第1話 Fのレコンギスタ②
「福沢が学校を作ろうとしたとき、渋沢に金を借りに行ったらしいんだ。その時に、福沢は渋沢に何て言ったと思う?」
「なんだろうな? お金は貸せないとか?」
「渋沢は『貧乏人が学校なんか作るんじゃねーよ!』って言ったらしい」
「へー、それは怒るな。福沢の方が先輩なんだから……渋沢はマイルドな言い方ができなかったのかな?」
「だよな。それ以来、福沢は根に持ってる。私怨なんてそんなもんだよ。東証プライム上場企業の取引銀行に、なぜかメガバンクの一行だけ入ってなかったりするだろ。あれは、社長が大昔に住宅ローンを断られたのが理由だ。人の恨みは恐ろしい」
銀行の話は聞いたことがある。一度揉めると関係修復は難しいのだ。それに、渋沢でなくてもよかったはずだ。
「新紙幣のデザインを決めるときに、なんで福沢と接点のある渋沢にしたんだろうな? 時代が被ってない後任、たとえば、徳川家康でも源頼朝でも良かったんじゃない?」
福沢の前任者は聖徳太子だった。福沢と聖徳太子の二人は接点がないから私怨はない。福沢と接点のない歴史上の人物を一万円札に起用すればよかったのだ。
「仲が悪いのを知っていて、わざわざぶつけたのかな?」
「ひょっとして陰謀論とか?」
「ああ。犯人は日本が不況になれば喜ぶ国だ!」
「どこだよ、それ……」
鈴木は楽しそうに陰謀論をぶち上げたが、ちょっと説得力がない。そんなまどろっこしい方法で日本経済を悪化させるよりも、もっと効率的な方法がある。
『そこ、真面目に考えてますか?』
僕たちの雑談の声が大きかったのだろう。司会者から注意された。
「すいません」
僕と鈴木は司会者に謝った。いい歳して恥ずかしい。しかたなく、福沢の怒りを鎮める方法を考える。
「ところでさ、いい案思いついたんだけど」
僕は考えた案を鈴木に話した。
「それ、いいじゃん! 提案してみたら?」
鈴木は僕の案を絶賛した。この案なら福沢の怒りを鎮めることができるかもしれない。僕は挙手した。
司会者が指名したので、考えた案を発表した。
「いい案ですね。景気刺激策になりますし、なにより人材不足に悩む企業が助かります。関係省庁と協議して、進めてもいいのではないでしょうか」
司会者が賛成したことにより、他の参加者も満場一致で僕の案に賛成した。
こうして、「福沢の怒りを鎮めよう会」は閉会した。
* * *
僕の案を実行に移した日本政府。福沢の怒りは徐々に鎮まり、日本経済は回復した。
僕は日本経済を救った立役者として政府広報のYouTubeチャンネルに出演することになった。
「……というわけで。福沢の怒りを抑えることが重要だったのです」
レポーターは半信半疑で僕の話を聞いていた。まあ、そうだろう。不況の原因が呪いだと、誰も信じない。
「不況の元凶が福沢諭吉……知りませんでした」
「公表していませんからね。ちなみに、どうやって福沢の怒りを鎮めたか知りたいですか?」
「もちろんです。是非お願いします!」
「実際にお見せした方が早そうですね」
「見せる……ですか?」
「ええ。ちょうど、昼ご飯の時間です。一緒にどうですか?」
「はあ」
レポーターはカメラを撮りながら、僕と一緒に食堂に向かった。
「この食堂は、先に券売機で食券を買います。ほら、ここ見てください!」
僕は食券機の貼り紙を指した。
【現金は使えません】
「あー、最近はコンビニのレジもキャッシュレス専用ですね」
「そうです。キャッシュレスのセルフレジ導入の補助金を出しました。これで渋沢(一万円札)は使えません。導入コストの80%が補助金で賄えるので、人材不足に苦労している小売業界では好評です」
「現金が使えないとなると、福沢の一万円札も使えませんよね?」
「福沢にとっては、渋沢が使えなければ、いいんです。痛み分けですよ。これで、福沢は機嫌を直してくれました」
こうして、日本政府は祟り神である福沢諭吉を鎮魂することに成功したのであった。
* * *
数カ月後。日本に再び景気が悪化し始めた。福沢の呪いを鎮魂して景気が回復したはずなのに……日本政府は原因を調査した。
明確な理由は分からない。焦った政府高官は、再び祈祷師に頼った。首相官邸にやってきた祈祷師は日本の不況の元凶について語った。
「渋沢の呪いじゃ」
<第1話:おわり>




