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ハゲ談議

 大自然の美しさと厳しさを伝えてくれるポワソの森。

 その森の入り口近くには、錬金術士ミュールのおうちがあります。

 それは草花に囲まれ、自然とともに生きる家。

 

 そんなおうちの風景には不似合いなガタイの良い男たちが、ドタバタとおうちの中と外を行ったり来たりしています。

 男たちは皆、青いシャツとズボンを着用し、頭には青い帽子を乗せています。


 

 ミュールが玄関前でその様子を見ていると、男たちの中でも一際屈強な肉体且つのっぽのおじさんがミュールに近づいてきました。


「こちらの伝票にサインをお願いできますか?」

「サインですか? わかりました」

 

 おじさんがミュールへ伝票を手渡す。

 彼女はそれにサインをさらりと記した。

 そのサインは目にしたおじさんは眉をピクリと跳ね上げます。


「おや、外国の方なんですね?」

「え? まぁ、そうですね。このサインじゃ駄目でしょうか?」

「いえいえ、サインさえいただければ問題ありません。見たこともない文字でしたので、ちょっと驚いただけでして。それでは、お荷物の搬入、配置は終えましたので失礼させていただきます」


 おじさんは帽子を取って、頭を下げてきます。

 キラリと輝く頭頂部。

 それは湖面に映る空よりも鮮明に空を映す、見事なハゲっぷり。

 

 ミュールの視線はおじさんの頭に奪われます。

 彼はタオルで頭を軽く磨き、もとい汗を拭き、帽子を戻しました。

 そして、他の男たちを引き連れて、玄関より少し先に湧いている薄靄の中へと入っていきました。



 彼らを見送ったミュールの背後から、アスカの声が聞こえてきます。


「うむ、パンダたちの仕事っぷりは見事なのじゃ。室内の設置までやってくれるからのぉ」

「アスカさん。今の人たちって……日本でしたっけ? そちらの方々ですよね?」

「うむ、そうじゃが」


「別の惑星に来ているのに、なんだか普通の対応でしたけど?」

「ああ、そのことか。あやつらには幻術をかけて、ここがミルティアではなく普通の日本にある家と認識させておるからのぉ」


「そういうことですか。でも、私が知る限り、次元間移動は放射線による被ばくのおそれがあり、生身では危険行為だったはずですが?」


「その心配には及ばん。ワシの加護で完全に中和しておる。それどころか、引っ越し業者につきものの、肩や腰といった疲労をしっかり回復して、さらには肉体を強化しておいてやったのじゃ」


「強化ですか……」


 ミュールは腕を組んで、視線を少し下へ向けます。

 何やら、不満があるようです。

 

「どうした、ミュール?」

「どうせなら、水晶玉が裸足で逃げだすくらい見事なまでに禿げあげたおじさんの頭を健康にしてあげた方が良かったんじゃ?」

「やった……」

「はい?」


「やったのじゃ。全力全開全身全霊をもって、ワシの力をおっさんの水晶玉に注ぎ込んだのじゃ……じゃが、弱っているとはいえ、龍の力をもってしても、不可能じゃった……」


「そ、そうなんですか。龍の力も退けるハゲとは恐ろしいですね」

「うむ。じゃがな、全く歯が立たなかったわけでない。頭頂部の三本の毛根は復活させることに成功したのじゃ」


「三本? それって、あとから毛が三本だけ、頭のてっぺんに生えてくるってことですか?」

「そうじゃが」

「嫌がらせじゃないですかっ!?」


「何を言う。零を三にしたのだぞっ。感謝するに決まっておる! お化けだって、頭に毛が三本で逞しく生きておった」

「感謝しませんよっ。お化けは生きてませんしって、なんでお化けが? とにかく、想像してみてください! 頭からひょろひょろと三本だけの髪の毛がたなびいている姿を」


 

 ミュールとアスカは鋼の如き筋肉に覆われてた、長身の禿げたおじさんの頭に、毛が三本生えた姿を想像します。

 二人は同時に自分の口を手で押さえました。


「くくくっ、これは、かなりインパクトがあるのぉ」

「ぷふ、笑い事じゃないですよっ。なんてことを!」

「ミュールも笑っておるではないか。まぁ、毛は三本とはいえ、龍の力の宿る精鋭の三本じゃ。どれほどの年月が経とうと、どこまで伸びようと朽ちることはないのじゃ」


「でも、三本だけでしょう?」


「だから、それを伸ばし伸ばして、頭頂部からぐるぐると巻いていけば良いじゃろ。ほれ、ハゲじゃなくなったのじゃ」

「どんな髪形ですか、それっ!? 髪の毛はソフトクリームじゃないんですからねっ!」


「そんな髪形でハゲを隠そうとする者が、日本には存在するんじゃがのぉ」

「どんな国ですか、日本って。テキトーなこと言ってるんでしょ」


「そんなことはない。以前、テレビの記者会見で。おっとそうじゃ、ミュールに見せたいものがある。ハゲ談議で盛り上がっておる場合じゃないのじゃ」


 アスカはミュールの手を引っ張って、家の中へと引き込んでいきます。

「ほらほら、ワシの部屋に行くのじゃ」

「わかりましたから、そんなに慌てないでくださいよ」

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