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白物語  作者: 白龍閣下
1/7

新聞部騒動、その後

晴希「あー、この『白物語』だが……」

嘉光「西尾維新先生の新作だな」

晴希「おい大嘘つくな。確かにそれっぽいタイトルではあるが」

嘉光「嘘だ。こちらでは白世界が大人の領域に入る」

晴希「だから大嘘をつくな。R15のタグすらついてないだろ」

嘉光「作者のお茶目だな」

晴希「いやお前だよ」

「そうか、一緒に風呂すら入れないのか! やっぱりガードが固いな晴希も!」

「同年代の男子と一緒に風呂に入ることを拒むのは女子高生としてはかなり普通の粋に達するはずだが!?」

 俺のこころよいスキンシップにもかかわらずそう叫びながら少し中性的な顔に男口調、俺の嫁たる最高の女子である秋津晴希は夕暮れの中自らの家に向かい駆けていった。

 ではとりあえず、この日の出来事を簡潔にまとめてみよう。


 それはもう、本当に大変な事件だった。

 晴希が新聞部に連れてかれて、そんでまあ俺こと内藤嘉光ないとうよしあき錯乱さくらんして殺してやるだの何だの言って。

 それで小枝このえさんに右の関節全部逆に曲げられて。

 なんだかんだ言って「召喚獣」とかいってるよく分からない一年生の神城羅央かみしろらおうが新聞部室に乗り込んで。

 その後で俺も小枝さんと来たけどその味方のはずの一年がなぜかいきなり壊れて。

 晴希が襲われそうになって、いつの間にか同行してた小枝さんがいなくなってて。

 それで流れで新聞部の部長と手を組んで、何とか一年を正気に戻して。

 で、結局無事に文芸部室に戻ってこれた。

 全く、放課後にものすごい大冒険をしたもんだ。もし電撃とかなら主人公になれる勢いかもしれない。

 ……いや、それは晴希の方か。コイキングより弱いだとか自重してるけどさ、それでもあんな事態におちいっても晴希は晴希だった。結構順応性が高くて、それでいて本質は変わらなくて。そんなのは一種の憧れすら持てる。

 秋津晴希は、最高の女なんだ。それは俺が保証する。


「……以上、説明終わり。それにしても体力が無いなんて言いながらあんなにダッシュで帰って……意地を張られたか」

 可愛いもんだ、そう冗談をつぶやきながら俺、内藤嘉光ないとうよしあきも帰路に──

「いや、ちょっとくらい尻拭しりぬぐいでもしとくか。晴希も見送ったことだし」

 つこうとしたが、そのままビデオの巻き戻しのように後戻りする。

 家より先に行くべき場所が、他にあった。



 目的地到着。ここが董城とうじょう高校か……いやぁ、ついさっきまでいた場所だけどさ。

 そして、その校門のところで一人の男子生徒と出会った。

「内藤先輩、忘れ物ですか?」

「いや、そうじゃない。それで菅原すがわら、お前の方はどうなんだ?」

 菅原卜全ぼくぜん。俺が文芸部に連れてきた一年生だ。晴希には「微妙さにおいては他の追随を許さない」奴とまで言われていたような奴だが。

 とりあえず、ポジションは文芸部のコックだ。こいつのせみ料理は普通に美味うまい。きっと海原かいばら先生もうなる出来だ。なぜか晴希には嫌がられているようだが。

食材ぶきを調達してきたもので」

 武器……新聞部室に突入する際には海苔が無い蒟蒻がないなどと同行を断ったわけだが、果たしてそれらのことだろうか?

「おいおい、新聞部との戦いはもう終わったぞ?」

 いや、普通に食材として使うのかもしれないけどさ。そうじゃないとも言い切れない。

「ああ、いえ、これからバイトで使うもので」

「バイト……?」

 うちの高校はバイト可能だっただろうか? それにバイトだとしても、わざわざ学校に来る必要はないと思うんだが……。

「更に詳しく言うと……まぁ夜のバイトですね」

 菅原は更にそんなことを言ってくる。夜のバイト……? なんだかいかがわしそうだ。

「……それは高校生のやっていい仕事なのか?」

 一応聞いてみる。後輩をいい方向に導くのも先輩としての勤めであり晴希の婿むこたる条件だ。

「まぁ……あまり一般的に受け入れられる仕事ではありませんね」

「大丈夫なのかそれ?」

「大丈夫です。少し体力が必要ではありますが」

「おおっ」

 この後輩はもしかしたら俺たちのずっと先を行っているのかもしれない。そう考えると怖い。

「やめた方がいいぞ。今に痛い目を見る」

「見ません」

 自信たっぷりだな。というかこの平然っぷり、もしかしたら俺が想像してるようなバイトではないかもしれない。それなら安心だ。仮にそうじゃなかったとしたら……その面の厚さが怖い。たちまち先輩としての威厳を手放す勇気が必要だ。

「……まぁ、深くは突っ込まないでおくか」

「それがいいです」

 ああ、じゃあこの話は終わりと言うことで。

「軽く惨劇さんげきを見ますから」

「本当に何のバイトなんだよ!?」

「だから海苔とか使う仕事ですよ。一つしかないじゃないですか」

 いやたくさんありそうなんだが……。食べ物……はありえない。誰に食わせるんだって話だから、そうなると……。

「……掃除?」

 適当にひらめいたことを言ってみる。もしかしたら消臭剤とかに使うのかもしれない……多分だけど。

「似たようなものです」

「そうなのか」

「そうなんです」

 軽い惨劇の起きる掃除って何なんだろうか。ウイルスが死滅しめつしていくって意味の詩的表現か。うん多分そうだな。後輩よ、お前はきっといい詩人になれる。ハイネみたいな。

「というわけで、俺は新聞部室に行ってくる」

 一足早く下駄箱に向かう。残念だが後輩と一緒に文芸部室に行ってはやれない。

「新聞部室ですか。文芸部室ではなく」

「あぁ、新聞部室に行くのが子供の頃からの夢だったんだ!」

 そんな冗談を言っておき、俺は玄関に入っていった。

 まぁあいつのバイトと言うのがどうやら除霊師とかいう仕事だというのは想像だにしなかったが。



 新聞部室が見えた。見事なまでにドアが蹴破られているのには、若干の悲壮さすら覚える。

 あの時の神城はまだ壊れていない状態だったのだから、せめて普通に開けるくらいの配慮はして欲しかった……というのはもう過ぎた話だからやめておくか。

 それに、もし俺でもあの時の勢いだと蹴破っても全然おかしくなかったしなぁ。

「お邪魔しまーす!」

 そう声を上げて中に入る。すると、部の規則で定められたという眼鏡をかけた部員達がこちらに振り向き、


『な、内藤嘉光!』

『ど、どうしてここにいるんだ!?』

『奴は……別の世界にいるはずなのに……』


 何だろうこの反応は。一体何があった。そう言えば晴希は「お前はパラレルワールドに行ったことになってる」みたいなことを言ってたな。よくわからんが関係あるのかなそれ。

由宇ゆうさん、これはどういったことで?」

 困ったので、とりあえず一番奥で窓の向こうを見ている部長、仁科にしな由宇さんに声を掛けてみる。由宇さんなら一体どうして皆がこういう反応をしているのか知っているのかもしれない。

 俺のその問いに対し、由宇さんは視線を窓の外から外さずに答えた。


「……そうですね、確かに枯山水かれさんすいは素晴らしいですね」


 一体どこをどう聞き間違えたんだろう。

 しばらくすると、由宇さんは視線を窓から外し、やっと気付いたといったように口を開いた。

「ああ、内藤さんですね」

「部長、俺は幡野はたのです」

「すみません、間違えました」

 いきなり由宇さんに声を掛けられた男子部員が間違いを正す。……いや、大丈夫なのかこの人? 晴希もよくこんな人を長い間相手にしていながら体力が持ったな。

「それで内藤さんはどのようなご用件で? あなた方文芸部との戦いはもう終わったはずですが」

「いえ、ですからこの部室の状況、大変でしょう?」

「まあ、そう……ですね」

 晴希とかがもう帰ってしまっているこの時間に大勢の新聞部員たちが残っているのも、どうせ荒れ果てた部室の片付けとかだろう。

「それで、俺も手伝おうと」

「ふっ……」

 俺の厚意ある台詞に、なぜだか由宇さんは苦笑した。

「いや、なぜそんな不気味な笑いを……」

「そんなことを容認したら私達はもしかしたらあなたに足元をすくわれかねない。それなのに許すとでも?」

「……」

 確かに非常にその理屈はわかる。片付ける不利をして新聞部にとって重要なもの──例えば書類やパソコンのメモリなど──をくすねる、なんて真似も難しくないからだ。

「まあ許しますけど」

「結局許すんですか」

 この人、何かを企んでいるよう見えて実はかなりいい人なんじゃなかろうか。

「しかし内藤さん、ここの部室に入ってくるときはできればノックを心がけてください」

「肝心のドアは蹴破られているんですが」

「……そう言えばそうでしたね」

「由宇さん、疲れてますか?」

「……そうですね、確かにビタミンCの抗酸化作用は大事でしたね」

 ……やっぱり駄目だ、この人。会話が成立しているように見えて実質していない。

 そんな由宇さんはおもてを上げ、全部員に届くようにこう呼びかけた。

「では皆さん、この内藤さんを神と思いながら協力してもらいなさい!」


「ちょっと待ったぁ!」


 由宇さんの客人に対する滅茶苦茶ともいえる扱い方に異論を唱える人物、それは一人しかいなかった。


 俺だ。

「内藤さん、何か異論でも?」

 不意に俺の挟んだ「待った」に逆に疑問を唱える由宇さん。他の新聞部員も同感のようだ。

 全く、こいつらは何にも分かっちゃいない。

「異論だらけですよ。こんな神は神じゃない。これは神のよさと言うものを全く引き出せていない。俺が本当の神を教えてやろうじゃねえか!」

「いや、そんなグルメ漫画のような迫り方で言われましてもね……」

 お、元ネタを分かっていたようだ。スルーされなくてよかった。というわけで遠慮なく続き。


「いいか? 俺らにとっての、我らにとっての神はただ一人──秋津晴希だ!」


『な、なんだってぇー!?』


 何を今更驚くことがあるんだ。秋津晴希は文芸部に舞い降りた女神であり、俺はそれに挑みつづけるチャレンジャーだと言うことはもう周知の事実じゃないか。

 呆然としている新聞部員の一人が、やっとというように口を開く。

「……それじゃあ、俺たちは神をさらおうとしてたってのかよ!」

「当然だ。まあ晴希に免じて許すけどさ」

 と、俺は優しく罪を認めさせてやる。

 すると、それに続くかのようにあちらこちらから新聞部員たちの嗚咽おえつれる。


『俺は……このまま生きていていいのか?』

『この罪……どう報いればいいんだか……』

『どうして!? どうして神様は私たちの行いにもかかわらず生きているの!?』


「うるせえ!」


 再び叫び声。勿論もちろん俺の。主人公は時に全力になるんだ。いや、でも主人公は晴希か?

「存在意義なんて些細なもんだ! 確かにお前らがやったような所業は一族郎党を皆殺ししても足らないくらいだが……それでもお前らは! 今を! 生きてんだ! 精一杯生きようぜ!」

『イエス、ボス!』

「そんなわけで改めて、お前らの駆け出しの一歩は部室の片付けだ!」

『イエス、ボス!』

 さて、これで晴希教洗脳完了。俺が本気を出せば朝飯前だ。ちなみに由宇さんは引いてしまっていた。さすが部長だ。ボスキャラは伊達じゃない。



 新聞部員たちが机から落ちて崩れた本を並べなおしたり、パソコンに異常が無いかを確かめたりしている。

「う~~~~~~む」

 暇だ。暇すぎる。「手伝う」とはいったものの、この部をよく知らない俺が手伝える仕事は少ない。あるにはあったが、手伝おうとするたびに「ああ、だいじょぶだから」などと遠慮されてしまう。こんな俺でもできる仕事といえば……。

「……士気を高めるか」

 決断した俺はマイクとスピーカーを繋ぎ椅子に片足を載せ、そして──歌う。


「ポォニョポォニョポニョ魚の子ォ! ヴァウォイ海からぁやぁぁるぁぬゎぃかぁ!」


 俺の歌を、聴けええええ!


『うるせえよ!』


 部員全員から怒鳴られた。……ごめんなさい。

「内藤さん……とりあえず水でも飲んでください」

 見かねた由宇さんがコップを差し出してくる。遠慮はしたが、その視線に(せ)急かされて中の水を飲んだ。

「……どうしてだ」

 これは単なる水道水だ。味にもにおいにも舌触りにも、温度にも何の変哲へんてつもない。しかし……何かが違う・・・・・のだ。何だ? 軟水なんすいとか硬水こうすいとかそんなレベルじゃない。これは一体?

 現象はそれだけじゃない。


『あーほんと、歌なんか歌ってないでこれの片付けに手伝ってくれないかなー』

『内藤、それが終わったらこっちも頼むぜ』

『ほんとほんと、折角ご丁寧にも来てくれたんだからさ』


 由宇さんのおかげで、周りの部員たちが俺に頼ってくれるようになった。

「それでは内藤さん、全て終わったら聞きたいことがあるんですよ」

 そして由宇さんもそんなことを言う。

 ……なんだ。みんな少し変わっちゃいるけど、本当はすごいいい部じゃないか。晴希を攫ってたことで最初疑ってはいたけど、本当に悪いやつなんて誰一人いない。



 この後由宇さんのインタビューで晴希について聞かれ、俺は「あいつの素直じゃないところも好きなんだ」とか「あいつは男とか女とか、そんな差別は絶対にしないやつなんだ」とか答えておいた。そりゃもう晴希の魅力ならごまんと語れる自身があるからな。

 そして後日──何を間違えたのか、晴希は「腹黒」とか「レズ」とか曲解されてましたとさ。多分断罪されるな、俺……。

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