王子が東京湾に沈められそうになってるけど気にせずヒロインに反撃する悪役令嬢
今回かなりいじめ描写を過激にしてるのでご注意ください。悪役令嬢物読んでる人なら、耐性あるから大丈夫……だと思いたい。
【目的地まで、あと10mです】
「誰か助けてええええええええーっ! 死ぬううううううううーっ!!」
カーナビの声すら響く、真夜中の港。エンジンだけがかかった運転手のいない軽トラが、ゆっくりと東京湾に近づいている。
その荷台では、縄で縛られ身動きが取れなくなった王子が叫んでいた。
「あぁ、王子! こんな所にいらしたのですね!」
「スワンか!? お願いだ、助けてくれっ! なんか知らんが目が覚めたらこんな事になってたんだ!」
王子は、何故かすぐ近くにいた愛するスワン男爵令嬢に助けを求める。
「あぁ王子、良い所に来てくれましたわ……。 シズメ様が私を嘘つきだと罵るんですの! どうか助けてくださいまし……」
「それ、絶対私の状況より優先度低いよね!? そんなの後でいくらでも助けてやるから、早く車を止めてくれっ!」
「あらあら、私を手紙で呼びつけておいて何を叫んでいるのかしら? 醜い有様ね」
【目的地まで、あと9mです】
王子とスワンが話していると、シズメ公爵令嬢がスワンの目の前に現れた。ついでに軽トラのカーナビの声も聞こえた。
「シズメ様、もう王子に付きまとわないでください! 王子は私が守るって決めたんです! あなたみたいな乱暴な方に王子を任せるわけにはいきません!」
「守るって決めたなら、この軽トラ止めてくれない!?」
スワンは鬼気迫る表情でシズメに叫ぶ。王子の鬼気迫るツッコミに比べるとあまり鬼気って感じではないが、まぁどうでもいい事だろう。
「乱暴? 私のどこが乱暴だと言うのかしら……」
「貴方はいろいろな人に迷惑をかけました! 王子を誘拐した召使いに別の仕事を押し付けたり、王子を縛る担当だった令嬢の縄を隠したり、貴族が用意したこの軽トラのアクセルを外したり、皆迷惑しているのです!」
「それ、私的にはすっごい有難い事なんですけどー!? 今の証言でシズメ令嬢への好感度が上がったよー!?」
スワンは、シズメが様々な悪事(※スワン基準での判定)を行ったことを指摘した。しかしそれを聞いたシズメは冷静に反論する。
「あらあら、見苦しい嘘ですわね。確かに王子が東京湾に沈められる計画は知っておりましたが、邪魔なんて全くしていませんわよ? むしろできるはずがない、と言ってもいいですわね」
「なんですって!」
「準備の時間帯、私はずっと東京湾でピラニアを放流していましたの。信頼できる協力者は何人もいますから、彼らの証言を聞けば分かりますわ」
「前言撤回っ!! シズメ令嬢も絶対私を殺そうとしてるだろ!?」
【目的地まで、あと8mです】
「う、嘘ですわ! そんな協力者、貴方の部下に決まっているじゃないの!」
「ふふふ……皇太子様が協力者だとしても、そんな事を言えるのかしら?」
「こ、皇太子様が!?」
「そう、そもそもこの【王子東京湾沈没計画】は国王様の発案でこの国が主催しているモノです。ですから王子の婚約者である私も、その方たちと同じように王子を沈める手助けをしていたのですわ!」
「父上と兄上も協力者なのー!? そんなに恨まれてたの私ー!? ……と言うかよく考えたらこの国ってどこだよ!? 東京湾のある日本は王国じゃねーだろうがぁっ!!」
【目的地まで、あと7mです】
「あとこのカーナビの音声、どこを目的地にしてんの!? まさか東京湾の海中を目的地にしてないよね!?」
【現在のルートを直進すると、目的地『東京湾で最も助かりづらい海中』に到着いたします】
「より具体的に危険な目的地設定されとるー!? やばいって! どっちでもいいから早くこの軽トラ止めてぇー!!」
王子は精神的にかなり追い詰められていた。が、そんな些細な事はシズメには関係ないのでスワン令嬢への反論は続いた。
「ところでスワン令嬢。あなた先ほど、『王子を縛る担当だった令嬢の縄を隠したり』と言いましたわよね?」
「い、言いましたがそれがどうしたんですか?」
「なぜあなたがそれを知っているんです? 彼女は確かに縄を無くしましたが、予備の縄があったので班長だった私以外には報告をしなかったはずですわよ?」
「う、ぐっ」
シズメに発言のおかしな部分を指摘され、スワン令嬢は言葉を詰まらせて焦った。真横にもっとおかしな状況になっている上とんでもなく焦っている王子がいるが、シズメの目的はスワンへの反撃なのでそっちの指摘はしなかった。
「なんなら、私達二人で今から貴方の部屋に行きませんこと? もし貴方の部屋に縄があったのなら、本当の犯人は確定的になるでしょうね……」
「いや、行かないで!? 犯人解明とかより先に私に目を向けてっ!! なんなのお前ら、なんで私を綺麗に無視できんの!? そんなに私を殺したいの!?」
【目的地まで、あと6mです】
「ほらーっ! ほらーっ! どんどん近づいてるってー!! お願いだから助けてっ! 悪いことしたなら償うからぁっ!!」
王子の叫び声はどんどん大きく、悲愴的な物になっていく。だがそれをかき消すように、スワンは大きな声でシズメへ様々な暴言を放ち始めた。
「こ……この悪役令嬢! なんであんたが皇太子の協力をしてるのよ!? 本来なら貴方が王子が死ぬのを妨害してるはずじゃないっ! 私は悪くないわ。あんたが王子沈没の阻止をしないから、代わりに私がやっただけの事よ! それ以外は貴方達にその事がばれないよう、原作のゲームの通り『徹底的に攻略対象を見殺しにする糞みたいなヒロイン』演じてたんだから。私は全然悪い事なんてしてないんだからねっ!?」
「マジで全然悪いことしてないなっ!? スワン、助けたい意志があるなら縄ほどいてっ! 早く! さあっ!! ほらっ!!!」
「罪の意識がないとは、笑えませんわね。王子沈没を邪魔する事は爵位返上に相当する罪ですわ。分かっておいでですの?」
「私を助けようとしてる子にそんな罪をかぶせる方がよっぽど爵位持ってる資格無ぇだろおおおおおおっ!!! この国の司法制度どうなってんだよおおおおっ!?」
【目的地まで、あと5mです】
スワンはシズメに罵詈雑言を叫び、シズメは静かに微笑み、王子が立場を忘れ泣き叫ぶ。
そこはまさに混沌としか言いようがない状況だった。
しかしそこに、待ったをかける男が現れた。
「話は聞かせてもらったよ」
「あぁっ、皇太子様!?」
そう、元凶の一人である皇太子である。
「スワン令嬢、君は大変なことをしてくれたね。軽トラに積んだピラニアの餌を盗むためにそんな事をするなど、男爵家の娘として恥ずかしくないのかい?」
「おいこら兄上っ!! なんで弟をピラニアの餌扱いしてんだっ!? 私はピラニアより地位低いのか!?」
気品のある顔つきの皇太子は、大罪(※皇太子基準での判定)を犯したスワンに怒号を上げる。その後ろで王子がさらに激しい怒号を上げているが、当然気にする者はいない。
「恥ずかしいのは貴方達でしょうっ! 貴方達は無駄な命を使う馬鹿ばっかりじゃない! ……淡水魚のピラニアを海水に入れるなんて、命を何だと思ってるの!」
「私よりピラニア優先なの!? スワンも人の命を何だと思ってるの!?」
【目的地まで、あと4mです】
スワンがピラニアの心配をしていると、皇太子はにっこりと微笑む。
「あぁ、それなら安心してくれ。あのピラニアは品種改良を重ねて海水でも生きられる特別なピラニアなんだ。東京湾に害をなす魚を倒す為に作ったもので、今日軽トラに餌を積んだのもピラニアを育てるためだったんだよ。……不穏分子である君には、教えてなかったけどね」
「ピラニアも東京湾だと大分害魚になるだろ!? と言うか私を沈める理由、それなのっ!? もっと良い餌あるだろっ!! なんで私を餌にしちゃうの!?」
「ちなみに餌は廃棄する予定の食肉を使ったんだ。いやー、王子としてノビノビと過ごさせる事で美味しさを引き出した新種の食肉だったんだけど、誰も買い手が無いままこの年齢まで育ってしまって仕方なく……」
「ちょっと待てええええええっ!! 私が王子な時点で食べられる運命だったのーーっ!? どんなSFだよっ! そもそも需要ないのにここまで育てるのもおかしいだろ! 誰も得してないにもほどがあるぞ!?」
【目的地まで、あと3mです】
王子は衝撃の事実を伝えられて戸惑っているが、これは王子が知らなかっただけであってこの国では周知の事実である。
そもそも乙女ゲーム的な国家に住まう王子の8割が食肉として育てられていたと言うのは、WEB小説界隈にいる者なら一度は聞いたことがある常識。無論この物語でもその常識は周知されているため、王子以外は全員知っている。
だがスワン令嬢は、この至極合理的な食材の処分に不満を叫び続ける。軽トラに積まれたピラニアの餌さんも似たようなことを叫んでるが、この場では『変な鳴き声する鈴虫』的な扱いなので当然無視される。
「王子を海に沈めるなんて馬鹿げているわっ! そんなやり方やめるべきよ、この馬鹿皇太子!」
「スワンーっ!! やっと私を助ける話題に入ってくれたかーっ!! ついでに縄ほどいてくれーっ!!」
「廃棄物を東京湾に捨てたら海が汚れるじゃないのっ! 王子は海に沈めず、畑の肥料に使うのが原作での正規ルートなのよっ!!」
「やばい……スワンも別の路線で殺す気満々だった……」
スワンは王子の利用用途だけが不満なようだ。ちなみに畑の肥料として使われている王子はホームセンターでも販売されているので、皆さんもガーデニングを始めた際には探してみると良いだろう。
【目的地まで、あと2mです】
「うぅ、死にたくない……。お、おねがいだから……助けて……。もう平民とか奴隷にしていいから……あぁ……」
ピラニアの餌はついにプライドをすべて捨てた。王子としてのプライドを捨て去り、ピラニアの餌としての役目から逃避した彼は、この瞬間ついに完全なる産業廃棄物へと進化したのだ。とてもめでたい話である。さぁ、皆も産業廃棄物くんの門出を祝福しよう!
……だが彼がいかに心変わりしようがスワンへの断罪は続く。ベランダにタンポポの花が咲いただけで家庭内の夫婦喧嘩が収まる事が無いように、産業廃棄物と化した彼がいかに態度を改めても断罪が収まる事はあり得ないのだ。
「まったく……。王子を畑に蒔いて農業ENDを迎える為だけにこんな大罪を犯すだなんて。愚かですわね」
「シズメ、貴方がすべて仕組んだのねっ!? 許さない、許さない、許さない! ピラニアを使って害魚を駆除したら、海産が王国の主要産業になってBAD ENDになっちゃうのっ! 私の領地の農業を広めるのが、このゲームの目的なのにっ!」
「馬鹿ね、貴方が余計な事をしなければもっとましな結末になれたのに。今回の騒動のせいで、貴方は爵位返上どころか国家反逆による極刑に処されるかもしれないわね」
「きょ、極刑なんて嫌よ! あれって動画サイトに『【スワンの300円グルメレポ!】これは美味! ●●社の作った新しい冷凍ハンバーグがうまいらしい!【チャンネル登録お願いします!】』みたいなタイトルの紹介動画を上げる刑なんでしょ!? あんな事して生きていくくらいなら、死んだほうがましよ!」
「じゃあ私と変わってくれよぉ……っ! それ明らかに刑としてしょぼすぎるだろぉっ……! なんで特になにもしてない私が餌になるんだよぉぉぉぉぉっ……!?」
産業廃棄物は、極刑の方がましとばかりに悲痛な悲鳴を上げている。どうやら彼は『再生数2ケタ台な上、否定的評価しか投票されていない糞みたいな動画を投稿する』と言う刑罰を、死より恥ずかしいとは感じないタイプのようだ。筆者だって、凄い画力の人々が集まる掲示板で落書きみたいな絵を投下した過去を思い出すと時々死にたくなると言うのに……。(実話)
【目的地まで、あと1mです】
「いやだぁ……死にたくないよぉ……。誰かぁ……」
産業廃棄物はもうボロ泣きだった。王子だった面影なんて、服のチャラチャラさぐらいしか残ってない。それでも彼の地位は『シズメやスワンたちの背景』のまま変わらない。もしもこの作品が漫画化かアニメ化をしたら、きっと彼は画面から見切れている状態になってるだろう。
「衛兵! その女を拘束しろっ!」
「「「了解しましたっ!」」」
「な、何するの貴方達! 離しなさいってばぁっ!!」
皇太子の命令により、スワンは周囲にいた衛兵に取り押さえられた。そしてヒステリックな叫び声を発しながら、どこかへ連れ去られてしまった。まぁ、衛兵たちは優しく人権も順守するので軽トラに積まれてどっかの海に捨てられると言うことはないだろう。そんな外道がいるなら、一度会ってみたいものだ。
「これであの女がピラニアの餌を盗むことは出来なくなった。後は軽トラごと餌を東京湾に沈めるだけだ」
「良かった。これで東京湾の害魚がいなくなってこの王国に平和が訪れるのですね。私も安心しましたわ」
「私の平和も考慮に入れてくれよぉ……」
シズメと皇太子は敵であるスワンを排除した達成感のせいか、なんかいい感じのムードになり始めた。映画とかでもこういうラストシーンで恋愛が進行するのはお約束なので、物語としてはよくある展開である。産業廃棄物が横から弱弱しくツッコミを入れているラブロマンスというのはなかなかないだろうが。
「さぁ、シズメ令嬢。もうすぐ軽トラが東京湾に沈む。それを見終えたら……結婚してくれ」
「えぇ、もちろんですわ……。こんなロマンチックな場所で貴方にプロポーズされるなんて、夢のようです」
シズメと皇太子は嬉しそうに寄り添い合い、もうすぐ東京湾に沈みそうな軽トラを眺めた。女の子なら誰でも夢見るような、非常にロマンチックなシーンである。
「どこがロマンチックだああああああっ!!! 誰かぁっ!!!! 助けてくれぇぇぇぇっ!!!!!」
非常にロマンチックなシーンである。
<<そうはさせんぞ……っ!>>
だが突如人間には出せないような低音の声が響き、軽トラのエンジンが東京湾に沈むギリギリで止まる。
「な、何者だっ!」
皇太子が叫ぶと、二人の目の前に黒衣をまとった怪しい人外が現れた。
『くくく……我は【株式会社魔王軍 東京支店】からの使者、闇のカータルシス(営業職)……。その軽トラに積まれた物を我が魔王軍が手に入れる為、エンジンを魔術で止めさせて貰った。大人しく軽トラごと渡してもらおうか……』
「え、もしかして私の味方!? 東京っぽさとファンタジーっぽさが適当に混ざってて世界観のブレが広がった感はあるが……凄く嬉しいっ!」
カータルシスの自己紹介を聞き、廃棄物は目を輝かせる。どうやら王子としての精神が少し蘇ったようだ。
「カータルシス……。何故この軽トラを狙うんだ? この軽トラに積んだものは、盗むほどの価値はないはずだっ! あ、あとこちらが僕の名刺です」
「残念ながら、その軽トラに積まれた物はとても価値が高い。魔王軍がそれを大切に使えば、我が社は更なる発展が望める。さぁ、渡してもらおうか! あ、私はこういう者です……」
皇太子の質問と名刺交換に、カータルシスはテンプレート通りの対応をした。立派な社会人の証だ。
「助かるかもしれないっ! やった! やったぁっ!! ありがとうカータルシス様!!! 大好き!!!!!!!!」
一瞬王子に戻りかけた廃棄物は気持ち悪いくらいに喜んだ。やはりプライドが消え失せたのは先ほどと変わらないようだ。
「カータルシス、悪いがそれは無理だ。今日中に餌をやらないと、ピラニア達は空腹で死んでしまう。真夜中の今から新しい餌を用意できないし、この軽トラは早々に海に沈めねばならないのだ……」
皇太子は自らが丹精込めて育てたピラニアに対してペットのような情が湧いていたので、そう簡単に死なせるわけにはいかなかった。ちなみに廃棄物王子に対しては『元々食糧として育てたし、まぁ何かの糧に出来ればいいかなー?』くらいの情を持っている。
「ふん、ならば……。力づくで奪ってやろうっ!」
「!? シズメ、下がっていろっ!」
闇のカータルシスは剣で皇太子を切りつけた。皇太子もとっさに腰にぶら下げていた細い剣で防御した。唐突な剣の戦いは東京湾近辺ではよくある事なので、皇太子もとっさの対応が出来たのだ。
「貴様ら人間に軽トラを沈める事は出来ない。私と戦っている間に、ピラニアは空腹で死ぬだろう。……エンジンは魔法で止まっているから、そこの令嬢にエンジンをかけさせることもできんぞ?」
「くっ……!」
剣と剣のぶつかり合いが始まったが、皇太子は明らかに押されている。これでは戦いが長引き、その最中にピラニアが死んでしまうだろう。
ちなみに廃棄物王子は、「私のためにそこまでしてくれるなんて……」とか言いながら嬉し泣きしている。
「くくく、人間は弱い。皆で協力して国のためにピラニアを育てても、たった一つの悪意があるだけで破綻する。貴様らは集まっても何もできない、弱き小動物なのだよ!」
カータルシスは静かに笑った。
「そんな事はありませんわ!」
シズメ令嬢は軽トラの後ろへ回り、全身を使って一生懸命車体を押し始めた。それを見て、皇太子は驚く。あと軽トラに積まれた廃棄物王子も驚いてる。
「シ、シズメ何しているんだっ! 危ないから隠れていろっ!」
「王子、私が軽トラの車体を押しますっ! 魔法でエンジンがかからなくても、人力で車体を押せば軽トラを東京湾に沈める事が出来るはずですっ!」
「いや待て、待て! もっと良い解決方法あるだろ!? 私以外の餌を探すとか、そっちの方向性で模索しろよっ!?」
『くくく、非力な少女一人で何ができると言うのだ。貴様だけで軽トラが動くわけがないだろう……』
「なら皆で押せばいいのよ!」
シズメ令嬢がその声に気づき顔を上げると、シズメ令嬢と同じように軽トラを人力で押す者達がいた。
スワン令嬢、衛兵、王子を誘拐した召使い、王子を縛る担当だった令嬢、王子を載せる軽トラを用意した貴族……計画に参加した皆だった。
「スワン令嬢!? それに皆も……。いったいどうしてっ!」
「勘違いしないで、シズメ。あたしは国を発展させるためには農業が一番だと今でも思っている。でもあたしだってこの王国を愛しているわ。国に敵対する奴らが得するのを見るくらいなら、貴方達の糞みたいな計画に協力してあげる方がマシよっ!」
「スワン令嬢がいち早く怪しい人影に気づいたのです。我ら衛兵隊以外の者に連絡を取ってくれたのも、彼女ですよ」
「スワンッ……! 皆っ……!」
「なにこれ集団殺人!? 皆で一丸になって私を沈めるなよっ!? 一人ぐらいこの作業の狂気性に気づけよっ!?」
シズメ令嬢は涙を流した。廃棄物王子も涙を流した。しかし涙を流す理由は、それぞれ感動と恐怖と言う相反する内容だった。
『や、やめろ! 貴様ら、軽トラを海に沈めるんじゃないっ!』
「お前の相手は僕だよっ!」
相手の焦る隙を突き、皇太子はカータルシスに傷を負わせた。形勢は一気に、皇太子が有利となる。
『く、くそっ。あの軽トラに積まれた物……【距離も目的地情報も何もかも精確に音声ガイドしてくれるカーナビ】はこの世に一つしかないのにっ! それを回収するためだけに来た労力が無駄になってしまうっ!』
「私じゃなくて音声ガイドしてたカーナビ目当てだったのかよ!? 私の味方いないにもほどがあんだろうがあぁっ!!」
シズメ令嬢は皆と共に車体を押しながら、悔しがるカータルシスに言う。
「カータルシス、これが人間の力よっ! 一つ一つは小さな力だけど、合わさればどんな困難だって乗り越えられる。全ての人間が手を取り合う事で、何者にも負けない力になるのよっ!! さぁ皆、もう一息よっ!」
「「「うおおおおおおおおっ!!」」」
「私と全然手を取り合ってないのにそんな主張しても説得力無ぇんだよおおおおおおおおおおおおっ!!!!! 『全ての人間』の中から都合良く私だけ排除してんじゃねえよおおおおおおおおおおおおおっ!?
……あっ」
【目的地に到着しました。お疲れ様でした】
真の廃棄物となった王子は、カーナビの精確さを身をもって体感した。
「悪役令嬢はもう飽きた。別のパターンやれ」って意見を見たのでいろいろやり始めてるが、その間に悪役令嬢用のネタ帳が増えてしまう負のスパイラルに入ってる。