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IF『守護者ルート』その2(三章までのネタバレあり)

※三章までのネタバレがありますのでご注意ください。

『守護者ルート』の続きです。

 連合国最大の川フウラに浮かぶ巨大演劇船『ヴアルフウラ』。

 その周囲を取り囲む船は隙間なく鎖で繋がれており、その船団は遠目に見れば島のように大きい。その船のいずれかに一度ひとたび乗れば、川の上だというのに、まるで陸地の上へいるかのような錯覚に陥ることだろう。


 なぜ、このような大掛かりな舞台が用意されたかというと、答えは単純だ。

 大陸最大の武術大会――でありながら大陸最大の舞踏会も兼ねている『祭り』が行われるからだ。


 その大会の名前は『一ノ月連合国総合騎士団種舞踏会』。

 この祭りが終わったとき、この世で最も強い人間が決まる。

 同時に大陸で一番の栄光を得る人間も決まる。


 だから、人は集まる。

 その栄光の瞬間へ挑戦するもの、観戦するもの、利用するもの。様々だ。

 様々な人間が、今日、ここにいる。

 『一ノ月連合国総合騎士団種舞踏会』に参加している。


 そして、『一ノ月連合国総合騎士団種舞踏会』が行われている船団――その南の劇場船で、一際大きな声が起こる。

 他の闘技場と比べ、そこの熱気は異常だった。


 そこで戦っているのは一人の剣士。

 赤銅色の髪を揺らす、目に隈のできた男。

 名前はローウェン・アレイス。


 ローウェンは剣を振るう。

 振るうたびに闘技場へ集まった観客たちが歓声をあげる。

 その剣技のレベルの高さに人は驚き、楽しみ、陶酔している。

 こんなにも美しく激しい芸術的な戦いがあるということを、今日観客たちは初めて知った。見るもの全てを新鮮と感じる赤子のように、誰もが興奮を抑えきれない。


 ローウェン・アレイスの剣は、魔を絶つ剣――。

 

 振るうたびに、いかなる暴虐な魔だろうと斬り裂いていく。

 その剣は神速を超え、その剣はどこまでも届き、その剣に斬れぬものはない。


 現に、いまも襲い掛かる魔法の嵐の全てを斬り裂いているところだった。


 赤い炎の巨人が縦に割れる。

 地面を這う黒い液体が払われる。

 千にも及ぶ魔法の泡が全て弾ける。


 それを一呼吸のもとに行うのだから、ローウェンの剣がいかに異常かよくわかる。


 しかし、次の瞬間には、さらなる魔法が襲いかかる。


 割れた炎の巨人が収束し直す。そして、今度は温度を上げて蒼い炎となり、形を不死鳥へと変えて飛びかかる。

 打ち払われた黒い液体が集まり、闘技場を埋め尽くすほどの巨大な液体化け物スライムと化し、のそりと動く。

 弾けた泡の中から紫色の魔力が溢れ、闘技場を汚染していく。まるで蜃気楼のように、景色は捻じ曲がっていく。


 それでもローウェンは一歩も引かない。


 たゆたう視界の中でも正確に、触れるもの全てを焦がすフェニックスと触れるもの全てを溶かすスライムを細切れにしていく。

 その光景は、まさに英雄譚――いや、神話に近い。


 次々と繰り出される大魔法を乗り越え、伝承の『化け物』に似たモンスターを斬り裂いていく。

 それも、たった一つの剣だけでだ。


 大会関係者と司会は避難した先で言葉を失い、全観客は魅了されて立ち上がる。

 連合国至上最高の戦いを前にして、喜びの歓声は途切れない。


 闘技場に入る全員が顔を明るくしていた。


 ――たった一人、戦っているローウェンを除いて。


 ローウェンは険しい顔で前方を睨む。

 おそらく、この会場で一番楽しそうな顔をしているであろう三人組を睨みつける。

 その三人の表情は仮面で隠れている。なので、その三人が楽しそうと思うのはローウェンの予測だ。しかし、ローウェンには確信があった。


 あの三人、絶対に笑ってる!

 間違いない! 


 赤い仮面の少女は二羽目のフェニックスを構成する。そして、自身の背中にも火炎の翼を生やして、ローウェンから距離を取りつづける。

 覆面の剣士は、まるで液体のような柔らかい身体で戦場を跳ねる。そして、多くの黒い液体を撒き散らし続ける。

 黒い仮面の少年は背筋を凍らせる魔力を漏らす。その奇妙な魔力は会場の視界を侵し、空間を歪ませていく。いまや、この戦場の距離感は彼の手の中だ。


 全く容赦のない連続攻撃に、ローウェンは怒りが頂点に達しかけていた。

 そして、怒りに身を任せ、自らの秘奥を持ち出す。


「――『私は世界アナタを置いて行く』!」


 剣を腰に戻して、構え、ローウェン・アレイスの人生を詠唱しようとする。


「『拒んだのは、あなたが、――っ!?」


 しかし――


「ああ、それは駄目だよ。キャンセルキャンセル」


 赤い少女が闘技場の熱を上げる。

 炎の花を地面から咲かせ、集中しているローウェンの足を焦がす。それは大したダメージを与えられない小技だったが、大技を邪魔するには十分だった。


っ!!」


 ローウェンは詠唱を中断して、後方へと跳ぶ。

 そして、魔法を放ってきた少女へ叫ぶ。


「い、いまのは私の必殺技なんだっ。空気を読んで、ちょっと待ってくれないかな!?」


 ローウェンの幼稚な要求に、少女は溜息をつく。


「はぁ……。何を言ってるのかな、この剣術馬鹿は。敵の大技の準備を待つ馬鹿がどこにいるんだい?」

「だがっ、そっちばかり大技を撃って、卑怯じゃないか!」

「それは戦術と準備の差だよ。こちらは練りに練った戦術で戦っているからね。まあ、どこかの馬鹿は「――ふっ。もちろん、『舞闘会』には一人で出るつもりさ。三人で参加するところを、あえて一人で参加する謎の孤高の剣士。ふふふっ、いいっ! 実に格好良い!」なんて調子に乗って、ろくに準備もせずに参加したけどね」

「いやしかし、あのとき君たちはそれを見送ったじゃないかっ! だから私は――!」

「――あっ、隙あり」

「あ、熱い!! だから、さっきから話してる隙に魔法撃たないでくれるかな!? 君たちには血も涙もないのか!?」

「いや、この会話も戦術の内だよ。釣られてぽろぽろ答えるのが悪い」

「決闘の口上と口論は、戦いの花じゃないか!」

「戦いの花? ふむ、なら勝手にすればいい。ただ私は花よりも結果を取るけどね」

「くっ、そんなんだから、君は千年前にはぶられるんだよ! そうやって、君は空気を読まないから!」

「――……ローウェン。いま君は言ってはならないことを言った」


 赤い髪の少女――アルティは無表情になり、会場の温度が下がる。

 急激に冷えた会場の中、燃え盛る火炎の勢いが増す。けれど、温度は上がっている気がしない。


 覆面の男と仮面の少年――ティーダとカナミは、仲間であるはずの少女から距離を離し始める。


「あっ」

「やばい。超やばい」

「うーん、かつてないほど怒っているね」

「炎が蒼を超えて白になったら僕は逃げるので、あしからず」

「おいおい。薄情なやつだなぁ、カナミは。ぷんぷんに怒った彼女を宥められるのは君だけだというのに」

「前、そう言って僕を囮にしたよね? あのとき、師匠を宥めるのに、どれだけ時間がかかったか知ってる? 一週間ほど甘味処を回り続けて、僕の財布がすっからかんになったの知ってる?」

「ふふふっ、それで彼女の炎が収まるのなら安いものだ。私には決してできない偉業だよ。放っておけば、国を一つ灰燼に帰していただろうから、仕方ないじゃないか」

「……まあ、でも今回は僕の代わりがいるから大丈夫かなって思ってる。だって、守護者ぼくたち、仲間だもんね! ローウェンなら何とかしてくれるって信じてる!」

「ふふっ、そうだな。では私も仲間を信じようか。頑張って受け止めきってくれ、ローウェン。君ならできる。えっと、確か……、アレイスの剣は全ての魔を絶つんだろ?」

「すごい。アレイスの剣すごい」

「いやー、憧れちゃうねー。正統派剣士の格好良さってやつだね。私は我流だから、羨ましいよ」


 ローウェンは遠ざかっていく友人たちを見ながら、尋常じゃない量の冷や汗を流す。


「いや、アルティ。すまない。いまのは失言だ。撤回する。だから――」


 目の前のアルティの怒りを収めようと必死だ。


「――駄目だ。絶対に許さない」


 だが、アルティの冷たい声を前にローウェンの言葉は塗り潰される。


 そして、アルティの身体から白い炎剣が何本も伸びていく。闘技場の中を二羽のフェニックスが舞う。炎の粒子が降り注ぎ、ローウェンを覆うように炎の草花が並ぶ。

 どこまでも上がっていく温度、フィールドが灼熱の地獄へと変貌していく。


 そして、遠くでティーダとカナミが手を振る中、ローウェンは最後に思う。


 ――ど、どうしてこうなった……。


 こうして、『一ノ月連合国総合騎士団種舞踏会』南エリア第一試合は終わった。



◆◆◆◆◆



「って勝てるかぁああ! こんなのぉおおおお!! 不死身のティーダが前衛でっ、攻撃魔法特化のアルティが後衛でっ、中心に次元魔法騎士のカナミ!? 無理に決まってるだろぉおお!!」


 ローウェンの咆哮が、迷宮二十層に反響する。


「いっえーい!」

「いっえーい!」


 その近くでカナミとティーダはハイタッチを交わす。


「しかも、君たち次の試合で負けてるし! そこは優勝してくれよ! 最悪でも優勝者と最初に当たったせいで一回戦負けとなった剣士みたいな扱いにしてくれよ!!」


 いまにも泣きそうな顔でローウェンは、二人に詰め寄る。しかし、二人とも涼しい顔で受け流す。


「いやあ、だって仕方ないじゃん。わざとじゃないんだから」

「カナミの言うとおりだ、ローウェン。二回戦で当たった彼女らは、実力では劣りながらも、大会のルールを最大限に利用し、見事格上狩りジャイアントキリングを果たした。その勇気を讃えこそすれ、責めることはできないな。……そこは、格上狩りジャイアントキリングできなかった自分を責めるのが筋だろう?」

「いや、いやいや! そもそも、君たちが参加してること自体おかしいんだ! 私は言ったぞ、「『舞闘大会』で優勝すれば未練が果たせそうだ。みんな、協力してくれるよな?」って! そのときちゃんと頷いていたじゃないか!」


 というか、ローウェンは少し泣いていた。


「ああ、頷いた。だから、君のために『舞闘大会』を盛り上げに行ったんだろ? 私たちは友達だからな。当然の応援だ」


 けれど友の涙を前にしても、ティーダの態度は変わらない。


「なんでそうなるんだ! 違うだろっ、そこは応援席で私を見守るところだろ! なんで三人で参加して、運営側を脅して、一回戦で当たって、本気で勝ちに来るんだ!? 邪っ、魔っ、だああっっ!!」


 その奔放な態度にローウェンは怒り狂い、とうとう切れた蝋燭のようにうなだれる。


「くぅ……、これで『舞闘大会』はおじゃんだ。私はどうやって未練を果たせばいいんだこれ……」

「いっえーい!」

「いっえーい!」


 カナミとティーダは再度ハイタッチする。


「だからハイタッチするなよ! やっぱり、君たち私の邪魔してたんじゃないか!」


 ローウェンはもう一度蝋燭に点火して、立ち上がって怒る。

 こうして、男三人は往年の友人のようにふざけあい続ける。


 その後ろで、女の子二人が互いの髪を弄りあっている。


「やった……、これでローウェンは消えないんだね! アルティお姉ちゃん!」

「そうだね。ちょっと危うく蒸発させかけたけど、これで一安心だよ。私は約束を守る女だからね」

「ありがとー! おねーちゃーん!!」

「ふふふ、リーパー。これからもどんどん私を頼ってくれていいよ」


 リーパーを可愛がりながら、最後にアルティはぼそりと呟く。


「――正直、ローウェンだけ未練を果たして消えるなんて、腹立たしいことこの上なかったからね」

「おいっ、聞こえてるぞ! アルティいいい!! 最初、私たち守護者ガーディアンは仲間だって言わなかったか!? 仲間なら、そこは笑って見送るところだろ!?」


 ローウェンは『感応』の力で、自分への悪意に気づき、矛先をアルティにも向ける。

 しかし、アルティは知らぬ顔だ。「あの頼りにならない剣士は放っておこうねー」と言って、リーパーの髪を三つ編みにしていく。


 そして、アルティの代わりにティーダが楽しそうに答える。


「そう簡単には逝かせないさ、ローウェン。せっかくのライバルが消えるのは困るからね。ローウェンは唯一、私が全力を出せる相手だ。そうだな。私が消えるまで、ローウェンは消えないように。親友との約束だぞ?」


 続いてカナミが追い撃つ。


「ローウェン。ここで言う仲間は、足の引っ張り合いを意味するんだよ。僕も最近知った」

「もう無駄に正直だなあ、君たち! そんなキャラだったとは知らなかったよ! 千年前も、こうやって話し合いしてればあの結末は回避できたんじゃないのか!?」


 かつての凄惨な戦いと今の状況を比べ、ローウェンは憤慨する。


 それは他の守護者ガーディアンたちも思っていたことのようだ。

 アルティはしみじみとローウェンの話に答える。


「確かに。私もノスフィーの騎士である君たちとこんな風に話せるようになるとは夢にも思っていなかったね」

「うーん、どうだろうね。他に話す相手がいないから、自然と迎合しているだけな気もするけどね」

「しかし、この迎合、私は悪くないと思っているよ。生前は、こうも本心で話せる相手なんていなかったからね」


 生前を思い出しながらアルティは、やっとふざけあえる仲間たちを見て微笑む。

 その儚い姿を見て、ローウェンは少しだけ溜飲を下げる。


「……そうか。君もずっと一人だったのか。……ならば、これからは私が君の友人として――」

「――ただ、ローウェンと同じにはしないで欲しいかな。私は君ほどボッチではなかったからね。それなりに友人くらいいたよ」

「な、なぜ、それを君が知っている……!」

「君の孤高の騎士っぷりは聞いてるよ。もはや、君のボッチっぷりは伝説となってたね。キング・オブ・ボッチ(笑)」

「なんてことだ……。そんな不名誉な伝説を残していたとは……。なぜ、私はこうも栄光を取り逃すのか……。くそっ、世界め……!」


 千年前の伝説なんて、現代には残っていない。

 だが、ありもしない話でアルティはローウェンをちくちくといじめ始める。


 取り残された守護者ガーディアンティーダは、周囲をきょろきょろと見回す。


「そういえば、アイド先生はどこへ行ったのだろうね。確か、リーパーと留守番しているはずだったが」


 四人目の守護者ガーディアンであるアイドのことをリーパーに聞く。


「えっと、あのおじさんなら、結構前にいなくなったよ?」

「なん、だと……?」


 そして、『ディメンション』という魔法を持っているカナミが、アイドの情報を伝える。


「ああ、あの人なら「なんて、素晴らしいのでしょう! 彼女のような才能が生まれるなんて、世界はまだ捨てたものじゃないですね!!」とか言って、僕たちに勝ったチームの女の子をストーキングしてたよ。犯罪臭いから、僕は他人の振りして地上に置いてきた」

「ふむ。そうか」


 ティーダはカナミの説明に納得する。

 しかし、ローウェンだけは違う。


「そうか、じゃない! リーパーの呪いは自分が解くって豪語してたよな、あの人!? なんで、リーパー置いて消えてるんだ!? 『舞闘会』から帰ってきたら、リーパー一人でこっちはびっくりだ!!」


 この迷宮に自分の味方がいないことをローウェンは嘆く。

 それを放置して、アルティは悪そうな顔をする。 


「ふふふっ、では次はアイド先生の妨害でもしようかな……? カナミ、準備するんだ。新しい修行の始まりだ」

「あ、はい。師匠」

「私も付き合うよ。面白そうだ」

「アタシも行くー!」


 アルティを先頭に、カナミ、ティーダ、リーパーは続く。


「で、なんで君たちはっ、息を吸うかのように仲間を邪魔するんだ!?」


 人の好いローウェンの批判に、ティーダが半笑いで答える。


「これは邪魔じゃないさ、ローウェン。そう、いわゆる試練だ。人間だけでなく、私たちも試練を受けなければフェアじゃないだろう?」

「試練!? 試練なんて生前だけで十分だからやめないか!?」

「ははっ、確かに十分だな。けどそう焦って消えることもないだろ。もう少しくらい、この時代を楽しもうじゃないか」

「くっ、なんて人たちだ……! やはり、消えるのはやめだ。ここにリーパーを残してはいけない……!」


 そう呟きながらローウェンはリーパーの隣を歩く。


「ああ、それがいい。消えるときはみんな一緒だ」


 ローウェンが未練解消を諦めたのを見て、ティーダは笑う。言葉は綺麗だが、やっていることは外道そのものだ。


 こうして、迷宮を空っぽにして、守護者ガーディアンたちは地上へ出る。

 今日も仲良く――



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