幕間:あるイライライダー男の場合
本編でどう拾ってくのか、自分の首を絞めている『幕間』をもうひとつ。
『ヤバイ』の続きは、薄味オチ無し異能バトル風ですすめています。濃縮した濃いネタでなく、書いたものの読み直して当たり障りのない方向に加工修正ちう。つまりいつものダラダラ展開ですな。
スクーターの男は、左車線から前へ入ってきた車に毒づく。
『急に入ってきたから、そこそこ走るのかと思ったらのろのろじゃねえかよっ』
入ってきたものの加速をしないし前方の車から徐々に離されていきグチは続く。
『右側車線で法定速度以下じゃないか。ゆっくり走行が安全運転とは限んないぞ。むしろ周囲に悪影響だ』
自分の後続車も、同じとは行かないまでも、近い意見だろうと考えている。
『ちっ。運転技術のないのに高級車なんて乗るんじゃねぇよ』
やっかみである。
前車の影に隠れて見えなかった中央の段差に男は気がついた。
このままでは突入するのは必至だ。
男はわずかに口角を上げた。
段差の少し手前に差し掛かると徐に床を踏みつけた。
サスがぐっと沈み段差では伸びきった状態になる。
『いヤッホーーー・・・・』
少しの段差で、ジャンプ感を味わうとしたのだ。
男のテンションは高い。
◇ ◇ ◇ ◇
「ん。気持ちは落ち着いた?」
白い部屋で白い少女がこたつミカンしていた。
「ここは、所謂アレ?」
「ん」
頬袋をぱんぱんに膨らまして頷いた。
いまナニかギャグをすれば口からスプラッターものだなと男は思ったが鉄板ネタもなくすぐには思いつかなかった。ただ、ミカンを欲しそうに見つめるだけだった。
相手の素性は解らないが、アレだと肯定されたし、機嫌を損ねるのは不利な条件になっていくのだろうと予想した。
「オレ、事故って死んだんすか」
立ち位置というか自分の状況について把握するべくまず一つ目の質問をしてみた。
少女はうなずくことも横に振ることもせず斜め上を見ながら、ゴクンと一息に飲み込んだ。コミックとかアニメでは見たことあったが、実際に喉を倍以上に膨らませて何かが嚥下されるのを見た男は口を開けてただ見守るしかなかった。
「一人称が『オレ』なんだ」
「?」
「ん、気にしないで」
とは言われても、なんか引っかかる物言いに男は、苦慮する。
ちっこいミカンの皮をむいて、割らずに口の中に放り込むと、渋い顔をした。意図した甘さから遠かったようだ。『スダチだったぁー』と小さい声でつぶやいたので男は聞き取れなかった。
しかめっ面をしたままで、どこからかファイルを取り出してペラペラめくりながら視線をファイルから離さないで話しかけてきた。
「んーと、昨日お父さんの命日だったんだ。それも同い年かぁ・・・・。一日更新して長生きだねぇ」
男は、死んだ自分が父親より一日長生きしたからってどう応えていい物か、非常にやりずらくやるせない。
「ふむふむふむ、ふーむ」
男を放置したまま少女は持ったファイルを読み進める。
「お主、アノ事故で死んでないよ」
「はぁ?」
いや、いや、いや。それだと根本からして、自分の立ち位置どおなんのかと男は心配した。
別に、心肺停止だからってオチじゃないことを願った。
少女のニヤニヤを見て不安になる男を手招きして、こたつに誘われた。
「・・・・ども」
男は、ライダーブーツを履いていたことを思い出し、軸足で支えていない方の膝を曲げると、土足ではなくなっていた。
「驚くのもムリは無いがの。ここは俗に言う精神世界じゃ」
「じゃあ、失礼します」
「ところで、お主はどの辺りまで覚えているかの」
「えーと、ジャンプして滑空状態のあたりまでですね。今は、粋がったあげく着地に失敗して無様にコケたんだなとは認識してますけど。後続車には悪いことしたかなと」
頭をかいた。
半眼で噺を聞いていた少女は男がこたつに入るのをじっと待ってから、いきさつを語り始めた。
「わしは、アイという。結論だけ先に言っとこう。跳んで着地する間に、後続車が加速してのぉ。激突されたお主は重傷、バイクはバラバラ。まぁ命は取り留めたの」
認識に手間取り男の思考が停滞した。
「エーでぇーす」
アイと名乗った少女の隣に、そっくりの少女か゛ならんでいる。こたつも心持ち横に広がっている。
「後ろの車って、公道で一度も学習させてない自動運転のテスト車だったんですよ。搭載センサーの情報も処理できないポンコツだったんですよ」
二輪の存在を認識できないままに車間距離を突然詰めようとした結果だという。
怒っている少女は、アイのクローンでサブシステムだと紹介されたが、男にはまったく理解できなかった。
「お腹すいてたら、汁あり担々麺でもどおですか」
「ああ、ごちになります」
アイとエーから男は自分が本体からはじき出された魂のカケラだと知らせれたが、感情は特に動かなかった。
ショックから一度落ち着いてから、変動がほとんど無く、淡々と担々麺をすすっていた。
乗用車の専門メーカーでありながら、時代の波に乗り遅れて急いで、自動運転の分野へ手を伸ばしたが、その面での技術の蓄積がないままで、試験走行もぶっつけ本番で行ったのだが、保安要員として搭乗していた者がソーシャルゲームに夢中で目を離していたという。
ずさんな試験運転だと解ったのは、開発部門の大法螺を信じて広報と営業部門が内部カメラとドローンを使い公開していたことでモロバレしたことが後悔される。
五体満足でなくなった男はその後、サイボーグ技術の被検体になる予定だとか。
「せっかく自我が芽生えたのに、基の体に戻るのも可能ですけど、あと異世界転生、転移とかも希望があれば、協力しますよ」
「・・・・・実は、・・・・・・」
男は希望を述べていった。
お読みいただき、感謝します。