IF『守護者ルート』その6(7-2章までのネタバレあり)
※7-2章までのネタバレがありますのでご注意ください。
TS話です。注意です。とても注意です。読み飛ばしていい話です。
――アニエスが渦波をエルミラードに紹介してから、小一時間後。
エルトラリュー学院での本日二つ目の授業が終わったところで、アニエスは身の毛のよだつ光景を目にしていた。
「――あははっ、本当にエルミラードは冗談が上手だねっ」
「ははっ、そういう言い方はよくないな、カナミ君。いつだって僕は本気さ」
とても仲よさそうに談笑する渦波とエルミラードだ。
教室の中央の机に二人で並んで座り、それをエルミラードの取り巻きたちは羨ましそうに一歩退いて見ている。
信じられないことに、アニエスが教師たちに用事を頼まれて席を外している短い時間で、教室内の勢力図の中心に渦波は食い込んでいた。
「え、え……。カナミさん、シッダルク卿、いつの間に……?」
アニエスは渦波をお世話する立場である以上、見なかったことにはできない。
その急接近の理由を率直に聞くしかなかった。
「あ、アニエスさん。たまたま、エルミラードが授業でわからないところを教えるチャンスがあったんだ。それで少し仲良くなれたんだよ」
「まだこの分野は完璧とは言い難くてね……。わからないところを残すのは僕の主義に反するから、カナミ君がいてくれて本当に助かった」
たまたま……?
学院で主席のエルミラードのわからないところが、カナミさんにはわかった?
用心深いアニエスは渦波の言葉をすぐに信じなかった。
口には出さないが「何か裏があるのでは?」と思いながら、二人の談笑を見守る。なによりも、たったそれだけのことで、あのシッダルク家の跡取り息子を下の名前で呼んでいる渦波の距離の詰め方を怪しんでいた。
――ただ、実際のところは、同性(少し前の彼にとって)同年代の友人ができそうで、渦波が無意識に舞い上がっているだけである。
「主義って……。本当にエルミラードは完璧主義だね。シッダルク家やギルド『スプリーム』の仕事もあるっていうのに、授業の一つも手を抜かないなんて。本当に凄いよ」
「いや、君こそ。つい最近編入したばかりなのに、教科書のほとんどを覚えているじゃないか。流石の僕でも、一日目でそこまではしていない」
「教科書を覚えるのだけは得意だからね。あと、授業前には予習で全部覚えてないと落ち着かないってのもあるかな……?」
「はははっ、君も僕の主義を笑えはしないよ。僕たちはやり方が似てる」
エルミラードは優秀な人間を好む。
生まれながら人の上に立ち、人を導くための教育を受けているからだ。
優秀な人間はお金に換えることのできない宝であると、エルミラードは学んでいる。その年の割に打算的で現実的な考え方もあって、彼の周りには多くの優れた友人で溢れかえっている。いつか大人になったとき、個人の力ではなく、広げた人脈が本当の力になってくれると彼はわかっているのだ。
もちろん、エルミラードの全ての価値観が冷め切っているわけではない。同時に彼は『一人の英雄が世界を変える』という子供じみた夢も持っている。その英雄になることを周りから期待され、その期待に応えようとする――大人と子供の狭間に生きる男だ。
そして、エルミラードの女性の好みは、その価値観に寄っている。
彼は優れた女性――強くかっこよく英雄的な要素のある女性を非常に好む。
「――そうだ、カナミ君。このまま、次の授業も共に受けないか?」
「また偶然だね。私も同じことを提案しようと思ってたところだよ」
エルミラードは渦波を気に入り――さらに恐ろしいことに、渦波もエルミラードという人間を気に入っていた。
まだ僅かな会話しか交わしてなくとも、互いの性格が似通っているとわかり合っていた。互いに真っ直ぐな価値観を持ち、いかなる場合でも誠実であろうとする心を持っていると確信できていた。
その上、利害も完全に一致しているのだから、関係が加速的に深まっていくのは必然であった。
「次は魔法科の授業だけど、カナミ君は自信あるかい?」
「もちろん、あるよ。家では優秀な家庭教師がついてくれたからね。たぶん、エルにも負けないよ」
「へえ……。この僕に「負けない」とはっきり言ってくれる人は久しいから嬉しいね」
「ふうん。なら、ここは頑張って完全勝利してみせたら、もっと喜んでくれるのかな?」
「ああ、とても嬉しく思うよ。ただ、シッダルク家の嫡男として、そう簡単に負けてあげるわけにはいかないな。……よし、次の授業では教員に実践形式を提案しよう。ちょっとしたカナミ君の歓迎会だ」
「いいね。私が暗記だけじゃないところ、エルに見せてあげるよ」
教室を移動しながら、二人はイチャイチャと話し続ける。
それを取り巻きたちは困惑しながらも後方から見守る。
アニエスも同様に「なんだこれ……」と後ろで呆然としている。
エルミラードがこうも一人の異性に対して付きっ切りというのは初めてのことだった。
アニエスは渦波が何かしたのではないかと疑うほど、エルミラードの態度はおかしい。取り巻きたちも異常に気づいてはいるが、渦波の家柄と実力の高さに気圧され口が出せていない。
先ほどから、余りに二人が完璧すぎて、間に入りにくいのだ。
方や学院で王子と呼ばれる金髪碧眼のイケメン。方や遠方からやってきたお姫様と見紛う清楚で優秀な黒髪美少女。共に演劇俳優かのような高身長で、家柄もトップクラス。
貴族の娘たちの好むベタな恋愛ストーリーから抜け出してきたかのような二人だ。
渦波とエルミラードは芝居がかった会話を楽しそうに投げ合い、学院の魔法科教室まで辿りつく。
到着次第エルミラードは有言実行で、模擬戦の用意を教員に行わせた。下手すれば学院長よりも権力のある主席の発言によって、すぐに教室(運動するのに十分な広さはある)での準備は終わる。
そして、優秀な学生による模範的な魔法の見学という名目で、二人は仲良く生徒たちに囲まれながら向かい合う。
「――それじゃあ、軽く魔法の撃ち合いでもしてみようか? 僕が学院で『オーバーロード』と呼ばれる所以、見せてあげよう」
「エルのそういう負けず嫌いなところ、嫌いじゃないよ。ただ、だからといって手加減はしてあげないけどね」
教室中央で、にやりと笑い合う二人。
周囲の教員や生徒たちを置いて、魔法の撃ち合いというコミュニケーションが始まった。
――その二人の学院生徒に見合わない見事な魔法の数々を見て、まだアニエスは混乱中だった。
混乱はしているが、いまの状況の答えは簡単に出せる。
結局のところ、二人は気が合いすぎているだけだ。渦波は同年代の男友達という存在に舞い上がっていて、同時にエルミラードも同じくらい舞い上がっている。
エルミラードから見れば、唐突に理想的な異性が同じクラスに編入してきて、その娘は自信家でありながら確かな実力がともなっている勤勉な美少女だった。ずっと婚約者であるスノウ・ウォーカーに望んでいたものを、全て編入生は持っていたのだ。
その彼女が立場も関係なく、とても好意的に話しかけてくれているのだから、いかに周りから王子と呼ばれる男子とはいえ――いや、常日頃王子と呼ばれて線引きされている彼だからこそ、彼女との数秒の会話で惚れこみ、彼女との軽い冗談の投げ合いで運命を感じてしまっていた。
要約すると、たった数時間で、とあるストーカー気味の白髪の守護者に負けないくらいの感情が生まれかけているところだったのだ。
そして、授業とは名ばかりの私欲まみれの魔法対決が教室で行われ――勝負が終わったあと、二人は健闘を讃え合う。その最後にエルミラードは汗まみれになりながらも渦波を誘う。
「――ああ、そうだ。今日の授業が全て終わったら、僕の屋敷に来てくれないか? 君の魔法の知識を……いや、君の事を僕はもっと知りたい……!」
「うん。もちろん、行くよ。私もエルのことをよく知りたいと思っていたんだ」
それを後ろで見守るアニエスは、表現にしにくい恐怖を抱いていた。
気持ち悪いほど、とんとん拍子で話が進んでいく。どこかのベタな物語が、空から落ちていくかのような速度で転がっていく。
今日の朝、アニエスはノスフィーに頼まれた。
渦波のことを頼むと言われ、軽い気持ちで請け負った。
しかし、本当は軽い気持ちで請け負っていいものではなかったのかもしれないと、いまになって強く後悔している。
一番安心できると思っていた渦波が、実は一番厄介なのではないかと思い始める。
なにせ、いま目の前に見える光景は、明らかに普通ではない。
アニエスは心の中で呟き、聞く。
ノスフィーちゃん……。
こ、これでいいのかな……?
いいよね……? いいって誰か言ってぇ……。
できれば、いますぐにでもこの状況にツッコミを――いや、この状況をいつもの調子でノスフィーに滅茶苦茶にして欲しいとアニエスは祈る。
祈るが、その祈りは届かない。
その祈りを聞く余裕が、いまのノスフィーにはなかった。いまノスフィーは――
◆◆◆◆◆
渦波がエルミラードと急接近しているとき、ノスフィーは学院内にある闘技場にて激闘を繰り広げているところだった。
このエルトラリュー学院には二桁に近い闘技場が用意されている。
決闘の文化が根強く残っているという理由もあるが、単純に各国で開催される大会で活躍してもらうための練習場というのが一番の理由だ。
生徒たちが争うには広すぎるけれど、守護者たちが争うには狭すぎる闘技場で四人の男女が戦っている。
ノスフィーは魔法で構築した光の旗を持ち、敵であるアイドに襲い掛かる。しかし、その一撃をアイドの木製の手甲に弾かれ、驚愕と共に後退する。
「――っ!? このわたくしがアイド相手に競り負け……!? 接近戦で!?」
近づきさえすれば、すぐに気絶させられると思っていたノスフィーだったが、予想とは逆の結果に声を漏らす。
余りに対面のアイドの動きが千年前と違った。
「うぉおおおおおおぉお――!! 負けませんっ、自分はもう――!!」
さらに人物イメージに合わぬ咆哮が放たれ、ノスフィーの頬が痺れる。
すぐにノスフィーの相方であるアルティがフォローに入って、アイドの追撃の拳が届く前に炎の剣を延ばす。
「あのひょろ眼鏡、並々ならぬ気迫だ! ノスフィー、深追いは止めたほうがいい!」
「ちっ! あのアイドに、このわたくしがぁっ――!!」
戦う者ですらないアイドに競り負けたことに、ノスフィーは屈辱を感じていた。
しかし、アルティの言葉に逆らわず、冷静に距離を取って仕切り直す。
ここでムキになって追い込んでも、その後ろにはティーダが待ち構えている。ここはアルティと足並みを揃える必要があった。
「おー。アイドめ、頑張っておるなー。お姉ちゃん、口にはできないけどこっそり応援しておるぞー。頑張れ頑張れ、アイドやーい。あ、もちろんノスフィーたちも応援しておるぞー」
ノスフィーは三人目の味方であるはずのティティーを戦力に数えられない。
暢気に両方を応援するティティーを置いて、敵を睨みつける。
視線の先には、決して退かぬと決意するアイド。
そのアイドは叫ぶ。
「――聞け! もうっ、ここに心の弱い自分はいない!!」
ノスフィーに戦闘面で見下されているのがわかっていたアイドは、その評価を覆すべく宣言していく。
彼はとてもどうでもいい日に、とてもどうでもいい理由で、自分の殻を打ち破ろうとしていた。
「もう自分は負けられない! 負けられないんです! 自分自身の願いのためっ、負けられない! 自分はこのときのために生きてきた! やっと『自分の未練』がわかった! 渦波様を姉として迎えることこそが未練だった!! ああっ、それが自分の『未練』だったんだぁあ――!!」
「――とのことだ! 我が友アイドのためっ、このティーダも全力を尽くさせてもらおう!!」
守護者としての宣言がなされ、それにティーダが同調する。
この場にいる人間にとって『未練』という言葉には、常人よりも重いものがある。
その『未練』と共に不退転を誓われてしまえば、流石のノスフィーとアルティといえども作戦を変えざるを得ない。
というより、その『未練』の内容に二人は引いていた。
アイドの勢いに負けて、心理面で見事に押されていた。
「ノスフィー、どうにか場所を変えよう!! 学院内では私の魔法が活かせない!!」
「ちっ、仕方ありませんね……。このままだと、小競り合いの堂々巡りなのは間違いありません。学院の外……いや、連合国の外までどうにか……!!」
その二人の作戦会議に対して、アイドは駆け出す。
ずっと防戦一方だったアイドが、いま自らの力を遥かに上回る敵に対して攻勢をかけようとしている。自分の身体に全力の強化魔法をかけて、両腕の篭手を宝石のエメラルドのように輝かせて、我欲に塗れた主張を交えて叫ぶ。
「うぉおおっ、うぉおおおぉおおオオ――――!! そう易々と移動はさせません! 自分は勝つ! 勝って見せる! 美しくなった渦波様と一緒に食事したり、共に魔法を研究したりするため! どうにか同じ学び舎に通い、和気藹々と談笑しながら同じ夢を追いかけたりして! 果ては新しい国を二人で興し、この世界を共に救い、城のバルコニーで微笑み合いながら自分たちの人生の意味を確かめ合いながら消失するまで! 自分は絶対に負けられない――!!」
「ああ、もう! さっきから気持ち悪い! 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いぃ! その無駄に計画性のある野望を口にするのをやめてくださいませんかあっ!? アイド、いまあなた滅茶苦茶気持ち悪いって自分でわかってます!?」
その正直すぎる主張を前にノスフィーは鳥肌を立たせていた。隣のアルティも「は、早くあれを燃やさないと……!!」と呟きながら苦い顔になっている。
ノスフィーが自身の最も得意とする言葉での戦いで不利になっているのを見て、アイドをフォローしているティーダは大笑いする。
「ははははっ、確かにな! 確かに見苦しさはある! だが、それがどうした!? いまアイドは『人』として真に迫っている! 悲しき運命に打ち克ち、楽しき我道を突き進もうとしている! 素晴らしくないだろうか!? 正直どっちも酷い選択だが、ぎりぎりこっちのほうがいいって私は思うね! せっかくの『理を盗むもの』たちが一同に介する現代だ! 本来ありえない『道』も悪くない! ああ、悪くはないよ!! なにせ、見てて楽しいからさあ!!」
「ティーダ……!! このっ、趣味の悪い……! 相変わらず、わたくしの騎士たちはどいつもこいつも気持ち悪い……!!」
なぜこうも自分の周りには変な男ばかりが集まるのだろうかとノスフィーが自らの運命を恨んでいると、なぜかティティーが涙目になって感動していた。
「うぅ……。ちょっと見ない内に成長したのう、アイド……。お姉ちゃん、ほんとに嬉しいのじゃ……。ちゃんと風で防音しておくから、存分に叫び、存分に戦うとよいのじゃ……」
姉的には、いまのアイドはありらしい。
その驚愕の事実を前に、ノスフィーは常識的に意見を挟む。
「ティティー!! 駄、目、です! ああいうよくない趣味は家族が止めないと!」
「う、うーむ。しかし、あれがアイドの選んだ道ならば、止めるのも……」
「あなたの弟、誤った道を爆走してますから! ちゃんと見てください、あれえ!!」
ノスフィーは血走った目で突進してくるアイドを指差す。
「うぉおおおっ、ぉおおおお――!! 渦波様ぁあああ、待っててくださいぃい! いま自分がっ、あなた様に付きまとう自称聖女(笑)を排除します――!!」
「わたくしより酷いですよ!?」
自身の性格の最悪っぷりを理解しているノスフィーは自分を例にして、いまのアイドの酷さを説明する。
しかし、その間もアイドの進撃は止まらない。
瞬間、学院の闘技場が爆発する。
アイドの限界を超えた一撃が炸裂し――守護者の戦いは第二ラウンドに突入する。
膨大な魔力と体力を有する守護者同士の戦いゆえに、その戦いは続く。
夕方を過ぎて、夜となっても、学院の郊外にて続く。
そして、その頃。この戦いが繰り広げられているすぐ近くエルトラリュー学院で、渦中の相川渦波は――
◆◆◆◆◆
「――はぁっ、はぁっ! ああ、よかった……。危ないところだったね、エル……」
「ぁあ、あぁあ……。ありがとう、カナミ……。君がいてくれなければ、僕は……」
丁度、日が落ちて時間が夜に突入した頃。
エルトラリュー学院の校舎裏の一角で、エルミラードが渦波の身体を抱きかかえていた。
渦波は吐息を乱し、額から血を流しながら、ぐったりと全身から力を抜いている。それをエルミラードが支えて、心配そうに抱き締めていた。
夜中の校舎裏なので他に生徒はいない。
いるのは、全身真っ黒の怪しい男が五人。全員が気絶させられ、無造作に地面に寝転がされている。
その光景を目にしたアニエスは一言――
「え、ええぇえ……? い、一体何があったんです……?」
またちょっと用事で目を離したらえらいことになっていた。
アニエスは聞きたくない聞きたくない聞きたくないと心の中で繰り返し、嫌々ながらも事情を聞くしかない。
「それが……。エルを狙う賊が学院に襲ってきたんだ……。たまたま、私が居合わせてたから、二人で撃退して……」
「ラウラヴィアあたりで仕事をしているとよくあることなのだが……、まさかこの学院内で暴挙に出る輩がいるとは……。本当にすまない、カナミ。君の顔に傷が……」
このエルトラリュー学院に刺客?
そこにたまたまカナミさんが居合わせた? ほ、本当に?
もうアニエスは何もかもが信じられなかった。
エルミラードと仲良くなりたいという渦波の都合の好すぎることが、今日は起きすぎている。この学院に何かの『魔法』がかかっているのではないかと思えるほど、とにかく展開が速すぎる。
物語のペースが速すぎて、アニエスは恐怖で泣きそうだ。
「エル、気にしないでいいよ。私が勝手に割り込んだんだからさ」
「しかし、僕のせいで……。いや、ここで話すよりも、早く落ち着いて休めるところに行こう。ここは危険だ。……そうだ。まずは僕の屋敷まで行こう。あそこなら絶対に傷が残るようなこともない」
いつの間にか、二人は愛称で呼び合っている。怖すぎである。
さらに、四大貴族の公爵家であるシッダルク家へ、本当に今日会ったばかりの渦波がお呼ばれされようとするのを見て、アニエスの恐怖は加速する。
怪しすぎて、そこで寝ている人たちがアイカワ家の仕込みとしか思えないほどだ。
「大丈夫……。このくらいなら平気だから……。このまま寮に戻って、知り合いに回復魔法でもかけて貰うよ」
「しかし、それでは僕の気が収まらない……!!」
首を振って、遠慮し続ける渦波に対してエルミラードは強行する。
渦波の身体を強く引き寄せ、台詞を言い直す。
「いや、カナミ。君が怪我をしているからじゃない。僕が君に来て欲しいと願っているんだ。だから、私の家まで――!」
「ううん、駄目。……だってもう私にはエルの家まで行く理由がないから」
エルミラードは言葉を飾ることなく、本音から渦波を誘おうとした。
だからこそ渦波は、儚げに微笑を浮かべつつ首を振る。
ついでにアニエスは「え、何これ……」と思いながら見守る。いつの間にか物語終盤に入っていた二人のラブロマンスを強制的に観賞させられている。
「今日一日でエルのこと、よくわかったよ……。エルは……ちょっと傲慢だけど、とても前向きで。少しお節介が過ぎるけど、困っている人を放っておけないところがあって。自分に身の危険が迫っているとわかっていても、同級生を心配して人気のないここまで移動する優しさがあって。そして、割り込んだ私が白刃に晒されたとき、身を挺して庇ってくれる勇気もある。本当にエルのことがよくわかったから……だから、もう終わり」
渦波はエルミラードの腕の中で、彼の良いところを連ねて言った。
しかし、最後には一人で立ち上がり、エルミラードの手から離れる。そして、自分の今日の真の目的を伝える。
「エルはとっても素晴らしい人だね。スノウから聞いていた以上に、とってもかっこいい人だってわかったよ」
「スノウ君から聞いていた……? ……ああ、カナミはスノウ君の友人だったのか。……それで」
エルミラードは自身の婚約者の名が出たことで全てを察した。
今日一日、不自然なほどに渦波が自分に興味を示していた理由がわかった。
その様子を渦波は見て、聞く。
「ねえ、エルは怒る?」
「……いや、そのくらいのことで怒るわけがない。友の為にここまでできたカナミが、私よりもかっこいいと思ったくらいだよ」
「ありがとう。……でも、だからこそ今日はバイバイ。エル……。スノウのこと、よろしくね……」
「ああ……」
はっきりと渦波はエルミラードの誘いを拒否して、一人で寮に向かって歩き出した。
それをエルミラードは引き止めない。
その早すぎる展開にアニエスはついていけていなかったが、なんとかエルミラードが玉砕してふられている空気だけは感じ取れていた。
アニエスは渦波の背中を見つめ続けるエルミラードに声をかける。
それなりに仲がよく、それなりに立場が近く、それなりに心許せる間柄だと思っているからこそ、それなりに突っ込んだ話をする。
「……シッダルク卿、いいんですか?」
「……いい。いまは潔く引くしかない。間違いなく、僕の気持ちは聡明な彼女に届いていた。その上で、あの言葉だ」
その表情からもはっきりとわかることだが、エルミラードは全く気落ちしていない。
むしろ、嬉しそうに笑って、とても挑戦的に話していく。
「この顔の熱。そして、この敗北感。久しく忘れていたな。――アニエス、彼女に伝えてくれ。『スノウ君との婚約は家同士が決めたもので、互いに打算しかなかったものだ。僕と彼女は建前だけの付き合いをしてきて、深くは関わり合おうとしなかった。しかし、一度二人で会って、胸のうちを曝け出し合おうと思う。互いのことをよく知って、互いに本当に望むものを確認し合う。まずはそこからやり直させて欲しい』」
「……わかりました。そこは私の役目っぽいですから、お約束します」
ここまで来ると、アニエスも事情を察することができていた。
渦波が学院に編入してきた理由と目的――それは学院で孤立している竜人スノウのためだったのだ。
「ずっと冷めているのだと思っていたが、まだ僕の中にも残っていたようだ。……スノウ君には悪いが、色々とやり直しさせてもらおう。何もかも一から鍛えなおさないとな……」
エルミラードは身を翻し、この場から去ろうとして――一言だけ残す。
「ああ。いまは無理でも、近い未来に再戦させて貰う。僕の『憧れの人』――」
状況から置いていかれているアニエスからすると「何言ってんだこいつ」と言いたくなる捨て台詞だったが、エルミラードの声と姿がイケメンなのでぎりぎりのところで絵になっていたので、喉のところで食い止めることに成功する。
そして、校舎裏に取り残されるアニエス。
とりあえずは今日一日で渦波とエルミラードの何かが始まり、そしてすぐに終わったことはわかる。
美男美女となると恋愛も高度で無駄なくスピーディーなんだなあと思いながら、同時にここで寝ている刺客っぽい人たちの処理は私がやらないと駄目なのかなあと泣きたくなるアニエスだった。
こうして、無事渦波一人でスノウの婚約調査を解決(?)していた頃。
アニエスに渦波を頼んだノスフィーたちは――
◆◆◆◆◆
――深夜。
激戦は佳境も佳境。
連合国の外にある平原にて守護者同士の戦いの決着がつきかけようとしていた。
後日、連合国の怪談として語り継がれる『夜空を食らう巨樹人』の戦いである。
「出ろぉおおおおおおぉおオオオオォオオオ――!!
『対始祖用封印巨樹人』ァアアアアアアア――!!!!」
真夜中の平原にアイドの全身全霊の魔法が鳴り響く。
大地が割れ、地下に隠れていた『三代目世界樹』が天に目掛けて龍のように育ち、昇っていく。
夜空の星全てを飲み込むほど巨大な樹木は、成長しながら形を変えていく。龍から人型となり、根の束で構成された両足が大地を揺らした。
いまここに神代の伝説の一つ。
街すら軽く踏み潰す樹の巨人が召喚されたのだ。
「――っ!? いまさら、そんな古いもので! ――魔法《フレイムフランベルジュ》!!」
とはいえ、相対するも神代の伝説の一人『火の理を盗むもの』。
アルティの掲げた両手から、巨人を両断できるほどの炎の剣が燃え上がる。その巨大な剣は横薙ぎに振るわれ、敵の巨人を一刀両断するかに思われた。
しかし、炎が触れる瞬間、樹木の中から輝く水晶が苔のように生える。そして、濃い魔力を含んだ水晶は鎧となって、世界を燃やし尽くす炎を弾き返した。
「なっ!? 私の炎剣でも斬れない!?」
「はっ! はははははっ! 甘いですよ! 周囲を気にせず戦えたら必勝と思っていましたね! 広い場所ならば負けない!? 驕ったなァ! それはこちらの台詞です!!」
巨人の中に引きこもっているアイドが周囲の植物を通して、外の守護者たちに語りかける。
それに対して、正面に立っていたアルティは天に届くほど肥大化させた炎剣を振り回そうとする。
「ならば! もっと強く、何度も叩けば良いだけのこと――って、動きが速い!? というか、速すぎてキモい! アイドっ、なんか動きがおかしくないかい!?」
動く炎剣よりも速く、巨人は動いていた。
巨体に見合わないステップを踏み、まるで子供がダンスしているかのような軽やかさを見せ付ける。
ただ、一歩踏むごとに郊外の平原は歪み、隣の連合国は地震に襲われている。
「ふははははっ! この機動力っ、見ましたか!? 確かに私一人の力だけでは、千年前と同じく鈍く脆く大きいだけの的だったことでしょう! しかし、今日は違う! 自分には味方がいる! 千年前にはいなかった心強い味方たちが!!」
「その口ぶり! まさか、中に他のみんなを!?」
「ええ! 千年後の今日、ようやく私の切り札は完成に至りました! まず欠点だった柔軟性とスピードを補強! 液体化したティーダ様が血液の代わりとなって巨人内を循環することで、さながら人の神経そのものを得ました! さらに気絶させたローウェン様を魔力炉にして、絶対に砕けない水晶の鎧を構築! 操縦はリーパー様! 彼女ならば外の状況を確認しつつ、的確に動かせます! 自分はセンスないから操縦に向いてませんでした! 非常に悲しい!!」
巨大樹人を自由に動かせるという快感によって、アイドの興奮は最高潮に達そうとしていた。饒舌に自らの切り札の仕組みを語り、続いて中で操縦を楽しんでいるリーパーの声も平原に響く。
「すごい! すごいこれ! 楽しいぃいい――!」
リーパーは赤子のように覚えが早い。
楽しみながらも巨人の操縦は一秒毎に鋭さを増し、曲芸のような動きでアルティの炎の剣だけでなく魔法の矢も躱していく。もちろん、いくつかの被弾もあったが、それは決して砕けることのない水晶の鎧によって防いでいる。
木属性と炎属性。
相性は最悪だったはずだが、それを上回るだけの力を巨人は有していた。
戦闘において無敵だったアルティが攻めあぐねているのを見て、思わずアイドは高笑いをしてしまう。
「はっ、はははははぁっ! いかにアルティ様といえど、敵わないと見ました! 我がヴィアイシアはっ、完っ、全っ、無敵ぃいいいいいい――!!」
笑い声に合わせて、巨人は舞い、ときには水晶の拳を打ち下ろしてくる。
それを火と光の『理を盗むもの』は敵の攻撃を避けながら、作戦会議を行う。
ノスフィーは敵の気持ち悪さに顔を歪ませながら、パートナーと話す。
「あの変態シスコン白髪ひょろ眼鏡っ!! 完全に調子に乗っていますね……!!」
「んー、だが確かに敵わないのは事実だね。これ以上の本気の攻撃を出すと、大陸が焦土になる。後ろのティティーも同じで、たぶん大陸が割れる」
「ええ、わかっています。単純な火力以外の攻撃を出さないといけません」
「ならば、こちらも共鳴魔法してみるかい?」
「馬鹿を言わないでください、アルティ。私たちは絶対に共鳴できません」
「昔ならいざ知らず、いまの私たちならできそうな気もするけどね……」
共通の敵を前にして、アルティは千年前ならば絶対に言わない台詞を吐いた。その言葉は嫌味や皮肉は一切なく、心からのものだった。
そのアルティの好意的な笑顔を見て、ノスフィーは一瞬だけ迷った。
だが、すぐにそっぽを向いて、憎まれ口を叩く。
「それでも、私は渦波様と以外は嫌です……」
「……そうか。余計なことを言ってしまった」
アルティは「あと少しかな」と判断して、ここで無理強いするのはやめる。
作戦会議を振り出しに戻して、相談を再開させる。
「しかし、共鳴なしとなると、ローウェンの水晶が本当にやっかいだね。あれのせいで私の炎が内部に入り込めない」
「わたくしの光の干渉はティーダが弾いています」
二人が話せば話すほど隙のなさがはっきりとわかってくる。ああもアイドが高ぶっている理由がわかるほどの無敵ぶりだ。
もはや、戦闘による破壊は無理だと判断したノスフィーは、溜め息をつきながら自分の正攻法を使うことにする。
「はあ、仕方ありません。わたくしの手札を一つ切りましょう。あまり切りたくなかったのですが……」
ここまでやってきた真っ向勝負は、いわば敵のアイドと味方のアルティに合わせたものだ。本来、精神干渉タイプのノスフィーは向かい合って勝負などしない。
その意味をいま魔法に乗せて証明していく。
彼女の本来の役割である癒しと救済で事態を解決しに行く。
「――ローウェン・アレイスを回復させます。その上で、少し暴れて貰います」
ノスフィーは光の魔法を構築させて、全身を発光させる。
そして、魔法名も告げず、誰に向けてでもなく、構築した魔法を発動させた。
「ローウェンを? しかし、敵の中に魔力は通らないのだろう……? ――ああ、そういうことか」
何をしているのかとアルティは戸惑ったが、すぐに魔法の意味を理解する。彼女の戦闘時においてのみ回転の速い思考が、答えを導きだしたのだ。
「本来わたくしの魔法はそういうものですからね。なのにローウェンは無防備にも、私の回復魔法を本気で信頼して、素直に受け取りました。そのお礼を、いましましょう」
全ての準備は終わっていた。
最初から勝敗は決まっていた。アイドがローウェンを仲間として連れてきた時点で――『地の理を盗むもの』の裏切りによる敗北は確定していたのだ。
それを証明するノスフィーの主としての命令が世界に響く。
「我が騎士ローウェン・アレイスに命じる。我がフーズヤーズの御旗に立ちふさがる愚かなる魔を全て――斬れ」
千年前の戦争で使われた懐かしき一文が流れ、一つの魔力が『呪い』を発動する。
それはアイドが巨人の中に用意したローウェンの身体――その奥深くに潜む『光の魔力』が熱を持ち、身体に覚醒を促す。
彼女のオーダーはシンプル。
斬れ。敵を斬れ、ローウェン・アレイス。
それだけだ。
ゆえに、ローウェンの身体も、とてもシンプルに動く。
身体に染み付いた型のまま、全てを断つ剣閃が煌く。
場所や距離など関係なく、物の大きさや固さも関係なく、問答無用で斬り裂いていく。
「――むむっ、これは!? 内部で異常が発生!?」
「あ、アイドお兄ちゃん。これ、たぶん、ローウェンが……」
「魔力炉のトラブルか!? ならば、出力を自分に切り替えて――」
近くの木々(スピーカー)から内部の声が聞こえてくる。
しかし、それが全て聞こえ終わる前に、剣閃は全てを終わらせる。
まず一つ。
絵画を引っかいた掻き傷のように、世界に線が奔った。
巨人の右腕が根元から切り離される。内部からの剣によって、とても軽く斬られた。
続いて三つ。その右腕が落ちる前に、三角を描くように世界の線が足されていく。
巨体を物ともせぬローウェンの『魔力物質化』による長い刃。さらに、その速すぎる剣閃が、一呼吸が終わる前に巨人の四肢を綺麗に斬り分けていく。もちろん、その刃は自分の理である【不壊の水晶】をも断った。
――『光の理を盗むもの』の命令によって、『地の理を盗むもの』ローウェン・アレイスの剣術が行使された。
たったそれだけのことで『木の理を盗むもの』が完全無敵と信じていた巨人は、あっさりと崩れ落ち始める。
切り離された両腕は平原に落ち、腰と胴体がずれてしまい、支えを失った上半身が倒れようとしている。
「う、うぉ、ぉおおお――!? まさかっ、馬鹿な! この自分のヴィアイシアがぁああああ! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁああああああ――!!」
崩れていく巨人の中で、とても悪役らしい叫び声をアイドはあげる。
巨人は上半身を地面に打ちつけ、その自重で首が折れてしまう。頭部が取れ、両腕も取れ、いかに魔法で作られた巨人と言えど再構築は難しい状態となってしまう。
まるで山一つが崖崩れしたかのような光景と共に、平原は土煙を巻き上げる。
その煙の中の様子を、ノスフィーとアルティは魔法で油断なく窺う。
「ふう。これで決着ですね。ローウェンは……あ、リーパーを連れて逃げましたね。まあ、今回だけは見逃してあげましょうか」
「素直じゃないね、ノスフィー。感謝してるくせに」
巨人の中に残るのはアイドとティーダのみ。
切り札の巨人を内部から破壊され、二人とも魔力も残り少ない姿で倒れている。
ノスフィーは勝利を確信し、ずっと後ろでさぼっていたティティーに連れて来るように頼む。
ティティーは戦闘でなければと素直に――風の力を使って煙を払い、木々を折り、水晶の瓦礫を押しのけ、巨人の中から守護者二人をサルベージしてくる。
「ほいほいっとな。二人とも連れてきたのじゃー」
崩壊に巻き込まれてボロボロの二人が、ノスフィーとアルティの前に連れてこられ、すぐさま正座をさせられる。
もう敗北は認めているアイドだったが、心だけは屈すまいと女性陣を睨みつける。
「くっ……! 今回は後れを取りましたが……次はこうはいきません! 自分の渦波様への『未練』は本物。たとえ全身燃焼され、洗浄洗脳され、太陽まで蹴り飛ばされても、願いを違えることはありません!」
「そう言うでない、アイド。反省するのじゃ。童は本気で蹴るぞー。めちゃ痛いぞー」
仲のいい姉弟は和やかな会話をしていた。まるで悪戯をした子供をしかる姉のような光景だったが、そんな世迷言に釣られないのがアルティとノスフィーである。二人は冷笑を浮かべて、今回の罰を淡々と口にしていく。
「いい心意気だ、アイド。ならば、とりあえず火炙りの拷問にかけようか? 全身燃焼なんて楽な終わり方はしないから安心してくれ。効率的に苦しみ続ける方法は、この身をもってよく知っている」
「では、わたくしは気持ちいいのと気持ち悪いのを無限に繰り返してあげましょう。どちらも認識できない廃人になってから、回復魔法で元に戻します」
「ああ、なるほど。発狂してもノスフィーが引き戻せるのならば、色々と幅が広がるな。拷問の幅が」
「アルティ、人は苦しくても死にますが、気持ちよくても死を選ぶという生き物です。ふふっ、二人で力を合わせれば、面白い焼き方ができそうですね」
とても酷い理由で共鳴魔法が完成しそうな二人を見て、ティティーは震える。
「こ、怖いー……」
だからといって弟を助けようとはしない。
今回は自業自得の部分が多く、弟一人の力で乗り越えて欲しいと願っているのだ。その姉の期待を背中に受けて、アイドは残忍な二人の笑みの前で虚勢を張る。
「屈しませんよ……! そのくらいの責め苦、我が人生に比べれば……!!」
「いやいやいやっ、痛み慣れしてる私たちでも流石にきついよ、いまのそれ!」
面白半分の参加だったティーダは少し心折れかけていた。いつもの余裕は一切なく、能面から冷や汗を垂らしている。
そのティーダに対して、ノスフィーはにっこりと笑いかける。
「ふふふ。ここだと連合国まで悲鳴が届きそうなので、一旦迷宮に戻りましょうか」
「いや、ここから連合国までって、どれだけでかい悲鳴出させるつもりだ!?」
「渦波様を戻す手伝いをしてもらえるように心を念入りに折らないといけませんからね。こちらも本気です」
底冷えする笑顔を向けられ、アイドは睨み返し。
「く、屈しません……! 殺すなら殺しなさい……!!」
「いや、待て! 私はギブアップ! 協力するから減刑を頼む!」
あっさりとティーダは裏切った。隣で正座していたアイドは、最後の味方の裏切りに「騎士ティーダぁああ!?」と絶望する。
「そうですか。まあそれはそれとして、拷問はやりますけどね。どうせ、ティーダが煽ったのでしょう? あなたには色々と腹に据えかねているので、重点的にいきます」
「証拠もないのにひどいなっ! いや、当たってるんだけども!」
もちろん、ノスフィーは取引に応じない。
アルティも同様だった。
最後の常識人であるティティーも、ティーダが愉快犯であることは知っているので止めない。
こうして、手始めに両手足を切断されたティーダがずりずりと迷宮の中に引きずりこまれ――第一次守護者大戦は終わりを迎える。
アイドとティーダの共作である『三代目世界樹』の『対始祖用封印巨樹人ヴィ・アイシア』は、見事ノスフィーの計略によって破壊された。
そして、なぜかこの戦いの跡地は連合国西部の名物となる。
夜中の騒音や地震などで連合国に迷惑をかけたものの、なんだかんだで世界樹なので、その周辺の作物がよく育つようになったのだ。いい感じに綺麗な水晶が散らばっているので、観光もできる。
またしても連合国のお偉いさんたちはまた微妙な顔で、守護者たちの暴走を黙認することになる。
最後に、その日は朝まで迷宮奥深くから地上まで悲鳴が届き――事件は一件落着。
スノウの婚約者調査も終わり、守護者たちのエルトラリュー学院編入は大成功(?)に終わったのだった。
◆◆◆◆◆
――そして後日、アイドとティーダの強制的な協力によって渦波は元に戻る。
また渦波の身体をねっとりと触るノスフィーの隣で、渦波は赤面し慟哭する。そして、自分が女であると信じてやってきた数々を思い出していく。
まずエルミラードと過ごした一日、説明するまでもなく黒歴史である。
アニエスの冷たい目線を思い出すだけで死にたくなる。
続いて、余った時間でライナーやハインのところへ遊びに行った記憶もあった。あのとき、ライナーの顔が赤かった理由がいまわかる。なぜ僕はお姉さん風を吹かして、しつこくライナーの世話を焼いていたのだろうか。恥ずかしくて、死ぬ。本気で死ねる。
パリンクロンが途中で大した用もないのに会いに来た理由もいまわかった。どこかで噂を聞きつけて楽しみにきたのだ。あいつは涼しい顔で話していたが、内心で笑っていたことだろう。間違いない。
他にもハインさんやグレンさんのところでも、他にも他にも――!
「ぁあ、ああぁあっ……! ぁああぁ、あああぁぁああああアアアアア゛ア゛アア゛ア゛――――!!!」
二日続いて、迷宮に悲鳴が木霊する。
そして、渦波は引きこもりの不登校になってしまい、たった数日で黒髪長身転入女生徒は学院の幻となるのであった。




