ゆるやかストリート
私の彼は私より12才歳上だ。
だからといって彼の方が大人って事じゃない。
むしろ私の方が精神的には大人なんじゃないだろうか。
澤本 泰宏
これが私の彼の名前。
歳は39歳。
眼鏡をしていて、背が高くて体はでかい方で。
ばりばり仕事をして、仕事場では頼られる存在らしい。
そして休みの日はもっぱら録り溜めたテレビを見るかゲームをする。
たまに私がちょっかいをかけると構ってくれるが、熱中しているとテレビからは目を離さずただ頭をひたすら撫でて、私の頭をぐちゃぐちゃにする。
「ひなー?暑いんだけど……扇風機の前に陣取らないでー?」
私の名前は綾瀬 陽菜。
歳は27歳。
私だって勿論ばりばり働いてるし、ひーくん
(最初は恥ずかしがられてすごく嫌がられた)に頼りっぱなしって訳じゃない。
「………エアコンつけないひーくんが悪いんですー」
「別に俺は今までエアコンつけなくても大丈夫だったし、、というか暑いならエアコンつければ良いじゃない」
わかってないなひーくんは。。
そういうことじゃないのに。。。
私は自分の気持ちを分かってもらうためにひーくんの膝の上に飛び付く。
その行動にひーくんは驚いてすぐに笑った。
「……なんだ、ひなはかまって欲しかっただけなんじゃない」
「ぴんぽん正解です。」
上を見上げると優しい笑顔。
そして大きな手がひたすら私の頭を撫でてくれる。
あっ。
もしかしてもうひーくんをテレビに取られた?
そう思いながら上を見上げると案の定。
彼はテレビに釘付けだ。
でもその大きな手に頭を撫でられるとどんどん眠くなってくる。まるで寝かしつけられているかのように。
私は本当にこの人が大好きだな。
そう思いながら。
目を瞑った。
ーーーーーー私とひーくんの出会いはゲームセンターだった。
特に私はゲームをする方でもなかったんだけど、その日は仕事の失敗とストレスで、気持ちの行き場所がなく。
なんとなく目についたゲームセンターに入ったのだ。
適当にゲーム機の前に座ってお金を入れる。
勿論ゲームのやったことない私なんてそれに勝てる筈もなく。
すぐに終わってしまう。
目の前の画面に大きくゲームオーバーってかかれていた。
「………これでおしまいか。。。」
ふとその言葉を呟くと。
私の目からは次々と涙が溢れてきた。
その涙は悔しさと自分の不甲斐なさで。
「………あの。。ちゃんとチュートリアルからやった方が良いですよ」
隣から低い声。
私に話し掛けてるの?
涙を拭かないまま隣に目をやる。
そこには大きな身長の男の人が優しく私を見ていた。
「いきなり本戦からいっちゃうから負けちゃう…………ってえっ!?泣いてる!?そこまで悔しかったんですか!?」
気付くの遅くない?
そう思いながらもその人から目をそらす。
「……すみません。。これはゲームじゃなくて仕事でうまくいかなくて。。」
あぁー。。
とその人が納得した様な声を出して私の目の前に100円を置いた。
何がなんだかわからない私はその人を見上げる。
彼は自分の画面から目を離して優しく私に笑いかけた。
「………次はゆっくり説明から聞きましょう?大丈夫。失敗するから成功に繋がる次があるんです」
その言葉は。
彼にとってきっとゲームに向けての事なのだろう。
でも私にはそんな風に聞こえなくて。
彼の前で思いっきり泣いてしまった。
ひとしきり泣いた私はいように心も体もスッキリしていて、気がついた時には彼の事を好きになっていた。
そこでなんとか連絡先を聞き出し。
アプローチしまくって。
彼は歳の事を気にしていたけど。
更に私の気持ちをいっぱい伝えて。
付き合って。
いくらか月日がたって。
今彼と一緒に住んでいる。
そう。
なので私の方が彼にベタ惚れだったりする。
ーーーーーーーーーーーーー。
「ひーな?そろそろ起きて?ご飯作るから」
うーーーーん。。。
寝覚めにひーくんの声が聞けるなんて。
「……しゃわわせー」
「……え?今なんて言った?寝惚けてるでしょ?」
私はそのまま彼のお腹に抱き付く。
「……離れたくなーい」
甘えん坊と言われたって良い。
だって本当のことだから。
「……ひーな!いい加減にしないと?ご飯食べれなくなるから!!」
「………はぁーい。」
渋々離れると、ひーくんは頭をポンポンと優しく撫でてキッチンに向かった。
「……たまには私が作ろうか?」
1つ提案すると。
「……ひなは不器用だから俺が作るよ」
ひーくんのご飯は世界一美味しいから大好きで。
でもひーくんにとっては私の料理は摩訶不思議らしい。
だから料理の当番は必然的にひーくんになった。
私といえば他に出来ることもないので掃除当番になってしまった。
掃除は嫌いだけど分担事だから仕様がない。
暫くするとコトコトと良い匂いがしてくる。
「ひーくんー何作ってるのー?」
「匂いで分かるでしょ」
呆れた声がキッチンから帰ってくる。
「……カレー?」
「ほら分かった」
「覗きに行って良い??」
「別に来なくて良いよ」
そんなやり取りをしながらテーブルを拭く。何でもないやり取りが私にとって幸せで大切だったりする。
「はいお待ちどおさま。」
そうこうしている間にひーくんのご飯が出来上がって私の前に置かれた。
カレーの香ばしく良い匂いが私の鼻をくすぐる。
「いただきます!!」
「はいどうぞ?」
優しい笑顔を私に向けてくれる。
私はすぐにそのカレーを口の中に入れた。
味なんて知っている。
そんなの。。
「おいしい!!ひーくん美味しすぎるよ!!」
「ひなは本当に美味しそうに食べてくれるね?作る甲斐があるなぁ」
だって。
ひーくんが作った料理をひーくんと一緒に食べて美味しくないわけないもん。
そんなことを思いつつ料理を私は綺麗に食べた。
ーーーーーーご飯を食べた後。
お風呂に入って寝る準備をしつつ私達はまったりとしていた。
今度は2人並んでずっと見ていた連続ドラマを見ている。
波乱万丈な恋愛ドラマで。
本当はひーくんはこういうのは好きじゃないらしいんだけど。
私に合わせてくれているらしい。
「ねぇー何でこの2人早く、くっつかないんだろうね」
「そんなのくっついたらすぐ終わっちゃうからでしょ」
そうだよねーと言いながら、私はテレビを見つめた。
もうエンディングが流れていて。
頭の隅で聞きつつ。
意識が眠気のせいでぼやけてくる。
ここで寝たらいけないと思いつつも。
私の意識は眠気に負けて。
ゆっくりと幸せな暗闇の中に入っていった。
ーーーーーーーーー。
「ひな?俺もう寝るけどひなはどうする?………ん?」
彼女に声をかけると、小さな寝息が聞こえる。
顔をそっと覗くとひなは幸せそうな顔で目を瞑っていた。
さっきも寝ていたのに………。
よく寝る子だなぁ。。
そんなことを思っていると。。
「……ひーく……ん」
寝言だろうか。
更にひなの顔は笑顔になっていく。
その表情を見ているとどんどん、どこかむずかゆい気持ちが込み上げてくる。
というかなんでひーくんなんだろう。
……まぁ彼女が言うには名前に同じ文字の『ひ』入っているから、らしいけど。。
なんとなしに彼女のほっぺを突っつく。
………柔らかい。
まぁ当たり前っちゃ当たり前か。
「かわいいなぁ……」
おじさん化してるのだろうか。
ついつい言葉が漏れてしまう。
10歳以上若いひなが彼女なんて未だに信じがたいけど。。
今では俺にとって彼女が必要不可欠な存在になっている。
きっと彼女は気付いていないだろう。
俺がこんなにも君の事を想っているということを。
とりあえず風邪を引かれても困ってしまうから。
俺はひなを抱き上げて寝室に向かう。
「どうか君も俺と同じ気持ちでありますように」
彼女に聞こえないと分かっていながらひなに自分の願いを言ってみる。
ひなは気持ち良さそうに寝ているだけで、何も答えてくれないけど。
幸せそうに寝るその姿が。
俺の心を満たしてくれて。
それだけで充分だった。。。
ーーーーー朝。
「わー!!遅刻するーー!!」
朝からバタバタと走り回る私に対してひーくんは落ち着いた様子で平然と玄関で靴を履いている。
今日は早番だったのに!!
いつもの調子で起きてしまったのだ!!
「寝る子は育つって言うし寝るのは良いことだよ」
ぽそりとひーくんが呟く。
ひーくん!!
私もう年齢的に育ちきってますから!!
私はとりあえず必要なものを鞄に突っ込むと、すぐに玄関に行って仕事用のパンプスを履く。
扉の前で待っててくれたひーくんは私の髪を大きな手で触れた。
「寝ぐせついてるよ?」
「ありがとう!!」
そして扉の先へ。
私達はそれぞれの仕事場へ向かったのだった。。
年が離れていても。
何もなくても。
私達は幸せを噛みしめている。
これが私達の日常。。。
ずっと書きたかったお話しです。
暇潰しに読んで頂けたら幸いです。