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衝動に任せて執筆&投稿じゃあああああ
『ゲームがしたい』
そう思う心の中にはどんな願いが込められているだろうか。
娯楽はただの娯楽だって? 違う違う。そういうありきたりなことを聞いてるんじゃない。
例えば、剣を持って戦いたいとか。魔法使いになりたいとか。銃で敵をたくさん倒したいとか。誰よりも強くなりたいとか。その世界の秘密が知りたいとか。殺伐とした空気を味わいたいとか。現実と違うファンタジーを堪能したいとか。
言わば、求めている『非現実』――いや、『幻想』の具体的な形を聞いているのさ。
僕は生まれつき体に筋肉が付きにくい。何かの病気じゃないかって疑ってはいるんだけれど、病院の検査では僕は健康そのものなんだってさ。
だから生活に困ってはいない。ただ単に体格がひょろっちくて、喧嘩と運動がさっぱりできなくて、そして……足が遅いだけだ。
いくら筋トレをしても、走り込んでも、僕の体つきは変わらないし、足も速くならない。もどかしいっていうのはこういう時に言うんだっけ。
16歳のとき、親父に無理を言って原付の免許を取って原付を買ってもらった。
初めて乗ったときは本当に感動したなあ。自転車じゃ比べ物にならないスピード、僕の脚なんかじゃ考えもつかないような速度で景色が僕の後ろに流れていくんだ。
楽しかった。このバイクがあれば僕はどこへでも行けるんじゃないかって気持ちになった。
ドラマとかアニメとかで言うような、クサい台詞だけど……僕は風になっていたんだ。
でも、原付じゃ僕は満たされなかった。
車種の問題じゃなくて、多分、僕は僕自身の脚で走りたかったんだと思う。
世界最速の男は、原付で走れば余裕で追い越せる。でも、そうじゃない。
筋肉が無くて、足の遅い僕が言うのはおこがましいかもしれないけれど。
――僕は、一番速く、自分の脚で走りたいんだ。
「だから僕は、ゲームがしたい」
「却下」
「なにゆえ!?」
我が愛する父の非情な一言に、俺のガラスのハートにヒビが入った。
その父は対面のソファにて新聞を読みつつ答える。
「翔太ももう2年生だろう。大学受験を見据えて勉強するのが先決だ。成績が落ちてきてるのが特によろしくないしな」
「はうっ!」
ぐぅ、学生と言う忌々しき我らの宿命を盾に反論するとは……! 鬼! 外道! 加齢臭!
しかし、我が愛する父の冷酷なやり口に屈するわけにはいかない!
お小遣いを使い切ってしまった今、このお父上に金を恵んでもらうしか方法が無いのだ!
「つ、次のテストは順位上げるから! 約束するから! だか」
「何位になるつもりなんだ?」
うぉう、俺の言葉を遮りつつ新聞越しにガントバとはやるじゃねぇか親父殿。さすがの俺もブルっちまうぜ。
「え、えーとーそのぉ……に、20位以内に……」
「さて、母さーん、風呂は沸いてるかー」
「わああああああ! 10位っ、10位以内になりますから! だからなにとぞ僕の青春のために【Fantasia of the Freedom World】を買うお金をくださいましいいいいい」
「……その言葉、忘れるなよ」
「ありがたやぁぁ」
親父殿は、そのまま風呂場へと去って行った。くそっ、俺より先に風呂入りやがった。父さんの後ってなんか変なにおいするんだよなあ。母さんと妹はどっこいどっこいだって言うけど……
にしても良かった。これで発売日にゲームが買え…………買え……ない?
今お金もらえなかったよな? テストで10位以内に入ったらもらえるって約束になっただけだよな?
発売日は今月の20日。さて、次のテストは一体いつだったかなぁ――――
「――わーい。再来月の第三週だー」
うーん、お空が青いなー。ここ室内だけど。
「お父さん! 私が先に入るんだからあっち行ってて! お父さんとお兄ちゃんの後は臭いから入りたくないの!」
「ちょ、ちょっと待て紗代! 父さんは臭くないぞ!?」
「自分じゃ分かんないの! それじゃ先に入るからねっ!!」
「紗代ぉぉぉおおお!」
……ざまあみろクソオヤジめ。そしてお兄ちゃん泣くぞ、妹よ。