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 2 不死身の門番

 2 不死身の門番


「!?」

地底に辿り着いた4人を待っていたのは、先ほどと同じような墓守りたち。

四方八方を囲むように、まるで待ちわびていたかのような光景だった。

「隊長、これは作戦ミスですかね…?」

ナギが不満たっぷりにクリスの足を蹴った。

「お前っ…!俺に手を上げるのか!?」

「足だよ、足!!何でもいいから詠唱の時間稼いでくれ!!」

その言葉を聞き、三人がナギの詠唱時間を確保する。

動きが鈍くて単調な分、墓守りは三人で凌ぐことが出来るみたいだ。

「轟け、龍の化身。大地の気流を纏いて立ち起これ、南洋の風!『烈風空閃破』!!!」

出現する竜巻の如き強風に墓守りたちが吹き飛ばされていく。

ナギのおかげで一本の道が出来た。

「走れ!」

クリスに言われる前にナギ達は駆け抜けていった。クリスも慌てて後を追う。


息が切れるまで走り、4人は遺跡の建物の中で足を休めた。

「まったく…。誰かさんのせいで無駄な体力消費しちまったな。」

テイルまでクリスをコケにする。いつもスミスを扱き使ってる罰だろう。

「すまなかった…。」

下を向いて落ち込むクリスは、気の毒だったが自業自得だ。

「まぁ、気にしても仕方無いです。早く先へ行きましょう。」

セイラさんはすでに呼吸を整えたのか、立ち上がって先へ行ってしまう。

「じゃ、俺らも行くわ。」

後に続くテイルとナギ。置いていかれるクリス。

「ちょっ…!」

「冗談だってば。笑」


「ねぇ、クリス。」

「どうした?」

「ヴァルハラの下にこんな場所あるって話、聞いてた?」

さっきから気になっていた。

ただ、記憶の無いナギには分からないことだった。

「そんな話は聞いてないな。何年も手をつけられた形跡も無いみたいだから、当時のヴァルハラの民も知らなかったのだろう。」

広がる光景は荒れた遺跡ばかり。クリスたちの言ってる帝国の兵器とは言えど、地底にまで被害を及ぼすことは出来ないだろう。そもそも、そんなものがあるのなら、ここに避難することもできたはずだ。そう考えれば、ここは数十年、数百年前から忘れ去られた場所と言うのが正しいのかもしれない。

そして突然、前方から呻き声が聞こえてきた。

「嫌な予感だな…。」

「また魔獣…?」

「まだ遠くよ。でも、衝突は免れないみたいね…。」

そんな事実を知っても3人は進むことを止めない。

ナギが思うよりも遥かに、この三人は実戦の経験数が多いのだろう。

最も、モタモタしていたらさっきの墓守りたちが追いついてくるはず。

ナギも先に進むことには賛成だ。それに、魔力の根源も見つかるかもしれない。

方角的にはばっちり合っている。

地底内には、四人の歩く足音が反響している。もうどれくらい歩いたのだろうか。

時折聞こえるのは、魔獣だと思われる鳴き声。どんどん距離も近づいてきている。

「薄気味悪ぃよなぁ。ジメジメしてるし。」

ナギが文句を漏らした。

「まったくだな。こんなんだったら来なきゃ良かったぜ。」

テイルも同じく愚痴をこぼした。

「さて、お出迎えみたいだ。」

魔力の反応が近づいてくる。共に大きな足音。

それは前方から影を現してきた。

「ほぉ、コイツは…。」

冷や汗をタラーと流しながらテイルがそれを見つめた。

「ダイダロスね。竜族はもうゴメンだわ…。」

ドラゴンのダイダロス種。

恐竜のような姿をしていている竜で、エンシェント・ウィザード種のような知能は無い。

本能で行動するランクBのドラゴンだ。だが、その分パワーは申し分無い。あの牙に食いつかれたら、強力な顎の力でひとたまりもないだろう。

ダイダロスは眼光を開き、四人を直視した。

そして、セイラに狙いを定めて突進してきた。

「えぇ!?私!?」

「とゆうより、このデカさだと俺らも巻き添えだろ…。」

障壁を張るべきか。だが、この規模の力に耐え切れるかが問題だ。

「『鉄刺網』!!」

クリスが蜘蛛の巣のような鎖を張り巡らし、ダイダロスとパーティの間を封鎖した。

突進の勢いは網に殺され、歩を止めたのだった。

「ぬるいものだ。」

しかし、ダイダロスは鉄で作られた網を噛み砕こうとしている。

その強靭な顎ならではの曲芸だろうか。

「おいおい、ウソだろーが…。」

「完璧、セイラさん食うつもりなんだね…。」

「ちょっとナギ!変なこと言わないで!どうにかしなさいよーっ。」

何だかんだで随分と余裕の表情だ。それもそのはず。

こういう直進型は動作も無いのだろう。

「ドラゴンの丸焼きって美味いと思うか?」

突然、テイルが可笑しなことを言い出した。と思うと、詠唱を始めた。

「『縛絞戦』!!」

再びクリスがダイダロスを縛り上げ、動きを止める。

「不知火の御霊よ。死霊使いの名の元に、灼熱の業火を…。『ドレス・フレア』!!!」

テイルの放つ炎が降り注いだ。

ダイダロスは悲鳴を上げながら焼け落ちる。

「これじゃミイラだな…。」

「待って!?まだ魔力は消えてない!いえ、増えているわ!」

倒したはずのダイダロスからオーラが溢れた。

オーラとは強力な魔力を発した時に生じる霧のようなもので、その発生量が多ければ多いほど膨大な証だ。

ダイダロスを覆う巨大なオーラから、生じた量はかなりの規模だと思われる。

「まさかコイツが根源じゃないだろうな…?」

「と言うより、根源の魔力によって、ダイダロスがレベルアップしたと言った方がいいかもしれないわね。」

ミイラと化したダイダロスだが、難なく立ち上がってきた。

「バカだろ…?てゆーか、反則…。」

「来るぞ!」

ダイダロスが咆哮すると共に、口からはオーラの渦が竜巻のように向かって来た。

とっさに横にかわしそれを回避するが、衝撃で地底が大きくぐらついた。

「このまま戦ったら崩れるぞ!?」

「その前に潰す…!風の精霊シルフよ…。我が契約に従い、風を召喚せよ!『シルフ・ガーデン』!!!」

風がダイダロスを覆い、丸い球体となって風の渦が発生した。

目にも止まらぬ速度でダイダロスを襲う。

しかし…。

「くそっ…。ここの連中はみんな不死身かよ。」

強力なナギの魔術も、膨大な魔力の加護を纏った者には効かなかった。

「逃げるか…?」

「そうさせてくれるかしら?」

前には巨竜。後ろからは墓守りが向かってきているだろう。どちらにも逃げ道は無い。

冷や汗のつたうほどの状況。どんなに攻撃してもダイダロスは倒れない。

それなら、魔力の根源をどうにかしないと効果はないのだろう。

「なるほどな。調査団も決して弱くない。このタフさに力負けしたか。」

「今はそんなこと納得してる場合じゃ無いだろ!」

打つ手無し。

魔術でダイダロスを怯ませることが出来ても、いつかは魔力も尽きてしまう。

そうやって調査団も力尽きていったのだろうか。

どうすればいいのか。この状況から抜け出す術を考えた。

ふと、レヴィスが言っていた用があれば呼べという言葉を思い出した。

それに、召喚獣としての契約も果たした。術式は知らないけど、やってみる価値はある。

ナギは心で強く念じてみた。

「レヴィス…、聞こえるか?力を貸してくれ…!」

答えが無い。やはり、正式な術式で呼ばないと召喚できないのだろうか。

「レヴィス…!!」

「呼んダカ…?」

来た…!

「頼む…!来てくれないか?」

「召喚術ヲ使えナイのカ…?仕方無い。我ノ言うトオりに術を執り行ナウのダ。」

これならいける。

レヴィスはA級のエンシェント・ウィザード種。B級のダイダロスなら軽く捻れるはずだ。

「みんな!今から召喚術使うから、アイツのこと止めといてくれよ?」

ナギが後退し、魔力を注いで瞑想に入った。

この局面を切り抜けるためにも、三人はダイダロスの足止めに入った。

「セイラ、召喚術って言っても、ナギは何を換ぶつもりなんだ?」

テイルが問う。

「エンシェント・ウィザード種よ。」

あの森での一部始終を知っているセイラなら分かる。

ナギが換ぼうとしているのはレヴィスのことだ。

「おい、A級ドラゴンと和解できたのかよ!しかも誇り高いエンシェント・ウィザード種だろ!?」

「見れば分かるわよ。それよりも!足止めに集中しなさい!」

ダイダロスの打撃を防ぎながらも、こちらの魔術をぶつける!

いくらこの三人でも、そう長くは持たないだろう。

「ナギ!まだか!?」

クリスが鎖の壁で攻撃を防ぎながら言った。

「邪魔すんな!やっと瞑想が終わったところだよ!」

ナギの足もとには、術式に必要な魔法陣が描かれていた。あとは詠唱で終わりだ。

「トゥース・レーセ・レ・ノア。ヴェル・バルハ・ノッセ・ドゥ・ジャラハ…。」

レヴィスに言われたように謳う。

「古代ヴェルナ語か…。」

創世記時代の術式を扱うのに必要な始動キーのようなもの。

始動キーとは簡単に言えば、術全体にかけられたパスワードを解除するためにあるものである。この始動キーを終えて、始めて詠唱が始まるのだ。

「フェレ・トゥル・ノーテ・ムラ。ルズ・ティルア・セプテンファー。」

「ぐっ…!長くは持たないぞ…?」

すでに三人は攻撃の手を止めて、防衛状態に入っていた。これ以上、魔力の無駄遣いもできない。

「トリート・ルフワ・ホルン。レイト…!」

魔法陣が大きく輝きを放った。

つまり、始動キー、パスワードの解除に成功したのである。

「待たせて悪かったな!」

ナギが最後の詠唱を始めた。

「我が忠実なるしもべよ…。我が名、ナギの血の契約に応え、姿を現せ!『召喚・魔法竜レヴィス』!!!」

一時は敵としてナギと対峙したレヴィス。

ナギに呼ばれるがまま、再びこの場に姿を現した。

今度は、頼もしい仲間として…。

「風ヨ…。我が君、仰セのまマニ。」

「あら、ホントに契約してらっしゃる…。」

テイルも実物を見てようやく理解したようだ。

「アイツ、ダイダロス種が邪魔なんだ。やってくれ!」

「アァ…!」

レヴィスが咆哮する。

そして、雷を発生させてダイダロスを襲った。

万物種と呼ばれる雷の力。

ナギの風は真の力に覚醒めていないためか、能力は半減している。だが、レヴィスの雷は別だ。ナギの格段上を行く魔力が、ダイダロスに休む間もなく振り注いでいる。

いくら不死身とは言え、再生の隙も与えずに強力な魔術で攻撃されれば、不死身も無意味なことだ。ダイダロスは今度こそ崩れ落ちて、消えていった。

「ありがとな、レヴィス。」

「構わン。コレも我を救ッテくれタ恩義だ。しかシ、ココは魔力が溢レテいて気持チガヨイな…。」

人間には分からないが、魔獣はここの魔力を力に出来るみたいだ。

周辺の魔物をレベルアップさせる場所か。

「それを調べにきてるんだ。何か知ってる?」

「『セルキト』。知っテイルカ?」

「せるきと?」

「聖域と呼バレル場所ダ。コノ世界の魔力が発生スル場所。この星ガ持つ力ノコトだ。ソレを放置スルと人間にとッテは危険ダト言われテイる。」

「つまりは、今まで封印されていたものが解除されたってことか?」

クリスが質問した。

「ソの通り。創世記にアビスが封印したハズなノダガ。早クシナいと世界ヲこの魔力ガ覆うコトにナルゾ…?」

今はまだヴァルハラ跡を覆うセルキトの力だが、これがこの世界を覆うとなれば、世界のバランスが乱れてしまう。ここの死霊やダイダロスのように不死身の魔獣が溢れかえってしまう。絶対に止めなければならない。

そして…。

「!?」

いきなり小刻みに地底が揺れた。

「まずいぞ…。また魔力が溢れてきやがった。これもセルキトの魔力か…?」

どうやら、今まで仮発動だったセルキトが、その星の魔力を本格的に始動させたようだ。

「急ごう!レヴィス、戻っていいぞ。」

「マタいつでモ換ンデくれ。」

レヴィスが還っていった。

ただの調査団が、いつしか世界の危機を救うための任務になっていた。

四人は魔力の源へ急ぐ。

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