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記録3:立ち向かう心を世界に伝播させた小さな英雄

これは第45宇宙の話。

この宇宙では知的生命の誕生が活発で、星を跨いで生物の交流が盛んに行われていた。

寿命を迎えた星は爆発せず、塵となって空間に大量のエネルギーをまき散らす。

"星の破片"ともいえるこのエネルギーを活用して、生き残った星が潤沢に成長していたのだ。


ある時代、ジニャーグと呼ばれる最も技術力を有する星が宇宙支配を宣言する。

彼らは高い身体能力と高度な技術を利用して瞬く間に星を侵略していった。

中でも"対象を分解する"不可避の即死攻撃を好んで利用しており、為す術もなく数多の文明が滅びを迎えていた。


宇宙の端、リッタと呼ばれる星もジニャーグの侵略により滅びの運命を迎えていた。

彼らは身体能力こそ劣っているが、星の破片を外付けエネルギーとして利用する特殊体質を持っていた。

"魔素"を利用した"魔法"と呼んでおり、自然現象の再現や物理法則を無視した事象の発現を可能としていた。

侵略当初は魔法の活用によりジニャーグの戦士たちに対抗できていたが、未知の技術と優れた身体能力の前には敵わず、じわじわと追い詰められていた。

この星の衰退は確実で抵抗するだけ無駄、極少数の精鋭部隊が侵略に抵抗しているがそれも徒労に終わる。

そんな空気感が星中に蔓延っていた。


そんな中、地方に住む一人の少年は侵略を受け入れず、生存を諦めていなかった。

彼は特段魔法技術が高いわけでもなく、身体能力も決して高くない。

だが、周りを俯瞰して見る能力に長けており、誰よりも心が強かった。


彼は自分の村が襲われる時を漫然と待つことはせず、敵を撃退するためのシミュレーションとトレーニングを欠かせなかった。

そんな彼を村の人間は馬鹿にし、他人事のように眺めていた。

そう遠くない終わりの日まで、ただ日々を消費することを選択していたのだった。


侵略者たちは地方の小さな村にどれだけの人員をあてるだろうか。

対して脅威でもない雑魚である我々、精鋭でもない数人での正面突破で十分だと考えているだろう。

舐めきった態度と強者である油断、そこにこちらの勝機はある。


相手は高度な技術武器を持っているし、最強能力である分解をほぼ全員が活用できる。

対して、我々は個人で活用できる魔法は生まれ持っている一種類のみだ。

強力な攻撃魔法や防御魔法を利用できるものは精鋭として収集されている。

だからこそ、自分の魔法はこの戦況では輝く。


ついに侵略の時が訪れた。

村の住人は既に諦めモードで、戦うことすら放棄していた。

侵略者は十人以下、少年の想定通りだ。


侵略者は村人全員を広間に集め、退屈そうに分解攻撃の準備を始めた。

抵抗しない村人に大した物資のない村。

侵略者にとっては"汚れた部屋の掃除"に来た気分だったのだろう。

欠伸を殺しながら、淡々と分解攻撃を放った。


少年はこの状況を待ち望んでいた。

彼の魔法は"事象の拒絶と強制"。

特定の事象の行使を拒絶した後、別対象に強制することができる。

敵意に対してのみ効力を発生するこの魔法は日常生活では無価値だ。

だが、この場においては絶大な効力を発した。


村人に向けられた分解は"拒絶"され、術者に対して強制行使される。

数十人の村人に対する分解、術者一人では収まらず侵略者全員の命を分解した。

彼の数えきれないシミュレーションがここに実現した。


彼の策略は永続的に有効な手段ではない。

侵略者からすればすぐにでも対抗可能な攻撃だ。

それでも、特別な力を持たないただの少年が侵略者を撃退した。

この事実は村人たちに大きな希望をもたらした。


生きる事を諦めていた村人は少年に従い、これからの戦略を考え始めた。

それぞれが持つ魔法の力を共有し、侵略者への対抗手段を考えた。

彼らは別の村に移り、複数の村を束ねながら侵略者に対抗した。

少年の折れない心と勇気が伝播していった。


数カ月後、少年が束ねた村は侵略者の軍勢の前に簡単に滅びを迎える。

彼の戦略は一つも通用せず、成すすべもなく殺された。


彼の行動は、特定地域の生存期間を少し伸ばしただけの、些細な戦果でしかない。

それでも、少しの間でも、彼の勇気は多数の人間の拠り所となっていた。


少年は多数の軍勢襲来の可能性を考慮して、事前に村人たちの避難を行っていた。

生き残った村人たちは世界中に散らばり、彼の意思を継いで諦めない心を世界中に伝播した。

少年の意思は消えることなく、最後の日まで燃えつづけた。


最終的に、リッタはジニャーグに完全支配され、住人は一人残らず滅ぼされた。

侵略者に大した被害は与えられず、彼らの生きた証は一つも残っていない。

彼らの行動は無意味だったのだろうか。

大人しく侵略を受け入れれば捕虜として生き延びれたのだろうか。


何も残らなくても、短い生涯でも、彼らは自分たちの為に行動した。

不確定の未来を恐れず、安定した奴隷の可能性を捨て、自立した生活を望んだ。

勝ちの見込みがない無駄な戦い、その中に誇りを守るための希望を見出した。


生存戦略として彼らの行動は間違っているだろう。

それでも、小さな可能性の為に最後まで戦った彼らは立派だった。

そのきっかけである"名前を持たない地方の少年"、彼の存在は忘れてはならない。


自分たちの生き様を他者に委ねず、小さな勇気を世界中に伝播させた英雄の記録。


ジニャーグは結局、第45宇宙の全ての星を支配した。

増えすぎた人口を拡散するための、大地を欲した侵略行為。

だが、彼らの高度な文明でも人口増加の問題は解決できない。

支配領域を広げられなくなった彼らの最後、内紛による崩壊だった。

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