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IF『守護者ルート』その7(中の中)(7-3章までのネタバレあり)

※7-3章までのネタバレがありますのでご注意ください。


 そして、『迷宮改造計画』が二段階目に入ってから、一ヵ月後。

 守護者ガーディアンたちの集まる二十層の液体ハウスに、一人のお客様が訪れる。


「パリンクロン・レガシィから報告書をお届けだ。……っと、誰もいないな」


 黄金の長髪を垂らした美男子、エルミラード・シッダルクだった。

 彼は敵陣でありながらも、獅子のように気高く振る舞い、家主を探す。


 すると、ハウスの奥から騒がしい物音が鳴ったあと、次元魔法が発動する。

 その濃厚な魔力のうねりに、エルミラードは身構えた。


 しかし、その警戒は虚しく、魔法《ディフォルト》で移動したカナミに背中を取られてしまう。

 そして、カナミはお仕事用の漆黒の仮面をつけて、彼を歓待する。


「よ、よく来たね。エル……」

「――っ! ……ああ、『次元の理を盗むもの』君か。いつも君は、急に現れて僕を驚かす。いい趣味とは言えないな」

「いや、こっちはエルを驚かすつもりはないんだよ……。ただ、こっちが驚かされて、急に用意してるだけで……」


 カナミは自分の名前すらエルミラードには明かしていない。

 一度、探索者を試す形でボスモンスター『次元の理を盗むもの』として相手をしてから、ずっとこの関係だ(エルミラードは『第零の試練』を単独クリアしている)。


「それよりも、エル。こんなところまで君がやってくるなんて……ギルドの運営は大丈夫なのかい? 君にはとても忙しいイメージがあったのだけど」

「ああ、忙しいさ。でも、君たちとのパイプ役は、一定以上の実力がないと許可されないんでね。忙しいと言っても、こうやって選ばれる」

「それは……その、ごめんね。無理させてるみたいで……」

「いや、謝罪は必要ないよ。その分の報酬を約束して貰っている。あのパリンクロン・レガシィにね」

「え、パリンクロンのやつに……? 何を?」

「ふっ……。僕は宿敵である『次元の理を盗むもの』君を信頼している。だからこそ、君には教えよう。実は、パリンクロンには僕の『想い人』の捜索を頼んでいるんだ」

「…………」


 エルミラードの『想い人』という単語に、カナミは固まる。

 これが未だにカナミが名前を明かせない理由だった(ちなみに、なぜエルミラードが一度だけ単独で迷宮の奥まで来たかというと、パリンクロンに『たぶん、カナミは迷宮にいる』と唆されたからである。確かに嘘は言ってない)。


「……ん? 冗談じゃないよ。少し前、エルトラリューの学院のほうに転入生が現れてね。とても強い女性だったんだ。そして、少し話をしただけで、すごく気が合ったんだ。僕は運命を感じたよ」

「う、運命っすか」


 思わず、カナミは素になり、どこかの騎士と同じ中身が漏れ出していた。


「なにより、彼女は可憐だった。真の淑女とは彼女のことを言うのだろう。僕の理想が、そこにいたよ」

「り、理想っすか……」

「もしかしたら、君も聞いたことがあるかもしれない。なにせ、彼女は探索者として連合国に訪れていたと聞くし、僕に匹敵するほどの魔法使いだ」

「いやー、聞いたことないっすねー……」

「名前はカナミ。僕の想い人は『アイカワ・カナミ』というらしい。どうだい? 素敵な名前だと思わないかい?」

「いや、まあ、うん。いい名前のような気がしないでもないっすねー……」

「艶やかな長い黒髪が特徴的で……そういえば、背丈は君と同じくらいだったかな? よく見れば、髪質も中々――」

「ア、アイドォオオオオオオ――!!」


 堪らず、カナミは助けを呼んだ。

 その叫びを忠臣は聞き届け、液体ハウスの奥から急いで駆けつける。


「イエス、マイロード!!」

「エルミラードさんが、迷宮訪問者数の調査書を届けてくれたって! すぐ一緒に見よっかぁ!!」

「まだお話の途中でしたが……?」

「はやく!!」

「しかし……。正直、自分はシッダルク様の気持ちがよくわか――」

「いいから!! は、や、く!!」


 失言が出る前にカナミは、強引に報告書を近くのテーブルに広げた。


 その様子を見たエルミラードは呆然としつつも、すぐにくつくつと笑う。「相変わらずだな、ここは……。相手が僕だろうと、容赦がない」と、地上では味わえない感覚に酔いしれている。


 先ほどのエルミラードの言葉に嘘はない。彼はカナミを宿敵として信頼し、その関係性を心から大事にしている。密かに『やっと巡り会えた対等な友人』であると思っているほどに。


 そして、その友人が想い人でもあるとわかるのは、もう少し先の話だ。


「――よっし、アイド! 伸びてきてるぞ!」

「やりました! リニューアルが功を奏しましたね! カナミ様が寝ずに道路を敷き詰めてくれたおかげです!」 

「やっぱり、メインルートを全て大理石造りの神殿風味にして、ストレス緩和と迷子防止をしたのがよかったみたいだ! 様子見に来た人が、そのまま奥まで来てくれてる!」

「ええ! 前々から思ってましたが、一層の時点でじめじめして暗すぎましたね! ああいうのは五十層あたりからで十分でしょう!」

「そうだね! 大切な出だしで、いきなり湿った洞窟と虫のモンスターとか、この迷宮を考えたやつは探索者を楽しませる気が全くないよ! カスだ!!」

「はい、カスでした! しかし、これで、もう――!」

「ああ! 一層で諦める人が減るはずだ!!」


 エルミラードの持ってきた探索者の動向調査書を見て、カナミとアイドは本心から喜ぶ。

 最初に作ったお店のほうも順調で、口伝えで有用性が広まっていた。


 迷宮が変化したという噂は連合国だけでなく本土や地方まで届き、連合国全体の人口も増加してるとまで報告書には書かれてある。


 たった一ヶ月で、目に見える数字が変化しているのだ。

 大成功と言っていいだろう。

 ただ、その隣でエルミラードは難しい顔で、軽く下顎に手を当てていた。


「エル、どうかした?」


 その表情が気になったカナミは、彼に問いかける。


「いや、まだ浮かれるのは早いと僕は思うよ。監査役として一つだけ忠告するが、これはバランスが悪い気がする」

「バランス? それはどういうこと?」

「ここの数字を見て欲しい」


 紙には千種以上の多様な情報が数値化されている。

 パリンクロンが現代人のカナミの感覚に合わせて、事細かに集めてきたのだ。仕事の早さだけならば、守護者ガーディアンたち全員をも上回る見事な情報収集能力だ。


 そして、その中の情報の一つ。

 エルミラードが指差していたのは男女比だった。

 前年と比べると、女性の割合が落ちている。


「経験上の忠告になるが、バランスの悪いものは長続きしない。これはシッダルク家の教訓でもある」


 詳細は教えてくれなかったが、この状態は危機の予兆を含んでいるとはっきり教えてくれた。全て言われずとも、カナミは『これは一時的な増加の傾向である』と察した。


 なにより、いまの状態だとフェアではないともカナミは思った。

 これでは女性の探索初心者が救われない。

 真の『死亡者の減少』のため、カナミは冷静さを取り戻して、次の計画に動き出す。


「なら、エル。次はどうしたらいいと思う?」

「正直、君たちは長期的で抜本的な改善ばかりで、小手先が足りていないと思う。いや、それが君たちのいいところなんだが……。もっと俗的な餌を用意したほうがいい。一度、迷宮の店舗は見せてもらったが……全てが全て、良心的な価格過ぎるよ。例えば、そうだな。せっかく迷宮でお店を始めたのならば、そこでしか手に入らないブランド品を用意したほうがいい。今回の問題に合わせて、美用品や装飾品を中心にするのがいいね」


 堂々とエルミラードは女性受けするものをブランド価格で並べろといった。


「え、ええ……。ブランドの装飾品……? それこそ長続きしないんじゃ……」

「それはブランドに力が追いついていないときの話だ。明らかに君たちの千年前の技術は世界で唯一無二。君たちだけが用意できるものを置けばいい。それだけで話は済む。少なくとも、僕らエルミラード家の女性たちは、ただ自慢する為だけに全種類揃えるだろうね。それはつまり、エルトラリュー学院に在籍する『腕に覚えのある貴族家の息女』たちも、こぞって迷宮に出向くようになるということだ」


 この世界では魔力があるおかげで、女性でも荒事に単独で出向ける傾向がある。

 エルミラードが言っていることは間違いないではないが、まだカナミは納得し切れていない。


「僕たちだけしか用意できないものは、あることにはあるけど……。たぶん、アイドの作った美容液なんて、世界トップクラスになると思うし……。でも、それは流石に、露骨過ぎないかな? 女性を釣るための餌だって丸わかりじゃない?」

「餌で結構。そのくらいが丁度いいと僕は思うよ。美とは曖昧な夢のようなものだ。覚めるとわかっていても、見ずにはいられない。そして、どんな女性でも口では否定していても、心の底では美しい夢に騙されたがっている」

「…………。……なるほど」


 カナミはエルミラードが何を言っているのか理解できなかったが、確かな説得力だけは感じた。単純に言うと、彼のイケメン特有の空気パワーに流されて頷いた。


 もちろん、カナミは空気だけでなく、理論的な計算もしている。

 今現在、エルミラード・シッダルクが各所の女性からモテているのは間違いない。おそらく彼は、この連合国で一二を争うレベルで女性の機微を理解している男だ。


「エル、ありがとう。君の助言に従うよ」


 さらに友人からの言葉という補正もかかり、カナミは忠告を受け入れた。

 少し『死亡者の減少』から道がそれている気はした。だが、男女比を均等にして、女性が挑戦しやすい環境を整えるのは決して悪いことではないはずだ。


 それをカナミは参謀のアイドにもアイコンタクトで確認を取る。


「はい、カナミ様。悪くはないと思います。どの時代の女性も自らの美しさを気にしています。一定の成果は出るでしょう。ブランド構築による問題は、まあ、これもパリンクロン様に任せればなんとかなるでしょう」

「パリンクロンがいるしな……。なんとかなるか」


 『理を盗むもの』たちは超常の存在でありながら、いつの間にかただの人間であるパリンクロンに頼り切りであった。


 しかし、これで話がまとまったのは間違いない。

 それを見届けたエルミラードは、別れの挨拶を投げる。


「ふっ。それじゃあ、そろそろ僕は失礼するよ。僕には仕事が……なにより、かの『黒髪の君』を探す使命があるからね」

「く、『黒髪の君』っすか……」

「もちろん、君のことじゃない。カナミ君のことさ。それじゃあね」

「わ、わかってるっすよ。それじゃあ……」


 エルミラードは器用に魔法を構築し、風に乗って風のように去っていった。

 かなりの速度だ。忙しいというのは本当なのだろう。

 そして、それでも転入女学生カナミを諦めていないのも本当なのだろう。


 その事実が余りに憂鬱で仕方がないカナミだった。


「カナミ様……」

「よ、よーし! それよりも『迷宮改造計画』だ! 僕には迷宮がある! そう、迷宮がね!」

「ああ、カナミ様……」


 現実逃避するカナミを、アイドは哀れんでいた。とはいえ、彼もエルミラードと一緒で、転入女学生『黒髪の君カナミ』を追い求めている一人なのだが……。


「なんだか、エルのおかげで吹っ切れた気がする! 新たな視点で、もう一度『迷宮改造計画』を見直すぞ! アイド!」

「……ええっ、カナミ様!」


 後にわかることだが、このエルミラードの訪問が『迷宮改造計画』の大きな転機だった。

 メンタルの弱いカナミが開き直り、アイドが過去の学院の騒ぎを思い出してしまった。


 少しずつ。

 本当に少しずつだが、二人の『迷宮改造計画』は予定とは違う方向にずれていく。


「アイド、僕たちは少し主観に寄り過ぎていたみたいだ。もっと柔軟に客観的に、欲を言えば女性目線で考えよう」

「正直なところ、得意ではありませんね。ですが、完璧な迷宮の為に努力します」


 カナミは考える。


 彼は迷宮側だけでなく、攻略側の視点も持てる人間だった(正確にはゲームプレイヤーの視点だが)。

 そして、一ボスとしてでなく、一探索者として迷宮に入ったときに必要なものは何かを考える。


 男性プレイヤーでなく、女性プレイヤーの視点で考えろ。

 女性プレイヤーの多いゲームにあったものといえば……アバターシステムや、お供のペットシステムあたりだろうか。ペット……? いや、ここは――


「マスコットだ! マスコットキャラクターが、この迷宮にはいない!」

「マ、マスコットですか……? カナミ様……」


 翻訳魔法が該当する単語を見つけてくれるかカナミは不安だったが、アイドに意味は通った。


「男女分け隔てなく人気のある全年齢ゲーム特有のマスコット! そう、まるっこいモンスターを一層に!! まるっこいのがいる!!」


 カナミの思考は滑空するかのように加速し、墜落していく。


 マスコットといえば、どんなものか。

 元の世界でやってきた数あるゲームの代表キャラクターを思い浮かべば、そのどれもが丸っこい。

 可愛い動物形か、可愛いスライム系か、いまの僕の立場ならば選びたい放題だ。

 早急に決めたほうがいい。

 マスコットがいれば、男女比率の問題だけでなく、他の戦略との共同展開がしやすい。

 広告や新商品の幅が広がることだろう。


「ただ、安易にデザインを決めるのはまずいな……。僕はこの世界の流行りを知らない。ウケる造形も、きっと違う……」


 ここに特許で咎める人はいないので、布教の意味もこめて、知る限りの人気マスコットたちをオールスター状態にさせようかと思ったが、すぐに思い直す。


 いつもの罠だ。世界間での文化の差、ワールドギャップだ。

 それに注意し、僕は異世界に相応しいマスコットを考える――その途中。


「いい案だ! カナミ!」


 液体ハウスの扉を、バンッと開けてアルティが現れた。


「師匠!? 最近、お絵かきに嵌って、ずっとお絵かきばかりのアルティ師匠!」

「ああ、そのとおりだ! ゆえに、デザインは私に任せて貰おう! このデザインリベンジの機会の為に、私は今日まで寝ずに絵の練習をし続けてきた!」


 そして、その後ろにはやつれた顔のファフナーがついてきている。

 店主のデザインをしたときから、延々と一緒に付き合わされ続けているのである。


「それじゃあ、試しに一つ、師匠に描いて貰おうかな……。まずは一層にいる『リッパービードル』『エメラルドウルフ』『クォータースライム』あたりを、女性受けする丸っこいデザインに――」

「任せてくれていい! ふふふっ! 腕が鳴る!」


 すぐさまアルティは作業に取り掛かり、その間にカナミはファフナーと話をする。


「ファフナー、例の遺伝子操作能力。これを機に本格的に訓練しよう。君の能力の制御の為にもね」

「ああ、これはその目的もあるのか……。はっ、相変わらずカナミは優しいやつだ――」


 こうして、役割分担が綺麗にできていく。

 デザイン担当はアルティ、製作担当はファフナー、システム構築担当はカナミとアイド。


 途中、アルティのデザイン生産作業を面白がったティティー・リーパー・ノスフィーも合流し、『迷宮改造計画』は第三段階目を迎えていき――



◆◆◆◆◆



 そして、また一ヵ月後。


 迷宮はアミューズメントパーク染みた空間と化していた。

 モンスターたちは某有名RPGのように改変されて(結局アルティのデザインは使われず、絵の上手いファフナーのデザインがほとんど採用された)、以前とはまるで印象の異なる迷宮となった。


 その様子を見て、カナミは自分が迷走しているのではないかと疑い始めていた。


 清掃をした時点で、もう理想の『ダークでリアルなダンジョン』は無理だとわかっているし、もう『デフォルメ系ダンジョン』しか道はないともわかっている。だが、それでも余りに以前と空気感が違い過ぎる。


 ただ、そのカナミの心配とは裏腹に、現実は進む。

 この新迷宮は意外にも、連合国の探索者たちに――


「う、受けてる……!?」


 パリンクロンの友人である騎士ハイン・ヘルヴィルシャイン(パイプ役はカナミとパリンクロンの共通の知り合いが日替わりで来ている)から報告書を受け取ったカナミは、その数字の羅列に驚いていた。

 その説明をアイドは行っていく。


「探索者たちは不審がっていますが、だからといって敬遠してはいません。迷宮の仕組みを知っている自分たちと、彼らの認識は違うのでしょう。いつだって探索者にとって、迷宮は不可思議で未知数で危険な場所――このくらいの変化ならば受け入れられる土台があったようです」

「にしても、かなり違うよ……? 前はどろどろだった黒いスライムが、いまは丸っこく水色に固まって、ぴょんぴょんと可愛らしく跳ねてるんだよ……?」


 その質問には地上での生活が長いハインが答えていく。


「新スライム、大人気ですよ。ほら、ここを見てください。エルトラリュー学院主催の迷宮モンスター人気投票、一位です。……私も騎士の仕事で見に行くことがありましたが、本当に大流行りでした。聞いたところだと、学院会長のアレイス家のお孫さんが新スライムに一目ぼれして自作のグッズまで作ったのが、流行のきっかけのようです。お嬢様たちのパーティーも気に入ってましたね。あ、マリアさんだけは違ったかな?」


 カナミは困惑していた。

 こうもあっさりと予想以上の成果をあげられると、先ほどまでの心配がバカみたいに感じられるのだ。


 つまり、上手くいっているゆえに、カナミは自らの迷走に気付けない。


「あと、お店の店主の声を変えたのもいい感じです。まさか、守護者ガーディアン様たちの声を使うとは――このハイン、感嘆しました。お嬢様たちは、カナミ様の声がするお店によく行っていますよ。えっと、資料で一番人気のお店は三号店のノスフィー様の店ですね。私も一番好きですよ、ここが」


 なぜか、パリンクロンは細かく人気投票を収集していた。

 資料の数頁ごとに『街角の千人から聞きました!』というコーナーが必ずある。

 彼の趣味である。


「ああ、あれは声帯を――ここのみんなの喉の肉をコピーして、そのまま『血の店主』に移植したんだ。大作業だったけど、みんなでやればなんとかなったよ」

「え、移植ですか……? 魔法じゃなくて……物理的に?」

「うん、物理的に移した。魔法だと解除されるのが怖かったからね。あとで、外見の肉も移植するつもり」

「そ、そうですか……。いえ、流石です。これが千年前に失われた技術なのですね」


 ハインは若干引いていたが、これが守護者ガーディアンたちの価値観であると納得し、自らの仕事に集中していく。


 そして、報告書の細かいところを説明していく。

 特にモンスターのデザイン変更による成果を重点的に話す。そのせいか、隅のテーブルで様子を見ていたファフナーが照れ始める。


「に、人気なのか。俺の考えたデザインが、大人気……。そうか。なんか悪くない気分だな……!」


 今回使われたデザインの半分はカナミの元の世界のパクリで(悲しいことに彼のセンスは下の中あたり)、残り半分がファフナーのものだ(こちらは上の中あたり)。


 千年前、自分が作り出したものを褒められるという経験が彼にはなかった。その全てを仲間からも恐れられ、もう何も作り出すなと言われ続けてきたのだ。ゆえに、ここで認められたことで、彼の中に新たな生き甲斐が生まれ始める。同時に、才能の芽が一つ育ち始める。


 ただ、その隣のアルティは口を尖らせては、不満を漏らす(彼女は下の下)。


「しかし、なぜだい……。なぜ、私のデザインは一つも採用されない……! あれから画力も上がったのに……! ノスフィー……!」

「えー、あー、その……アルティは少しセンスが独特すぎますので……」


 泣きつかれ、常識的センスの持ち主のノスフィーは返答に困っていた。

 その代わりに、はっきりとファフナーが言う。


「絵が上手くなったせいで、よりグロいんだよ。せめて、ノスフィーからオーケーを貰わないと、絶対に表には出さねえからな。おまえのは」

「くっ……、我らが編集長は厳しいな……!」

「厳しくないっての。普通だっての」


 この一ヶ月で、ファフナーは迷宮デザイン部門の編集長に就任していた。

 その立場が、彼のデザインに対する情熱と責任感を水増ししていた。徹夜でテーブルに向かい、「くっ、駄目だ! このデザインじゃ駄目だ! もっとチビにも女にも受けて、なおかつ迷宮に相応しいものじゃないと!」とプロっぽい葛藤を見せるくらいには水増ししていた。

 対してアルティは自分の描いた全てを、自分で全て気に入っている。相方のノスフィーが「わ、わたくしは嫌いじゃありませんよ?」と気を遣うので、一向にセンスが見直される気配はない。


「――報告書は以上ですね。では、また来ますね。お嬢様のお世話が空いたときにでも」

「ありがとうございます、ハインさん。またよろしく頼みます」

「ええ、またです。少年」


 ハインもエルミラードと同じく、魔法で颯爽と去っていく。

 それを見たあと、アイドはカナミに声をかける。


「軌道に乗ってきましたね。だからこそ、ここからです。ここからが本番ですよ、カナミ様……!」

「う、うん」


 アイドはまだ迷宮のポテンシャルを出し切っていないと鼻息を荒くする。しかし、カナミの表情は少し浮かなかった。

 彼の直感が、このままでは何かまずいと訴えている。


 しかし、その直感は『感応』レベルには至ってないので、カナミを助けてはくれなかった。


 ずっといい報告しか聞いていないカナミは、自分の悪い癖が出ていると判断し、ネガティブを強引にポジティブに変換していく。


「――いや、これでいい! いいんだ! だって順調だ! よしっ、アイド! この方向性で、もっともっと迷宮を改造するぞ!!」

「はい、カナミ様!!」


 こうして、カナミが前向きに考えを改めたところで、また一ヵ月後経ち――



◆◆◆◆◆



「――カナミ様! 大人気です! 大人気!!」

「ああ、伸びてる! 僕たちの迷宮が大人気だ!」


 騎士ラグネ・カイクヲラの持ってきた報告書を見て、アイドとカナミは大興奮だった。


「いやー、ほんと変わったっすよねー。私たちの間でも、本当に話題沸騰中っすよ。次はどんな風に迷宮が変わるのか、毎月わくわくっす」

「そうでしょうそうでしょう! ふふふっ、次もご期待ください! ラグネ様!」

「ええ。期待してるっすよ、アイドさんには・・・・・・・。本当の本当に期待してるっすから」


 訪れた騎士ラグネが褒めに褒めちぎるせいで、アイドはノリにノッていた。

 ゆえに、意味深に呟いたラグネが去ったあとも、カナミに興奮のまま話しかける。


「では、次の『迷宮改造計画』を考えましょうか! もっともっと素晴らしいものにしましょう、カナミ様!」

「ああ、もちろんだ! アイド!」


 そして、『迷宮改造計画』は更に加速していく。

 取り返しがつかなくなる最終段階まで――


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