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第8話 王都へ!

 王都へ行くことを決意したアスティは、それから大急ぎで旅の支度を始めた。

 テントの中へ駆け戻り、必要最低限の着替えと、少しずつ貯めていた貨幣を大きめの布袋に詰め込んだ。森での生活に貨幣はほとんど不要だったが、月に一回東の森を通る行商人に森で見つけた果物や木材の加工品を売って僅かばかりの収入を得ることはあった。こうして稼いだ貨幣は、自給自足では賄えない物品を行商人から購入するために使っていた。かつては集落内の役割分担で生活に必要な衣類や雑貨はほとんど賄うことができたが、衣服を縫うための布地や革製品は行商人に頼らざるを得なくなっていた。

 最後に、アスティは父から譲り受けた大切な横笛が腰に下げた小さな袋にしっかりと差してあることを確認し、布袋を抱えてテントを出た。

 テントの前では、既にイニスとナウルは空飛ぶ円盤——移動用円盤ディスク・ボードを用意して待っていた。

「荷物はそれだけでええんか?」

「はい。」

 ナウルの問いにアスティが頷くと、ナウルがアスティの隣ですっと腰を落とし、アスティを膝裏からすくい上げるようにして抱き上げた。

「ほんなら、王都までランデブーと行きましょか!」

「え? え? え?」

 アスティはずた袋を抱えたまま混乱する。

「大丈夫、何も怖いことあらへんで。しっかり捕まっといてくれれば、王都まであっと言う間や!」

 ナウルはにこりと微笑み、アスティを抱き抱えてまま、移動用円盤に片足を乗せる。

「何が大丈夫なんだ! お前の移動用円盤は一人用だろうが。定員超過だ、降ろせ。」

 イニスがむすっとした表情でナウルに命じる。

「細かいこと言うなや。アスティちゃんは全然軽いから大丈夫や。」

 ナウルはイニスに向かってそう返した後、アスティに向かって微笑み掛ける。

「定員超過は交通法違反だ。逮捕されたくなかったらとっとと降ろせ!」

 つかつかとナウルに近付いてきたイニスが、ナウルの腕からアスティを奪い取り、地面に降ろした。

「はぁ!? アホ言うたらあかんで! お前、アスティちゃん一人王都まで歩かせる言うんか!? 今から歩いて王都まで行く言うたら、途中で日が暮れてまうで!」

「誰も歩かせるなんて言ってない。アスティは俺のに乗せる。」

 イニスはそう答えると、ナウルから遠ざけるようにアスティの背中を押した。

「……何やそれ! お前のやて一人用やないか!」

 ナウルが抗議の声を上げたが、イニスはそれに答えず、自分の移動用円盤に近付くと、その側面をつま先ポンッと蹴飛ばした。

 その瞬間、移動用円盤がガシャンと音を立てて展開し、ほぼ正円をしていた円盤が、横に引き延ばされて楕円に変わった。

「え?」

 アスティが思わず発した驚きの声は、ナウルの声と重なった。

「こいつは二人用としても使えるように改造してある。耐久性能や基本仕様は二人用の基準を満たしてる。これなら二人乗りも違反じゃない。」

 イニスが淡々と説明する。

「……何でお前の奴だけそないなってんねん!」

 驚きから我に返ったらしいナウルが叫んだ。

「前々からギムニクに開発を依頼してた試作機だ。ちょうど俺たちが王都に戻った日にできあがって、受け取ってきた。調子が良ければ、公用規格に指定してメーカーに量産させる。そしたらお前のも取り替えてやるよ。」

 イニスはナウルを振り返って笑うが、ナウルは不満そうな表情でイニスを睨んでいる。

「しかし、その荷物は邪魔だな。」

 イニスはアスティが抱えていた布袋を眺めた。

「ナウル、これはお前が持ってけ!」

 イニスはアスティの布袋を掴むと、ナウルに向かって放り投げた。

「は!? 何で俺が荷物持ちに……。」

「アスティの大事な荷物だ。落とすなよ!」

 イニスはナウルに向かって言い、自分の移動用円盤に乗る。

「俺の後ろに乗って。」

 イニスがアスティを振り返りながら軽く顎を上げて促した。アスティは恐る恐る移動用円盤に足を乗せ、イニスの後ろに立つ。一瞬、移動用円盤が沈み込んだような気がしたが、それはしっかりと空中に浮き留まっていた。

 イニスはアスティが乗ったことを確認すると、右足で移動用円盤の側面を叩いた。同時に、移動用円盤の床面から金具が現れ、アスティの両足と、イニスの左足が固定される。

「俺の体にしっかり捕まっててくれ。」

 イニスに言われ、アスティはイニスの上着をそっと掴んだ。

「ナウル! ちゃんとついて来いよ!」

 イニスはそう言うと、右足で移動用円盤の床を踏み鳴らし、アスティの上半身は後ろへ引っ張られた。いや、両足が移動用円盤と共に前へ引っ張られたのだ。

「ぅわっ!」

 思わず悲鳴を上げると、イニスの腕が背中に回り、抱き寄せられた。

 イニスとアスティを乗せた移動用円盤は、狭い木立の合間を縫うように飛び、王都へと続く舗装された道路に出た。風が頬を撫でていく。左右の木立が後ろへと流れていく。自分の足で走るのとは違う不思議な感覚に、アスティの胸は高鳴った。

「大丈夫か?」

 速度が少し落ちて、イニスがアスティを振り返る。

「……。」

「……アスティ?」

 名前を呼ばれ、アスティは我に返った。初めて乗った移動用円盤の不思議な感覚に夢中になって、ついぼんやりとしていた。

「え? あ、はい! 大丈夫です!」

 慌てて答えると、イニスは怪訝そうな顔をした。

「す、すみません。初めて空を飛んだので、感動して……。」

 アスティが答えると、横からびゅんっと強風が襲った。後ろをついてきていたナウルの移動用円盤に追い抜かれたのだ。ナウルの移動用円盤は、二人を追い抜いた先でくるりと宙返りした。

「わぁ!」

 アスティは思わず感嘆の声を上げる。

「何や、俺はてっきりイニスが乱暴な操縦するから気ぃ失ってもうたんかと思たわ!」

 宙返りしたナウルはイニスと併走しつつ、笑いながら言った。

「乱暴な操縦してるのはお前だろうが。」

 イニスが呆れた様子で返す。

「俺の操縦は乱暴やない、芸術や!」

 ナウルは胸を張って答える。

「それに、イニスは急発進してアスティちゃん振り落としそうになっとたやないか。なあ、アスティちゃん?」

 ナウルに振られ、アスティは戸惑った。発進時に振り落とされそうになったのは事実だが、それを肯定するのはイニスに対して失礼だ。

「あれは私がぼんやりしていたので……。」

「アスティちゃん、遠慮せずにはっきり言ってええんやで? 乱暴な操縦するイニスさんよりナウルさんの移動用円盤に乗りたかったって!」

 ナウルはきらきらと瞳を輝かせながら言い、イニスは呆れた様子で正面に向き直る。

 アスティは何と答えていいか分からずに、困った笑みを浮かべた。

「俺の移動用円盤に乗っとったら、もっと楽しい空中散歩ができたはずやで! イニスより俺の方がずーっと操縦上手いんやから……!」

 ナウルはそう言ってアスティを振り返りながらイニスと併走していたが、不意にイニスが体傾け、移動用円盤が右へ逸れた。

「……あ!」

 イニスが突然針路を変えた理由に気づき、アスティは声を上げる。アスティの声にナウルは首を傾げたが、次の瞬間、ナウルは道路に張り出すように伸びた木の枝に思い切り後頭部をぶつけた。

「……な、ナウルさん!」

 アスティが叫ぶが、イニスは動じることなく、転倒したナウルの脇を通り過ぎた。

「大丈夫だ。あいつはあれくらいじゃ死なない。」

 イニスは平然と言ったが、たとえ死ななくとも、多少の怪我はしていそうだ。アスティは後ろを振り返りながら、倒れたナウルがもぞもぞと動き出すのを確認して、ひとまず胸をなで下ろす。

「悪かったな。」

 不意にイニスが言った。イニスの視線は正面を向いたままだ。

「へ?」

「二人用として使うのは初めてだったから、出力が上がってるのを忘れてた。俺も気を付けるが、お前もちゃんと捕まっててくれ。頭から落ちると洒落にならない。」

 そこまで言われてやっと、アスティはイニスがナウルの言葉を気にしているのだと理解した。

「あ、はい。」

 アスティは頷いてイニスの服をぎゅっと強く掴み直したが、イニスはアスティの手首を掴むと、その手を自分の腰に回させた。

 アスティはやや前傾姿勢でイニスの背にぴたりとくっつく。

「ちゃんと捕まってないと、危ないから。」

 イニスに言われ、アスティは素直に「はい。」と答えたが、その声はなぜだか少し上擦ってしまった。


 イニスとアスティが乗った移動用円盤は高速で飛び、すぐに東の森を抜けた——その時だった。

「……あだ!」

 突然、イニスが奇妙な声を上げて著しい前傾姿勢を取り、移動用円盤は急停止した。アスティは思わずイニスの腰に腕を回したまま前につんのめりそうになったが、両足を移動用円盤に固定されていたおかげで何とか持ちこたえた。

「い、イニスさん……大丈夫ですか?」

 イニスは危うく地面に飛び込みそうだったが、腰を折って移動用円盤の側面を掴み、何とか持ちこたえていた。

「……悪い、後ろからいきなり何かが頭に……。」

 イニスは移動用円盤の上でうずくまりながら、後頭部を押さえた。

「——クエーッ!」

 聞き慣れた声に顔を上げると、頭上をキーロが旋回していた。一際甲高い声は、キーロの機嫌が悪いときのものだ。

「キーロ!」

 アスティが名を呼ぶと、キーロは急降下してきたが、アスティが差し出した手には止まらず、イニスに向かってくちばしを突き立てた。

「うわっ!」

 イニスが悲鳴を上げるが、キーロは重ねてイニスを突き続ける。

「キーロ! だめ、やめなさい!」

 アスティがイニスに多い被さるようにしてキーロを払い退けると、キーロはイニスへの攻撃をやめたが、それでもなお、不機嫌そうな鳴き声を上げてイニスの頭上を旋回した。

「おやおや……イニス団長、いきなり止まりよって、一体どうしたん?」

 後ろから、ナウルが追いつき、イニスを見下ろしながらけらけらと笑い声を上げた。その様子からして、先ほど木の枝にぶつけた怪我は大したことはなかったらしい。

「キーロが突然イニスさんを突つき出して……。」

 アスティはナウルに説明し、空を飛ぶキーロを見上げた。

「キーロ! イニスさんは木の実じゃないのよ! 人を突ついちゃだめでしょ!」

 叱りつけてはみるものの、キーロが理解しているのかは分からない。そもそも、なぜキーロが突然イニスを襲ったのかも分からない。

「まあまあ、アスティちゃん。そない怒ったらキーロが可哀想やで。」

「何であいつが可哀想なんだ。叱られて当然のことしてるだろうが!」

 イニスがむくりと立ち上がり、苛立たしげに叫んで上空のキーロを指差した。

「だ、大丈夫ですか……。」

 アスティが心配してイニスに問うが、イニスは不機嫌そうな表情で「ああ。」と答えただけだった。

「そらちょっとした誤解や。」

 ナウルがイニスに向かって言った。

「誤解?」

 イニスとアスティが声を揃えて聞き返した。

「そう。きっと、キーロは突然アスティちゃんが変な機械に乗った奴に連れて行かれたから、誘拐でもされたんちゃうかと思って追いかけて来たんよ。」

 ナウルはにこりと笑って答えた。

「どうしてお前に鳥の気持ちが分かるんだ。」

 イニスの台詞は、問いというよりも、ナウルの見解に対する否定的な主張だ。

「そら分かるやろ、何となく。」

 ナウルが平然と答えると、イニスは不機嫌そうに顔をしかめた。

「さっぱり分からん。」

「そんなんやから、お前は嫌われるんや。」

 ナウルはそう言うと、懐からマリイヤの実を取り出し、頭上に掲げた。

「キーロぉ、俺らは誘拐犯とちゃうでぇ。アスティちゃんのために彼女を王都まで連れて行くんや! アスティちゃんのことが心配なら、お前も一緒に連れてったるで? お前の好物のマリイヤの実、お近づきの印に一つやるから仲良くしよやぁ!」

 ナウルは上空を旋回するキーロに向かって呼び掛けた。キーロはしばらくの間、ナウルの呼びかけには答えずに上空を旋回していたが、好物のマリイヤの実が気になるのか、ちらりと下を見下ろし、次の瞬間、一直線にナウルに向かって急降下してきた。

「キーロ!」

 アスティはキーロがイニスに続いてナウルまで襲う気なのではないかと思い叫んだが、キーロは真っ直ぐにナウルが掲げたマリイヤの実に向かって降り、マリイヤの実だけをくわえて再上昇した。

「器用に好物だけ取って行ったな。」

 イニスが漏らした笑いは、嘲笑に近いものだった。

 キーロは上空でナウルから奪ったマリイヤの実を投げ上げ、落ちてきたそれをくわえ直したかと思うと、そのまま飲み込んだ。

「どや? うまいやろー!?」

 ナウルはイニスの嘲笑には応えず、満足げな表情で空を見上げ、キーロに呼び掛ける。キーロは上空に一つ円を描いてから再びナウルに向かって降下し、今度はそっと、その肩にとまった。

「おお、ちゃんと俺の言ったこと分かったんやな。賢いやっちゃ。」

 ナウルは満足げにキーロの頭を撫で、キーロも嬉しそうに「クエッ!」と鳴いた。

「木の実一つでなつくなんて、お手軽な鳥だな。」

 イニスが呆れた様子で呟くと、キーロの目つきが変わった。

「あ……!」

 アスティが注意の声を発するよりも早く、キーロはナウルの肩から飛び上がり、イニスに向かって突進した。

「うわっ!」

「キーロ、だめ! ……やめなさい!」

 アスティが叫んで、何とかキーロをイニスから引き離す。

「イニス、キーロは賢いんやで? そないなこと言うたら腹立てるに決まっとるやん。」

 ナウルはイニスに向かって言い、ナウルの肩に戻ったキーロに笑顔を向けた。

「……なあ?」

 キーロは嬉しそうに「クエッ。」と鳴く。

「くそ……とにかく、日暮れ前に王都に着かなきゃならないんだ。急ぐぞ。」

 疲れた表情で立ち上がったイニスは、アスティの腕を掴んで自らの腰に回しながら、今度はゆっくりと移動用円盤を加速させた。


 東の森を出てしばらく飛ぶと、街道沿いに商店や民家が散らばり始めた。森の民のテントとは異なる石造りの家だ。

 移動用円盤の乗り心地にもだいぶ慣れてきて、周囲の景色を楽しむ余裕も出てきた。

「すごい。あれ、全部お家なのかな。」

 石造りの建物が密集して建つ集落らしき場所を遠目に眺めながら、アスティは思わず疑問を口にした。石造りの建物群の中央には、周囲の建物よりも頭一つ抜き出た円錐形の屋根を抱いた大きな建物があった。

「ああ、あれはこの辺では比較的大きい町だ。中央の塔のある教会は町のシンボルになってる。」

 イニスが前を向いたまま解説してくれた。

「教会?」

 アスティには耳慣れない単語だった。

「礼拝所。神のために祈る場所だ。」

 イニスの補足説明に、アスティは「ああ……。」と漏らして納得した。

 東の森では、森の奥の広場がしばしば祭事ために用いられた。東の森の民は、神へ祈りを捧げるのに特別な場所や建物を必要とはしなかったが、広場の中央に立つ神木を呼ばれる大きな木の前では、しばしば多くの人が頭を垂れた。あのとりわけ背の高い建物——教会は、森の外の人々にとって、神木のようなものなのだろう。

「見えてきたぞ。」

 イニスの声で、イニスの背後から正面をのぞき込んだアスティは、息を飲んだ。

 真っ直ぐに伸びた道の先に、霞の掛かった巨大な影があった。巨大な影は近付くにつれて少しずつはっきりとしてきて、それが無数の建物群であると分かる。天を貫きそうなほどの細長い建造物は、森のテントと異なることはもちろん、道すがら眺めた石造りの家とも違う素材でできているようで、小川の水のようにきらきらと輝いていた。

「……うわぁ……。」

 アスティは思わず感嘆の声を上げた。

「クエーッ!」

 キーロの声に振り返ると、キーロを肩に乗せたナウルが追いついてきた。

「驚いたやろ? あれがエウレールが誇る王都の摩天楼群や。んでもって、その右手、北の丘の上に高い塔が見えるやろ? あの塔の周り、石造りの塀に囲まれたとこが国王陛下のおる王宮や。」

 ナウルの指さした方向へ視線をずらすと、確かに、丘の上に石造りの塔が見えた。南側の摩天楼群に比べると、重厚感はあるものの、古めかしい雰囲気も感じる地味な塔だ。塔の先端ではためいているのは、エウレールの国旗だろう。塔が建つ丘の周囲は石造りの塀に囲まれて中を伺い知ることはできないが、その石塀の中が全て王宮の敷地なのだとすればかなりの広さだ。左手の摩天楼群がすっぽり収まりそうなほどである。

 街の全景がはっきりするに連れて、アスティの胸は高鳴ったが、アスティたちは、突然、進路を巨大な壁に阻まれた。

「あれ? 行き止まりですか?」

 アスティはイニスの背から顔を覗かせて尋ねる。

「いや、すぐに通れるようになる。」

 イニスはそう言うと、巨大な壁の前で移動用円盤を止めた。

「アスティちゃんはこれも見るのは初めてやろな。」

 ナウルがに隣でこにこと笑うと、ブオォンと狒狒の雄叫びのような音が響き、空気を揺らした。

 突然響いた轟音にアスティは思わすイニスの腕を掴んだが、イニスが動じる様子はなく、ナウルも笑っている。

「ほれ、見てみぃ! 動くで。」

 ナウルに促され、正面の壁を覗いたアスティは思わず声を上げた。

 巨大な壁が少しずつ奥へと倒れていき、道が繋がる。目の前に現れたのは、大河に架かる巨大な橋だった。

 つい先刻まで眼前にあった巨大な壁が消えて視界が開ける。下流へと視線を向けると、川を下っていく巨大な船が見えた。

「これが王都セントラル・シティへ繋がる東の跳ね橋イスボーン橋や。こいつが上がるんは月に一度あるかないかや。運がええで。」

「跳ね橋……?」

「橋の下をくぐれない大型船を通すために、橋を上げられるようになってるんだ。今、橋が上がっていたのは、あの白い船を通すためだ。船が通過すれば、再びこうして橋は下りる。」

 イニスが川下の巨大な船を指差した。

「こんなに大きなもの、どうやって動かしてるんでしょう?」

「昔は大勢の労働者を集めて手動で動かしていたらしいが、今は電動モーターで全自動の機械制御だ。」

 アスティの問いにイニスは端的に答えてくれたが、アスティには電動モーターの意味がよく分からない。いずれにしても、これも王都のすごい発明品の一つということだろう。

「あのどでかい船はエウレール有数の豪華客船や。エウレール中から集まった金持ち連中をぎょうさん乗せて、これから世界一周の航海に出るんやで。」

 ナウルが白い船を眺めながら補足する。

「世界一周……。」

 アスティはため息混じりに呟いた。世界一周と言われても、それがどれほどすごいことなのか、アスティには想像が付かない。アスティにとって、世界はずっと東の森の中にあった。やっとこうして森の外の世界を知ることになったが、王都を出ていく白い船は、さらに外へと向かっている。世界とは、無限に広がるものらしい。

 

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