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太閤秀吉  作者: 恵美乃海
7/13

7 寧々と信長

「かたい話は、ここまでとして」


「は」


「この儂が、面倒な手続きを色々やって、得ることのできた、この世への外出許可時間もまだ残っている。のお、秀吉。少し、もてなしてはくれぬか。儂も久しぶりに娑婆の酒を飲みたい。思い出話でもしようではないか」


「おお、これは気が利かぬことでございました。直ぐに支度を調えさせましょう。」


「それから、おなごも同席してもらえたらな、と、儂は希望するぞ」


「おなご、おお、それでは茶々を呼びましょう。お拾いを亡くして、茶々は嘆き悲しんでおります。伯父であるあなた様から、どうか慰めてやってくだされ」


「慰め酒か、悪いが気がすすまんな。場が暗くなる。それに、茶々は現実的な女だ。儂の姿を見たらパニックをおこすぞ。」


パニック? 信長様は、異国の言葉を使うのがお好きなのだな。訳の分からない言葉が増えてきた。まあ、前後の内容で意味はだいたい読み取れるが。


「さようですか。では、信長様のことを存じあげない、若くて飛びきりの美女を呼びましょう。」


「それもよいが、若いおなごか、あまり気がすすまんな。たいした話もできんじゃろう。

そうじや、お前の女房殿がよいな。女房殿であれば、儂の姿を見て驚くであろうが、直ぐに事態を受けとめよう。今、この城におられるであろう」


「おお、寧々ですか。はい、寧々は、信長様を大層好いておりました。亭主の儂が妬けるくらいに。喜びましょう」


秀吉は、次の間に控える侍者に、酒肴の用意を言い付け、寧々を呼びにやらせた。


しばしの時を経て、寧々が居室に入ってきた。


「おお、寧々来たか」


そう声をかけて、秀吉が、信長のほうを見やると、信長は、にこにこと、何とも優しげな表情で寧々を見ていた。

 

「寧々どの、息災であったか」


「あなた様は、まさか、信長様?」


「おお、信長じゃ、久しぶりだな」


「これは、これは、まあどうしたことでございましょう」


秀吉は、寧々に、ざっと説明した。

寧々は、最初の驚きを収め、事態を受けとめた。


「そういう訳だ。寧々どの。いや、相変わらず美しいのう。おいくつになられた」


「まあ、いやでございますよ。信長様、寧々は、四十七歳になりました。もう婆さんでございますよ」


「いやいや、そなたのことは、藤吉郎の嫁になったときから、知っておる。あの頃の寧々どのも何とも愛らしかったが、今の寧々どのも、うむうむ、よいのお」


寧々は、娘のように顔を赤らめた。

その寧々の様子を見て、秀吉は、そう言えば、寧々とは、もう何年も床を共にしてはいないな、と、ふと思った。


酒肴の用意が整った。

それから三人は、昔話に花を咲かせた。


寧々は、若やいだ声でよく笑った。信長も実に楽しそうだった。

「いやあ、やはり、寧々どのはよいのお。

おお、そうじゃ、秀吉殿。儂は、そなたに言いたいことがある」


「何でございましょうか」


「お前のロリコン趣味、何とかならぬか。あの世から見ていても、何とも見苦しいぞ」


「ロリコン? 何ですか、それは」


その言葉の意味については、信長は、きちんと説明してくれた。


「お前が、大変な女好きであることは構わん。寧々どのの前で申し訳ないが、男とはそういう者だ。だが、お前が相手にするおなごは、ほとんどが、大人になるやならずやの、初めて男を知る、いたいけな乙女ではないか。初めての男が、お前のような、貧相で小男の爺さん、そなた、可哀想だとは思わんのか」


「いや、それは、何とも」


「例えば、家康のおなごの趣味はよいぞ。話していて、あまり面白味のある奴ではなかったが、あやつが相手にするおなごは、だいたいが、夫を亡くした後家だ。そういうおなごを相手にするほうが愉しいと、儂も思うがのう」


「ほんに、寧々もそう思います。いつも言っているのでございますよ。お前さま、もうちっと、大人のおなごを相手になされませと」


秀吉は、黙ってしまった。


「まあ、おなごの趣味というのは、それぞれの男で異なるからのう。やむを得ないのかもしれんが、今、言ったこと、少しは心にとどめおいてくれ」


その話題は終わり、また、思い出話が続いた。


秀吉は、気になった。信長に対する寧々が、何ともなまめかしいのだ。秀吉が、時に、どきっとしたほど。


このふたり。

秀吉は、思った。

もしかして出来ていたのか。


酔った信長が、口を滑らした。


「やはり、寧々どのは、いいのう。このまま、戻らねばならぬのは何とも残念だ。また、いつぞやの夜のように」


信長は、そこで気付いた。語尾を濁した。


「ん、どうした秀吉。何という顔をしておる。今、言ったことか。戯れ言、戯れ言」


はっはっは。と、取って付けたように信長が大笑する。

寧々が合わせて笑う。

不自然だ。


このふたり、出来ていたのだ。

儂は、いくさの遠征で留守が多かった。いくらでも機会はあったろう。

このふたり、いったい、何度、致したのだ。


しばらくして、信長に許されている許可時間も終わった。

信長は、数時間前の感動的な場面に比べたら拍子抜けするくらいに、あっさりとあの世へ戻っていった。


居室に、秀吉と寧々が残った。


「寧々」


「はい」


「床をのべよ」


「どうしました。お前さま。日は明るうございますよ」


「どうでもいい。直ぐに床をのべよ。お前を組み敷く」


「まあまあ、はいはい、お前様がお声をかけてくださったのは、何年ぶりでしょう。

お前さま、寧々は、嬉しゅうございます」


秀吉は、寧々を見た。


確かに美しいではないか。

秀吉は、思った。

お読みいただきありがとうございます。

私は、根気がなく、ディテールを書き込むのは苦手です。他にやりたいことも色々あって、小説を書くことに、あまり多くの時間を取られたくない、という気持ちもあります。

またPR めいたことを書きますが、このサイトに投稿して完結済の架空歴史小説「ホアキン年代記」。

第一部の、神々の物語と、第二部の、英雄たちの物語。本編合わせて、本来であれば、原稿用紙換算で1000から1500枚くらいは、使って書くべき内容だと思うのですが、エッセンスだけ書き連ねて、240枚程度にまとめております。


この、太閤秀吉 も、同様にエッセンスのみ、書き連ねることになるかな、と思います。

その意味では、この第七章は、不要だったかも知れませんが、書きたいな、という気持ちがあり、挿入いたしました。


本小説の「信長編」とでも言うべき部分は、これで終了です。

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