しばしの別れ
今日は早朝から珍しく、アスカが自分の部屋の片付けをしています。
「う~ん、段ボールに荷物を詰めていく作業は面倒なのじゃ」
「アスカさん、失礼しますよ~」
そこへお茶とお煎餅を届けにミュールが訪れました。
ミュールはアスカの部屋を見回します。
「あんまり進んでいませんね。といいますか、前より汚れているような……」
「うるさいのぉ、まだまだ荷物があるから仕方なかろう」
そう言いながら、適当に置かれていた段ボールを手に取り、荷物を入れていきます。
それはもちろん、片付けのためなのですが、部屋のあちこちには段ボールが散乱していて、ミュールの目には片付けというよりも散らかしているようにしか見えません。
ミュールはお茶とお煎餅を閉じられた段ボールの上に置いて、アスカに話しかけます。
「少し、休憩を挟んではいかがですか?」
「そうじゃのぉ。そうしようかのぉ」
「休憩が済んだら、私もお手伝いしますから」
「そうしてもらえると助かるのじゃ。まったく、急に黄龍のやつが地球に呼び戻すから、天手古舞なのじゃ。とりあえず、お茶にするかの」
どうやらアスカは、かつて中国に棲んでいた黄龍に地球へ戻るよう呼びかけられたようです。
彼女は段ボールをイス代わりにして、ちょこんと座ります。
大きめの段ボールのため、足は畳に届かずプラプラと揺れる。
ミュールは畳に座り、アスカの休憩に付き合うことにしたようです。
アスカはお煎餅を頬張りながら、黄龍への愚痴を漏らしていきます。
「地球で大規模な龍脈の乱れが発生しておるからといって、地球を旅だった神に等しき存在を全て呼び戻すとは、いくら何でもやりすぎじゃろうに」
「龍脈が何なのかはわかりませんが、それだけ危険な状況なのでは?」
「そんなんじゃろうけど……めんどいの~」
お茶をずずずっと飲みながら、アスカは老人のように背中を丸めてため息をつきます。
まぁ、中身は老人という言葉では表しきれないほどのババアなのですが……。
「へっくしゅん。何やら、悪意に満ちた波動が?」
「どうしました? 風邪ですか?」
「いや、埃が鼻をくすぐっただけじゃろ。それよりも、さっさと片付けねば。めんどいとはいえ、ワシが守護してきた者たちの世界。守ってやらねばな」
アスカは珍しく、やる気を見せています。
休憩もそこそこに切り上げ、お煎餅も半分残して、地球へ戻る作業へ移りました。
黙々と作業を続けるアスカの小さな背中を見つめながら、ミュールは尋ねます。
「もう、ミルティアに戻ってくることはないんですか?」
「うん? そうじゃのぉ~。力も完璧とは言えんが回復しておるし、地球のごたごたがさくっと片付いたら、魔力が枯渇する地球であっても、しばらくは滞在できるじゃろうなぁ」
「そうですか……」
ミュールは腕を組んで、視線をアスカから外します。
そこには小さな寂しさが宿っているような感じがします。
ですが、彼女がそれを口にすることはないでしょう。
ミュールはちょっと意地っ張りなので……。
アスカはミュールの様子をキラキラと光る黄金の瞳に入れて、彼女に気づかれないように軽く息をつきました。
そう、アスカはミュールの気持ちに気づいていました。
いつもならここでからかいの言葉をかけるところですが、今日のアスカは少し違い、からかいとは全く違う言葉を漏らします。
「じゃがな、ミュールの食事が恋しいから、すぐに戻ってきてしまうかもしれん。その時はまたお世話になるのじゃ!」
「はぁ~、それは大迷惑ですねっ」
大きなため息をつくミュール。
ですが、言葉は軽く、目元や口元は和らいでいるように見えます。
彼女はその柔らかな瞳でアスカの部屋を見回します。
ゲームやアニメなどのグッズや漫画が散らばり、だらしのない部屋。
今日はそこに段ボールまでもが転がっています。
綺麗好きなミュールが一人で暮らしていた頃には、決して見ることのなかった惨状。
そうであるのに、奇妙な寂しさが彼女の心を包みます。
寂しさは、ミュールの心の奥底にあった偽らざる思いの背中を押します。
「……片づける必要ありませんよ」
「ミュール?」
「いずれ、戻ってくるのでしょう。でしたら、その日まで部屋は綺麗な状態で保っておきますから」
「良いのか?」
ミュールは無言でコクリと頷き、部屋から出ていきます。
その途中で彼女は振り返り、アスカに微笑みを見せました。
「だって、アスカさんからはこれからも……お家賃の龍の血をた~っぷり頂かないといけませんのでっ」
「なっ!? なんじゃそれはぁぁぁ!!」
アスカは悲鳴に近い声でミュールへ文句をぶつけます。
それをミュールは軽やかにいなしていきます。
ポワソの森には、いつものようにアスカのブタのような叫び声と、血を求めるミュールの悪魔のような笑い声が木霊します。
それは少しの間だけ途切れてしまうかもしれない日常。
だけど、きっとすぐに、その日常は戻ってくることでしょう。
ミ「これって、もしかして……?」
ア「うむ、打ち切りエンドじゃな」
ミ「あ~、やっぱり」
ア「見られなさ過ぎて、さすがにモチベがの~。読んでくれてる者たちには悪いが……しかし、『ふろむ・○○○○』の時といい、作者が趣味に走るとあんまり読んでもらえんのぉ」
ミ「アレも、とある場所で紹介されなかったら、完結済みの状態でブクマ5の作品でしたからね」
ア「紹介された途端、突然PVが跳ね上がって日間入りした時にはビビったのじゃ」
ミ「そうでもないと誰も目を通さない作品ですから、アレは」
ア「作者すら読んで十行でブラバされるだろうな、と思いながら書いた作品じゃからな」
ミ「なんでそんな作品を書こうとするんでしょうかね?」
ア「趣味で小説を書いておるんじゃ。楽しまねば損損なのじゃ」
ミ「そのいい加減な執筆のせいで、私たちの世界は消えて……」
ア「やめ~い、鬱的な発想は。これからも続く的な感じで終わったじゃろうがっ」
ミ「まぁ、そうなんですが……」
ア「それにわしらの出番はここで終わったわけじゃない」
ミ「と言いますと?」
ア「作者がワシらのことを気に入っておるから、どっかでキャラのリサイクルされるじゃろ」
ミ「リ、リサイクル。資源ゴミみたいな言い方を」
ア「しかし、本音を言えば、この話を終えてしまうのは寂しいのじゃ。数年前に八割がた処分したとはいえ、押し入れに眠るワシの秘蔵のコレクションなど画像で上げて行こうかとも考えておったのじゃが」
ミ「秘蔵のコレクション?」
ア「湯〇専務のストラップ」
ミ「一生秘蔵でいいですよっ」
ア「ぬ~、ならば、クラブニンテ〇ドーから手に入れたマ〇オの帽子のほうが良いかのぉ」
ミ「そちらの方が見ごたえがあるでしょね、って、小説を投稿する場がSNSやブログみたいになるからダメですよ」
ア「チッ!」
ミ「舌打ちは下品ですよ…………そろそろ、締めましょうか?」
ア「じゃな」
ア・ミ「では、せ~のっ、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。のじゃっ!」




