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ぐーたらな龍少女と理を紡ぐ錬金術士の少女  作者: 雪野湯


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アスカVS勇者

 ミュールの家の庭先で、神の名を持つ龍と、数多の龍を屠ってきた勇者が対峙する。

 勇者は剣の柄に手をかけ、アスカの一挙手一投足を見つめる。

 アスカは腕組みをして、勇者の出方を待つ。

 

 そこにミュールの声が飛んでくる。



「ちょっと待ってくださいっ!」

「なんじゃなんじゃ、これから気合の入った戦闘シーン突入じゃったのに……」

「どうされた、ミュール殿?」


「二人とも、庭先にあるものが見えないんですかっ?」


 と言って、ミュールは庭先を指さします。


 二人はミュールの人指し指に誘われ、そちらを振り向きます。

 そこにあったのは、ひらひらとそよ風にたなびく大量の布たち。


「ほら、洗濯物っ。朝洗ってたやつがもう乾いているんですから、あれを取り込んでからにしてください。じゃないと、埃塗れになってしまいます!」


 彼女は腰のポーチから洗濯籠を三つ取り出して、勇者とアスカに手渡しました。

「はい、洗濯物を取り込みますよ。戦いはそれからです」

 

 

 ミュールは洗濯籠を手に持って、端から順番に洗濯物を取り込んでいきます。

 その姿に呆気にとられるアスカと勇者。

 そんな二人へ、ミュールは怒気を交え呼びかけます。

「何をしてるんですかっ? キリキリ動く!」


「お、おうなのじゃ。そんなわけで勇者よ。これが終えてからの」

「え? はぁ、それでは……」


 

 

 三人で協力して、次々と洗濯物を取り込んでいきます。

「ふぅ~、人手が多いので、すぐに終わりそうですねぇ」

「まったく、話の腰を折りおってからに。おや、勇者よ。これ見てみぃ」

「ん、なにかな? そ、それは……」

「ミュールの下着なのじゃ。上下ともに白で柄もない。何とも色気の欠片もない下着なのじゃ」

 

 アスカは両手にブラとショーツを握って振り回しています。

 勇者は眉間を押さえながら視線を外し、持ち主であるミュールは土を踏み鳴らしてアスカに近づいてきます。


「アスカさん! 何をやってるんですかっ?」

「勇者をからかっておるだけじゃが?」

「人の下着でからかわないでください。すみません、勇者さん」


「いや、私こそすまぬ」

「いえいえ、迷惑をかけたのはアスカさんですから……まったく……」


 こうして、時折アスカのおふざけを交えつつ、洗濯物を取り込み終えました。

 ミュールは疲れたため息を漏らします。


「はぁ~、アスカさんに手伝いを任せたのが間違いでした」

「そうじゃろ。だから、ワシはいつも、ミュールの仕事ぶりを見守っておるのじゃ」

 

 アスカは心を温かく包む朗らかな笑顔を産んでいます。

 対してミュールは、吹雪ですらぬくもりを感じさせる絶対零度の瞳もって空気を凍りつかせています。


「…………勇者さん。殺せ!」

「あ、お、まぁ、がんばります」



 歴戦の戦士たる勇者さえも思わず言葉を詰まらせるミュールの眼光。

 勇者はそろりとドラゴンキラーを抜いて、構えを取ります。

 それに応えるかのように、アスカは片手を腰に当てて、不敵な笑みを浮かべます。


「勇者よ、いつでもこい」

「ではっ」

 

 勇者がわずかに足を踏み込むと、アスカの背後に彼の姿が現れました。

 その速さは、ミュールの視界では捉えられないもの。

 

 勇者がアスカへ剣を振るう。

 

 ですが、彼女はひょいっと、挨拶でもするかのように頭を下げて、これを躱します。

 さらに勇者は斬撃を重ねます。

 それらをアスカは容易くかわし、軽く笑みを漏らす。

 

 その笑みはとても愛らしいものでしたが、勇者の背中には冷たいものが駆け抜けました。

 急ぎ彼は距離を取り、剣を突くように構えます。



 彼の持つ柄に力が籠り、瞳には覚悟が乗ります。

 アスカはその覚悟に応え、一歩足を踏み出しました。

 

 同時に勇者も踏み出して、一気に間合いを詰めます。

 そして、アスカの眼前にて、五段の突きを同時に行いました。


 

 突きはアスカの身影(しんえい)のみを突き刺し、アスカは何事もなく、勇者の傍を通り過ぎていきます。

 突きを終えた勇者は、剣を突き出したまま、ピクリとも動かず。

 

 アスカは勇者に背を見せたまま、薄く笑う……。


「勇者……を、名乗るだけはある。まだ、回復は三割程度とはいえ、よもや、ワシに傷を負わせるとはな」

 

 彼女が勇者へ振り向くと、頬より一筋の血が流れ落ちた……勇者の剣は神の龍たるアスカに届いていたのです。

 アスカは頬の傷に人差し指を当て、そっと傷をなぞります。

 すると、傷口は初めからなかったかのように消え、そこには瑞々しい柔肌を残すのみ。


 

 彼女は勇者の背を見つめながら、賛美を投げかけます。

「沖田総司の三段突きの上を行くか。魔力の枯渇する地球でありながら、あの者も強者であったが……勇者よ。お主が長剣ではなく日本刀を用いれば、魔力なき地球であっても、沖田の速さを凌駕する力を見せたであろうな」


 アスカは昔を懐かしむように声を産み、太陽の光を受けて鮮やかな煌めきを放つ桃色の髪を手ですくい、さらりと流しました。

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