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太閤秀吉  作者: 恵美乃海
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8 天海

 秀吉は、お拾いが、なくなった前後、しばらく大阪城に滞在したが、旬日を経ずして、隠居場にしている伏見城に移った。


 信長からの委託を、いかに実行するか。

信長が言っていた参謀としての光秀。今は天海となっている男に、先ずは、信長の出現と、信長が告げていったことを伝えねばなるまい。

 なんといっても天海は、信長様を倒した、その実行者であったのだから。


 伏見城に移った翌々日、秀吉は、今、天海が住まいする、京近郊の寺を訪ねた。


 秀吉は、天海が書斎として使っている居室に通された。

おびただしい書物の山。


 もともと、類い稀な教養人であった明智光秀。

山崎の合戦から十二年。


 この男は、さらに研鑽を積み、思考を重ねて来たのであろう。

この天海は、万巻の書に通じ、おそらくは、今、日の本で、最も博覧強記の男であろう。


 信長様は、そのことが分かっておられたからこそ、天海を参謀に、と、言われたのだ。


 秀吉は、天海に信長からの言葉を伝えた。

秀吉の記憶にある限り、細大もらさず。


「そうですか。上様は、本能寺のこと。残念には思うが、仕方がない、と、そのようにおっしゃられましたか」


 天海は、静かに合掌した。


「天海よ、繰り返す。信長様は、こう言われた。お前と光秀は、儂の夢を奪った。儂がやりたかったことをやり遂げるのがお前たちの責務だと」


「殿下、信長様は、殿下にこう言われたのですな。お前は、お前のやり方でやってみよと」


「さよう」


「世界にうってでて、世界を、その膝下に収める。世界を征伐し、この日の本に服属せしめる。

 では、世界征服と称させていただきましょうか。地理的に言えば、やはり先ずは朝鮮から、ということになりましょう。

 が、朝鮮については、殿下は既に一昨年、攻め入られ、昨年、講和なされた。」


「うむ」


「殿下、はっきり申し上げましょう。あの朝鮮征伐は失敗でした。」


「うむ、残念だが儂もそう思う。」


「朝鮮の民びとに、殿下は恨まれております。今、また同じことを繰り返されても、かの国に激しい抵抗を受け、世界征服の壮挙は、そこで終わりとなりましょう。」


「ううむ。しかしな、儂は、なんとしてもやり遂げねばならぬのだ。信長様との約束だ。」


「信長様の語られたこと、じっくりと改めて考えてみたく存じます。

 殿下、この天海にひと月の時をお与えください。

 天海は考えます。おのれがこれまで培ったことの全てをあげて、天海は、考えます。

 この世の民びとが、いかなるものなのか、どのような世を望んでいるのか。民びとの心を、いかにして掴むのか。

 そこまでの考えをもたねば、世界征服の壮挙は、成りますまい」


「分かった。ひと月だな」


「はい、天海は、いや明智光秀は、この身の全てをあげて考え抜きましょう。

 それが、光秀の信長様へのせめてものお詫びです。拙僧が、あの世に行ったとき、信長様、光秀は、これだけのことをやりました、と、この光秀も、信長様に申し上げたく存じます。」


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