11 伏見十六
次は、出雲阿国の発表である。
「天海さまに、この阿国が与えられた課題は、世界の民びと、誰が観ても、楽しく心が浮き立つような芸能、ということでございました。
例えば、お武家様は、能がお好きな方が多いと聞いております。殿下もとてもお好きで、おん自ら演じられることもございますとか」
「うむ、その通りだ。能は、よいぞ」
「はい、しかし、能は、動きの少ない、静かな踊り。観るひとを深い感動に導くものではありましょうが、能が分かるには、観るものにそれを受けとめるだけの素養が必要なものと思います。世界の民びと、みなが、楽しく、心が浮き立つ芸能ではないと思います。」
「うむ、そなたの言うこと、分かる」
「次に芝居です。これも観て楽しいものです。が、一瞬にして、観る人びとを楽しく、心を浮き立たせるものは、やはり、謡と、踊り。どのようなものか、天海さまのお許しを得て、実は次の間に、控えさせております。殿下、ご覧いただけましょうや。」
「うむ、それは、ぜひ観たいぞ。」
襖が開いた。
そこに、何人もの、娘がおり、秀吉に向かって平伏していた。
「面をあげよ」
娘たちが、顔をあげた。
みな十五、六歳くらいであろうか。綺麗に化粧しており、何とも愛らしく、美しい。
人数は、十六人だった。
秀吉が、いや、三成も兼続も信繁も、天海までもが、目を見張った。
「殿下、始めてもよろしゅうございますでしょうか」
「うむ、頼む」
美少女たちの後ろには、様々な楽器をもった美少女たちと変わらぬ人数の人びとも控えていた。
美少女たちが、立ち上がった。
観ている者たちは、どよめいた。
美少女たちの着物の裾が、膝までしかないのだ。
「こ、これは何とも、奇抜な、いや、色っぽい衣装だのお」
「はい、乙女の健全な色気は、観るひとの心を浮き立たせます」
楽器が奏でられた。
今まで、聞いたこともないような、早く、激しい旋律。
その旋律に合わせて、謡い、踊る、乙女たち。
その踊りは、実に見事に統制がとれていた。
色々と組み替える、その動きの美しさ。
全員で揃って謡うこともあれば、ひとりで、あるいは、数人だけが謡うこともある。だが、全員が常に動いている。
その転換の激しさ。
観ている者は、思わず知らず、体を動かした。
出来ることなら、今、謡っている謡を覚えて、一緒に謡いたいと思った。
終わった。
「見事、見事、見事じゃ」
観ていた男たちは、皆、あらん限りの力で手を叩いた。
「のう、阿国。この乙女たちの組、名はあるのか」
「はい、伏見舞踊十六人隊。略して伏見十六でございます。」




