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「あぁぁ……やっと買えたぁぁ……」
「2時間も列に並んだ甲斐があって良かったな翔太。俺もほんと付き合いいいぜ」
お前ずっとゲーセンで遊んでたろ。なんだったらナンパしてたろ。しかも連絡先交換してたろ!?
それが親友を待っている付き合いのいい男子高校生なんですかねぇ……?
「ん? なんか言いたいことあんのかよ?」
「いんや、別にぃ?」
今日は口が裂けても言わん。電気屋の息子であるこいつにはタダで最新VR装置のセッティングを頼んでるからなっ! 今はゴマをすらなきゃいけないんだよ! 業者に頼むと高いからね~スリスリ。
「それじゃ、さっさとウチに行こうぜ」
「お、おう?」
この世の学生の大敵、照洲都を攻略しまた1つ――いや、21もレベルアップした俺は、その1か月後に【Fantasia of the Freedom World】、略してFFWとVR装置セットを購入していた。
なぜ1か月後なのか。それはまず順位発表がテストの2週間後だったこと、そして1つ前のロットに間に合わなかったことが主な原因だ。
おのれクソオヤジいいいいいいいい! アンドテストめええええええええ!!
「普通に考えてリリースから3か月は遅れすぎだよなあっ。俺なんてもうレベル80超えたぜ?」
「笑うんじゃねえ! いいからさっさとセッティングしろよタカ!」
「へいへーい」
くそう、タカはリリース開始からすぐに始めてんだよなあ……成績は俺より下なくせに……家庭の違いって、デカすぎる。クソオヤジめ。
タカの言う通り、始めた時期の違いって言うのは大きい。特に俺みたいな何かの一番を目指すヤツにとっては。
鳴り物入りでリリースされ、瞬く間に神ゲーともてはやされるようになったこのゲームは、今やネットの掲示板をあされば最初のステージから何十歩も先のことが書かれてるし、wikiだって何個もサイトが出来上がってる。
完・全・に出遅れているっ! FFWで最速になりたいのにこれじゃレベル差とかいうくだらないもので負けてしまう! てか現に負け確になってる!! クソオヤジめ!!!
「セッティングできたぞ翔太ー」
「うおぉぉでかしたぞタカ! もうお前に用はない! 帰れ!!」
よしっ! セッティングが終わったならこいつにゴマする必要もなくなった! さっさと1人でゲームするぞ!!
「俺はゲームにリアルを持ち込む気はないんだ! 故にリア友も必要なーいっ!」
「おう、そうか。じゃあさっきナンパした女の子と遊ぶとき、お前呼ばねえわ」
「すみませんでした神様仏様タカ様。粗茶ですがすぐに持ってまいります」
「うむ。苦しゅうない」
ちくせう。やっぱこいつ強すぎだわ。
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『生体認証完了。バイタルチェック、異常なし。VRプログラムチェック、異常なし。ゲーミングシステムスタート。【Fantasia of the Freedom World】起動します』
女性的な機械音声と共に、眠りにつくような感覚がやってきて、俺の視界は切り替わる。
一瞬のうちに、俺の目の前には宇宙空間に似た仮想空間が広がった。
足の下には、地球にそっくりな惑星が浮かんでいる。
「ようこそ、私たちの世界へ! 早速だけど、近衛翔太君にはこれから、1人の冒険者として私たちの世界を旅してもらいます!」
どこからともなく、元気な女の子の声が聞こえてきた。
ここら辺はみんなが体験するところで、掲示板で見たがここで女の子が姿を現すことは無いらしく、声からして美人に違いない彼女と2人イチャイチャすることは叶わないそうだ。なんで声だけにした運営ェ……
い、いや、もちろんセクハラする気じゃなかったよ? ただちょっとオハナシがしたかっただけでして……
「――それじゃあキャラクター作成に移るよ! この世界では、君たちの体はそのままだとうまく生きていけないからね!
君の体を基に新しい体を構築するかな? それとも1から新しく体を作るかな?」
やべ、ナレーション進んじまった。
「えーっと、新しく作る方でよろしく!」
「りょうーかいっ! それじゃあまずは性別を選んでね!」
「ふふん、ここは女一択じゃあああ!」
ここでクエスチョンマークが頭に浮かんだ諸君。君たちは正常だ。別に精神科や脳外科に行く必要はない。心配しないでくれ。
ではクエスチョンマークが浮かばなかった諸君。断言しよう。君たちは重度のゲーマーだ。それもネットの。
そう、ゲーマーの諸君なら理解できるだろう。俺がやろうとしていることを。
直結直結っ、ガッチャンコッ、ネトゲで一発逆転っ、とかトチ狂った発想してる直結厨どもには忌み嫌われる行為。ネトゲを始めたばかりの健全な少年の心をへし折りかねない凶悪な所業。
そう……ネカマだ。ネット内オカマだ。
ん? なぜネカマなんてことをするのかって?
事前の調べによるとこのゲーム、女性アバターの方がAGI――敏捷が高いって話だからな。最速を目指すならまずはここから徹底しないと。
……それに折角なら野郎でプレイするんじゃなくて、美少女でプレイしたいじゃん?
ゲームを俺のオアシスにするんじゃ!! なんせ現実は干上がってるからなチクショウ!
「それじゃあ、今度は種族を選んでね!」
癒される元気な美少女(脳内補完)の声に合わせて、目の前に半透明のパネルが現れる。
それに移る画像をスワイプすると、別の画像へと次々変わっていった。
「へー、こんなにサンプル画像があんのか」
パネルはVRタッチパネルで、映ってる画像は各種族のサンプル画像だ。ちなみに全部女性。
事前に調べてはいたけれど、実際に見るとやっぱいろんな種族があって胸が躍るな!
これも前もって決めてたとはいえ、こういうのは見ていて飽きない。これを選んだらっていうifの自分を描くってのは夢が膨らむからな!
俺がお目当ての種族のページを見つけると、女の子が説明を始めてくれた。
「猫系獣人だね! ネコさんに似てる姿で、とーっても足の速くて、体の柔らかい種族なんだよ! それに――」
「猫系獣人にけってーい!」
「……りょうーかいっ!」
ありゃ? なんか女の子の声が一瞬強張ったような?
説明中断したの、まずかったですかね?
「それじゃあランダムで外見を生成するよ! 生成された見た目が嫌なら『もう一回生成する』って言うかボタンを押してね! 微調整がしたいときはパネルを操作してサイズや色を変更してね!」
「オッケー」
まあいい、ここからが正念場だ。美少女ボイスとは言えただのナレーションに気を配るわけにはいかない。キャラクリは魂を削るからな!
ランダム生成がドンピシャでもないかぎ……り……?
セミロングの薄紫の髪。すらりと伸びた肢体。大きすぎず、小さすぎない確かな大きさの乳房。
鼻梁は一筋の滝の如く真っ直ぐ。目鼻立ちは凛と。瞳は黄金の月。
頭から覗く猫耳と、腰から伸びる尾が可愛らしさを出しつつも、全体は鋭さを感じさせる。
彼女を表現するなら、そう……矢だ。
真っ直ぐと、疾く目標へ向かう矢のような鋭い少女。
目の前に、俺が考えつかないような超絶美少女が、立っていた。
「……っ、ドンピシャ来ましたわあああああああああああああ!!!!」
速そう! マジで足速そう! んで強そう! んでカワいい!!
これで決定! マジで決定! 即断即決だわ!!
「ナレーションちゃん、これで決定!」
「りょうーかいっ! キャラ作成完了! 意識を作成した体に移すよ!」
女の子の声と同時に、俺の視界が徐々に別の視界へと切り替わっていく。
右から左へ、シーンが移り変わるみたいに俺――いや、私の視界が出来上がっていく。
おぉう、なんか意識が移る感覚って想像できてなかったけど、こんな感じなのか。案外あっさり。もうちょい気持ち悪いかと思ってた。
「よーっし! これで準備は万端だね! それじゃあ、私たちの世界を自由に楽しんでね! 落ちていく先はランダムだよ! いってらっしゃい!!」
「ああ、しっかり楽しませてもらうよ!」
一瞬の浮遊感。事前の情報通り、今まであった床の感触が無くなり、私は真っ逆さまに惑星へ向かって落ちていった。
これは一種の覚悟だ。誰に聞かせるわけでもなく、ただ言い放つだけ。
私は、大の字に体を開き、高速で近づいていく星に向かって叫んだ。
「さあ、私の世界を始めようか!」
ネカマロールプレイのレッテルが今貼りつけられた! ……それでいいのか主人公




