第3話 閃光のF②
捜査二課の加藤たちは、利用された渋沢(一万円札)が大手銀行から出ていることを知る。渋沢ロンダリングの真相を解明するため、加藤たちは三つ葉銀行への捜査に着手した。
捜査の結果、三つ葉銀行が犯罪組織のマネーロンダリングに加担した可能性がある。捜査二課長の加藤は2名の刑事を連れて三つ葉銀行頭取の中村を訪ねた。
「犯罪組織がマネーロンダリングに利用した紙幣が大量に見つかりました。全て発行されてから一度も利用されたことがないものです。番号を照会したら、日銀が三つ葉銀行に発行したものだと判明しました」
「そうですか。お金に色はありませんから、そういうこともあるのですね」
「犯罪組織の幹部は三つ葉銀行に用立ててもらった、と言っています。なぜ、犯罪組織のマネーロンダリングに加担したのですか?」
「それは誤解です。当行が犯罪組織と取引することはありません」
中村の返答がしどろもどろになる。見かねた遠藤が代わって説明を始めた。
「当行は暗号資産(仮想通貨)を現金で購入しただけです。米ドル不信から、金や暗号資産が値上がりしています。現金で保有しておくよりも、暗号資産を保有しておいたほうが運用益を稼げます」
「運用益ねぇ……現金で購入すると、マネーロンダリングに利用されると思わなかったのですか?」
「暗号資産交換業者から紹介された売主だったので、信用できる先だと考えていました。もちろん、当行でも独自に反社チェック、ネガティブチェックをしています。反社会的な勢力との繋がりは出てきませんでした」
取引の正当性を主張する遠藤。加藤は三つ葉銀行が犯罪に関与している可能性を探る。
「ところで、現金で暗号資産を購入されたとのことですが、普通は電子送金した口座で決済しますよね? 現金決済する理由があったのですか?」
「当行だけではなく、他行も現金決済しているはずです。ご存じありませんか?」
銀行が暗号資産に投資する際に現金決済する。これは加藤にとって初耳だった。同席した部下に確認するが、二人とも知らない。他の大手銀行でも同様の取引があるだろうから、遠藤に尋ねることにする。
「あの、どういうことですか?」
「当行や他行には、日銀から押し付けられた渋沢(一万円札)が大量にあります。地下金庫に保管していますが、これ以上、渋沢(一万円札)を日銀から送られても困ります」
「はあ」
「渋沢(一万円札)を消費しないといけませんが、ATMに渋沢を入れないように監督官庁から指導されています」
「監督官庁ですか?」
「はい。監督官庁に逆らわないためには、市中に流通しないように渋沢(一万円札)を消費しないといけません。だから、市中に流通しない暗号資産の現金取引は渋沢(一万円札)の消費に適しています」
「他行も高額現金決済しているのですか?」
「み〇ほ銀行以外の大手行はそうです」
「なぜ、渋沢(一万円札)を市中に流通させてはいけないのですか?」
「その辺りの事情は、そうですね……警視総監に訊いてもらえばわかると思います」
警視総監を出されては、加藤もこれ以上質問できない。
上が白と言えば、黒い物も白くなる。これが組織の原理だ。
加藤は二人の刑事と三つ葉銀行を後にした。
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「今朝、三つ葉銀行のAMTで5万円下ろしました。どうだったと思います?」
日銀総裁の下田は部下に言った。
「千円札が50枚でてきた。ですか?」
「あなた、ふざけている場合ですか!」
「申し訳ございません」
「AMTから出てきたのは一万円札が5枚。ただし、5枚全てが福沢でした。さらに、3日前も全て福沢でした。なぜ、AMTから渋沢先生が出てこないのですか?」
S派の下田はAMTから渋沢(一万円札)が出てくるのを心待ちにしている。しかし、み〇ほ銀行以外の大手行のAMTから出てくるのは福沢のみ。下田の怒りは収まらない。
「申し訳ありません。銀行が福沢(一万円札)を出し渋りしておりまして、まだ市中には十分な渋沢先生が行き渡っておりません。もう少しお待ちください」
「最高学府にたてつくとどうなるか、教えてあげる必要がありますね。一日も早く福沢(一万円札)を駆逐しなさい!」
「御意!」
下田の日課は昼休みに造幣局に訪問することだ。下田は足早に償却炉に向かった。
回収した旧札(福沢)が燃えている。
「ああ、いい景色です。日本にある福沢は、全て燃やしてしまいなさい!」
福沢が舞い上がっては燃え尽きる。まるで、閃光のように。
<完>




