IF『守護者ルート』その10(学園編その1)(最終章までのネタバレあり)
※これまでのあらすじ
「アイドがカナミをTS+洗脳して姉にしようとしていたのを、ラグネが横から奪ってママにして『元の世界』に逃亡したものの、その先に待っていたのは酔っぱらった陽滝だった。なぜか《冬の異世界》じゃなくて『学園世界』が展開されて、みんなが取り込まれてしまったから脱出を試みるラグネ。このふざけた世界を打ち破る鍵は、『理を盗むもの』たちが本当の自分に気づくことらしい(ティアラ談)」
・登場キャラクターは「ローウェン、ラグネ、リーパー、セラ」
・お題は「バレンタインデー」
※以前に一度投稿したものの再掲載なので、ご注意を。最新投稿は明日になります。
私はローウェン・アレイス。
どこにでもいる高等部三年の男子学生だ。
いま現在、『異文化総合学園』近くの一軒家に住んでいるのだが……、絶賛一人暮らしという新しい環境に大困惑中だ。
大変なことに、つい最近、両親たちは一人息子の私を置いて、長期の海外旅行に行ってしまったのだ。しかし、「なんて薄情な家族だ!」と思ったのも束の間、なんだかんだでこの生活も馴染み始めて、私は少しずつ一人暮らしを楽しめるようになってきた。
例えば、それは朝の時間。
いつもならば、朝の稽古・水浴び・朝食・座禅と、我が家ならではの行事がたくさんあり、それなりに早く起きなくてはいけないのだが……。独り暮らしならば、その行事を自由に選択できる。
だから、私は気ままに一人、ぬくぬくと。
今日は登校時間のぎりぎりまで、たっぷりと惰眠を貪ろう。
と、そう望んでいたのだが――
「――ローウェェエエエン! 起きてー! 朝だよー! 起きてぇええーーー!!」
「ぐっ!」
ドスンッと。
腹の部分に重いものが落ちてきて、私は微睡から醒めさせられる。
肺の中の空気が全て出て行き、けたたましい声が耳に叩きつけられていく。
「あーさーだーよー! あー、さっ!!」
そのどこか半笑いの目覚ましの犯人は、見当がついている。
私は嫌々ながらも、薄く目を開けて、自分の腹部に跨っている『幼馴染』の少女に苦情を言う。
「リーパー。いい加減に、この起こし方はやめて欲しい……」
私の視線の先には、自室の見知った天井を背景に『異文化総合学園』の制服姿を着て、その上にエプロンまで着ている黒髪褐色の少女リーパーが、とても楽しそうに白い歯を見せていた。
「ひひっ。やめないよー! パパさんとママさんに、ローウェンを頼むよってアタシは頼まれたんだから。アタシのやりかたで、やるー!」
そう答えて、リーパーは両親から預かった合鍵を私に見せつけては、どんすんどすんと跳ねては私の腹を攻撃するという目覚ましを行なっていく。
出尽くしたはずの私の肺から、絞りつくすような空気が漏れていき、私は「起きるから退いてくれ……!」と降参するしかなくなる。
「うん、アタシの勝ち!」
何の勝負をしているのかわからないが、とても嬉しそうにリーパーは勝利を宣言した。
その様子を見て、私は大きな溜息をつき、肩を竦めるしかなかった。
「はあ。やれやれだ……」
新しい生活だが、リーパーのおかげで普段と変わらないリズムを保ててしまっている。
おそらく、彼女がいるから、私の両親は遠慮なく海外旅行に行けたのだろう。
この『幼馴染』であり、『親友』。
幼少の頃からお隣同士で、家族ぐるみの付き合いをしていて、まるで家族のように親しいリーパーがいるから――
「とりあえず、着替える。ほらっ、リーパー。出ていけ出ていけ」
着替えられないと思い、しっしっと自室から追い出す。
「うんっ、わかった。でも、ご飯出来てるから、急いでよー」
そう言って、たたたっとリーパーは駆けて出て行き、この家の一階に降りていく。
先ほどからいい匂いがすると思ったら、どうやら勝手に私の家の台所を使って、料理まで作ったらしい。
私の幼馴染は遠慮というものを知らないから、冷蔵庫の材料が全てなくなっていないかが心配だ。
一人暮らし用に買い貯めておいた肉とか、あのリーパーなら使い切る。
「本当に、やれやれだ……」
そう呟き、私は急いで『異文化総合学園』の制服に着替えて、洗面所で歯と顔を洗い、今日一日の準備を済ましていく。
迅速に行なわなければ、私の家で私のために用意されたはずの朝食が、リーパー一人によって平らげられてしまうだろう。
どこかタイムアタックするつもりで私は一階に向かい、リビングで待っていたリーパーと合流する。
そして、起きたばかりには豪華すぎる朝食を(しかし、朝稽古を考えれば、丁度いい朝食を)二人で「「いただきます」」と手を会わせて食べて、親友とぐだぐだで意味のない談笑をしてから、学園に向かうために家を出て行く。
「行ってきます」
「行ってきまーーーす!」
出発の挨拶も幼馴染と重ね合わせて、私たちは歩き出した。
さあ、今日も『学園生活』だ。
楽しく、穏やかで、とても優しい時間が始まっていく。
◆◆◆◆◆
『学園生活』が始まるのだが、今日は少し様子が妙だった。
朝、学院に着くと同時に、校門で生徒会の一人である女生徒と出会う。
どこか狼のような鋭く美しい雰囲気を纏う女性、セラ・レイディアント。
男女共に学生の間では人気で、風紀委員の一人であり、生徒会の末席にも入っている才女だ。
そのセラと出会い、私はリーパーと別れていく。
「あ、セラお姉ちゃんー! はい、どうぞ!」
「…………っ!! リーパー、感謝する」
リーパーは懐から何かを取り出して、プレゼントしていた。
そして、学園の初等部に向かって、セラと共に手を繋いで歩いていく。
「じゃあねー、ローウェンー」
「あ、ああ……」
私は首を傾げながら、自分の学年である高等部三年の教室へと一人で向かった。
さらに慣れ親しんでいるはずの自分の教室でも、違和感を覚える。
「…………?」
何かおかしい。
生徒たち全員がそわそわしていて、緊張感が僅かに張り付いている。
誰もが剣道の試合前のような面持ちのようで、いつものような表情を顔に浮かべている。
だが、その理由が私にはわからない。
また首を傾げつつ、私は授業を受けた。
そして、休み時間や昼休みの間も、ずっと違和感を覚え続けた。
その理由が判明したのは大変遅く、放課後。
部活動で体育館に向かう前。
親しい剣道部の後輩と合流して、教室で軽く談笑していたときだった。
「――せーん、ぱいっ! ちょっとお話しましょーっす!」
その後輩の名は、ラグネ・カイクヲラ。
つい最近に『学園』へ転入してきた中等部二年生の女の子で、とても私を慕ってくれている。
もちろん、それは異性という意味でなくて、剣道部の部長である私へのリスペクトからの敬慕だ。
聞けば、彼女も幼少の頃から剣を嗜んでおり、かなりの腕前だからこそ、それを上回る私に一目置いてくれているようだ。
なので、ラグネは「先輩、かっこいいっす!」「憧れるっす!」「せんぱいー」と、私と会う度に口にして、脅かすように背中をトスッと押して挨拶をしてくれる。――なぜか毎回、必ず背後から。
脅かすのが大好きというお茶目で可愛い後輩だ。
剣道という共通の趣味があるというのも大きいが、本当に気が合う。
これは贔屓目なく本気で思っているのだが、全国一位の剣道部の部長として、ラグネ・カイクヲラの『剣術』は一目置いている。
とにかく、筋がいい。
模倣が上手いのかもしれないが、私の剣筋と似ていて、年上の男性部員に勝つこともある。
次の部長候補に考えているほどの理想の後輩なのだが、一つだけ玉に瑕な部分がある。
それは話していると急に――
「――私、ラグネ・カイクヲラ! どこにでもいる中等部二年生! 今日からパパの勤めている『異文化総合学園』に転入するんだ! 新しい環境に、どっきどきのわっくわく! ああ、ちょっと不安! ちゃんと新しいお友達ができるかな――」
と、なぜか虚空に向かって、自己紹介し始めることだ。
それについて私が聞くと、いつも「いえ、ちょっとした儀式みたいなものっす」と返って来て、さらに「なんか怒ってない?」と問いかけると、「いえいえ、『なーにがやれやれだ、ぶっ殺すぞ』とか『は? 親が旅行中で一人暮らし?』とか、別にキレてはないっすよ。全然、キレてないっす」という――よくわからない会話になるときがある。
気は合うはずなのに、たまに彼女とは会話のキャッチボールが上手くいかない。
これが女子と男子の差。もしくは、ジェネレーションギャップというやつだろうか。
と、考えつつ、今日もよくわからないラグネの自己紹介を聞いて、彼女と談笑をしていく。そして、その途中で、私は知ってしまう。
「――今日は、バレンタインっすよ! バレンタインデー!!」
「え?」
は、初耳……のような気がする。
けれど、すぐにそれは違うとわかる。
その日についての詳細が(バレンタインデー。それは、とある聖人に由来する記念日だが、愛の誓いの日と扱われがち。学生たちにとっては、チョコレートをプレゼントをする日という認識となっている)、きちんと頭の中に入ってきていたからだ。
「あれ? もしかして、気づいてなかったっすか? ローウェン先輩って、そういうところあるっすよねー。ちょっと鈍感で天然なところ! でも、そこがローウェン先輩らしくて、私はいいと思うっすよ!」
「いや、知ってたよ。……知っていたとも」
そう、私は知っていた。
知っていたが――
「へ、へー……。バレンタインデーかー、へーーー……」
今日の違和感の意味が、いま完全に分かった。
わかったからこそ、私も異様なまでに落ち着かなくなり、身体がそわそわとし始める。
「その反応、やっぱり気づいてなかったっすねー! そわそわし過ぎっす!」
「くっ……」
見抜かれ、私は呻くしかなかった。
異様なまでに、私は動揺していた。
不特定多数の人たちが何かを誰かにプレゼントをする日ってのは、なぜか……脳裏に、最悪の情景ばかりがよぎる。
が、そんなはずはないと、私は首を振った。
のだが、いつの間にか、私の隣に立っていたラグネが、耳元でねっとりとした声を出す。
「あれぇ? もしかして、それらしいものを今日は一つも貰っていないとか? どこかに小包とかー、入ってなかったっすかー?」
「いや……」
「朝、リーパーちゃんからも? 本当に誰からも、何もなかったんすか?」
「それは……」
「あはは。へー! 案外、モテないんっすねぇええぇえ! ローウェン先輩ぃいいい!!」
「ぐうっっ――!!」
とても晴れやかで楽しそうで(どこか、憂さ晴らししているような)笑顔で、ラグネは言ってはいけないことを言ってしまう。
私はどこにでもいる男性高校生だ……。
そう。
男子高校生だからこそ、モテたいという心は当然ある。
そりゃあ、少しはある……! だから、それはきつい! なにせ――
「あー、そうっすかー。ちょっと私は思い違いしていたかもっすねー。こうして、バランタインデーあることを先輩は知らなくてー、いまも先輩の隣に私だけしかいないのってのはー、別に「『剣聖』と呼ばれる雲の上の存在の全国一位さんに近づくのは恐れ多いー」ってみんなから思われているからじゃなかったんすねー。もしかして、先輩って、普通に絡みづらくて距離を取られているのではー? っすー」
つんつんと横腹を突かれながら、私は言葉で追い詰められていく。
ああ、そうだ。
なにせ、最近、私って実は凄いんじゃないのかって思い出したところだったのだ。
剣道部の部長になって、大会でいい成績を収めて、結構回りからも慕われ始めて、友達がたくさんできて……、これは私の時代が来てる! って思ったり思っていなかったりしていて……。
「もしかして、余りクラスで話す人いないっす?」
「――そ、そんなこと、ないよ! 全然、そんなこたぁ!!」
だから、私は急にバレンタインデーという周囲の好感度を査定される日が来て、その動揺が頂点に達し、なんかよくわからない口調になっていた。
ただ、会話中に声が上ずるのは、なんだかちょっと懐かしい気もした。
さっきから頭の中で「ぼっち」という単語が、急浮上し始めている気もした。
そして、少しずつ本当の自分というものがわかってきたような気がして――
そこで私の横腹をつんつんとしていたラグネが、優しい声で止めを刺そうとしてくる。
「でも、それがローウェン先輩らしいっすよ。気にすることないっす。人間、自然体が一番っすからね」
「え? そ、それが私らしい……?」
それは、ぼっちこそが、ローウェン・アレイスということだろうか……。
しかし、私は剣道部の部長で、超人気者……。
この世界だと、そういう設定だから……。
わ、私は――
「でも、そう落ち込むことないっすよー、せーんぱいっ。いま隣には、私がいるっす。この私が」
そのラグネの声は、心の隙間を埋めるように、するすると耳を通っていく。
とても不安になったが、彼女がいてくれるおかげで、倒れないで済んでいる気がした。
その言葉の優しさが、後ろから背中を支えてくれる暖かさが、心地良すぎて、私は聞くしかない。
彼女を頼りにしてしまうしかない。
「ラ、ラグネが……? えっと、なら、その、いま義理チョコとか持っているかい……?」
「私は義理とかそういうのって、良くないって思ってるっす。なので、そういうのは渡さないスタイルっす!」
「じゃ、じゃあ、友チョコっていうのは……?」
「持ってきてないっすね! まだ転入したてだし!」
どうしても、最低一つは誰かから欲しいんだけど……、とは言えない。
そうお願いして、普通に「え、嫌っす」と答えられたら、もう私は立ち直れない。
いや、いまも、かなり立ち直れないところまで来てる。
かなり来てる。
あと少しで私の心は折れる。
この世界の何も信じれなくなる。
剣だけが友達になる。
明日からは、もう孤高の剣士として、この学園生活を送るしかなくなる。
…………。
いや、もうそれでいこうか……。
私に部長など、土台無理な話だったのだ。
できるとすれば、孤独な剣道部員……。
体育館の隅で、静かに独り剣を振り続ける男子生徒……。
そう……。私は所詮、寡黙でクールな剣道部孤高の剣士でしかなく……って、これも中々かっこいいかもしれない……。
まさしく、知られざる実力者って感じがする。
もうこれでいい気がしてきた。いや、むしろこれこそがいい気がしてきた。私は剣道部の隅で、ひっそりと剣を振り続ける男子生徒。その余りの存在感のなさから、部員の誰もが気にすることはなかった。そう、あの大会当日までは。しかし、大会でみんなは知るのだ。その孤高の剣の鮮やかな軌跡を。しかし、決して私は全国一位となっても、その剣を誇らず驕らず、ただ黙々と己と戦い続けて、鍛錬し続ける。何も変わらず、また体育館の隅で剣を振り続ける孤高にて最強の剣士。……いい。かっこいい。案外、こういうのも悪くはない「よし。あと少しで、本来のローウェンさんの記憶が――」ああ、そうだ。これが、本来の私の――
「ローウェエエーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
と拗らせる直前。
ガラララッと教室の扉が開かれて、リーパーが叫びながら現れた。
妄想に落ちて、にやにやとしていた私は、ハッと我に返る。
すぐにリーパーは駆け寄ってきて、どんっと私の机の上に何かを置いた。
「はい、お待たせ!」
「え?」
「え? じゃないよ! チョコだよー!」
それは私が求めに求めていたものだった。
綺麗な包装はされていない。
しかし、そこにはとても可愛らしいチョコレートケーキ(チョコ製のリーパー人形まで乗っている)が、紙皿に乗せられて、一切れだけあった。
見たところ、チョコクリームは生。
いましがた作られたであろう出来立ての一品だった。
「これは、どうして――」
まず疑問が浮かんだが、それには続いて入ってきた生徒が答える。
朝、リーパーと一緒にいたセラ・レイディアントだ。
ふんすふんすと鼻を鳴らすリーパーの代わりに、彼女が説明していく。
「作りたてだ、ローウェン・アレイス。今日の休み時間やお昼休みを使って、ちょっとずつ作って、いま完成だな。リーパーが学校の中で出来立てを渡したいと言って、聞かなくてな」
どうやら、朝貰えなかったのは、渡すタイミングを考えていただけだったようだ。
リーパーに嫌われていないとわかり、私は一息ついて「そうだったか……」とすごく安心する。
「うん、作り方教えてくれてありがとーね。セラお姉ちゃん!」
「ふ、ふふっ。ああ、次もお姉ちゃんに任せなさい。ふふふ――」
私の目の前で、セラはリーパーの抱擁を受け止める。
ただ、その彼女の鼻息はリーパー以上に荒い気がして、すぐに安心は心配に変わっていく。
セラ・レイディアント、目つきが怪しい女だ。
身長差を考えろ。犯罪者っぽいぞ。
と、私が睨んでいると、彼女は聞く。
「しかし、なんだ、ローウェン・アレイス。チョコがゼロだったのか?」
「くっ……」
痛いところを突かれて、また私は呻くのだが――
「まあ、そうだろうな。おまえと親しい女子は、みんなリーパーの友達だ。リーパーが渡すまで、遠慮していたのだろう」
「なにっ……?」
「いいから、いますぐそれを食べろ。出来立ての飛び切り美味しいのを、リーパーはおまえに用意したんだ」
「あ、ああ。そうさせて貰おう。まずは、これを――」
ライバルからフォークを投げ渡され、すぐに私はチョコケーキを口に含む。
「どーぉ? ローウェン」
その様子を心配げに見るリーパー。
正直、チョコを貰えたことのほうが嬉しすぎて、味が余りわからない。
でも、間違いないことは一つだけある。
それだけは正しいと確信できる一言。
「美味しい。本当に美味しい。ありがとう、リーパー」
感謝と共に、その一言を返した。
そして、そのありがとうはチョコに対してだけではない。
孤独剣士ルート一直線の妄想から、私を引き上げてくれたことも含んでいる。
「ひひひー! あー、よかったー! 美味しいってさ! ローウェンが、アタシのチョコが美味しいってー!」
「本当にありがとう……。本当に……」
「――っ? わ、わわっ」
感極まった私は、席を立って、リーパーに近づいた。
そして、最大の友愛の証として、彼女の小さな身体を抱え込み、抱き締めた。
それをリーパーは、とても嬉しそうに笑って、さらに強く抱き締め返してくれて――
「こ、こらっ! こらあっ、ローウェン・アレイス!!」
かなり激怒した様子のセラが叫んだ。
「…………? セラ君、どうした?」
「身長差を考えろ! なぜか周囲の者は注意しないが、二人が抱きつくと、ほんと絵面が犯罪的だぞ!?」
心外だ。
風紀委員でもある彼女は、いまの私たちがよろしくないと言っているようだが、それに私たちはペアで反論する。
「しかし、私たちは幼馴染で親友だ。なあ、リーパー」
「うん!」
だから、大丈夫。
それを聞いたセラは、呆れながら大きな溜息をつく。
「はああ……。そんなだから、チョコを貰えないんだ。周囲から重度のロリコンだと思われているからな、ローウェン・アレイス」
「え?」
さらに心外な情報が入ってきて、私は驚く。
その意味を詳しく聞こうとして、教室の外から聞き覚えのある声が聴こえてくる。
「――ローウェンよーい。童も作ったぞ、チョコー。おぬしも食らえーい」
「ね、姉様、それを食べさせるのですか? 他の者にも……?」
気持ち悪そうな声を出す弟アイドと共に、こちらに近づいてきているのがわかる。
それを私だけでなく、セラも聞いたようで、微笑と共に移動を勧める。
「とりあえず、部活に行け。行けば、きっと色々と貰えるぞ。部員たちは、抜け駆けなしで、そこで一緒に渡すと協定をしているだろうからな」
「なっ……! そ、そうだったのか……」
さらに安心する。
そして、やはりここは楽しく、穏やかで、優しい『学園世界』だと認識し直す。
もう不安になることはない。
孤独の不安の中、誰かに依存することも、決して――
「あれ? ラグネ……? どこに行ったんだ?」
いつの間にか、後輩がいなかった。
教室を見渡せども、どこにもいない。
途中で居辛くなって、先に部活へ向かったのかもしれない。
「部活に行こう、ローウェン!」
「あ、ああ。急ごう、ティティーに見つかると面倒だ」
そう思い、私たちは揃って、体育館へと向かっていく。
私と同学年で、学園の魔王と呼ばれるティティーとエンカウントしないように、急いで――
◆◆◆◆◆
その様子を、私は教室の隅っこから見送っていた。
こちらの世界では反則的な魔法や『隠密』を駆使して、彼らの目を欺いたのだ。
「ま、まさか……、あのくらいでローウェンさんが涙目になるとは……。あとちょいで泣いてたっすね、あれ」
そう感想を零しながら、ゆっくりと私は教室から出て行く。
色々あったが、とりあえずは成功だ。
概ね作戦は予定通りだったとといえるだろう。
その作戦名は「バレンタインでチョコゼロにして、ローウェンさんに軽くジャブを打ってみよう作戦」。
私は一週間前からローウェン・アレイスが最も崩しやすい『理を盗むもの』と目をつけて、彼の生活を二十四時間尾行・監視した。
結果、この優しい世界ならば、彼が大量のチョコを貰える胡散臭いモテモテ野郎であるとわかり――だからこそ、ありとあらゆる彼のチョコを先回りして排除することで、揺さぶってやろうと考えた。
リーパーの友人たちに彼女より先に渡さないように釘を刺して――、机や下駄箱にあったものは別の場所に保管――、手渡しは私が近くでうろちょろすることでガード――、私だけ魔法が使用可能だったので、やってやれなくはない計画だった。
そして、その計画は見事成功した。
とはいえ、彼を剣道部から退部させて、文芸部まで引き込むまでは今回無理だったが……。
「まっ、ちょっとずつやるっすよ」
そう呟きつつ、私も自らの本来の部活動へと足を向ける。
拠点である文芸部に戻り、報告しつつ、大好きなお嬢とイチャイチャしよう。
「セラ先輩、リーパーちゃん……。よかったっすね……」
私は歩きつつ、楽しそうにイチャイチャとしていた二人を祝福した。
ローウェンさんと違って胡散臭いポイントは低いので、心の底から手離しで言える。
「さーて、次は何をしかけようかな」
そう呟き、私は歩く。
この『学園世界』を――
以前に一度投下したものですが、再度投稿。
まずは↓
※宣伝
一月二十五日に「異世界迷宮の最深部を目指そうのコミカライズ一巻」「異世界迷宮の最深部を目指そう13」が発売します! 同時発売です!
どちらも表紙は揃ってラスティアラ! メインヒロインさんですね。
素敵な表紙などなどご覧ください!と毎度のことですがお勧めしておきます。
※さらに、ずっと並行して宣伝していたラノベ人気投票『好きラノ』さんですが、18位を頂きました。応援してくれた方に投票してくれた方、皆様本当にありがとうございました!
とうとう明日発売ですね。
とはいえ、早めに手に入るところは入ります。よろしくお願いします。
発売日の明日の20時にも、続きの外伝を一つ投下します。
13巻と1巻発売の明るい空気に合わせて、Webのほうも少し明るくしたいので。
・次のお題は「美術部と裏活動」
・登場キャラクターは「ラグネ、セルドラ、ファフナー、アイド、ゲスト」
それではー。




