Force sideー3
「それにしても、転売可能なパーツとか異様に詳しいとは、思ってたけど、マジで元AGだったんだな」
「何だ。信じてなかったのか?」
「まぁな。さっきの二人との会話とAG内部の説明でやっと信じられた」
『と言うか、普段のお前の態度で信用しろと言うのに無理があるぞ』
「あぁ、確かにそうかもな」
今まで元教会の一員である事はこの二人には伝えていたが、どうやら全く信じていなかったようだ。まぁ、確かに普段の俺の態度で信じろと言うのは、確かに無理があるな。
それにしても、始めてみる機体だったけど、基本構造が一緒で良かったぁ。
ついでに言えば、そこのバカが解体とかできなくて助かった。
できていたら、絶対に余計なパーツを抜き取って足がつくなんて事がかもしれないだろうしな。
『さてと、ここが一番奥か』
「みたいだ」
「あぁ、それにしても結構金になりそうなものあったな。……どうやら、扉には仕掛けがないようだな」
俺達は扉に仕掛けがない事を確認し一番奥の扉を開け中に入って行った。
本命の部屋なのに仕掛けがないのか? 妙だな? 他の部屋の扉にいろいろ仕掛けだらけだったのに?
まぁ、入ればわかるか。
「……何だよ? これ……」
「おいおい、マジかよ?」
『ここは、“生体兵器の製造プラント”か』
部屋に入った俺達は目を疑った。
一辺、約二百メートルはあると思わせるほどに広すぎる鋼鉄板の一室。そこには地面、天井を問わずに薄い緑色の液体が入った円錐状のカプセルが数メートルの間隔を挟んで幾つもならんでいた。中には下半身が不完全な獣人もどきや体の一部分が溶けた獣に巨大な昆虫とミミズが浮いている。
今まで通ってきた通路から一変して、不気味な博物館のような研究室だ。
「なんと言うか、悪趣味だな。見たところ、中のモンスターはほとんど死んでるみたいだし、研究室っていうより死体置き場だな」
『しかも、我ロンギスのラボだな』
なるほど、ロンギスのラボか。どおりで、入る部屋やこの部屋にあるカプセルに“鷲”のマーク、ロンギスの国旗が書かれているのか?
あれ? でも、おかしくないか? “生体兵器の製造プラント”って、俺がいた八番隊が滅多には入れない最大重要施設だ。
なのに、出入り口の扉になの仕掛けもないのはおかしいだろ。
『おい、誰かいるのか?』
「いるわけないだろ。ここが封鎖されて何年経っていると思って――誰だ!?」
俺は突然、アレス達でもニア達でもない声が聞こえたので驚きながら辺りを見渡した。
「どうしたんだ? ウィル」
「声が聞こえたんだ。お前達、聞こえなかったのか?」
「いや、ここには俺達しかいないぜ」
『それに、先程の二人まだ来ていないぞ』
「後は未完成の化け物と、奥の方にある古びた鎖に繋がれた剣くらいだぜ」
アレスが指さした部屋の奥には丁重に括りつけられた剣があった。ちょうど対面に当たる遠くの壁に飾られているので細かい所は見えないが、その剣は古びた鎖と比べて錆びた様子もない上、こちらが曖昧にしか捉えていないというのに空間を圧するかのような荘厳な風格を漂わせていた。
「それだ!」
「おい、待て! ここだって安全とは……」
俺はアレスの制止を無視して剣の元へと駆け出す。
いつもならアレスが突っ走り、俺が慎重になるというのに事此処に至ったって立場が逆転していた。それほどまでに俺はあの剣に惹きつけられていたのかもしれない。
――それに根拠なんて全くないけど、さっきの声があの剣から聞こえた気がした。それに強い何かを感じたからだ。
逸るように走り、部屋の中心にまでたどり着いた時、
『警告。警告。【生体兵器開発室】にて侵入者を感知。機密保持及び侵入者排除のため、生体兵器・製造番号003【ワームシーズ・アシッドワーム】をカプセルから排出します。研究室に居る人は直ちに避難してください』
突如、それ以上の侵入を拒むように警報が鳴り響いた。
「!? まだ生きているヤツがいたのか!」
俺が声を挙げるのと同時に、眼前に置かれた一際大きいカプセル状の容器から、ドシャリ、と全長十メートルもの蛇のような形状をした物体が放り出された。
「サンドワームか。砂漠でもないのに」
ゴム質感の肌と大木ほどの胴回り。関節のない柔軟な胴体をした巨大なミミズのモンスターだ。姿形はミミズをそのまま大きくしたようなものだが、顔に当たる先端には正円に広がった口と、その周りに揃えられた指の関節のようにウネウネした鋭い牙は奴にしかない特徴だ。
「……けど、大したモンスターじゃないな」
体躯こそ通常のサンドワームより二回りほど大きいようだが、それほど脅威な存在ではない。
肌の弾力性から打撃には強いが、斬撃主体である俺やアレスからしてみればあまり関係の無い話だ。本来なら砂に潜って生息しているが、この部屋の壁と床はモンスターが脱走しないための配慮か、全て鋼鉄製でできている。この環境では得意の地中戦法すらできないだろう。
サンドワームが人間の声帯では出せない叫び声を挙げる。
そして、上から啄むように上体を屈めて俺の方へ向かってきた。
上からのしかかってくるような突進を左方向に跳んで躱す。この一動作だけで目の前の敵は地面に口を押しつけた無様な体勢になった。
「隙だらけだ!」
俺は余裕をもって腰にした剣の柄を握り、斬りにかかった。
その時――
『違う! そいつはアシッドワームだ! サンドワームなんて甘いものじゃない。逃げろ!』
「えっ!」
ベリアルが声を荒げて止めようとしたが、体を勢いに乗せていた俺では急停止できず、そのまま攻撃を続ける。けれども、腕から手へ、手から剣へと流れる力の入れ具合は完璧。抜刀するタイミングも敵の腹を狙う剣閃にも不手際は無い。
懐に入り、俺の剣は問題もなくワームへと疾走した。
「ッ!!」
直後、目の前の光景に驚愕した。
柄を握る手には感触があった。腕には力を入れている感覚があった。
剣は確かに奴の胴体を捉えていたが……
「刃が通らない!」
俺の剣はまったく通らなかった。こいつのゴムの様にブヨついていて柔らかい弾力で渾身の力を込めた斬撃と衝撃を全て吸収しているのだ。
サンドワームは身震いしながら咆哮を挙げる。それは激痛による絶叫ではなく、相手を完全に見下した哄笑によるものだ。
そして、そのまま動揺した俺の隙を衝いてサンドワームが身を捻じり、円状に並んだ牙を閉じ始めた。
『ウィル! そいつから離れろ!』
ベリアルがその様子から何かを察したのか、焦った声で叫ぶ。
俺は反射的にその忠告を聞き入れ、咄嗟に後ろに跳んで離れる。同時に、そいつは牙を開いて口から緑色の液体を吐き出した。
その液体がさっきまで俺が立っていた場所に飛来した瞬間、さらに我が目を疑った。
「床が溶けてやがる……」
「こんなの食らったら、人なんか一発で溶けちまうぜ」
奴から吐き出された液体は煙を上げながらドロドロに溶かしていた。それは、俺や少し遅れて駆け寄ってきたアレスにもよくわかる恐怖であった。
「こいつは一体何なんだ? サンドワームの技じゃないぜ」
『当たり前だ。ここにいるのは、全部モンスターや動物を太古の大戦のために改造された存在だ。もとのになった生物にはない能力が付与されている。“アシッドワーム”の場合は、特殊な酸と物理攻撃への耐性だ。俺達インテリジェンス・アームズならまだしも、通常の剣は効かないぞ! 【なにせロンギスでも最も使われた兵器だ!】』
驚く俺達に対してベリアルはサンドワームを改造した“アシッドワーム”とここのカプセルの中に居る奴らの情報を提示してくれた。
ベリアルの説明からすると俺の剣は全く効かないってことらしい。
「……ってか、この斧は何を誇らしげにしているんだよ!?」
『アレス、決まっているだろ? 自国で造られた兵器を誇らしげに思って何が悪い!』
あぁ、成程そういうことか。
誇らしげにするのは構わないけど、あの酸がかかったら俺達、ひとたまりもないぞ!
「「うをっ!」」
とか考えてたら、アシッドワームは再び口から酸から吐き出してきたので俺達は左右に飛んで避けた。
「深く考えている余裕もないな。アレス! 俺が魔石を使って援護するからベリアルでソイツを叩き切れ!」
「は? 俺? いやいや、冗談だろ!? あんな危なくてキタねぇもん吐くヤツに近寄りたくねぇよ!!」
「仕方ないだろ! 俺の剣が通用しねぇんだから!」
『……二人の言い分も分からなくもないが、やめた方がいい。伝えていなかったが、アシッドワームのもっとも恐ろしい所は――』
ベリアルが口を挟もうとした一瞬。アシッドワームは一回身震いをした直後に巨躯を唸らせて上体部分を引いた。
そして、気づく間もなく背後に回り込まれていた(・・・・・・・・・・・)。
「な――ッ?」
に、と続く言葉も出せずにワームが突進してくる。俺とアレスは気配だけを頼りに前方に向かって飛び込み、間一髪で回避した。
振り返ると、酸が染み込んだ牙で抉られた地面から、ジュウジュウと音をたてて煙を噴き出す穴ができていた。『あと一秒遅れていたら』と思うと背筋がゾッ、とせずにはいられない。
『――見ての通り、巨大な体に反してとんでもなく速い。安易に近寄れば一口で喰われるぞ』
「「それを早く言え――――――――――ッ!!」」
ベリアルの暢気な言葉に対し、思わずアレスと声をハモって叫んでいた。おかげで心臓がバクバク鳴っているわ、アレスと声が合っちまうわの二重苦だ。
……しかし、冷静を保つために頭の中では余裕を吐いてみたものの、現状はハッキリいってかなりヤバイ。
ベリアル自体はひと度振るえば鉄をもぶった斬るほどの破壊力を十分に発揮する。だけど、戦斧としての形状をとっている分、動きは剣に比べて(最もグレートアックスというわけではないから、俺でも持てるし振ったり投げたりできるけど)少しばかり鈍重になる。
もちろんアレスはその筋力や脚力を活かして他の連中にも引けを取らない動きをしているが、あのアシッドワームの素早さと比べると少し心もとない。
そういうモンスターと相対する場合、普段なら俺が出張っているんだが……俺の剣では文字通り“刃がたたない”ときたもんだ。魔石を使う手もあるが、手持ちのモノじゃせいぜい陽動にしかならない。
「どうする、ウィル? 一旦引くか?」
「ニアも追ってきてるし、できれば避けたいな。……仕方ない。苦肉の策だが、この魔石で――」
「やっと追いついた! 覚悟しなさいよね、ウィル!」
黄色い声の方向に目をやると、そこにはセラフィムを構えたニアと、後から続くように姿を現したデュナメイスを手にしたレンが扉の前にいた。
あぁ、なんでこう、こいつは間が悪いというか、空気がいまいち読めてないよいうか……
「鬼ごっこはおしまいよ! さあ、今度こそ教会を抜けた理由を話して……って、何よこれ!? ヘビ? 虫?」
「相変わらず騒がしい子ね」
『同感ですね』
『マスター。そのモンスターはサンドワームを元に造られたアシッドワームと言う兵器で、大戦時に使用された生体兵器です』
「生体兵器!? ちょっと、セラフィム。それホントなの?」
『レン。セラフィムは嘘をつきませんよ。それに、どうやらここは生体兵器製造プラントのようですし、居てもおかしくはないでしょう』
研究室に入って早々に騒ぎ立てる女子四人。
談話している場合か! っと、普段なら呆れるところだが、この状況ではむしろ頼もしく思えてしまう。
かなりヤバイ状況だと考えてたが、アイツらがいるんなら話は別だ!
「アシッドワームは――?」
視線を移すと、アシッドワームは数千年ぶりの外気に触れてまだ本調子じゃないのか、こちらに狙いを定めずに高い金切り声を挙げて周囲のカプセルに体をぶつけていた。体の痺れをとるための軽いウォーミングアップといったところだろう。
だが、それも時間の問題だ。
……話すなら今しかないっ!!
「ニア! レン!」
突然声をかけられて同時にこちらに顔を向けるニアとレン。
今は返事を待つ間も惜しい。俺は大きい声を出して二人に話を切り出した。
「教会時代にさんざんやった素早い敵に対する連携をとるぞ! 主体はアレスで俺が調整役だ」
「何で、私達が!? 貴方達の責任でしょ!」
「んなこと言ってる場合じゃねぇんだよ。こいつには物理攻撃は効かないんだ。それに素早い上に酸も吐いてくるから、レンはともかくお前じゃ魔法を放つ前にやられちまう。――だから、協力しろ」
「っ! だからって……」
「ニア。どうやら提案に乗るしか勝ち目はないみたいよ」
そうニアを諭していたレンは冷静な眼でアシッドワームの方を睨んでいた。釣られて、俺も同じ方向に振り返る。
調子を取り戻してきたのか、アシッドワームは歓喜を示すように酸を辺りにぶち撒けていた。
生体兵器はモンスターではなく、あくまで『兵器』だ。知性・能力強化の改造と一緒に、指令を果たすための命令入力もされているという。
……となると、調子を取り戻したワームが次にする行動は、奴自身が生まれた理由。すなわち『兵器』としての活動だ。
全部、資料で得た知識だけどな!!
どうやら思っていた以上に時間が押しているみたいだ。
「ニア! 頼む」
「ッ~~~~~~あー、もうっ!! わかったわよ!」
ニアは観念してセラフィムをアシッドワームの方向へ構え、レンは矢羽を摘んでデュナメイスの弦を引き締めた。
よし! これで協力体制は整った!
「アレス! お前が作戦の要だ。単純な話だから分かんねぇとかほざくなよ!」
「お、おう? なんだかわからんが任せとけ!」
「わかんねぇとかほざくなっつっただろが!」
「作戦も聞いてねぇのに無茶言うな!」
勝ちの目が出てきていつものを言い合いも戻ってきた。精神的にも余裕ができた証拠だろう。
役割は決まった。役者も揃った。
「いくぞ、皆」
俺は一息ついて、
「反撃開始だ」
全員に号令をかけるように鼓舞を示した言葉を高らかに宣言した。