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ぐーたらな龍少女と理を紡ぐ錬金術士の少女  作者: 雪野湯


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龍たちの酒宴

 アーチ状の玄関を開くと、そこは台所です。

 食事をとるための丸いテーブルが置いてあるので、ダイニングルームとしての役割もあります。

 

 アスカとヤマタノの二龍はお酒を浴びるように胃へ納め、呂律の怪しい会話を繰り返しています。

 ミュールはというと、二人のためにずっと台所でおつまみを作っていました。


 

 アスカとヤマタノは台所にいるミュールへ、遠慮もなくつまみを催促します。


「ミュ~ル~、焼きめんたい追加なのじゃ」

「ヒック、ミュールちゃ~ん。イカゲソのから揚げお願いなの~。あと豚と茄子のピリ辛炒めも~」


「はいはい、ちょっと待ってくださいよ。もう~、これだから飲兵衛どもは」


 テキパキと頼まれて料理を用意して、テーブルへと運びます。

 それらを拍手で二人は迎えました。


「お~、来たのじゃ来たのじゃっ」

「う~ん、美味しそう。ミュールちゃん、ありがとうなの~」

「どういたしまして。はい、それと小鉢もどうぞ。ヤマタノさん」

「うわ~、ありがとうなの~」


 ミュールはヤマタノの前に漬物が入った小鉢を置きます。


「日本の漬物という発酵食品に挑戦してみました。よろしければどうぞ」


「おお~、いつの間に。ミュールもやるのぉ」

 アスカが箸を構え、横からヤマタノの漬物と頂こうとしました。

 ですが、その彼女の手をミュールが叩きます。


「駄目ですよ、アスカさんっ。それはヤマタノさんのです。ちゃんと、別の小鉢がありますから」

 そう言って、もう一つの小鉢をアスカの前に置きました。

 アスカは打たれた手をさすりながら頬を膨らませます。


「なにも叩かんでも、ぶーぶー」

「まぁまぁ、アスカちゃん。せっかく二人分を用意してくれたんだから、ありがとう言うの~。ありがとう、ミュールちゃん」


「いえいえ、どういたしまして。ですけど、これで最後になりますからね」



 この一言には、ヤマタノもアスカに交わり、二人して抗議の声を上げました。


「なにぃっ、なぜじゃっ!?」

「ええ~」

 

「もうすぐ、日を跨ごうとしているんですからお開きです。これ以上飲みたかったら、おつまみはご自分でお作り下さい」

「ぐぬ~、もうそんな時間か……ヤマタノ、何か作れるか?」

「あんまり気の利いたのは作れないの~」


「ワシもなのじゃ。酒は旨いつまみと楽しい話があってのことじゃ。名残惜しいがお開きにするかの」

「う~ん、しょうがないの~。じゃ、最後のかんぱ~い」

「うむ、乾杯なのじゃ」


 二人は缶ビールをカンッとぶつけ合い、一気に飲み干します。

 飲み終えたヤマタノはミュールに向かってお礼と謝罪を述べてきました。


「ミュールちゃん、今日はご迷惑だったの~。でも、おかげで楽しかったの~」

「いえいえ、大したおもてなしもできませんで」

「そんなことないの~。美味しい料理いっぱい作ってくれたし。ごめんね~、急に押しかけて、こんなの~」

「ふふ、ヤマタノさんはアスカさんと違って、ちゃんと礼儀を知る方なんですね」



 この言葉に、アスカは空になったビール缶をぐしゃりと握りつぶして、声に角を立てました。

「なんじゃ、その言い方は。それではまるで、ワシが礼儀知らずのようではないかっ」

「あら、礼儀を知っているというのなら、後片付けはちゃ~んと手伝ってくれますよね?」

「うっ……も、もちろん、うううう、なのじゃ……」


 アスカはミュールに一本取れて、うめき声をあげています。

 そんな二人の様子を見て、ヤマタノは楽しそうな声でミュールに話しかけてきました。


「ミュールちゃんはすっかりアスカちゃんと仲良しなの~」

「その言葉は素直に受け取ることはできませんが、扱いは慣れました」

「ふふ、ミュールちゃんは優しくてお料理も上手で、それでいてとってもかわいい。吾輩とも仲良くしてほしいの~」


 ヤマタノは両手を胸に置き、懇願する眼差しを紅玉の瞳に乗せてきます。

 しかし、瞳に宿る輝きは純粋からは程遠い淫猥なもの。



 ミュールはそれに気づいていないのか、特に警戒心もなく彼女の思いに応えます。


「ええ、もちろんですよ。これからよろしくお願いしますね」

「ありがとうなの~」

「それで、ヤマタノさん。今日はお泊りに?」

「ううん。そこまで迷惑かけられないから、宿に戻ろうと思ってるの~」


「宿?」


「今は近くにあるペイクの町に宿を借りてるの~。近いうちに、町から西にある泉に引っ越しするつもりだけど~」

「そうですか。宿を取っているなら、せっかくの宿代がもったいないですからね。それでは、お気をつけて。もっとも、ヤマタノさんには不要な言葉でしょうけど」


「ううん、ありがとうなの。あとちょっと、アスカちゃんと話したら吾輩は帰るから、ミュールちゃんはゆっくりしてほしいの~」

「お言葉に甘えます。それでは一息入れてから……アスカさん、後片付けがありますからね」


 ミュールは口元を緩めていますが、瞳には猛禽類のような力強さが宿っています。

 もし、アスカがさぼったり逃げ出してたりすれば、間違いなくお仕置きが待っていることでしょう。


「わ、わかったのじゃ。ちゃんと手伝うから、その目はやめ~い」



 ミュールは小さく肩を上げて、台所へ戻っていきました。

 彼女は紅茶の入った缶を取り出しています。

 おつまみ作りで疲れた体に暖かさを送ってから、後片付けに移るようです。


 ヤマタノは彼女を瞳に入れながら、二又に割れた舌先をちょろりと出し、下唇を舐めました。


「可愛い。味見したいなぁ。ううん、味わいたいなぁ」

「ヤマタノ、ミュールはやめておけ」


 アスカは珍しく真剣な表情を見せて、ヤマタノを睨みつけます。

 そんな彼女の姿に、ちょっとヤマタノは驚きました。


「大事な子なんだ。人間にそこまで思い入れするなんて、気に入ってるんだね~。アスカちゃんのお気に入りなら、手を付けるのはダメかな~」

「たしかにミュールのことは好きじゃが、そういう意味で言ったわけじゃないぞ」

「うん?」

「ま、詮無きことかの……」

「う~ん、よくわかんないけど、吾輩は帰るの~」


 ヤマタノは身体を左右に揺らしながら、玄関から森へと姿を消していきました。

 アスカは彼女の影から、静かにお茶を楽しんでいるミュールに視線を移します。

 気のせいでしょうか?

 ミュールの口端は少し上がっているように見えます。


 アスカは瞳から二人の姿を消すために瞼を閉じました。


(はぁ、どっちもどっちじゃの……今日は時限クエに参加せねばならんから、どうなろうと知ったことではないが……)

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