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ぐーたらな龍少女と理を紡ぐ錬金術士の少女  作者: 雪野湯


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勇者の耐性

――ミュール家・お風呂


 

 ミュールのおうちにはお風呂が完備してあります。

 玄関を開けて、すぐ正面にある廊下の突き当り。

 そこにある扉を開くと、清涼なハーブ草の香りが鼻腔を満たし、心を落ち着かせてくれます。


 

 勇者は一人、お風呂に入り、室内をざっと見回します。

 そこは二人暮らしのお風呂と思えないくらい広く、四人家族が仲良く浴槽に入っても、ゆったりとした団欒を楽しめるほど。

 

 床も浴槽もヒノキでできており、清々しい木材の香りが浴槽に満たされた薬湯(くすりゆ)と合わさり、勇者の心と体を癒してきます。

 薬湯は、浴槽そばにある筒状の木の管から絶えず供給されているようで、お湯が減ることはありません。

 


「ほぉ、思っていた以上に広いな。家に奥行きがあるといえ、これほどの大きさ、どのように確保を? ……ミュール殿は錬金術士。何かの道具を使い、空間を操作し広げておるのだろうな」


 とんでもない事象をさらりと受け入れ流す勇者。

 彼は勇者として多くを経験しており、この程度ならさりとて珍しくもないことなのです。

 さらに、不可思議な道具を操る錬金術士の家。

 空間の一つや二つ操っていても、全く不思議ではありません。

 

「さて、風呂に入る前に血と汚れを流さねばな」

 

 

 勇者はヒノキの桶を使って浴槽からお湯をすくい、ヒノキの椅子に腰を掛けました。

 そして、ざばりと頭からお湯を被ります。


 鍛え抜かれた鋼の肉体はお湯の暖かさを受けて、蒸気立ち昇り、瑞々しさを伴う美しい肢体へと変化を遂げます。

 目に見えてわかる筋線維に沿って流れ落ちる雫……。


 彼の体にはアスカから受けた傷以外にも、古き傷が無数に刻まれています。

 中にはかなり深手での傷もあるようで、流れた雫が傷跡で止まり、小さな水たまりを産んでいました。

 

 勇者は置いてあった石鹸と浴布(よくふ)を使い、逞しき肉体を清めていきます。

 

 泡立つ浴布(よくふ)を厚く盛り上がった胸筋に(こす)り、いくつにも分かれた腹部の筋肉へと移動して……とはまぁ、おっさんの裸を解説したところで誰も喜びませんので、ここまでにしておきましょう。



 勇者はお風呂のマナーをよく熟知しており、お風呂に入る前に、丁寧に丁寧に汚れを落としていきます。

 そこへ、とんでもないマナー違反者が乱入してきました。



「勇者よ、ワシが直々に背中を流してやろう!」


 勢いよく扉を開けて、浴室内を幾度も反響する大声をあげながらアスカが入ってきました。

 彼女も当然のごとく裸で、タオル一枚纏っていません。


 とても細身なスラリとした太ももに、小さく可愛らしい足。

 下腹部には邪魔するものは何もなく、はっきりとした一本線が見える。


 少し上には、ちょっとてっぷりとしたイカっ腹。

 胸は小さなふくらみを見せる程度で、その(いただき)は子どもゆえに色素はほとんどなく、肌の色よりもほんのり色気づいてるだけ。

 


 これはある特殊な趣味を持っている人にとっては至福の光景でしょう。

 そしてアスカは、それを承知で勇者のいるお風呂へやってきたのです。


(くひひ、勇者め。ワシの裸にドギマギするがよいっ)


 そう、彼女は勇者をからかいに来たのでした。

 アスカは腰に片手を当てて、どうだとばかりに自身の裸を見せつけます。

 勇者は彼女の裸をしっかりと瞳に宿しますが……。


「これはアスカ殿。アスカ殿も風呂か? だが、背中は自分で流せるゆえ、気になさるな」

 

 なんと、無反応でした。

 この態度にアスカはたじろぎます。



「あ、あれ、勇者よ。ワシを何とも思わぬのか?」

 アスカは両手を広げて、全裸アピールをします……変態ですね。

 ですが勇者は、彼女の裸など全く気にする様子もなく言葉を返します。


「何とも? ああ、そういうことか。別に禍根が残る戦いではなかったであろう。何も気にしておらぬよ。ささ、アスカ殿も体を洗うといい。もし、頭を一人で洗えぬなら手伝おうか?」

「な、何じゃと……?」


 勇者はアスカを完全に子ども扱いにしています。

 予想外の出来事に、アスカは表情に困惑の色を露わとしました。


(クッ、まさかロリ耐性がカンストしておるとは。さすがは勇者、状態異常が効きにくいと見えるの。ならばっ)


 

 彼女はスッと軽き息を吸い込み、身の内の魔力を高めていきます。

 魔力は七色の輝きを見せてアスカを包み、彼女は虹の繭の中で大きく変化していきました。


 背は伸び、胸は豊かな果実となり、臀部は張りと柔らかさを同時に宿す魅力溢れるものへ。

 すっかり大人となったアスカは、二本の指で潤いに満ちた唇を押さえ、蠱惑的な瞳で勇者を絡めとります。

 その姿を見た勇者は合点がいったようで、両手をポンと叩きます。



「ああ~、なるほど。アスカ殿は私を誘惑して、からかおうとしておるのだな」

「え? な、なに?」


 あっさりとたくらみを看破され、さらには一切動じる様子もない勇者の姿にアスカは取り乱しました。


「ゆ、勇者よ。ワシを見て何も感じぬというのかっ?」

「いや、十分に誘惑されている。しかし、私も勇者を名乗る身。この程度の欲情を制御できずになんとするか」

「制御などつまらんことせずに、鼻血をブ~っと出して、お決まりオチを見せていいのじゃぞ!」



「鼻血? よくわからぬが、初心な少年の反応を求めていたようだな。だが、アスカ殿の期待に沿えることはできないようだ」

「なぜじゃっ?」


「そう問われても、私はあと一つで三十路を迎えようとする身であり、勇者という肩書きが背負っており、相応の経験をしてきていますからな」


「経験、じゃと……?」

「ええ。あまり口に出すものではないが、女遊びも多少は心得ておりますから」

「なにっ?」


「また、勇者という名を持つゆえに誘いも多く、そちらの方面で事を欠くようなことがなかったしな。まぁ、十年前にこのような誘いを受けていれば、間違いなく引っかかっていたであろうな」

「はぁあぁぁぁ?」


 

 アスカはこれでもかと大きなため息に不満を乗せて勇者にぶつけます。

 そして、言いがかりのような文句を彼に投げ込んできました。


「チェンジじゃぁぁぁ! チェンジなのじゃぁぁあぁ!」

「チェンジ?」

「何が事欠かないじゃ。この女の敵め!」

「そう言われると、言い返す術はないが……」


「そうじゃ、悪いと思うなら、今すぐショタっこ勇者を用意するのじゃ!!」

「しょたっこ?」


真っ新(まっさら)なショタな勇者を相手に手取り足取り、色々教えてやるのじゃ。そして、ワシなしでは生きられないようにしてやるのじゃ。かわゆい少年がワシに寂しそうに抱き着いてきて、甘える様は……もう~、たまらんのじゃ。ぶひひ」


 

 何を想像しているのか、アスカは涎を垂れ流し、厭らしく笑っています。

 

 勇者はアスカが何を考えているのか全く分かりませんでしたが、経験上、なんだかのフォローが必要と考え、真剣なまなざしを見せて彼女へ言葉を掛けます。

 しかしそれは、アスカを大いに傷つけました。


「アスカ殿」

「な、何じゃ。妙に真面目な顔しおって?」

「あなたがからかうつもりだったとはいえ、私が取った態度は非礼であった。しかし、どうか勘違いしないでほしい」


「何をじゃ?」

「アスカ殿はとても魅力的な女性だ。あなたのような美しい女性は二人といないであろう。私は年取り落ち着き、勇者であるゆえに自制しているが、心はあなたの美しさに囚われておりますぞ」


 勇者はガラスのように透き通る瞳でアスカを見つめます。

 彼の心には一片の曇りもなく、言葉は本物……勇者の瞳に宿るアスカは女神のように美しく、それは彼の心の投影でもありました。

 

 気高き魂を持ち、真摯な思いを見せる勇者の瞳に、アスカは心を打たれます。

 彼女の心には、忘れていた熱が宿りました。

 その熱を受けてアスカは…………泣き始めました。



「う、うえ~ん、くやしいのじゃ~」

「ど、どうされた、アスカ殿?」


「こんなしょうもない口説き文句にときめいてしまったのじゃ。ここ最近ご無沙汰で処女歴数十年を迎えようとしておるとはいえ、幾星霜の時を生きた龍が人如きの言葉にときめくとは。それもこんな単純なものにぃぃぃっ」


「アスカ殿、落ち着かれよ。遥かな時を生きているのに処女歴数十年という意味不明なことを言っておるぞ?」

「やかましいぃ、そこにツッコむなっ! クッ、しばらく枯れておったとはいえ、ここまで耐性が衰えておるとは、不覚っ!」


 

 アスカはぺたりと床に座り込み、しくしくと涙を流しています。

 女性に泣かれ、紳士としてあるまじきことを行ってしまった勇者は、何とか彼女を慰めようと言葉を探しています。

 そこへ、真打ちの登場です。

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