金儲けをして何が悪い 第8章 恐怖の事務所勤務
加藤
石黒の傍若無人ぶりは日をおってひどくなってきた。
その原因は石黒に誰も注意もアドバイスもしないことだ。
契約を取ってきて、工事をして、工事代金を回収できれば誰も何も文句を言わない。
それどころか、仕事が出来ると評価され、昇進する。
不思議な話でニューエナジープランニング社には個人事業主の集まりにも関わらず、職位や昇給があった。
昇給といっても主任で月5千円、課長で2万円、支社長になると25万円だった。
昇進試験もなく、コンプライアンスの説明会もなく、ただ、「契約を沢山取ってくる販売員」が少し好待遇になるだけだ。
また、アポインターが沢山アポを取ってくると、車輌長として社有車が与えられ独自で営業したい場所を選べるようになった。
個人事業主にも関わらず、商売に使う道具は会社が提供するというなんとも奇妙な仕組みである。
高速代・ガソリン代は自腹だが、車検代・タイヤ・オイル交換代など維持費は会社が負担していた。
でも、これも何も疑わないで働く販売員をつなぎとめるためだけの会社の策略にすぎなかった。
実際支社にもアポインターを希望する人間が多数応募し、実際に働いたが2.、3日もすると石黒の異常さと会社の不条理に気がついて退職するのがオチだった。
加藤は3ヶ月もすると会社の異常な仕組みに気が付いた。
まず、販売員の給与明細がE-Mailで届くのだが、決して見てはいけないと厳命された。
メールが届くと支社長がメールを開き、印刷し、メールは綺麗に削除され販売員に渡すのである。
そして、必ずその計算は間違っていた。
激怒した販売員が給与担当の高橋課長に電話をして抗議するのは日常茶飯事だった。
そして、加藤がもっと疑問に思ったのは年末の支払調書を配布する際、販売員各自の総収入から経費であるはずのガソリン代・高速代などの経費がごっそりない状態で金額が記載されていたのである。
こっそりと見てしまった販売員の給与明細と支払調書に唖然とした。
確かに月ごとに販売員から経費のレシートを回収し、一旦会社の金庫から返金をしていた。
しかしその分経費は給与からは引かれているのである。
つまり個人事業主として契約されているはずの販売員は各自税務署に確定申告を行うが経費として提出するはずのレシート・領収書は全て会社が回収しているので、経費控除が受けられないのである。
どうしてそんなことを行うのか。
加藤は疑問に思ったが、「給与明細を見てはいけない」と厳命されている手前、やぶへびになるのと恐れて黙っていた。
そんな中でも石黒は社内でも社外でもいろんな問題を起してきた。
「警察沙汰?」
ある日加藤が出社すると、本社より連絡があった。
「石黒課長がクーリングオフを申し出たお客様の言い方に腹をたてて、暴行してしまい、警察よばれたんだよ」
のんきに業務担当の上島課長が電話口で状況を説明してくれた。
「契約者の旦那さんの腹をけって、奥さんの髪をつかんで振り回して、契約者のお父様に頭突きをしたんだよ。俺が身元引受人でひきとってきたんだけどさ。まぁ、相手がいい人で示談で終わったんだけど」
「どうしてそんなことになったんですか?」
「レイアウト図を改ざんして、あと発電量もかなり多目に言っていたのと、木がね・・」
「木?」
「お客様宅に大きな木があって、昼間影になるリスクをだまっていたんだよ。金額も多めに言っていたらしく、不振に思った契約者のお父様が別の業者をよんで相見積もりをとらせたんだけど、全然、石黒の方がでたらめで抗議したところ、そうなったんだよ」
「そうなんですか・・・。」
「でもあいつ、絶対に謝罪しないって、言い張ってさ。大騒ぎになったんだよ」
「ええ。。。傷害罪にならなかったんですか」
「相手が大事にしたくないって、とりさげてくれたからよかったけど、奥さんが怖がって、あの町内の出入りを禁止するって誓約書をかかされたよ」
「誓約書だけで済んで良かったじゃないですか」
「そうなんだけどさ、石黒怒りがおさまらないだけじゃなくて、お金とれなかった、あの家の契約にかける時間があったらよそにいけた。時間を返せって大騒ぎしているんだよ。今日、そっちに行くけど、気をつけてね。あっ、あと社長から始末書書けって言われているから書かせてね」
「私が書かせるんですか?」
「まぁ、内容は加藤さんにまかせるよ。田中支社長と相談して当たり障りのない内容でかいて石黒の印鑑もらってよ。じゃ、まかせたから」
上島課長は気楽にそういって電話を切った。
その後出社した田中支社長に事情を説明し、加藤が始末書を作成した。
田中支社長は面倒に巻き込まれたくないのか、始末書を確認する事もなく、
「じゃ、石黒にサインしてもらって社長に提出して」
と話し合っているところに、石黒が出社してきた。
「これにサインをおねがいします」
加藤が始末書を石黒に渡すと石黒の顔がみるみる真っ赤になってきた。
「なんだよ、これ」
「今回の件の始末書です。」
「なんでお前がつくっているんだよ。それにおれ絶対にサインしないからな。」
「社長命令です」
「なんで俺が悪くないのに、こんな書類にサインしないといけないんだよ」
と、始末書を破り捨てた。
「大体、あいつらが他の業者になんで見積もりさせるんだよ。俺が正しいに決まっているだろう。
あんな木なんて関係ないんだよ。俺の金どうするつもりなんだよ。あのやろうが。キャンセル料さえ払わないっていっているんだぜ。おかしいだろう。契約書に印鑑も押して、クレジットの審査も通って、工事日もきまっていたんだよ。あのバカ夫婦が生意気に俺に意見する資格なんてないんだよ」
加藤は困って田中支社長に目をやったが、いつものとおり、知らん顔で自分のパソコンを見ている。
石黒は思い出したのか机をバンバン足蹴にし始め、灰皿を壁に投げつけ、加藤が作った始末書を靴で踏みつけた。
興奮して手に負えない・・・。
加藤はあきらめて、恐怖のあまり自分の席に戻り、自分の仕事を再開した。
目を合わせると何をするか判らない。ましてや自分は始末書を作った当事者だ。
幸い、アポインターが出社してきた。
石黒のお気に入りの南原が興奮している石黒に状況を察したのか、石黒におべんちゃらを使い始めたので、何とか事務所の雰囲気は回復し、いつものとおり朝礼が行われ、各販売員は今日の獲物を探しに出ていった。
社長には石黒が破って足で踏みつけた書類をそのまま送付した。
すると、高橋課長から電話があった。
「始末書とどいたけど、何これ」
「石黒課長にサインをお願いしたのですが、拒否してやぶって足で踏みつけたので、そのまま送付しました」
「田中支社長はその時何をしていたの」
「何もおっしゃいませんでした」
「はぁ、あのね、あなた自分の立場理解しているの?すくなくてもそこの支社を任されているのよ。マネージメントもできないでどうするのよ」
「石黒課長に口答えしないように言われていましたので、興奮した課長にどんな言葉を掛ければよかったんですか」
「というよりも、あなたが書いたの?この始末書」
「石黒課長はパソコンが使えないので、私が作るよう田中支社長から指示がありましたので」
「田中支社長にこの始末書の内容確認してもらったの」
「いいえ。私に一任するということでしたし、高橋課長より田中支社長は人事権もない関係ない人物との説明を入社時にされていましたので、私の独断で書きました」
「じゃ、どうしてこんな文章にしたのよ。私に見せるのが筋でしょう。こんな始末書社長にも見せられないわよ」
「じゃ、どうやって書けばよかったんですか」
「しょうがないから今回私が作った始末書、データで送るから、印刷して石黒課長のサインもらって。とにかく、怒らせないようにしてよ」
一方的に電話が切れて、しばらくしてメールで高橋課長が作成した始末書が届いた。
そこには
『このたびは他社の妨害という不本意な事態のため、やむを得ない行動にでました。今後はクレームを出さないお客選定に勤しみ、営業活動に励みます』
と書いてありました。
他人様に手を上げた事、警察沙汰になったこと、それ以上に異常とも思える金儲けへの執着、販売員の人格がどうなろうと知ったことでないとする会社の態度に加藤はぞっとした。
翌日、石黒は新しい始末書にブツブツ言いながらもサインをし、加藤に投げて寄こした。
そこには反省の色など微塵もなかった。




