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記録1 :世界統一を実現した男

第150宇宙に存在する、プーランと呼ばれる星。

この星の大地は栄養を溜め込む性質を持っていた。

エネルギーの元になる栄養をたっぷりと含んだ芳醇な大地。

...のはずだが、星に住まう生物は貧困に苦しんでいた。


この土地は栄養を吸収するが放出しない。

大地に蓄えられたエネルギーは植物に満足に還元されない。

植物は動物からの捕食を避けるために少ない栄養から毒の生成を行う。


植物から栄養を摂取できない動物は、土を消化して栄養摂取を試みた。

しかし、高濃度の栄養が詰まった土を消化するのは容易なことではない。

多くの動物は環境に適応できず死に絶え、大地に栄養として還元された。


こんな大地で自律思考が可能な知的生命体が誕生したのはまさに奇跡だろう。

彼ら(この世界では彼らを"人類"と呼ぶ)は10の国に分かれて細々と暮らしていた。

人類の主食は植物、特別な食事として動物の肉を食していた。


人々は日々飢える生活に我慢の限界を迎える。

食糧難から抜け出すため、他の国から食料を奪うことにした。

10の国が自国を守るための戦争を始めて十数年、未だ繁栄を手に入れた国はなかった。

しかし、一人の男性の誕生で戦況どころか世界情勢が大きく変わることになる。


その男はトリル王国の端にある名前のない村で生まれた。

母親は子供を身ごもったことを喜び、子供のために栄養摂取しようとした。

しかし貧困の世界に貧困の時代、そして地方の村に満足な食事などあるばずもない。

母親は決死の覚悟で大地の土を食べて栄養の補給を試みた。


母親の常軌を逸した行動、運が味方をしたのか丈夫な男の子が誕生する。

食事にこまらない生涯を送ってほしい、その男は"フー"と名付けられた。

大地を食べ続けたことで母親の身体は蝕まれ、数年で絶命した。


フーは特異体質として生まれた。

彼はエネルギーを視認し、吸収と放出を意のままに行えた。

母親が大地を食べ続けたことで適応反応が起きたのだろう。

彼は大地から栄養を奪い、作物に還元することができたのだ。


フーが大地の栄養を還元することで作物が良く育つ。

作物につられて動物が集まるので肉を確保することができる。

名もなき飢えた村が、世界で一番幸せな村に変わっていった。


しかし幸せは長く続かない。

豊かな村の噂はトリル王国中に流れ、瞬く間に世界中に広まった。

国だけでなく世界中から注目され、富の独占として憎しみの的とされる。

村が襲撃され壊滅するのに時間はかからなかった。


村人たちは滅びの運命を悟っていたが逃げ出さなかった。

少しの間ではあったが飢えから解放された生活に満足していた。

そして、世界中に幸せを広げることを願って、フーだけは村から逃がしていた。


村は国王軍によって襲撃され作物は全て回収、村人は皆殺しにされた。

なぜこの村だけ作物が豊かに育つのか、国は大地に注目して研究を始めた。

更地になった村で作物を育て始めるが当然上手くいかない。

1年も経たずに研究は中断、国はその村を捨てた。


村の壊滅から数年、フーは村の跡地を訪れた。

自分の家、畑、みんなで遊んだ広場、母親の墓。

更地に思い出を重ねてみるが、現実だったのかわからない。

幸せな日々よりも、襲撃された絶望感の方がより鮮明に思い出せた。


この数年で世界情勢が大きく変わった。

豊かな村の噂が流れたトリル王国は他の国から優先的に狙われ、国力が大幅に低下。

飢えからの解放が期待されたトリル王国では落胆からクーデターが頻発。

世界から1つの国が消えようとしていた。


フーはこの数年、どうすれば戦争が終結するのか考えていた。

奪い合いが激化していく世界、出身村と同じく出身国が崩壊を迎えている。

この国が滅んでも負の連鎖は止まらない、全ての国が滅ぶまで争いが続くだろう。


争いの原因は貧困だ。

満足に食べることができず、飢えに苦しんで自分の生存しか考えられない。

国レベルでの貧困が世界中で広がっているため、他国から強奪することで自国の安定を保とうとする。


ではなぜこの世界はこんなにも飢えているのか。

理由は一つ、エネルギーを溜め込み独占する強欲なこの大地のせいだ。

村では俺がエネルギーを循環させることで正常な食物連鎖を実現できた。


だったら次は、世界規模で同じことをすればいい。

大地から栄養を吸収して作物に還元して周ればいいんじゃないか。


フーは戦争を止めるため、世界中の飢餓をなくす旅に出た。

エネルギーの視認と移動の操作、彼は世界中の村や街を巡って作物を育てた。

大地で特にエネルギーが停滞しているポイントを見つけては破壊し循環を促す。

数年間、彼は世界中を巡って大地の恵みを人々に還元し続けた。


だが、この数年間で戦争は止まるどころか勢いを増していた。

飢えから解放された人々は次は豊かさを求めて不平を嘆く。

「美味しいものがほしい」「肉が食べたい」「他国より優雅に暮らしたい」

彼らの欲望は止まることなく、他国への制裁や嗜好品の強奪に力を費やした。


底知れない、ドス黒い欲望。

普通に生きる事を望んでいた人々は、身に余る豊かさを求めて他人を害していた。

人々の欲望に上限なんてものはない、満たされることがないのだろう。


フーは混乱しながら現実と向き合い、大地の考えを理解した気がした。

きっと、大地は人々の欲深さを知っていたのだ。

人間の欲望を抑制するため、欲望に上限を設けるために大地が貧困を生み出していたのだろう。


本当に世界から戦争を無くすためには、生存本能で世界中の意思を統一するべきだったのだ。

フーは再び世界を貧困で支配することを決意した。


フーの決意に同調するかのように、大地は世界中にエネルギー循環の淀みを生み出す。

世界を旅しながらこの淀みを増やしていけば世界は今までと同じに戻るだろう。

だが、それでは生きるために他国から奪う戦争が始まるだけだ。

生きるために手を取り合うためには今まで以上の貧困が必要だ。


フーは地面に穴を掘り、呼吸スペースを作り自分の身体を埋めた。

自分の身体を犠牲に世界に貧困をもたらすことにしたのだ。

特殊体質の身体を媒体に、大地のエネルギーを作物に還元せず空に放出し続ける。

放出する際に自分の身体を経由させることで自分の生命は維持し続ける。

世界の誰にも気づかれることなく、彼は崩壊に向けて進みだした。


それから数年、フーは人知れず大地の中で朽ち果てた。

大地が溜め込むエネルギーを全て放出しきって肉体の維持が不可能になった。

世界では作物が育つことはなく、瞬く間に死が波及した。

フーの死からたった数か月、世界の崩壊は実現した。


貧困に瀕した世界、英雄により一度は豊かな世界に切り替わった。

しかし人々の底知れない欲望で世界は再び貧困に覆われる。

身の丈に合う暮らしを弁える、これが安定した暮らしには欠かせないのだ。


醜い欲望がぶつかり合う世界、滅亡の意思で世界を統一した英雄の話。

追記:

フーがエネルギーを放出し続けたことにより空中の生物が発展した。

残念ながらこの世界は私の管轄外。

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