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少女と少女の出会い

 精霊が治める惑星・ミルティア。

 ここは様々な種族が互いに覇を競いつつも、共存し合う世界。


 そんな世界の片隅に(たたず)む、ダイヤ島。

 そして、物語の舞台となるのは、その島で最も大きな森。


 名は、植物と動物の楽園・ポワソの森。


 空から見下ろせば、緑の海広がる。

 遠くから望めば、山と見間違える。

 近くで覗けば、巨木が壁となって立ち塞がる。

 その全容は人の視界では捉え切れず。


 森にはシダ植物や広葉樹、針葉樹、路傍に咲く花もあれば、貴重な植物も生えている。

 天上の国の如く果実は溢れ、森のそこかにある湖は、どれも水晶のように透き通り、見る者の姿を鏡のように映し出す。


 ここは生命の揺り籠と称しても遜色のない森。

 

 ですが、それらの恩恵を受け、魔物や獣、妖精やお化けなどが跋扈する場所。

 ひとたび並の冒険者が迷い込めば、彼らのご飯になってしまいます。


 彼らから(のが)れようとしても、生い茂る葉や曲がりくねった木の根が行く手を阻み、まともに駆け出すことも叶いません。


 運よく(のが)れられても、周りの風景は全て、巨木と葉に覆われた双子の光景。


 決して、森はあなたを帰しません。


 

 そんな森の入り口の傍に、一人の錬金術士の少女が住んでいました。

 彼女は十四歳の女の子。名前はミュール。

 青い服に白いエプロンとウサギを追いかけていきそうな服装。

 そして、腰元には茶色のウエストポーチ。


 栗色の髪はツインテール。襟髪は短め。ツインテールを留める髪飾りは、青と赤の相克の宝石。

 ぱっちりとした黒の瞳は幼さと可愛らしさ。そして、大人への階段を踏み出したばかりの色香を漂わす。


 見目は可愛らしく、将来は美女への変貌が約束されている。

 ですが、そんな女の子には決して似つかわしくない、不名誉な通り名が彼女にはついていました。


 その名は、『血を追い求めし者(ブラッディストーカー)

 

 何故、このような通り名がついてしまったかというと、それはミュールの独り言に耳を傾ければわかります。


「う~ん、やっぱりユニコーンの血だと効力がいまいちですかねぇ?」

 ミュールは真っ赤な血で満たされた三角フラスコを左右に振りながら首を傾けます。


「エルフの人たちから貰った血でもいまいちだし、他の種族の血も効果が薄かったし。これはもっと強力な種族の血がないと良い薬はできませんねぇ」



 彼女は主に薬を得意として扱う錬金術士。

 その材料の根源となるモノは、血。



 ミュールは様々な種族の血を使い、非常に有用な薬を作っている最中でした。

 作業台の上にはたくさんの血が並べられています。

 台のところどころには、血の染み……。

 彼女の姿を無知なる者が見れば、凄惨極まりない狂気の現場。



 しかし、彼女はとても優しい女の子。

 いま作っている薬も、体調が芳しくないおじいさんのために頑張っているのです。

 そう、とても優しい……。


「あ、そういえば、いたずらオークたちをブチ殺すための罠を作らないと。明後日までに用意してくれって依頼を忘れるところでした」


 い、今のは人々を困らせるオークを追い払うためですので仕方ありません。


「前回は威力が弱くて殲滅できませんでしたから、今回は毒と爆弾を併用して、肉片残らず確実に仕留めてやりましょうかね」



 ……人々の生活を守ろうと尽力する優しい子ですね!

 そうそう、ミュールは錬金術だけではなく、料理、洗濯、掃除が大好きな女の子なんですよ。

 ほら、彼女は窓から見える庭へ顔を向けて、そこに干してある洗濯物たちを見つめています。


「そろそろ乾いたみたいですね。それじゃ、取り込んでアイロンを掛けないと。そのあとは夕飯の準備を」


 ぬらりと輝く血の入った三角フラスコを机に置いて、水桶で手をしっかり洗い、洗濯籠を手に取ります。

 アーチ型の玄関から庭先に出て、ぽかぽかの春の日差しを受けながら風にそよぐ洗濯物を目に入れます。

 そして、一枚一枚丁寧に洗濯籠へ取り込んでいくのですが……。



「すっかり、乾いてますねぇ」

――キィィィィン


「うん、真っ白! 洗い立てのお洋服は見ているだけで気持ちいいですね」

――キィィィィンッ


「う~ん、太陽のあったかさが籠るタオルは思わず顔をうずめたくなります」

――キィィィィン!


「うん? さっきから何の音でしょうかね。空の方から……!?」


 ミュールが空を見上げると同時に、巨大な影が落ちてきました。

 影は激しい音とともに地面に叩きつけられて、視界眩む砂塵が舞います。

 その衝撃で洗い立ての洗濯物がばらばらに……。


「いやぁぁぁぁぁぁ! せんたくものがぁぁぁ~!」

 

 真っ白だった洗濯物たち。

 ですが、砂塵に塗れ、地面に落ち土塗れ。

 ミュールはロックバンドのボーカルのように激しく頭を振っています。

 

「うそうそうそ~、洗ったのに、乾いてたのに、どうしてぇぇぇ!?」

 彼女は洗濯物があっという間に汚れ物へ変わってしまった原因を睨みつけます。

 それは砂のカーテンの向こう側で、デンと横たわっていました。



「あたたたた、いかんのぉ。着地をミスってしまったのじゃ」

 

 とても重厚な声が響きます。

 しかし、声音(こわね)は少女のもの。

 ミュールは砂煙を払いながら、そっと巨大な影に近づいていきます。

 そして、しっかりと目を凝らしながら、影の正体を探りました。


「なんですか? 蛇? でも翼が……あの顔は、龍?」

 影は大木よりも太くて長い胴体を持ち、体は翠色(みどりいろ)の羽毛に覆われて、背には四つの七色の羽。


 顔は厳めしく龍の姿。

 ミュールは龍らしき存在の前に回り、話しかけます。



「誰ですか、あなたは?」

「ん? まさか、人間か? ちょっと待っておれ」

「え?」


 龍らしき存在が七色に包まれると、巨体はどんどんと縮んでいき、ミュールより小さい光の塊となってしまいました。


 そして、そこから出てきたのは、頭に角とピンク色の髪を持ち、腰に七色の二枚羽を背負っている幼き少女の姿。



「初めましてじゃな。ワシはケツァルコアトル。地球からやってきた龍なのじゃ」

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