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閑話その1(7-2章までのネタバレあり)

※7-2章までのネタバレがありますのでご注意ください。

『ラスティアラ、ディア、マリア、スノウ、ライナー、ノスフィーの神経衰弱』です。

適当な埋めネタです。トランプは似たものを、千年前にカナミが異世界に広めている……という曖昧な設定です。


「と、いうわけで! 第一回トランプ大会始めよー!!」


 ラスティアラの一声によって、大聖都地下街の屋敷にて小さな喝采が巻き起こる。

 その中、誰よりも楽しそうにカードをシャッフルするのは竜人の少女スノウだ。


「トランプとか久しぶり。子供の頃、兄さんを相手に遊んだ以来かも」


 続いて、パーティーの面々も参加を表明していく。


「俺もそのくらい以来かな? アレイス家でお世話になったとき、似たのを触れた気がする」

「私は貴族のみなさんと違って、家が貧しかったのでカード遊びは初めてですね。ただ、一般的なゲームのルールくらいは知っていますので、ご心配なく」

「アタシも初めて! けどっ、例の『繋がり』で知識だけはあるから平気!」


 ディア、マリア、リーパーと全員がテーブルに着き、いつの間にか用意された(屋敷のものを勝手に使って)カップで、それぞれがお茶(ティーを啜っていく。そして、最後の一人、目の前にティーカップを置かれたものの、それを手に取ることもできない少女――呪布でぐるぐる巻きにされたノスフィーは呟く。


「あれ……。ルールに精通していないのはわたくしだけでしょうか……?」


 時代についていけない守護者ガーディアンを前に、ラスティアラは嬉しそうに答えていく。


「んっ、ノスフィーだけだねー。じゃあ、始めようか。ビリは一位の質問に何でも聞くってことでー」

「え、えぇ!? じゃあ、始めようかはおかしくありませんか!? ルールがわからないと、どうしようもありません!」

「うん、だから! 始める!」

「だから!?」

「だって、ノスフィーに聞きたいこと一杯あるから、ビリにしたいし……。あと可愛いところも見たいし……」

「アンフェア過ぎます! ラスティアラさん、そういうのは駄目です! せっかくの空気が悪くなります! 遊ぶ時間でしょう、いまは!」

「ノスフィーって、そういうの結構気にするよね。普段はアレだけど」


 カナミがいるときとの正反対っぷりにラスティアラは苦笑いする。

 そして、その態度の違いから、彼女の内心の複雑さと悲しさを察し――ただ、だからといって手心を加えるほどラスティアラは大人ではなく、テンションをあげて宣言する。


「――しかーし、駄目! なんと言おうと、遊びの世界は甘くない! こういうのは大体、初心者が経験者に搾取されながら少しずつ覚えていくものなのだ! 私の大聖堂ではそうだった! パリンクロンとかラグネちゃんとかホープスのおっさんとか、あいつらまじひどかった!!」


 むしろ、ここで容赦なく距離を詰めることが、本当の意味で『一緒に遊ぶこと』であると、ラスティアラは学んでいた。カナミとノスフィーの二人を見て、痛感し、確信している。


 しかし、その思いを知らないノスフィーにとって、それは堪ったものではなかった。少しだけ頬を膨らませ、周囲を見回し、下唇を少し噛んでから、一人の名をあげる。


「ラ、ライナァー!!」


 部屋の隅、静かに様子を見ていた少年が呼ばれる。

 急に呼ばれたライナーは少し驚きつつ、返答する。


「……なんだよ?」

「ライナー、あなたはどう思いますか? 悪い慣習が、あなたの故郷から漏れていますが」

 ノスフィーにとって、いまこの部屋で一番声をかけやすかったのは一度全力で殺し合ったライナーだった。咄嗟に名前を呼んでしまったことにかなりの屈辱を感じながらも、どうにか場面を打開しようと協力を要請する。

「そんな顔するくらいなら僕に頼るなよ……」


 ずっとライナーは問題が起きないように見張っていたのだが、いまのノスフィーの表情を見て、気が抜けていく。前々から薄らとわかっていたことだが、カナミさえいなければノスフィー・フーズヤーズはまともな女の子・・・・・・・だ。それをいま、ライナーは認め、助言を彼女に送る。


「いまラスティアラが言った三人は特別だな。普通は最初にルールを教え合って、その上で初心者には優しくする。騎士を名乗るなら、普通はそうする。もし、ここにハイン兄様や総長がいたら、絶対に同じことを言う」


 その助け舟を聞いたラスティアラは、裏切り者を弾劾するように独自の反論を行っていく。


「くっ、ライナー! 何をまともなことを! それだと初心者の頃にカードで苛められたの私だけになるでしょ!」

「知るか。僕は常識的な意見を言ってるだけだっての。まずは、ルールがわかりやすい絵合わせでもしとけ。それがフェアだ」


 大聖堂の最高権威を前にしても、ライナーは臆することなく、最初から最後まで常識的だった。

 その常識的提案に反対するのは、ノスフィーにも自分と同じ目に遭って欲しいラスティアラだけだった。他の面々は絵合わせ(相川渦波の世界で言うところの神経衰弱)を行うことで意見が一致していく。


 孤立無援となったラスティアラは、仕方なく頷いていく。


「はあ、仕方ないか……。じゃあ、絵合わせの審判はライナーで。みんな、それでいい? ノスフィーもいま説明したカードの数字を合わせるゲームなら、すぐできるよね?」

 それにまずノスフィーが頷き返し、続いて全員が了承した。

「じゃあ、そういうことで」

「いや、待て! なんで僕が審判を――! ……はあ。いや、もういい……」


 ライナーは拒否しようとしたが、周囲の顔を見渡したあと諦める。

 あらゆる意味で逆らってはいけない相手しか、ここにはいない。主のいないところで火種を刺激するわけにはいかず、審判としてテーブルの近くに立つ。


 そして、目線を向けず、近くの敵に声をかける。


「……しかし、意外だな。拒否しないんだな」


 ライナーは自分以上に、ノスフィーの参加を不思議に思っていた。それを聞き、ノスフィーは真面目に答える。


「ええ。わたくしも聞きたいことがありますから」


 それは一位がビリに何でも聞ける権利。


 いまノスフィーが狙っているのは――


「特にマリアさん。あなたに」

「知っています。構いませんよ。あなたが一位で、私がビリになったときは。――なんでも」


 マリアだった。

 それをマリアも予期していたのか、テーブルの先で頷き返す。


「それじゃあ、やろっか。スノウ、カード貸して。まずカードセットを三つ混ぜて……さらに、数枚ほど抜いて無駄に難しくして……っと」


 ラスティアラは慣れた手つきでカードをシャッフルしていく。

 その動きを前にノスフィーは瞬きをせず、観察し続ける。同時にここまでの会話の端々を整理し、スノウとラスティアラは経験者であり、熟練者であると見抜いた。


 ゆえに、ノスフィーは警戒をしていた。

 ラスティアラの手の動きを一切見逃さない。そして、


「ストップ!」


 声を張り上げ、部屋の全ての動きを止めた。

 当然だが、シャッフルしたあとにカードを並べていたラスティアラも止まる。その並んだカードの一つをノスフィーは睨む。


「ラスティアラさん、そこ。いま魔力で印をつけましたね。薄く」

「……す、すごっ! フーズヤーズ最高の騎士たち相手に一度もばれなかった技を……! しかも、最初の最初の一つ目で……!」


 ラスティアラは言い逃れせず、認めた。

 それほどに驚愕で……愉快だったのだ。

 あの劣悪なゲーム環境で揉まれに揉まれ、トップに君臨した自分の技が、『光の理を盗むもの』には通用しないことにわくわくしていた。


「ライナー」


 その興奮にノスフィーは付き合うことなく、審判を呼ぶ。


「あー、えっと、一回休み……は軽いか。この時点で負けだとゲームが成り立たないから、二回休みくらいでいいんじゃないのか?」


 その裁量に文句を言う者はいなかった。

 そして、とても自然な流れでスノウが続きのゲームの準備を行い、


「――スノウさん。だからといって、物理的に折り目をつけようとするのは……。さすがに……」


 とても順当にいかさまがばれていく。隣に座る完全な初心者であるマリアが、呆れた顔で口を挟んだ。


「え、ばれた!?」


 スノウは自信満々だったのだが、ディア以外の全員が気付いていた。


「いや、ばれるに決まってますよ」

「でも、これ! グレン兄さんたちとやってたときは一度もばれなかったのに!」

「そりゃ、ばれないでしょう。あの人たちなら」

「流石、マリアちゃん。流石、みんな……。兄さんとはレベルが違う……!」

「いや、私がどうとかじゃなくてですね。スノウさんのお兄さんと、あのギルドの人たちが、だだ甘なだけで……。とにかく、続きしましょうか。……ディアが一番でしょう」


 マリアは適任者を選び、続きを開始する。

 話の流れにワンテンポ遅れていたディアは、カードの束を受け取り、ゲームの親として仕切っていく。


「それじゃあ、ラスティアラとスノウは飛ばして始めるか。俺から時計回りだな……」


 そして、とても普通にディアは「えいっ」と挑戦し、とても普通に「うぅ、駄目か……」と失敗する。初手で合うわけないのに純粋に一喜一憂し、掛け声までかけたディアに、マリアとリーパーは和みながら、続いてカードをめくり、失敗し――問題のノスフィーの番に回ってくる。


「それで、わたくしはどうやってめくるのでしょうか……」


 ノスフィーは自分のぐるぐる巻きの姿を主張する。


「え、そのためのライナーじゃないの?」


 ラスティアラは代わりにライナーが取ればいいと言った。他の全員も同じことを思っていたようで、当の二人だけが死ぬほど嫌な顔を作った。

 しかし、二人とも、それ以外にないとわかっているので、仕方なく協力して絵合わせを始める。


「ライナー、それを……」

「ああ……」


 ノスフィーが目線で頼んだところを、ライナーがめくる。

 ただ、それだけのことだが――


「くぅっ……! 屈辱の上、気持ちが悪いです……!」

「こっちの台詞だ……! 殺すぞ、おまえ……!」


 二人の間に殺意が飛び交う。


「そこです……! すっとそういう残忍な台詞が出るところが気持ち悪いのです……!」

「すっと言いたくなるんだよ、おまえには……!」


 ただ、この程度の殺気は女性陣にとっては慣れたものだ。それどころか、よく発する側なので特に空気が変になることもなく、ゲームは続く。

 ディアは意気揚々とカードをめくる。


「おっ、これさっき見た! これだ! ……えぇっ!?」


 が、とても初歩的なミスをする。配置の記憶ができていなかった。


「ディア、違います。いま見たでしょう? これとこれです」

「あぁっ! マリア、卑怯だぞ!」

「卑怯じゃありません。……しかし、ディアが得意じゃないのはなんとなくわかっていましたが、私も余り得意じゃありませんね、これ……。やはり、どんなルールでもカードなら運が絡みます……。運が絡むと、私はどうしても……」


 記憶力で判断できないときは、適当にカードをめくるしかない。

 当然のように、マリアの次のカードの数字は合わなかった。


「む、これは一回も出てないやつだね! なら、適当に……これ! が、駄目!」

「リーパーも運は悪いほうですからね。となると……」


 続いてリーパーやノスフィーも合わず、ゲームの三週目が始まる。

 そして、その一回目の挑戦でラスティアラとスノウは――


「あっ、合った! なんとなくで! でも、次は駄目かー」

「……私も! 一セットだけ!」


 この大量のカードの中、ワンペアだけだが運で合わせていた。

 その様子を見て、マリアは勝負の行方を悟り――この場で最もゲームに熱中しているノスフィーは、戦力を分析し終える。


 一人一人、能力に一長一短あるが、一番の難敵は間違いなく、ラスティアラだ。

 彼女は天に恵まれた上、記憶力がよく、手先が器用で、いかさまを嬉々としてやるメンタルもある。


 当然のように、一周ごとに獲得カードを増やしてき、四週する頃には一位となっていた。


「ふっふっふー。さあて、ノスフィーには何を教えてもらおうかな……」

「わたくしを舐めないでください。まだ、ここからわたくしが一位になることもありえます」


 ノスフィーは最下位争いをディアとリーパー相手に繰り広げていた。

 娯楽用カードという存在自体が初めての彼女は、一戦目は様子見に徹している。ただ、ビリにならないことだけに全力を注ぎ、次の一戦を見据えていた。


 ――のだが、ここで唐突に最下位争いをしていたリーパーが動き出す。


「んー、んー、ん! よしっ、もう勝ち確定かな! というわけで、ぱぱぱのぱー!」


 自分が一位になれる計算をし終えて、この手番で全てのカードを合わせて取っていく。


「え、え? リーパー、え?」


 ゲームが終了し、一位予定だったラスティアラが呆然とする。


「駄目だった? でも、そういうゲームだよね?」

「そ、そういう?」

「計算しつつ、言葉で駆け引きして、騙し合って、合理的に一位を取るゲーム。アタシの知識だと、そうだったんだけど……」


 リーパーは次元魔法使いである上に、一時期カナミが保護者だったという経歴のせいで、極めて凶悪なプレイングスタイルを身につけていた。

 試合前から、あえて得意でないことをアピールし、油断を誘い、ラスティアラがノスフィーをビリにさせようと枚数調整を行っている横から、確実に一位をかっさらったのだ。


 その手腕に、隣のマリアが「いいえ、大丈夫です。お見事です」と一位であることを認める。ディアやスノウあたりも純粋に、その記憶力の高さを褒める。必勝を確信していたラスティアラだけが、口を尖らせる中、例の一位の報酬タイムが始まる。


「というわけで、一位から質問! ビリは誰かなー!」


 そこでノスフィーは我に返る。


「まさかです……! 油断してました……! ディアさん、何枚ですか!?」

「えっと、俺は……」


 最下位争いの最後の仲間であるディアに枚数を聞き、二人の枚数を比べ――ノスフィーが最下位であることが決定する。


「そ、そんな……!」


 何もかもが予定外だった。いまノスフィーは何もかも答えていいときではない。それらしい嘘をつけばいいだけの話だが、ノスフィーはカナミ以外の人間に嘘をつくと、その罪悪感に耐えられなくなる。

 どうやって、この場を切り抜けるべきかとノスフィーは悩む――その途中。


「ノスフィーお姉ちゃん。アタシと出会う前のローウェンのこと、なんでもいいから教えて欲しいかな」


 悩みは消える。

 リーパーはノスフィーが聞かれて困ることを聞くような子ではなかった。


「……ロ、ローウェン? ローウェン・アレイスのことですか?」

「ローウェンは昔、ノスフィーお姉ちゃんの騎士だって聞いたから……。敵同士だから駄目かな?」

「……構いませんよ。そのくらいなら」


 ノスフィーは安心しつつ、昔を思い出す。

 それは千年前の戦い。三騎士に指示を出して、北と戦っていたときの記憶。


「でも、わたくしが知っているのは、あれの失敗談ばかりです。いえ、アレイスの仕事自体は完璧なのですが、それ以外の部分が本当に……」

「その失敗談で! お願い!」

「ふふふ……。いいでしょう。失敗談ならば、いくらでもあります。……うちの三騎士たちは、嫌がらせのようにわたくしの指示をまともにこなしませんでしたから。例えば、ローウェン・アレイスは要人の護衛任務に当てれば、必ずと言っていいほど敵の刺客が動くよりも先に、敵を暗殺しに行きます。言っている意味がわかります? なんとなく場所がわかったからと言って、一人で敵陣地の奥まで入っていって、敵の部隊を壊滅させるんです。護衛対象は完全放置で」

「あー、そうなるんだー。『感応』で自分は色々とわかってるから平気なんだろうけど、他から見たら職務放棄だよねー。善意と功名心が空回りし過ぎで、それっぽい!」

「護衛任務の後の予定が、総崩れです。あの男は『理を盗むもの』の配置の重要性を、最後まで理解してくれませんでした。……他にありますよ。ローウェン・アレイスは当時、本当にやりたい放題でしたので」

「聞きたい!」


 リーパーはノスフィーの苦労話を聞いていく。

 一度に一つまでというルールがあったつもりだが、ラスティアラたちは止めようとはしなかった。


 これでいいと、全員が理解していた。


 その後、ほぼ全てのゲームでリーパーが一位を取り、他愛のない質問を仲間たちに投げていった。ラスティアラが一位でノスフィーがビリだったこともあったが、本気でノスフィーの隠し事を暴くことはなかった。突っ込んだ話があったとすれば、それは女性同士特有の色恋話くらいだ。


 本当に、ラスティアラたちはカードで遊ぶだけだった。

 ただ、互いの交友を深めていくだけの時間が過ぎていく。


 その様子を近くで見守るライナーだけが、その時間の意味を正しく理解していた。

 全て理解していく。

 ノスフィーの内面の一部と、ラスティアラの大聖都での『本当の目的』を――




 ノスフィーは強いですが、カナミが絡まないと強い子であろうとしません。

 自然体だと、このくらいです。

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