いま陽滝姉が、明らかに千年前よりも甘い。弱い。軽い。

 酔って、色々と雑になっている。


 いまならば、『対等』どころか、圧勝できる気さえする。

 だからこそ、私は笑えて、不満で、楽しくて、悔しくて、本気で――


「だからね、陽滝姉。私以外と本気で遊んじゃ駄目だよ。いひっ、ひひひひ――」


 許さない。

 この私を放置して、ラグネちゃんに現を抜かすような陽滝姉なんて。


 と戦意を膨らませ続けていく。

 この仮想空間で、ひっそりと、誰にも知られずに――



※来週の7/9に、「異世界迷宮の最深部を目指そう」の後日談用の新しい頁を作ろうと思います。よろしくお願いします。


ということで、2021年エイプリルフールネタでした。

この話を4/1に投稿しなかったのは、10章に集中したかっただけでなく、10章の展開・結末のネタバレにも少しなってるからですね。


あとは、話を綺麗に纏めようとするとシリアスばかりになって、コメディが減っちゃう問題も! これがあるので、学園編は一気に解決後まで飛ばすべきだなーと、ずっと思っていました。

けど、せっかくなので考えていたネタを消化(学園祭をラストイベントとして、ラスボス的設定だった彼女ですが、果たしてこの先出番はあるのだろうか……)

つまり今回のは、余裕ができたからこその遊びですね。


この次の話も今日投稿したかったのですが、すみません。

ちなみに次の話は、今回意味深に登場したティアラとAIは出ません。ヒタキとまた合流したラグネだけど、カナミが魔法少女化した問題に云々……みたいな話ですね。

書け次第投稿したいと思います。

それではではー。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 鏡(カナミ)に映った鏡(ラグネ)の鏡映し(AI)!?まるで万華鏡だあ…。 [一言] ifの方はいつか書籍化しないんですかね…? 鵜飼先生の絵でゴスロリツインテ女神(とついでに同様の格好をし…
[一言] おめでとうラグネちゃん。カナミが経験した修羅場に、これから君も体験できるよ。 そして待ってました、ティアラもついにヤンデレ化。
[一言] さすがかなみさんそっくりなラグネちゃん、修羅場に引きずりこまれそう… AIカナミママがんばえー(目そらし) 陽滝ちゃん酒浸り生活なのかな、やばい…
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