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エピローグ:新しい統計学の誕生

 兼定美津子は逮捕された。しかし彼女が命を賭して行った問題提起は統計学界、そして社会全体に大きな波紋を広げることになった。


 彼女の遺書として残された論文『外れ値の鎮魂歌』はその過激な内容にもかかわらず、多くの研究者たちの心を打ち、「平均値の持つ暴力性」についての議論が活発に行われるようになったのだ。


 神原数理はその後も科捜研に籍を置きながら新しい研究に着手した。


 それは服役中の兼定美津子との共同研究。面会室のガラス越しに二人の天才は毎週議論を重ねた。数理は自分の過去の不注意を深く反省し、美津子もまた復讐とは違う形で自分の信念を表現する方法を模索していった。


 そして数年後。


 二人の共同名義で発表された論文が世界を震撼させた。


 『感受性統計学序説:外れ値と平均値の関係性編集について』


 それは「外れ値統計学」とも呼ばれる新しい分野の誕生を告げるものだった。


 平均値と外れ値を対立するものとして捉えるのではなく、互いに価値を認め合い、そのダイナミックな関係性の中に真実を見出そうとする革新的な統計手法。


 さらに数理はこの新しい学問を犯罪捜査に応用し、「編集工学的犯罪分析」という新しい手法を確立した。統計学の持つ客観性と編集工学の持つ主観的な洞察力を組み合わせたその捜査技法は、多くの未解決事件を解決に導き、世界中から注目を集めることになった。


 ある晴れた午後。


 科捜研の自室で神原数理は新しい事件のファイルを開いていた。そのデスクの上には美津子からの最新の手紙が置かれている。刑務所での研究の進捗と彼女なりの希望が綴られていた。


 スクリーンに映し出された無数のデータポイントを見つめながら、彼女は静かに、そして確信を込めて呟いた。


「数字は決して嘘をつかない。でもその数字と数字の関係性は無限に編集することができる……」


 彼女の視線の先には平均値のグラフと、そこから大きく外れたいくつかの特異なデータポイントが輝いていた。


 彼女はそのすべての点に愛情を込めた眼差しを注いだ。


「そしてこの世界のすべての人にはその人だけのかけがえのない統計的価値があるのだから」


(了)

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