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 2 魔法竜

 2 魔法竜


「タクマの森。」

「え?」

森の中に足を踏み入れるなり、スミスが急に言った。

「そう呼ばれていたみたいだ。」

「あら?早いのね。さすが烈風一のインテリ君。」

「副長!茶化さないで下さいよ…。」

「それで?この森の情報が白紙だった理由は?」

一瞬躊躇ったのか、やや間を置いてスミスが答える。

「魔獣です…。」

「はぁ!?」

あまりの驚きで、ナギは言葉を漏らしてしまった。

魔獣とは、魔物を超越し、賢い知恵と高い戦闘能力を持つモンスター。

時には高度な魔法力を持つ種なんてのも居る。普通の人間では太刀打ちの出来ない脅威だ。

実際、ナギ自身も魔獣と手合わせしたことはない。

「なるほどねぇ。じゃ、ナギの実力もしっかり見てみましょう♪」

「え?まじかよ…。」

森を進む三人。奥に進むにつれ、魔力の気配を感じる。

巨大だが、威圧感の無い抜け殻のような魔力…。

「この先に一体何が…?」

「魔獣?」

木を掻き分け、三人が目の当たりにしたのは、巨大な岩と竜だった…。

「ドラゴン!?」

「ウソだろ…。」

この空間だけ、木が生い茂っていない。以前、激しい魔術のぶつかり合いが起こった場所では、植物が全く育たない場合があるらしい。そこにドラゴンが佇んでいる。

しかし、この居座り方…。まるで岩を守っているようだ。

「何の、用で来タ…?」

ドラゴンの目が細く開いた。赤く、研ぎ澄まされた瞳。

「喋るのか!?」

「そうね。ここを通りたいのだけれど、簡単に通してくれるわけにもいかないかしら?」

「人間よ…。コれを取りニ来たのデはないのカ?」

「何だよ、それ…。」

「我ガ主だ…。」

「何言ってんだ、お前!?」

会話は成立しなかった。

ドラゴンの雄叫びが大地を揺るがす。全身に振動が伝わってきた。

先ほどまでの抜け殻のような魔力がウソのように、ドラゴンから魔法の力が溢れている。

「何言ってんの!?通りたいだけたってば!!こいつバカだろ!?」

「あら、あちらさんはやる気みたいね…。」

「ですが、魔法竜、エンシェント・ウィザード種…、分が悪すぎますよ!?」

「分かってるわよ!魔術で威嚇しつつ、逃げ道を確保。スミス!あんたの電撃なら麻痺できるでしょう!?」

「さぁ?こんな大物を痺れさせた前例は無いですけどね…。」

皮肉を吐き捨てながら、頬につたう冷や汗。

セイラも焦っている。

人間がこんな上級ドラゴンと互角に渡り合うなんて不可能。

年をとっているとは言え、相手はA級のドラゴン。対等に渡り合うには、それこそ賢者と呼ばれるような高い能力を持つ人間のみだ。

ドラゴンの眼前に魔法陣が現れた。魔術が発動される証だ。

「ちょっと!!ナギ!?そんなとこに居たら直撃よ!?」

逃げ遅れたナギが周囲の状況に気づいたのだが、もう手遅れだ。

「バカ…!」

セイラとスミスが飛び出す。

二人は同時に魔法障壁を作り出していた。

障壁はドラゴンが放つ雷撃の魔術とぶつかり合い、消え去った。

「一番の魔障壁だったのに…。一発でパァじゃない…。」

「しかも、相手は雷属性。つまり万物クラス!?」

ドラゴンは完全に目覚めてしまった。魔力がどんどん解放している。

「今ので逃げるタイミングが無くなったわね…、ナギ…。」

「ごめんなさい…。」

「過ぎたことを気にしても仕方ないわ。私が囮になります。あんた達は逃げなさい。」

「冗談言うなよ!?三人で協力すれば…!!」

「それこそ冗談ね。私が10人居ても、これが相手じゃ無理よ。」

「そんな…。」

「悲しいけど、それが現実。私ならあと一回の攻撃を防ぐ障壁を張れる。防御している間に逃げなさい。」

「でもっ…!」

「この小隊の隊長は私です!これは命令。いいわね!?」

そうこうしているうちに、ドラゴンの第二発が放たれた!

セイラが障壁を張って耐える。

「早く…!あまり持たないわよ…!?」

「ナギ!」

スミスがナギの手を引いた。

「スミスさん!?」

「副長の意志を踏みにじるな!それに、ここで逃げなかったら三人とも全滅だぞ!?」

力ずくで引っ張られ、ナギはスミスと茂みの奥に消えた。

「そうよ。それでいいの…。」

魔術と障壁の間で爆発が起こる。

爆風でセイラが吹き飛ばされた。

「きゃあ!?痛いわねぇ…。こんなんじゃお嫁に行けないじゃないの…。」

額に流れる血。

すでにさっきの全力障壁で魔力を使い切ってしまった。万事休すだ。

「セイラさん!!」

茂みからナギが飛び出してきた!

「ナギ!?」

「くそやろっ!!吹きすさべ、大気の気流。我が意のままに、東洋の風!『蓮牙旋風』!!!」

突風がドラゴンに放たれた!

だが、ドラゴンは障壁でそれを防ぐ。

「風だト…?なルほどナ…。我と同ジ、万物を扱いシ者カ…。」

「ナギだ!覚えておけ!!」

「ダガ、まだマダ威力は弱イな。原石と言ッタとこロか。人間、貴様の姓ハ何と言ウ?」

「知らねぇよ。俺は7年前に記憶を失った。覚えてるのは、ナギって名前だけだ!」

「ソウカ…。長話が過ギタな…。終わりダ…!!」

「くそ…!!」

「王家の宝剣、雷鳴ヲ纏う剣とナリて…。斬レ!!『リュンダート』!!!」

剣のような形状の雷が二人に襲い掛かってきた。

もう詠唱も間に合わない…。


無力だ。

スミスさんを振り切って、わざわざ戻ってきたのに…。

このザマだったらセイラさんの言うとおり逃げれば良かったのに…。

俺の力じゃ守ることが出来ないのか…?

くそ、くそ…!!

頼む、頼むよ!お願いだから…!!

力を…!!!!


「ナニ!?」

ナギを取り巻く風。

いや、そんな生易しいものじゃない。これは竜巻だ。

しかも、眩しい輝きを放つ風。

風は雷剣とぶつかり合い、それを相殺した。

「ナギ…!?」

ナギの瞳はいつものブラウンではなく、宝石のような、淡く蒼い瞳だった。

味方を癒し、敵を睨み殺してしまえそうな、そんな眼だ。

「風よ、破魔の力を得た烈風よ…。払いのけろ!!『デュークス・イノセント』!!!!」

光の竜巻がドラゴンを捕らえ、真っ直ぐに突き進んだ。

直撃する前に張られた障壁も、いとも簡単に突き破られてしまった。

「すごい…。」

「コれが風ノ万物の力なノか…?否、たとエ万物でもコレほドの力は…。貴様なら、奴ヲ倒せルかもシレん…。ナギよ…、こっちニ来ルノだ…。」

ナギがゆっくり歩み寄る。セイラが叫んだ。

「ダメよ!?ナギ、危険すぎる!戻ってきなさい!!」

「大丈夫だよ…。」

振り返ってセイラに笑いかけた。不思議と安心できてしまう笑顔。

「サァ、扉ヨ開くノダ。過去の扉ヲ今ココに…!」

頭の中にドラゴンの記憶が流れ込んできた。


紫の空。小屋の前に男女とドラゴン。

そして、空に浮かぶ少年。

これはレヴィスが映し出した記憶の断片だ。

「賢者さん…。ドラゴンまで召喚して僕をお出迎え?」

「黙れ…!お前に私の世界を壊させはしない!!」

「へぇ…。世界って、こんなちっぽけな生活のこと?それを踏みにじればどうなるのかなぁ…?」

まったく気配を悟らすことなく、女性の背後に忍び寄った少年。

手にしていた剣で、背中から切り下ろした。

「きゃああぁぁああぁぁぁあぁぁああ!!!!!!!」

「あはははっ。痛い?痛いよねぇ!?今、僕が楽にしてあげるよぉ…!」

「貴様ぁぁああ!!!!!レヴィス!!殺せぇぇええぇ!!!!!」

「邪魔はさせないよ、エンシェント・ウィザード。君には立会人になってもらおう。僕が君の主を殺す瞬間のね…。」

「動、ケヌ…!?」

「捕縛の魔呪さ。その前に、彼女を楽にしてあげなくちゃね…。」

「い、や…。い、やぁ…。」

「させるか!!」

賢者が彼女の前に立ちふさがる。

物凄い剣幕を帯びた眼光で少年を睨みつけた。

「ウルサイなぁ。ちょっと黙っていてくれないかなぁ?」

少年の指から閃光が放たれ、男性の足を貫いた。

「ぐあぁぁあ!!!」

「それはね、徐々に身体を腐食させていく魔呪だよ。さて、と…。死んでもらおうか?」

炎が少年の剣を包む。

そして、その剣を上空から女性目掛けて投げ下ろす…。

「あぁぁっ…!?」

立ち尽くす男性。

「その呆けた顔、傑作だね。大丈夫。次はアナタの番だから。」

「外道が…!!」

「何とでも言ってよ?ねぇ…?」

少年の手から放たれた炎は無情にも小屋を炎上させ、女性の遺体にも燃え移った。

「あはははは。燃えてしまえぇぇ!!」

「だが、お前もこれで最期だ…。」

男性の足もとには魔法陣が描かれている。その円上には、男性と少年の二人。

「ん?心中するつもりなの?バカだなぁ。そんなの僕には効かないよ?」

「魔力を封じられたらどうするつもりだ?」

「何だと…?」

「レヴィス!やれ!!」

レヴィスの拘束が外れ、足元に描いた魔法陣。それは封魔の術。

術式は成功し、少年の魔力を封じた!

「くっ、いつの間に…!」

「共に果てよう…、悪魔よ。」

「ふん…。ごめんだねぇ!!」

爆発する直前、少年は秘めていた魔力を一気に放出して、爆発の威力を完全に相殺した。

無論、息絶えたのは男性だけだった。

「びっくりしたよ…。でも、拍子抜けかな。賢者なんて言うから派遣されてきたのにこのザマだものね。」

「許サヌ…!!!」

「おっと。僕は君には用が無いからね。帰らせてもらうよ…。」

空間に闇のゲートを作り出して、少年はその中に姿を消してしまった。


残されたドラゴン。

主の死を嘆き悲しんだ。

そして三日後。

巨大な岩の下に二人の遺体を埋葬し、ドラゴンはその場を静かに守り続けた…。


「これは…?」

ドラゴン、いや、レヴィスの過去を見せられたナギ。

「90年前の話ダ。ソレは、我ガ喚バレ、主ガ殺さレた記憶…。」

「ふん…。忠実なドラゴンが、主を守るために俺らを襲ったのか…。」

納得いかなそうにレヴィスを睨むナギの眼は、いつものブラウンに戻っていた。

「すマなカッタ…。」

「いいよ、誰も死ななかったから。」

ナギの答えに驚くレヴィス。

「俺、あのガキ、許せねぇもん。あれが、悪魔なのか…?」

「主ハ、そウ言ってイタ。ナギよ、感謝スる。」

「いいえっ。お前もむかつくけどなっ!」

「我ハ、還ルとシヨう。今マデ主を守ってイたツモりダッたが。」

「それがいい。お前のマスターは死んだ。いつまでもここに居る必要は無い。」

「風を使ウ者ヨ。用アれば喚ブがイい。老いタ身体だが、貴様ニ力を貸そウ。」

「あぁ。その時は頼むよ。」

レヴィスの左肩にある消えかかった刻印の上に、ナギは新しい誓約の印を描いた。

恐らくその刻印は昔の主のものだ。

だがこれで、レヴィスはナギの命に従う召喚獣となった。

しかし、僅か18歳でA級ドラゴンとの契約を結ぶ事例なんて過去には無かっただろう。

本来なら賢者クラスのような人間にのみ、許されるようなことのはずなのに。

きっとレヴィスは、ナギの中に眠る何かに気づき、それを認めたのだろう。

最も、先の戦闘でナギの力は証明された。たとえそれが一瞬の力だとしても。

「しっかり身体休めておけ。いつ喚ぶか分からないからな。」

「アァ…。」

レヴィスは光の帯びに包まれ、居るべき場所へ還っていった。


遂にこの時代にも風が吹いたみたいだ。

完全では無いとは言え、破魔風にも覚醒めている。

一応、報告しないと。

それと、それが使える力かどうかの調査も…、ね。


「ナギ!!」

セイラがナギのもとに歩み寄った。

「セイラさん…。」

「バカ!!」

強烈な平手がナギの頬を打った。渇いた音が森に響き渡る。

「ごめん…。」

「命令違反よ。意味が分かる?」

「軍登録抹消。懲戒処分。査問会にかけられて、咎人となる。」

そうなれば、今までの暮らしは出来ない。罪人として一生を送ることになる。

「そうよ。でも…。」

「え?」

「肩を貸しなさい。」

「は?」

「もうボロボロなの!身体中が痛いのよ!それで許してあげる♪」

「そんなことなら、お安い御用だよ。世話のやける上官だ…。」

「言うようになったわね…。」

セイラは苦笑いを浮かべながら、その身をナギに預けた。


セイラを支えながら、ナギは森を出ることができた。

森の出口で待っていたのはスミスだ。

「おっ。薄情者―!」

「副長!?ご無事だったんですか?ナギも…。」

「はい。とりあえず、セイラさんの手当てをしないと…。」

セイラの手当てを施しながら、森の中での出来事をスミスに説明した。

「いやぁあぁ!頭にグルグル包帯するのだっさい…。」

「文句言わないで下さい!それにしても、ナギがね…。」

セイラも真剣な表情に戻った。

「驚いたわよ…。どういうこと?蒼き瞳の魔術。伝説の大魔導師アビスの伝記に記されているもの同じよ?」

「大魔導師アビス…。」

伝説と呼ばれるほどまでの力を持つ大魔導師。それは人々に称えられ、知らぬ者は居ない。

この世界の創世記に実在した人物と言われている。

およそ千年前に起きた大戦――。

それは大地を汚し、天変地異を巻き起こし、一般人も関係無く巻き込まれるほどの、非常識な争いだった。やがて、異常なまでに荒れた世界を襲ったのは、星の雨。

【カオティック・エンド】と呼ばれる終末の訪れだった。

無力な人々は自然と争いを止め、世界の終焉を静かに待った。

そして、迫り来る流星を前にした時、大魔導師アビスが人々の前に現れた。

比類無き剣術の達人、果てしなく強大な魔力の所持者。

数多の星をなぎ払い、彼は世界の終焉を救ったのである。

その人は始祖となり、世界を繁栄へ導いたと言われている。

「いい?この話は内密よ。白猫なんかにバレたら、アナタは軟禁された後、兵器として軍事目的に使われるだけだわ。」

「はぁ?」

「白猫って知らないか…?」

スミスが問う。

昔クリスがナギに、そんな単語のものについて愚痴っていたような覚えもある。

「よく分からないけど…。」

「本国の査問会を治めているのが白猫たち。政権もほとんどを握っている、王家も手を焼いているほどの権力者だ。皆が爵位級の貴族などの上級階級の集まり。ギルティアの特殊部隊も、『烈風』を除く、3番隊から7番隊までは白猫直属部隊ってのが、実際の状況だな。」

「そして、隊長は白猫に敵対するクーデターのリーダーよ。彼がイライラしている時は大抵、白猫との面会の後ね。」

前々からクリスが機嫌を損ねていることが多々あった原因はこれだったのだろう。

「それと、俺が兵器になるって話はどう繋がるんだ…?」

「そもそも、お前が風を持っていることも、上には話していない。そんなこと報告すれば老人たちのオモチャにされるだけだ。隊長がそれを断固拒否した。俺も副長も、その意見には賛成だったからな。」


何だよ…。

俺が不安だったことなんて、どれも小さいことばかりじゃんか。

みんな俺のこと真剣に考えていてくれた。何か今までの自分がバカみたいだった。


「風は希少種。いや、今や絶滅種だからな。主に帝国への再戦を望んでいる白猫たちにとっては、この上ない人材なんだろう。」

「そんなの俺はゴメンだぜ!?」

「心配しないで。私も同じよ。つまり、私たち三人はレジスタンスなの。王家が政権を奪還するため、この国を戦争から回避するための…、ね。」

これまた大それた話を聞いてしまった。

そして、ナギにも大体話が読めてきた。

「それを俺にしたってことは…。」

「気づいたかしら?」

笑いながらセイラが言った。

「やってやるよ。風のナギも今日からレジスタンスだ。」

「よし、決まりだな。もう一人有名なのは、二番隊『流星』副長テイル。『死霊使い』と聞けば分かるか?」

ネクロマンサーと恐れられ、他国の軍隊も敬遠している王家の懐刀。

おまけに美形で、女性のファンも少なくない。国民のアイドル的存在だ。

ナギが憧れている魔術師の一人でもある。

「マジですか!?」

「今度、アンタのことも紹介しないとね・・。」

「うん!」


今回の任務で分かったこと。

ギルティアの軍隊は白猫派と王家派に分かれているということ。

俺はイリスのこともあるし、もっぱら王家派だ。アイツの敵になるつもりは毛頭無い。

だけど、表向きでは統率されている軍部も、秘密裏にレジスタンス活動とかが進んでいるんだな…。

他国の動向も安定していないのに状況なのに。

国内にまで敵が居たらどうするんだ?

ま、そんな難しいこと考えてる暇もないか。

まずは、アビスの瞳のことも考えなきゃいけないんだし。

あの風の力…。

そういえば、こないだの夢は何だったんだろう…。

なんかもう、いろんなころがありすぎて疲れてきたな…。


「さて、密書も届けたし、どうしよっか?」

無事フォーンヴァンへの任務も終え、急にセイラが言う。

「帰るんじゃないの?」

「えー。もったいないわ。せっかくのリゾート地よ?」

「いやいや、遊びに来てるわけじゃないんでしょ?スミスさんも何か言って――」

「スミスなら出かけたわよ。つまりは自由行動。ナギ君!」

「え!?」

「デートしましょう♪」

「はぁ!?」


そんなこんなで俺は今、セイラさんに連れまわされている。

こんなふうに誰かと時間を過ごすのって、そういえば初めてなんだよな…。


「照れてんの?」

「照れてません!セイラさんっていくつだっけ?」

「26よ。まだまだイケるでしょ?」


そういえばそうだったけか。

保護者と言うより、俺にとっては姉みたいな存在。


「ねぇ…。」

「なに?」

「何でさ、俺のこと引き取ってくれたの?」


聞くのは今しかなかった。

恐くて、居場所が無くなるのが嫌で、今まで聞けないでいたこと。

こんな時じゃなきゃ、もう聞けない気がしたんだ。


「簡単よ。」

「え?」

「私、親居ないの。10歳の時、賊に殺されたから…。だからね、アンタのこと自分と被っちゃって…。同じ過去を持つ私なら、ナギの気持ちも分かるかな?って思ったの。っていうのは建前で、家族が欲しかっただけ。可笑しいでしょ?」

苦笑いしながらセイラが言った。

それは紛れも無く悲しげな表情だった。

「可笑しくなんかない!!」

「ナギ?」

「可笑しいなんて笑うヤツが居たら、俺がぶん殴ってやる!!ありがと…。俺、セイラさんといれて、ホントに嬉しいよ…。」

「バカねぇ。ちょっとはその気になるわよ?」

「え!?はい…?」

「冗談よ。ホントに寂しかったから…。一人ぼっちなんて嫌よね…。」

「セイラさん…。」

「だから、ナギが弟みたいで嬉しいよ。これからもヨロシクね!」

先ほどとは真逆に笑顔のセイラさん。

「…うん!」

7年間で、ナギとセイラの絆は物凄く固いものとなっていた。

似たような過去を持つ二人の間には、親族を超える絆が生まれたのだろう。


今では、自分の思い過ごしがバカみたいに思える。

心から思った。


ありがとう――。

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