表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/6

第二話 避難訓練から数日後

 避難訓練の日から数日後。剛志つよしが靴箱の前で汗を拭っていると、通りかかった担任が傍に寄ってきた。朝の挨拶もそこそこに、剛志が体操着姿であることを担任は訝しがった。剛志は苦笑いを浮かべると、部活推薦で大学受験するべく、体作りのために朝練だけ参加させてもらっている旨を説明した。



「もし落ちても一般枠でトライするつもりなんだけど、あの大学、めちゃめちゃ偏差値高いでしょ? だから放課後はきちんと勉強頑張ってますよ。俺、どうしてもあの大学の陸部に入りたいからさ。どうよ、先生。俺、ちゃんと〈受験生〉してるだろう?」



 剛志はしたり顔で胸を張ったが、すぐさましょんぼりと背中を丸めた。褒めてくれるだろうと思っていた担任が表情を曇らせるばかりか、そこはかとなく不憫がるような雰囲気まで醸していたのだ。



「もしかして、引退したら絶対に部活に参加しちゃ駄目だった?」


「あ、いや、そんなことは無いんだけど、何ていうか……ごめんなさいね」



 訳の分らぬ謝罪に剛志がもったりと頷くと、担任は申し訳なさそうに「昼休みに生徒指導室に来なさい」と付け加えて去って行った。


 昼休み。渋々生徒指導室へとやってきた剛志は開口一番、〈やはり引退した身で部活に参加しては駄目だったのか〉と担任に詰め寄った。担任は苦笑いを浮かべて彼を宥めると、座るようにと促した。



「実はね、飯田君、あなた、特務候補生に選ばれたの」


「何それ、〈実は試験免除で推薦通ってます〉みたいなこと?」



 そうじゃなくてね、と言うと担任はしどろもどろに話し出した。それによると、どうやら自分は消防局からスカウトされたそうで、学校側としては大学受験をするのではなく消防局のほうに行って欲しいとのことだった。承服しかねると剛志が即答すると、担任はどうにか検討して欲しいと顔を曇らせた。


 教室に戻り鞄の中へ乱暴に手を突っ込むと、剛志は取り出した弁当を荒々しく広げた。呼び出しの理由は何だったのか教えろとせがむ学友達を無視していた剛志だったが、あまりのしつこさに一言だけ、消防局からスカウトされたと答えてやった。

 一瞬の静けさののち、クラスはどよめきと歓声に包まれた。飯を食う時間がなくなると邪険な態度をとる剛志をよそに、仲の良い学友達が祝福の声を上げ、剛志の背中を遠慮なしにバシバシと叩いた。一方で、こそこそと内緒話をするグループがちらほらと目に入った。気分を害した剛志は箸を置くと、顔をあげて声を張り上げた。



「ていうか、まだ〈検討してくれ〉って言われただけで、了承してねえから。そもそも、俺、行きたい大学あるし。つーか、何なわけ? 俺が何かしたわけ? ていうか、特務って一体何なんだよ?」



 怒り顔の剛志に学友の一人は笑みを浮かべ、そして穏やかな声で答えた。



「お前はただ、俺達の希望と憧れの星になったってだけだよ」



 あの後、学友に問いただしても「今に分かるよ」の一点張りで言葉の意味を教えてはもらえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ