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5/12

5 善意百パーセント


 目の前までやってきた鎧の人は、まさしく騎士! って感じの人だった。

 背も高いしすごく筋肉質。帯剣もしていてちょっと威圧感があるけど、かっこいい~! 強そう~!


「別に悪いことなんざしてねぇよ! お嬢ちゃんが困ってるように見えたから声をかけただけだぜ」

「そうだそうだ! お前らはいっつも俺らを悪者扱いしやがるからなぁ」

「二人のチンピラが一人の女性に声をかけたら怯えさせるだろう。忠告したのは一度や二度じゃないはずだが?」

「んだよ、親切にしてるだけでどうしてそこまで言われなきゃなんねぇんだよ。あ? 俺らはなーんもしてねぇぞ?」

「そうだそうだ! なんもしてねぇぞぉ!」


 っと、感動している場合じゃなかった。目の前で騎士さんと声をかけてきた二人の男性が揉めてる!

 ま、まぁ、たしかにこの二人が急に近づいてきて声をかけられた時は怖かったけど……。


「あ、あの! 本当になにもされてないです!」


 勇気を出して口を挟むと、三人揃ってこちらに顔を向けたので思わずビクッとなってしまう。

 騎士さんが怪訝な顔を浮かべて顎に手を当てた。


「本当か? 脅されているのでは?」

「おい、俺らを悪者にしてんのはお前らのほうじゃねぇか、いい加減にしろ!」

「そうだそうだ!」


 し、信用がないんだなぁ、この二人。私もパッと見で警戒しちゃったけど……ああ、また揉めてる!


 でもね、本当にこの二人は大丈夫なの。いや、ちょっと前までの私なら怖がって騎士さんに助けを求めたかもしれないけど!


 今の私にはミルメちゃんがいるんだから。


 さっき声をかけられて反射的に怖いと思った瞬間、その恐怖心に反応したのかミルメちゃんが教えてくれたんだ。


【この二人は信用しても大丈夫です】


 え? って思ったよ。

 でもね、私は自分の判断よりもミルメちゃんを信じる。……私に見る目がないのは間違いないから。

 自分のことは信じられないけど、神様がくれたミルメちゃんは信じられる!


 そして騎士さんのほうは。


【人としては信用できますが、組織的にちょっと面倒です】


 つまり騎士さんはいい人だけど、所属している騎士団に関わるとややこしくなる、ってことかなーって。


 たしかに、この世界に来たばかりでようやく町に着いたのに、事情を聞かれたりして時間が潰れるのは嫌かも。

 ほら、警察の事情聴取みたいな感じ? 事情聴取も受けたことはないけど、面倒そうなのはわかる。


 一方でこの二人が問題ないというのなら、もう答えは一つだよね。


「こ、この人たちと約束があるんです!」

「……え?」

「はぇ?」

「ほぇ?」


 ちょっ、リーゼントさんとモヒカンさんまで不思議そうにしないでー! 伝われー!

 私は慌てて言葉を続けた。


「頼みごとがあって、私からお願いしたんです。だから、誤解しないでほしいです!」


 ここまで言ってようやくお二人は気づいてくれたようで、そうだぞ、ほらみろ、と調子を合わせてくれた。

 ちょっとわざとらしさが滲み出ている気がするけど、私も騎士さんに向けて何度も頷いてみせた。通じますようにっ!


「そう、なのか? ふむ。まだ怪しいが……お嬢さんがそう言うのなら。ただ、何かされたり危険を感じたらすぐ我々騎士団に助けを求めるんだぞ」

「おいこらぁ! 失礼だろうがよ!」

「そうだそうだ!」


 モヒカンさんはさっきから「そうだそうだ」ばっかり言ってるね……? ってそうじゃなくて。

 ここで煽ったらダメだよぉ! そういう反応ばかりしていたら、信用を失っちゃうよ!


 私はダメ押しとばかりに二人と騎士さんの間にズイッと入り、騎士さんに向かって笑顔を向けた。


「心配してくださったんですよね? ありがとうございます。大丈夫です!」

「っ! そ、そうか。いや、これも仕事のうちだからな。気にするな。それから邪魔して悪かった」

「いいえ。いつもお仕事お疲れ様です」

「い、いや、その……」


 笑顔で言えば、なんとかなる! 怒るよりも笑顔だよ。害はないですよ~、友好的ですよ~。

 ほら、騎士さんもちょっと照れたように謝ってくれた!


「さ、行きましょ!」

「お、あ? お、おお!」

「ひぇぇ、まーじでかわいこちゃんだなぁ」


 そして、誤魔化せたらすぐ退散!

 私は二人の腕をグイグイ引っ張りながら町のほうへと向かった。


 ◇


 そうは言っても私にこの町のことはわからない。ひたすらずんずん歩いて、少し開けた場所まで来た時ようやく二人の腕を話して振り返った。


 からの~、すぐさま謝罪っ! 思い切り頭を下げた私に、二人は驚いたような声を上げた。


「さっきは適当なことを言ってしまってごめんなさい!」

「いやいやっ、お礼を言うのはこっちのほうだぜ、お嬢ちゃん」

「そうだそうだ! おかげで助かったぜぇ。ほら、頭上げて! また捕まっちまう!」


 たしかに往来でこんな風に頭を下げていたら目立っちゃうよね。反省。

 気まずさを滲ませながら頭を上げると二人と目が合う。そのまま同じタイミングでにへっと笑い合ってしまった。


 そのおかげでお互いに肩の力が抜けたみたい。リーゼントさんとモヒカンさんは困惑した様子で口を開いた。


「しっかし、俺らが言うのもなんだけどよ。……どうしてこっちについてきてくれたんだ?」

「そうだよなぁ。怖がられて逃げられてばっかりでよぉ。信じてくれたのはお嬢ちゃんが初めてだぜぇ」


 その割にめげずに困ってる人に声をかけるんだね。ミルメちゃんの言うように、実はこの二人ってものすごく優しい人たちなのかも。


「お二人は信用できるって思ったので」

「へぇ? だははっ! 見る目がねぇなぁ!」


 私が拳を作ってそう言うと、リーゼントさんが明るく笑い出した。

 いやいや、本気で!


「いいえ、見る目があるんですよ! 私!」

「お、おお?」

「お二人は親切です。自信を持ってください!」

「おぉう……?」


 ちょっと引かれてしまった。いや、照れてる、のかな?

 私たちはまたしてもにへっと照れ笑いをし合った。


「まぁ、いっか。俺ぁ、ウォンってんだ。こっちはテッド」

「テッドっす。よろしくなぁ、お嬢ちゃん」

「ウォン、テッド……?」


 気を取り直して自己紹介、と始まったところで、名前を聞いてじわじわと笑いが込み上げてきた。


 だめだめ、笑ったらだめ! まるで指名手配犯みたいだなんて思ったら負け!

 お二人はただ名乗ってくれただけなんだから笑うのは失礼すぎる!


 それにこのネタが通用するのは私だけかもしれないしね。覚えやすくて助かる、そう思おう。落ち着いて、ふぅ。


 赤髪のリーゼントがウォンさんで、青髪のモヒカンがテッドさんね。


「わ、私は瑠璃といいます。あの、せっかくなのでお言葉に甘えて案内をお願いしてもいいですか? 私、この町は初めてで」

「そりゃあもちろんだ! 俺らでよかったら案内するぜ!」

「任せろぉ! きひひ、腕がなるなぁ、ウォン!」

「おう、こんなことは初めてだな! テッド!」


 無邪気に喜ぶ姿を見ていたらつくづく思う。とても良いコンビだね、ウォンテッドのお二人。


 ……笑わない、笑わない!


 二人は楽しそうに町のことを紹介してくれた。

 ここは外部からくる行商人や旅人も多い大きな町で、人の行き来が普段からたくさんなのだとか。

 そのため、初めてこの町に来るという人も多く、私のように戸惑う人を見つけては案内をしてあげているんだって。やっぱりいい人たちだった!


「でもなぁ、なんでか毎回逃げられるんだ」

「俺ら、怖がられてるんだよなぁ。怖いことなんかしてねぇのによぉ」


 話してみれば彼らが無害だってことはすぐにわかるんだけどね。やっぱりどこの世界でも人はまず見た目で判断されてしまうから……騎士さんも言っていたけどチンピラに見えてしまうんだよね、どうしても。


「だが、俺らのスタイルは曲げらんねぇ!」

「おうよぉ!」


 自覚はあるっぽい。それでも自分らしさを大事にする姿勢はいいと思います! いつか怖がられなくなるといいね……!


「物資の調達なんかもみんなこの町でしてくから、ほしいもんがあったらなんでも揃うぜ、ぐへへ」

「ルリちゃんも、なんか買いたいもんあったら言ってくれぇ。きひひ! 良い店、紹介するぜぇ!」


 不審な笑い方のせいかちょっと不穏に聞こえるだけで、これも善意百パーセントなんだよね。ふふ、なんだか面白くなってきちゃったな。


「えーっと。ひとまず泊まる場所を紹介してもらいたいです。あとはお仕事と……あの、この町って独り暮らしするのに向いてます? 宿に連泊するよりは家を借りたりしたほうがいいのかな……」


 後半は質問というより独り言になっちゃった。

 そういえば私、今後の生活のことをまだちゃんと考えてなかったな。まずは人のいる場所に、って思っていただけだし。


 まずはこの町で過ごしてみて、合わないなって思ったら別の場所に移動してみるとか?

 幸い、いつの間にか持っていたリュックの中には財布もあって、この世界のお金になっていたからしばらくは暮らせると思う。神様、本当に手厚くて助かります。

 ただいくらあるのかまではわからないので、落ち着いたらミルメちゃんで確認しようと思う。


 うん、なにはともあれまずはこの町で落ち着くことが目標かな。この先のことはゆっくり考えていこう。


 と、一人納得していたら、テッドさんがおそるおそると言った様子で質問をしてきた。


「あのぉ、ルリちゃんはどうしてこの町に? 家族とかは……?」

「えっと、家族は生まれた時からいません。施設で育ったので……この町に来たのは、たまたまというか、なんというか」


 まさか一度死んで別の世界から転生してきました、なんて言えないよね。さすがに。

 しまったなぁ、そのあたりの事情はあらかじめ考えておくべきだった。


 後半はもごもごと言い淀んでしまったから、怪しまれたかな? そう思って心配だったんだけど。


「なるほど、訳ありね。いやいや、話さなくていいぜ。そういうヤツも多いからな!」

「そうそう! 俺らだってかなりの訳ありだけどよぉ、大事なのは今どう生きてるかだぜぇ!」

「ウォンさん、テッドさん……はい! ありがとうございます!」

「へへ、お礼なんてなぁ。むず痒くなっちまうぜ!」


 詮索されないのはすごくありがたい!

 こうして二人はまず評判のいい宿へと案内してくれることとなった。いろいろと助かる~!


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