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IF『守護者ルート』その7(中の上)(7-3章までのネタバレあり)

※7-3章までのネタバレがありますのでご注意ください。



「――できました! これで、第一店舗完成です!」


 そして、『木の理を盗むもの』の力は遺憾なく発揮され、一層で『昆虫ビードルエリア』と探索者たちに揶揄される緑生い茂った回廊にて、木製の素朴な一軒家が建つ。


 『迷宮のお店ダンジョンズ・ストア』と刻まれた木の看板を取り付けたところで、守護者ガーディアンたちは喜びの声をあげていく。


「いっえーい!」

「いっえーい!」

「いっえーい!」

「いっえーい!」


 ティティー、リーパー、カナミ、ティーダの順にハイタッチもかわす。

 さらにファフナーが一拍遅れて続き、ローウェンが頷き、少し控えめにノスフィーとアルティも両手をあげていく。


「い、いっえーい!?」

「いえーいらしい」

「いえーい」

「いえーい」


 総勢九人で祝ったところで、大興奮なアイドとカナミが更なる改造を施していく。


「カナミ様! できましたね! 自分たちの第一店舗です! とはいえ、試験的な一軒家、ここで色々と実験をしましょう!」

「ああ、アイド! とりあえず、カウンターと棚と床下倉庫を頼む! その間に、僕は裏口という名の《コネクション》と、レジという名の『持ち物』を作る!」

「なるほど! 出入り口が次元魔法というのはわかっていましたが、お金を管理する倉庫にも適応するのですね! これで強盗相手にも安心です!」

「いや、盗難防止策は別にある! 万引き対策の魔法を新たに開発しよう! 物が勝手に動いた際、僕たちの誰かに知らせる魔法だ! アイド、そういうの得意だろ!」

「ええ、大得意です! 補助専門の魔法使いと思われがちですが、自分は戦闘以外の生活魔法が専門ですから! そういった生活に浸透する系のものならば開発できます! とはいえ、どちらかといえば魔法でなく、特殊な植物を交えたスキルと魔法の複合技になりますが!」

「だが、それがいい! アイドの魔法だけに頼らないスタイル! いまはとても頼りになるよ! それじゃあ任せた!!」

「ええ、お任せあれ! マイロード!」


 と、自然にアイドが仕える王を姉からカナミに変えたところで、当のティティーはリーパーと共に動き出す。


「うむ、みな楽しそうじゃのー。じゃあ、わらわはリーパーと共に、飾りつけじゃな。こう、可愛らしい小物があると、訪れた探索者も和むはずじゃ。というわけで、ぱっと――《ワインド》。そこらの木々から、適当な長さの木材ゲットじゃ」

「飾りつけかー。アタシは前のお祭りのときみたいなのしたいなー。あとは木製のアーチで『ようこそ!』とか」

「おお、よいな! アーチも作ろうぞ! もう入り口に、どかんとゲートくらいのつもりで!」

「やった! ついでに、裏っ側に術式も刻もう! 最近、覚えたからやりたかったんだよね! 例えば、さっきお兄ちゃんたちが言った強盗さんを、自動的に迎撃する術式とか!」

「盗品を持ってゲートをくぐると、わらわたちの風と闇が襲い、不届き者を逃がさぬわけじゃな! 面白そうじゃ!」


 と、世界で最も恐ろしき迎撃システムが組まれる(下手したら死人が出る)横で、ファフナーとローウェンも魔法を捏ね始める。


「で、俺らが『血の人形』で店主作成班か。が、魂なしの血に、接客と計算を覚えさせるのは一苦労だな。その間、ローウェン頼むぜ」

「わかってるよ。『血の人形』の外側――帷子かたびらと仮面だね。私は魔法が得意じゃないから、少し時間かかるよ。……んーむむ、水晶魔法《クォーツ》」

「っと、待て。石じゃなくて水晶? もしかして、おまえ。いつものセンスで、滅茶苦茶かっこいい鎧と仮面にしようとしてねえか?」

「え、ええ? そりゃ、作るならかっこいいに越したことないのでは?」

「いやいや、これが闘技場を賑やかす剣闘士ならそれでいいが、お店の店主だぞ? こう、無骨なやつでいいんだ。絶対に、水晶とかでキラキラさせんな。無地でいけ、無地で」

「くっ……! しかし、仮面と鎧だ……! せっかくのオーダーメイド、魂なき店主とはいえ立派な姿にしてやりたいと思わないか……!? なあ!?」

「……こいつ駄目だ。おい、元主にアルティ。こっち来い」


 ローウェンという男が間違ったこだわりの塊であることを思い出し、ファフナーは残りの二人に救援を求めるしかなくなる。


「この剣術馬鹿は、剣術以外はてんで駄目だ。代わりに、デザインを考えてやってくれ。……というか、もしかしたら専門の地属性の鉄製品作成も失敗しそうだから、そっちも手助けしてやってくれ」

「わかりました。わたくしたちはアレイスが馬鹿をやらないように見張りですね」

「ふむ。デザインか。やるならば、可愛らしいものがいいな。こう丸っこい店主が待ってるのも、なかなか和むと思わないかな?」

「悪くありませんね。最低限の防御力を保ちつつ、あとは可愛らしさを前面に押し出していきましょうか。向こうのティティーたちの方向性とも合います」

「ふふっ、ならば私に任せてくれていい。とびきり、可愛い店主のデザインを考えよう。……ファフナー、確認だが『血の人形』はどんな形でも大丈夫かな? 例えば、人型でなく、熊のような形でも」


 意外にアルティが乗り気なことにファフナーは驚いたが、すぐに頷き返す。


「ああ、もちろんだぜ。俺の血はどんな形でも、どんな生物でも再現可能だ。この大陸で生きて死んだ存在に限定だがな」


 さらに、そこで別作業をしていたカナミからも質問が入る。


「あ、ファフナー。その『血の人形』に追跡と迎撃機能も搭載できるかな?」

「……店主の話だよな? カナミ」

「うん、店主の話。店主だからこそ、もし手を出されたとき、全力で迎撃するようにしないとね! ダンジョンの店主だと、これは必須だよ! そう! たとえ、不可抗力で手を出してしまっても、地獄の果てまで追いかけてくる店主こそ、ダンジョンの店主なんだ!!」

「ひ、必須かあ……? いや、まあ、カナミが言うなら、やってみるけどよ。戦闘方面の動きを仕込むのは、前からやってるから簡単だしな」

「ありがとう、ファフナー! これで僕の考えた最高のお店に、また一歩近づく!!」


 カナミは満面の笑みで、異世界の間違った文化を独断で広めていく。

 それはまさしく千年前の焼き直しだった。『異邦人』としてフーズヤーズ国を繁栄させ、『始祖』として『南連盟』を育て、『近衛騎士団長』として『北連盟』を立て直したときと同じ姿――ただ、以前と違い、いま彼には多くの仲間がいる。

 さらに、その誰もが笑顔だった。

 この差は大きい。


 そして、最初は乗り気でなかったアルティ・ローウェン・ノスフィーたちにも、徐々に笑みが零れ始めていた。

 店主のデザインの意見を出し合い、何度も審判役のファフナーに却下されては挑戦し直す内に――少しずつ楽しくなってきたのだ。

 ときには、おふざけで採用されるはずがない冗談みたいなデザインを提案することもあった。あの真面目で固い性格の三人が、だ。


 そこには対等な立場の仲間たち相手だからこそ飛ばせる冗談があった。


 千年前には決してなかった光景だ。

 一つの目的に向かって全員が協力し、笑い合って、ときには怒って、拗ねて、仲直りをして――そんな本来ありえたはずの交流が、千年後の世界で重ねられていき、


「――よし! 順調だ! このまま、全店舗を完成させよう!」


 いま確実に迷宮の仲間たちは結束していた。


 身体が丈夫なことを活かして、店舗建築作業は夜通しで行った(リーパーを除いて)。店の構造やシステムを、納得いくまで推敲した。そして、軽く一週間ほど徹夜が続いたところで、当初に予定したお店たちが完成する。


 場所も厳選に厳選を重ね、十店舗だ。

 まず地上の各入り口に五店舗。さらに四層、八層、十二層、十六層、二十四層に一つずつ(隠し店舗は、まだ未実装)。


 溶岩の流れる灼熱エリアには、飲用水を多めに用意したお店。

 昆虫や植物のエリアの手前では、解毒薬や回復薬を多めに用意したお店。

 もちろん、その次の層で出てくるモンスターたちに有効な武具も揃えている。

 需要に備えた品揃えだ(消耗品と一般武具は地上から買い入れ、魔法武具はスキル『鍛冶』のあるアイドとカナミを中心に、ローウェンとアルティの資源と火で生産した)。


 そして、準備は万端となり、とうとう開店の日はやってくる。


 まずは『迷宮改造計画』一段階目――



◆◆◆◆◆



 フーズヤーズ側迷宮入り口の横に設置した『第一迷宮店舗』。

 その周辺にある茂みに隠れて、二人の男が真剣な表情で店の様子を見ていた。

 過程を楽しむよりも結果を重視する二人、カナミとアイドだ(他の面々は作るだけで結構満足している)。


 それぞれ、木と次元属性の感知魔法で、内部の様子は見えている。


 無駄に立派な飾りつけをされたお店の内部は、多種多様な品物が並び、多くの探索者たちを唸らせていた。全体的に割高な値段だが、そこは立地に合わせての価格設定だ。よくよく見れば、低階層の5層までに必要な消耗品だけは格安であると、馴れた探索者たちならば気付くだろう。

 お店としての及第点は大きく上回っている。


 ただ、探索者たちは別の意味でも、唸り声を上げていた。

 それは感嘆でも歓喜でもなく、恐怖と驚愕の声だった。


「イラッシャイマセ」


 探索者たちは入店と同時に、まずこの声――まるで、地獄からの怨嗟のように掠れた声に歓待される。


 ファフナーの用意した『血の店主』の声だ。

 その店主の姿なりは、そこまで酷いものではないが、いいものでもない。ノスフィーのデザインした薄手の全身鎧とフルフェイスメットで、『血の人形』らしさは消えている。その上から、無地の清潔な布の服と布の頭巾で覆って、仕事人らしさも出ている。


 ただ、どうしても声が。

 声が駄目だった。


 声の問題についてカナミとアイドが気付いたのは、お店が始まった後だった。


「ハイ。銅貨八枚ニナリマス」


 無機質だが、どこか呪うような声で清算をする『血の店主』。

 一切乱れのない動きで接客し、お金を何もないところにしまいこむ。

 探索者たちは「俺たちの払ったお金はどこに消えているのだろうか」と気になって仕方なかった。が、聞くことは決してできない。


 店主は清算が終われば、微動だにせず、商品を物色する探索者たちをフルフェイスメットの隙間から覗く瞳で、じっと見続ける。

 息が詰まるどころか、はっきり言って迷宮三十層あたりのボスと対面するレベルのプレッシャーがあった。


「アリガトウゴザイマシタ」


 そして、逃げるように店から出てていく探索者たちに向かって、ドスの効いた声で見送る『血の人形』。


 その様子を見ていたカナミは冷や汗を流す。

 お店としては成立している。それは間違いない。

 理想的な値段で、理想的な物品が、理想された人物の手に渡っている。

 危惧していた強盗も、予想外の形で抑止されている。応援したかった探索初心者たちは……迷宮の恐ろしさを入る前に実感し、より慎重になってくれている。

 成果を箇条書きにしていけば、何も問題はない。


 だが、正直――客が少ない。


 迷宮に入っていく探索者たちは何十人といるのに、その中で店に入ってきてくれるのは一人か二人だ。大体は店の外から中を窺って、すぐに顔を青ざめさせて遠ざかっていく。


「……カナミ様。凄い怪しまれて、探索者が余り店に入ってくれませんね」

「国からもギルドからも認可を得て、国政の一環として始めてるのに……! ちゃんと国の証明書も店の前に張ってるのに……! どこも怪しくなんかないのに……!!」


 原因はわかっているが、それでも愚痴りたいカナミだった。

 自分たちの七徹の成果だ。

 彼なりに結構期待をしていたのだ。


「後ろ盾は立派ですが、やはり怪しさは拭えないようです。少しずつでも利用されていけば、お店に必要な信頼関係は構築されていくでしょうが……。かなり先になるかと」

「そっか……。やっぱり、そう甘くないか……」


 後ろ盾。立地。資金。人材。宣伝。

 ありとあらゆる要素に恵まれながらも失敗してしまったことを、カナミは深く悲しんだ。自分の商才というか、こよなく迷宮モノを愛するゲーマーとしての矜持が傷ついていた。


 ただ、その悲しむ二人の後ろで、全ての事情を察している三人目の男が笑う。

 地上での問題を解決するのに協力してくれた人間、パリンクロン・レガシィである。


「はははっ――! いやっ、当たり前だろ! まず、あの店主が怖えよ! おまえらなんで途中で気付かないんだ? 普段、迷宮に引きこもってるから感性がおかしくなるんだっての! あれは『ちょっと変な声』じゃなくて、『本能的に命の危機を悟る声』だからな! レベルが高すぎると、こういうのがわかんなくなるのか! 不思議だなあ! はははは!」

「パリンクロンッッ!! おまえ、全部わかってたなあ! わかってたなら、商品を卸しに行ったとき教えろよ!!」


 パリンクロンは連合国から派遣された監査役として、事前にお店の安全を確認していた。そのとき、彼は試しに適当な買い物を行い、「おお、これは探索者からすると革命的だな。凄い店だ」と褒めたのだ。

 その「凄い店」という言葉を信じて、カナミたちは開店に踏み切ったのだから、怒りたくもなる。


「ははっ。いや、これも経験だと思ってな。もしかしたら、案外受け入れられて、あっさり流行るかもしれねえし」

「嘘つけぇっ!! 絶対、失敗する僕たちを見たくて黙ってたろ!!」

「おぉっ。その通りだ。カナミも俺のことがわかってきたなー。ただ、最近は簡単に騙されなくなってきて、少しだけ俺は寂しいぜ。カナミをからかうのが俺の生き甲斐だからな!」

「この野郎!! このっ、このっ!!」


 カナミは友の裏切りを知り、べしべしとチョップを何度も放つ。

 それをパリンクロンは笑いながら、片手で払いのけていく。


 その様子を見たアイドは、暴力はよくないとカナミを止めていく。


「カナミ様、抑えてください。パリンクロン様は、どうあってもパリンクロン様です」

「ははっ。アイドもよく俺をわかってるな。まさしく、俺は茶々入れの観客でしかない。ファンとして『劇』の協力はしても、それは面白くなる協力であって、成功の協力ではないってことだな。……で、それよりも、次はどうするんだ? それが見たくて、俺はここにいるんだぜ?」

「それは……」


 カナミはアイドの諫言を受け入れ、仕方なくチョップを止めて、生産的な思考に戻っていく。それをアイドは補佐役として手助けしていく。


「カナミ様、迷宮の利用者は僅かに増えています。劇的とは言えませんが、確かに。成果は低くとも、方針は間違っていません。ここは大逆転の作戦を狙うより、少しずつ迷宮を改善していったほうがよいかと」

「ああ、わかってる。僕は冷静だ、アイド」


 今回のカナミの目的は、建前が『迷宮の利用者を増やすこと』で、本音は『迷宮での死亡者を減らすこと』だ。どちらも、上手くいっている以上、ここでお店を解体するという選択肢はカナミにない。


「とりあえず、当初の予定通り、迷宮改造計画第二弾――ドロップアイテムの延長、『宝箱システム』の設置だ。そのアイテムをお店で、高額で引き取るようにする。店主の声の改善は時間がかかるから、まずは必要性の向上だ」


 ひとまず、お店の問題は置いておき、次の案に取り掛かることを決めた。

 それを聞いたパリンクロンは楽しそうに声を弾ませる。


「へえ。いいこと聞いたな。例の千年前のアイテム――『想起収束ドロップ』を加速させるのか」


 同時に、パリンクロンは高速で思考する。

 その優秀で最悪な脳が、その意味を理解し『起こりうる面白いこと』を計算していく。


「それなら、迷宮全体の価値は倍増するな。ただ、専門の宝箱荒らしとかも出てくるようになると思うが?」

「位置はランダムだ。それに、ちゃんと『宝箱』の前には中ボスも配置するから、その心配は要らない。この次元魔法使いの僕が計算尽くしての配置だ」


 先ほど、その計算尽くされたお店が予想外の結果に陥っておきながら、カナミは自信満々の様子だった。

 こういうところが好きなのだとパリンクロンは思いながら、忠告は控えて話を続ける。


「ふーん……。どちらにせよ、一気に連合国が潤うな。事前に商会へ伝達して、国には鍛冶職などの専門職の保護をさせないといけないな。いや、いっそ迷宮のアイテムを一括管理する組織でも作っておくか。本土への無駄な流出も抑制しないとな。全く新しい流通ルートがないと、市場が格差で混乱しそうだ」


 とりあえず、国の監査役としての仕事を終わらせようと、パリンクロンは頭の中で『仕事の計画』を作っていく。と同時に、仕事を手早く終わらせたあとの『趣味の計画表』も作り終える。

 その様子を見て、友達であるカナミは疑いの目を向ける。


「おい、パリンクロン……。おまえがそういう真面目な話を、あえて口にしてるときは、絶対何か思いついたときだろ……。千年前のアイテムの独占とかしたら駄目だからな」


 パリンクロンの思惑は、付き合いの長い友人には見破れてしまった。


「おいおい、そういうことを俺がすると思うか?」 


 カナミが釘を刺す中、嬉しそうにパリンクロンは答える。かの『始祖カナミ・・・・・』が真正面から構ってくれるというだけで、パリンクロンは結構幸せなのである。


「いや、おまえはしない。そういう卑怯な形で利益を出すのは好みじゃないってことはわかってる。でも、そういうとき、おまえは誰かを唆すだろ。違う誰かに独占を誘導させるのも駄目だからな」

「――っ! ははっ、大当たりだ! いやあ、本当によくわかってきたなあ。初めて会ったときと比べると、すごく成長してるぜ、カナミ」

「とにかく! それらしいことしてたら、容赦なく全員で潰しに行くから! 僕とアイドは穏当だけど、他のみんなは結構怖いから! 気をつけろよ!」

「まじで優しいな。わかってるさ。俺は観客だ。たまに手に持ったものを壇上に投げつけるかもしれないが、基本的には観劇に徹する。それは誓う」

「はあ……。本当にわかってんだろうな、おまえ……」


 パリンクロンにはパリンクロンの流儀がある。

 一度看破された場合、その企みは絶対に実行しない。そのルールをカナミも理解しているため、それ以上は何も言わなかった。


 そして、パリンクロンは観念した様子で肩をすくめ、話を纏めていく。


「とにかく、地上の細かいところは俺がやっておくから、今回アイドは迷宮に集中してくれていいぜ」

「ええ、今回はパリンクロン様に任せます。もちろん、時々は様子を見に行きますがね」


 アイドは頷き、その胡散臭い男の言葉を信用した。


 経験からアイドは、この手の輩は約束を守ると知っていた。

 ルールを守って全力で遊ぶことが、最もゲームを楽しむ方法であるという子供のような思考回路を持っているからだ。特にパリンクロンという男は、参加しているだけで楽しいと思っている節がある。ただ、守護者ガーディアンたちの失敗を一番の楽しみにしている節もあるが。


「じゃあ、頑張れよ。特にカナミ。俺は応援してるぜ。その優しい努力をな」


 パリンクロンは意味深に言葉を残した。


 アイドだと聞き流す言葉だったが、カナミにとっては違った。パリンクロンには建前の目的でなく本音の目的まで見抜かれているとわかり、友の自分への理解を痛感していく。


 そして、その上で、応援してくれていると言った。

 つまりそれは――



◆◆◆◆◆



 パリンクロンは『死亡者の減少』を目指すカナミが、いかにして失敗していくかを楽しみにしているということである。


 その期待にだけは応えるものかと、カナミは奮起する。

 そのためには『宝箱システム』だけでなく、もっと新たなアイディアが必要だった。


「――というわけで、第十三回会議ぃ!」


 例の二十層の黒い液体ハウスで、バンッと黒板を叩いて、守護者ガーディアンたちの意見を再度募る。とはいえ、以前とは少し様子が違った。


「いっえーい! ペースが早いのじゃー!」

「いっえーい! 結局、アタシたちのお店、人気ないね! そんな気はしてたけど!」


 優しいティティーとリーパーは合いの手を入れたが、他の面々はカナミを見ていない。

 個人でやりたいことをやっていた。


 ちなみに、未だアルティは店主のデザインの挑戦をしていた。いまは部屋のテーブルの上に何枚もの紙を広げて、デザイン仲間と雑談している。


「なあ、ファフナー……。どうして、私のデザインは駄目なんだ……?」

「全部駄目だ。こんなの使えるか。迷宮のモンスターより酷いじゃねえか」

「これとか! これとか! どれも可愛いだろう!!」

「おまえ、まじで言ってんのか……? どれも見てると、かつての狂気がすげえ刺激されるんだが……。すげえ冒涜的だぞ、おまえのデザイン……」


 ファフナーはアルティの絶望的なセンスに呆れていた。

 そして、密かに理知的だと思っていた彼女が、実は独特な思考とセンスの持ち主であったことにショックも受けていた。


 ただ、それを切っ掛けに、この千年後の世界を正しく理解し――ノリに慣れてきたファフナーは、はっきりと断言する。


「はっきり言ってやるぜ。おまえはローウェン並にへたくそだ! センスなし!」

「――なっ!? く、屈辱だ……! あのぼっち男と同列とは……!」


 守護者ガーディアンヒエラルキー最下層であるローウェンと同じと知り、アルティは心の底から悔しそうな顔を見せた。


「いや、屈辱なのは私だって! どう見ても、私はアルティよりマシだろう!? ほら! リーパー、見てくれ!」


 ローウェンはデザイン面においてだけは負けてないという確信があった。

 自分のデザインした紙を手に取り、自分の味方であろう少女に診断を頼む。


 ただ、リーパーは「むむむ」と紙を見つめたあと、苦笑いを浮かべた。


「んー。ごめん、ローウェン。どっこいどっこいかなあ?」

「えぇ!? アルティのあれとか!? 私はあれと同レベルなのか!? 本当に!?」

「うん。ローウェンも絵の才能ないよ。絶望的だね。アハハッ」

「うぅ、駄目なのか……。やはり、私には剣術しかないのか……。はあ……」


 信頼する相棒に断言され、ローウェンは溜め息を大きくついた。


 その様をティーダが遠くで、笑いを堪えて見届ける。


 笑いを堪える理由は単純。

 騙されているローウェンが微笑ましくて仕方ないのだ。


 なにせ、そこまでローウェンのデザインは酷いものではない。

 無駄に煌びやかで、無駄にごてごてして、無駄に機能性がなく、幼稚で英雄的な店主デザインだが……一目で吐き気を催すアルティのものと比べると、普通の範囲内だ。


 それでも、リーパーは首を振った。闇を含んで、笑った。

 ちょっとしたことで成仏してしまうローウェンが『絵』という生き甲斐を得ないように、彼女は細心の注意を払って事前に才能を潰したのだ。


 『闇の理を盗むもの』ティーダと『死神』リーパーという真っ黒な二人に愛されたのろわれたローウェン・アレイスは、一生満足しないかもしれないという光景の中――カナミとアイドはマイペースに会議を進めていく。


「皆様、飽きが来てますね。前ほどの纏まりを感じません」

「予想はしていた。ただ、それでも僕はやらないといけないんだ……!」


 正直、ローウェンはいつものことだ。

 あれでローウェンはそれなりに幸せであると、カナミはわかっているのだ。

 ローウェンの未練そんなことよりも、いまは迷宮改造だった。


「ええ、やりましょう。たとえ、自分たち二人だけになっても……!」

「というか、僕たち二人だけしか『迷宮改造計画』に興味なさそうだ、これ……!」

「はい、薄々と自分も気付いてました……!」


 よく見れば、最初は合いの手を入れてくれていたティティーとリーパーは、もう部屋の中央テーブルの『ファフナー主催・お絵かき講座』に取り込まれていた。

 仕方なく、アイドとカナミは二人だけで、会議を進めていく。


「カナミ様、お店の改良案ですが……まずは宣伝ですね。ありのままのお店で勝負しようという幼稚な考えは捨てましょう。前のレストランで姉様がやったとき、宣伝チラシは非常に有効でした。ここはカナミ様の人脈を使って、正しい情報を広めて貰いましょう」

「うぅ、仕方ないか……。各種ギルドや商会、知り合いの有名探索者たちに頼んでみるよ……。こういうのは好みじゃないけど、今回だけは……」


 その性格上、カナミは勝負事でコネを滅多に使わない。だが、今回は『死亡者の減少』という人助けを名目に解禁されていく。


「お店の安全性を訴えるだけでなく、次の『宝箱システム』についても広めて貰いましょう。以前の迷宮とは一味違うことを、連合国全体に知らせるのです」

「わかった……。他には?」

「そうですね。さらに、お店の周辺の清掃もしましょう。周囲十メートルを『魔石線ライン』で敵が入らないようにした上で、清潔さを徹底します。安全圏を売りにするのは必須です」


 ここぞとばかりにアイドは、ずっと考えていたことを提案した。

 それはダンジョンの清掃作業。

 非常に単純で真っ当な話だったが、カナミの顔は渋かった。


「清掃、か……」


 いまのカナミが、昔の自分に対して確信していることが一つある。

 それは、この今現在の不衛生で薄暗いダンジョンが『こだわり』であるということだった。


 やろうと思えば、でこぼこのない綺麗な回廊は作れたはずだ。にもかかわらず、こんなじめじめとした薄暗い回廊にした理由は一つ。


 ――そちらのほうが、よりRPGのダンジョンっぽいからだ。


 その千年前の自分の『こだわり』を捨てることに、カナミは抵抗を感じていた。

 今現在の自分にも、その『こだわり』がよくわかるからだ。


「カナミ様、自分も薄々とわかっています。千年前の貴方様とは旧知の仲でしたから……。しかし、それでもご決断を……」

「ああ、仕方ないか……」


 あえて、足場は悪くて、薄暗く、不衛生な回廊のダンジョン。

 しかし、足場の悪さは致命的でなく、決して前が見えないわけでなく、人が住めないわけでもない。

 ギリギリのギリギリ、かつての自分の匠の技を感じる。


 だが、断腸の思いでカナミは決断する。


「アイド! 作り直すぞ! 千年前の僕には悪いが、隅から隅までリニューアルだ!」

「ありがとうございます、カナミ様! ふふっ、実はこの迷宮を見てから、ずっと自分は思っていたのです! 自分も迷宮製作に関わりたいと! その夢が叶います!!」

「そうと決まったら、アイド! 迷宮の入り口を『改装工事中により進入禁止』って感じで閉めてきてくれ!!」

「はい! お任せあれ! マイロード!!」


 こうして、千年前の自分を乗り越えるべく、カナミは動き出す。

 『迷宮改造計画』は二段階目に入っていく。


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