アイス イン ザ アイスティー
「ねー。宮代。あついー」
「知らん。冷房はつけただろうが」
宮代は呆れた目をしてそう言いったけど、読んでいた本を置き、立ち上がってキッチンに行く。
夏の間は毎回あたしは宮代にそう言う。そうするとあいつは呆れながらもあたし専用の飲み物を用意するのだ。
「ほら。これをやるから静かにしていろ」
宮代が持ってきたのはとってもおいしそうなアイスティー。しかし、このアイスティーはただのアイスティーではない。なんと!あたしの大好物のバニラアイスがのっているのだ!
「やったー!ありがと宮代」
「ふん」
偉そうな態度は今に始まったことではないのでスルー。というか今はこのアイスティーだよ!
あたしはストローをくわえて飲む。うむ。まことに美味である。次。お盆にのっていたスプーンを手に取り、バニラアイスを一口食べる。んー!おいしい!あまい!
そうやって飲んで食べてをくり返すうちに、宮代がじーっと見つめてくることに気がついた。
メガネの奥の理知的で静かな目。なんでも見通しそうな宮代の目が、あたしは昔から苦手だった。そんな目があたしをずっと見てくるのだ。なんだか居心地悪くてそわそわする。宮代もアイスティーが飲みたいのかな。
「み、宮代ー。アイスティーはやらないからね!」
「いらん」
違ったらしい。一瞬であたしの台詞はぶった切られた。
「じゃ、じゃあなんなのよー。さっきからじーっと見つめてきて。あたしのストーカーでもする気?」
「ハッ」
鼻でバカにされた。その見下した目が、なんでお前なんかをストーカーしないといけないんだと語ってる。ちょっとムカついたけど、がまんがまん。あたしは宮代より年上なんだから。お姉さんなんだから。
「梓さん。それおいしいか」
「へ?あ、ああうん。すっごく!」
言うことかいてそれかい!なんか脱力。身構えて損した。
もう一度ストローを咥えなおす。んー。うまうま。
「そうか。まあ当然だな。僕の愛が篭もってるんだから」
「ブフー!!!」
アイスティーをふいた。なに言ってんだコイツ。あれか。あたしの頭がおかしくなったのか。あたしの脳内が作り出した幻影か。
青い空を眺めていたらいきなりストレートが来た。身構えてなかったあたしは反応できず、ストライク!という夏お馴染みの映像が頭をよぎる。いやそうでなく!なに脳内でバカな小芝居繰り広げてんだ!あたし!
今、宮代はなんて言った?そうだよ!それが大事なことだよ!
「み、宮代。あたし、暑さでおかしくなってるみたい。もう一度言ってくれる?」
「“そうか。まあ当然だな。僕の愛が篭もってるんだから”」
おかしくなってなかったー!!おかしくなってたのはコイツのほうだよ!宮代の頭だよ!!
「みみみみやしろ!!今すぐ病院行こう!きっと熱中症だよ!大丈夫。あたし年中無休の病院知ってるから!」
「僕は暑さでおかしくなってるわけではないぞ。事実だ」
「おかーさーん!!車だしてー!早くー。宮代が死んじゃ…はっ。そうだ。お母さん今日出かけてるじゃん!!どうしよう!」
「僕が外出を進めたからな。僕の両親とともに、今日から一泊二日の箱根観光だそうだ」
「そうなの!?泊まりだなんて一言も言ってなかったし!なんで娘のあたしより詳しいのさ。いや。今は別にいいよ!ともかく病院にっ…」
言葉が途中で切れたのはあたしのせいじゃない。なぜかあたしをベットに押し倒した宮代のせいだ。
ん?なんで?
「とりあえず梓さんに正当法は通じないことがわかった。なので既成事実をつくろうと思う」
「いやいやいや。なに言ってんの?正当法って何?え、どういう意味なの?」
宮代のクールな表情は変わらないけど目がなんかこう、熱をふくんでるっていうか、欲がちらつくっていうか。ともかくやばい。熱中症ってこうなるんだ。はじめて知ったよー。ハッハッハ。
「現実逃避はそれぐらいにしてくれないか」
「な、なんでそれを!」
「声に出ている」
な、なんだってー!!
「梓さん。ちょっと客観的に考えてみろ。両親は明日の夕方ごろまで不在。男女二人っきりだ」
「ふむふむ」
「しかも男のほうは女のほうに恋情を抱いている。そして今、女は男に押し倒されている」
「あー。それはやばいね。喰われるね」
「それが現在の状況だ」
な、なんだってー!!でもちょっと待て。宮代はなんて言った?恋情を抱いている。れんじょうをいだいている。恋情………。
「恋情とは恋い慕う心。恋心のことだ。それから梓さん。また声に出てるぞ」
「なんだってー!!いや、そうじゃなくて!宮代はあたしが好きなの!?」
あたしの言葉に宮代は目をふせる。睫毛長い。うらやましい。
宮代の顔は充分すぎるほど整っている。そのへんのアイドルなんて目じゃない。その性格や冷たすぎる視線のせいで近寄りがたく見えるけど、本当は面倒見もいい。だってあたしの我が儘をいつもきいてくれる。
優しくて格好いい。あたしの自慢の幼馴染みだ。
「やっぱり気づいてなかったんだな。梓さんらしい」
「それって鈍感ってこと?ねえ。そうなの?」
「梓さんではなく、他人だったらアイスティーも用意しない。我が儘だって、言ったら蹴っ飛ばすぞ」
「そ、そうなの?」
どうやらあたし専用の優しさだったらしい。ぜんぜん気づかなかった。宮代なら女の子なんてよりどりみどりなのに。なんであたし?
「梓さんはぜんぜん女らしくないし、そこまで顔も綺麗なわけじゃない。いつもぐーたらしてるし。鈍いし。馬鹿だし」
「宮代。殴っていい?というか、じゃあなんであたしを好きになったのさ!いま出てるのって、あたしへの悪口じゃん!」
じわり、と熱い水の膜が瞳を覆う。なんだか鼻もツーンとしだした。なんだよ。それぜんぶ、あたしの悪いトコじゃん。
「その全部が、愛おしく思える。末期だと思わないか?」
ポカーンだよポカーン。あたしの顔、さっきまで泣きそうだったのに今はアホ面だよ。だって、だって。宮代がバカなこと言ってる。すごい優しそうに目を細めて。はじめて、見る表情だった。
なんかもうすごく可愛いものを見るときみたいな、そんな顔。
「好きだ。梓さん。好きすぎて、こちらが困るくらい」
「な、なにそれ…」
う、うー。唸ってみても現状が解決できるわけじゃないけど。どうしようもない。
だって、ずるい。こんな風に言われたら、どうしようもない。
「僕の恋人になれ。梓」
「め、命令形かいっ!しかも、呼び捨て…」
「いいだろう?別に」
く、くやしい。あの勝ち誇った得意そうな顔。鼻つまんでやりたい。
「それで。答えは?」
「……はい」
ああもう!全面降伏だよ!なんであたしの答えを聞いたとたん、そんな年相応な笑い方するかな!
もう、アイスとけちゃったかも。
設定としては、閑崎梓。大学生。世間の荒波に揉まれず、ぐーたらすごしてきた基本引きこもり。友人はたくさんいる。
宮代修。高校生。まわりにたいしてはツンドラなお方。幼馴染みにたいしてだけはクーデレ。努力型の秀才。メガネ。美形。
まあこんな感じで詳しい設定とかは考えてない。
誤字脱字があったら、教えてくれると助かります。