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ぐーたらな龍少女と理を紡ぐ錬金術士の少女  作者: 雪野湯


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飲兵衛

 一連のやり取りを見ていたアスカは、無慈悲なミュールの態度に呆れ返ってしまいます。



「ミュールよ、いくら何でも冷たくないか……」

「何を言っているんですか。これくらいポワソの森の日常ですよ。耐えられないなら、森から出ていけばいいんです」


「いや、それでも、もうちょっと言い方というものが……」

「別に必要ないでしょう。以前から思っていましたが、地球の方は命に関してちょっと甘すぎますね」


「そうかのぉ、おぬしらが厳しすぎるだけのような」

「ま、価値観の意見交換はさておいて、そちらの女の子の紹介をお願いしますか?」


「あ、そうじゃったな。こいつはヤマタノ。日本神話において八つの頭と八本の尾を持つ……なんじゃ、怪獣か?」

「ひど~い、吾輩は怪獣じゃないの~。吾輩は~、『八岐大蛇(ヤマタノオロチ)』。水を支配する龍神なの~」



「龍神……八頭(やつあたま)八尾(やつお)の……ふむ」

 ミュールはじっとりとヤマタノを観察します。

 

 アスカはそのあからさまな態度にちっちゃな息を漏らしました。

(血を狙っておるな、ミュールよ。じゃが、ヤマタノもヤマタノで狙っておるぞ)



 ミュールに見つめられたヤマタノはほっぺに桃色を乗せて、彼女を見つめ返します。


「ミュールちゃんだっけ? かわいい女の子なの~」

「え? それはありがとうございます。ヤマタノさんも可愛いですよ」

「そう? えへへ~」


「でも、龍神というからには、やっぱりその姿は変身ですか?」

「うん。女の子の姿が好きなの~」

「そうですか。ですが、その姿でポワソの森を歩くと今後も襲われますよ」


「そうなんだ~。ここ怖いね~。いきなり襲ってくるんだもん」

「で、返り討ちにしたんですか?」

「うん、消し飛ばしちゃったの」


「ふぅ~、これ以上無用な犠牲者が出ないように連絡網を回して、ヤマタノさんの存在は知らせておくとして……お酒の匂いは何とかなりませんか? 見た目は幼い子なので、あらぬ誤解を招くことになりますよ」

「それは無理~。だって、お酒大好きなの~」



 そう言いながら懐より、酒瓶を取り出します。

 ですが、中身は飲み干しており、空っぽです。

「ああ、そっかぁ~。全部飲んじゃったんだぁ。アスカちゃんと一緒に飲もうと思ったのに~」


 ヤマタノは空瓶の頭を持ち、フリフリと振ります。

 すると突然、空瓶を見たアスカが大声を上げました。


「ま、待て。その酒はや〇崎の25年もの! それを一本丸ごと丸飲みじゃと! ヤマタノ~、それはないじゃろっ!」


「ふへへ~、人間の作るお酒も向上したよねぇ。アムブロシアやネクタルやソーマよりも好き~」

「日本神話の存在のくせに外国の酒ばっかり飲んでからに」

「アスカちゃん、酒の味に国境なしなの~」

 

 

 ヤマタノは酒瓶を懐に戻して、代わりに鯛を抱えたおっさんのラベルの付いたビールを取り出しました。

「まぁまぁ、これでも飲みながらゆっくり旧交を温めるの~」

「酒三昧じゃな。むかし、酒で失敗しておるのに……」

「それはお互い様だと思うの~」

「う、まぁな」


 この一言に、二人の表情が曇ります。

 ミュールは気になり、アスカに尋ねました。


「何があったんですか?」

「え~っと、じゃな。ワシことは置いといて、ヤマタノのことを話そう!」

「ああ~、ずるいの~」


 ヤマタノは抗議の声を上げて、それに合わせるように七本の蛇しっぽからもシャ~っと威嚇する声を上げます。

 ですが、それらを無視してアスカは話を押し進めました。

 余程、話したくない過去が彼女にはあるようですね。



「こほん、大昔の話じゃが、ヤマタノはとある村から贄を取っておったんじゃ」

「まぁ、ひどい」


「ちょっと待って。少し話が違うのっ」

 ヤマタノは会話を裂くように大きな声を上げてきました。

「あれはお酒を造ってる村があったから、ちょ~っと、相伴にあずかっただけなの~」


「勝手に盗み飲みしたんじゃろ?」

「もう、アスカちゃんは黙ってなの~。それで、お酒が気に入って近くの山に棲みつくことしにしたら、人間たちが勝手に恐れて、お酒と生贄の女の子を献上するようになっただけなの~」

 

 ミュールは女の子の生贄という単語に、ピクリと瞼を動かします。


「女の子を食べてたんですか?」

「ううん、食べてないの~。別に人間をお酒のつまみにする気ないし。でも、生贄の()たちってみんな可愛かったから、別の意味で食べちゃったの~」


「別の意味?」

「性的って意味~」


 と言って、ジトリと熱っぽい眼差しをミュールにぶつけてきます。


「うわ~、この人怖いですよ。アスカさん」

「こやつは酒と若い娘に目がないからのぉ。ワシもこの姿を取った時、ヤマタノの八本の首でもみくちゃにされたからの。それはそれは気持ちよくての、いや~、危なかった」


「ふっふっふ~、あとちょっとで堕とせたの~」

「なんちゅー奴じゃ。そんなわけでミュールよ。あまりそやつに近づくなよ」

「そうですね、そうします」


 ミュールは足七歩後ろに運び、かなりの距離を取ります。その姿を見て、ヤマタノは声に涙を交えます。


「うわ~ん、ひど~い」

「それはすみませんね。でも、身の安全が第一なので。えっと、結局ヤマタノさんのお酒の失敗という話はどうなったんです? アスカさん」


「ああ、それか。ヤマタノは素戔嗚(すさのお)という日本の神に大量の酒を飲まされて、酔いつぶれたところを退治されてしまったのじゃ。まさに酒におぼれたということじゃな。あっはっは」

 

 

 少しばかりバカにした様子でアスカは笑います。

 その笑いを聞いて、ヤマタノは歯ぎしりを立てながら剣呑な雰囲気を露わとします。


「あの、脱糞野郎めっ。卑怯な手を~」

「ん、それはスサノオでしたっけ。その方のことですか?」

「そう! あいつ、神殿で脱糞したの~。他にも田んぼを荒らしたり、馬の皮を剥いだり」

「ええ~。それはまた、すごい神様で……」


「因みに姉の方もなかなかの御仁じゃぞ」

「アスカさん?」


「太陽を司る最高神天照は弟の傍若無人っぷりにショックを受けて岩戸に引きこもってしまい、長い間日乃本は闇に閉ざされてしまったからのぉ。姉は引き籠り、弟は暴れん坊のうんこ漏らしということじゃな」

「……なんなんですか、日本の神様は」


「ついでじゃが、二人の親に当たる、伊邪那美(いざなみ)伊邪那岐(いざなぎ)もすごいぞ。初めてできた子どもは(おぼろ)な存在じゃったので、なかったことにして川に流したからな」

「ほんとに……神様なんですか、その方々は?」

「多神教の神々は基本緩いやつらばっかじゃからな」


「緩いの一言で片づけていい話では……日本は大丈夫なんですか?」


「心配せんでも大丈夫じゃ。人間たちが独立できるまで、神としての役目をちゃんと行っておったぞ。ワシのようにな」

「追い出された人が言いますか、それ。今の日々の怠惰を見てたらとても安心できませんよ」

「昔、頑張っていた反動じゃ。大目に見てくれ」

「もう、何千年サボっているんですか? ま、そのことを言っても時間の無駄でしょうが」


 


 普段のアスカをよく知るミュールはこの話題を切り上げて、ヤマタノの話へと戻します。


「今の話からだと、スサノオさんに退治されたそうですけど、どうして生きているんですか?」

「わしらはそう簡単に死なんからな。封印されたという表現が分かり易いじゃろ。ヤマタノは千年後には復活したが、全盛期よりも力を落としての、大人しく日本の端で暮らしておった。じゃが……」


 アスカはヤマタノへ視線を向けます。


「江戸の頃には別の星に渡ったはずじゃが、どうしてミルティアへ?」

「アスカちゃんが引っ越したって聞いたから遊びに来ただけなの~。地球だと神力がないから息苦しいから~」

「ほぉ、それでわざわざ」


「うん。そうそう、しばらくこの惑星でゴロゴロしようと思ってるの~。星中のお酒を味わったらまたどこか別の惑星に行こうと思ってるの~」

「なるほど、梯子酒というわけか。まぁ、積もる話もあるし中に入るがよい。ミュールよ、構わんよな?」

「ええ、特に問題ありませんけど」


 

 ミュールはヤマタノへ視線を下げます。

 ヤマタノはにこ~っと笑って、懐より〇ビスビールを取り出しました。

「ありがとう、ミュールちゃん。お近づきのしるしにど~ぞ~」

「い、いえ、私はあなたたちと違って、本当に未成年なので遠慮しておきます」

ア「ここだけの話、日本神話の内容の一部を間違っているのじゃが、気にしては駄目なのじゃ」

ミ「ええ~、ダメでしょう」

ア「実はしばらく経って気づいてな。でも、まぁ、書き直すのも面倒だからいいじゃろ」

ミ「いや、ダメですって」


ア「そうかのぉ~? ならば、こうするのじゃっ。何が間違っているのか読者自身に調べてもらい、それがきっかけで日本神話に興味を持ってもらう手法とかなんとかで誤魔化せばいいのじゃ!」

ミ「いえ、誤魔化すって白状しているのに……最低ですよ、アスカさん」

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