43 うっすらそんな予感がするだけだけど
「……と、いうわけで。キンドリー家の従者の方を連れてきてしまいました……」
早速トウルさんに事の次第を報告しているんだけど……説明している間にみるみる内に眉間にしわが寄っていくのを見るのは本当に怖い。
でも誤魔化すわけにはいかないもんね。あとセルジュを呼んでもらわないといけないから。
「はぁ……わかった。セルジュを呼べばいいんだな?」
「は、話が早いっ」
「俺を誰だと思ってる」
こちらから言わずともセルジュを呼んでくれるというトウルさんに感激していたら鼻で笑われちゃった。
よかった、ちょっと笑ってくれて。
不機嫌なままだったらどうしようかと思った。
「くそが。周囲に誰もいない時を狙いやがって……」
あっ。あれ? 不機嫌な、まま、だった……?
ぶるりと身体を震わせつつ冷や汗を流す。
このままヨハンさんを一人待たせるのもなんだと思って一足先に部屋を出ようと思ったんだけど、ぐいっとトウルさんに引き寄せられてしまった。
そしてそのまま腕の中にホールド。う、動けない。
「トウルさん?」
「今、一人で従者のとこに行こうとしただろ」
「なぜそれを!?」
「ふっ、お前が単純なんだよ」
エスパーかな? もしくは私がわかりやすすぎるか……。そんなことない、よねぇ? 自信がなくなってきた。
結局、私はその状態のままセルジュが来るまで身動き一つとれないのでした。なぜこんなことに。
◇
「ヨハン。貴方ともあろう者が事前の連絡も入れずにルリに接触するとは」
「申し訳ありません、セルジュ様」
セルジュも揃ったところで早速私たちはヨハンさんの待つ応接室に向かった。
真っ先に口を開いたのは意外にもセルジュだ。てっきりトウルさんが叫びだすかと思っていたから拍子抜け……いやいや、怒号が飛んでも困るので本当によかった。
でも、セルジュからも怒りのオーラが漂ってるんだよね。静かに怖い。
しかもヨハンさんの前に立って堂々としている様を見ていると、改めて貴族の息子なんだなって実感するかも。
「はぁ、ごちゃごちゃ話す気はねぇぞ。要件をさっさと言え」
「ありがとうございます。ルリさん、お話を伺っても?」
「え、あ。はい。答えられることなら」
なにはともあれ、とにかくさっさと終わらせたいオーラを放つトウルさんとセルジュの様子に、ヨハンさんは臆することなくこちらに話しかけてきた。
冷や汗は流していたようだけど、すごい丹力だ。私なんて、不機嫌が自分に向けられたわけでもないのに怯えちゃうというのに。
「あ、あの。座りませんか? 立ったままというのも、その」
「チッ。ルリが言うんだ。ヨハン、座れ」
「はっ。ありがとうございます」
座るのにも許可が!? あ、でも普通は必要なのかな? 貴族のマナーとか? そういうのはよくわからないや。軽率に勧めちゃったな。
困惑していると、お前は気にしなくていいと言いながらトウルさんに頭を撫でられた。お気遣いどうもすみません。
ヨハンさんと向かい合って座ると、隣にドカッとトウルさんが座り、背後にセルジュが立った。……私が緊張するんですけど?
なんて思っていたら話が進まないので、苦笑いしながらヨハンさんに話を促すことにした。
「まずは突然な申し出を受けてくださりありがとうございます。これから私が話すことは荒唐無稽に思われるかもしれませんが、全て事実だということを念頭に置いていただけますと助かります」
「は、はい。わかりました」
「では最初に一つ質問させてください。ルリさん。失礼ながら生まれはどちらに?」
「えっ、と……」
ちらっと思わずトウルさんに目を向ける。私の事情はまだ誰にも話していない。トウルさんだって知らない。
だけどつい見ちゃった。トウルさんもまた、話したければ話せばいいと言うかのように頷いてくれている。
それだけで肩の力が抜けるんだから不思議。トウルさんの頼りになるオーラのおかげかな?
よ、よし。聞かれたからって素直に全部話す必要はないよね。
さすがに全てを話すのは勇気がいるので、当たり障りのないことだけ。
「……それが、わからないんです」
「わからない?」
「はい。私は身寄りのない子どもたちが集まる施設で育ちました。生まれたばかりで施設に預けられたみたいで……成長してから聞いてみたのですが、施設のほうでも私がどこから来たのかわからないようでした」
だから私は施設の院長の養女にしてもらったって聞いてる。血の繋がりはなくても私にとっては本当のお母さんで、今もずっとそう思ってるよ。
院長はとても優しかった。みんなに優しい。
だから……自分にだけ特別な愛情を注いでもらいたいって拗ねたこともあった。
でもそれは、施設の子どもみんなが持っていたと思う。たくさん愛を注いでもらっていても、やっぱり本当の親からの愛情っていうのは特別なものだから。
私は特に院長が戸籍上の母でもあったから、手が届きそうで届かないのが余計に苦しいって思った頃もあったな。
思春期で、私のお母さんなのにどうして? って泣き続けた日もあった。
今思えば迷惑をかけたなぁ。考えればわかることなのに、子どもじみたワガママで困らせちゃったよねって。
っといけない。懐かしんでいる場合じゃなかった。
ふと視線をヨハンさんに向けるとすごく驚いたような顔をしていた。
なんだか緊張で心臓がドキドキしてきた。
いよいよ、予想が当たっている気がしてならなかったから。
「お答えいただき、ありがとうございます。それでは今度は私のほうから。なぜルリさんに話をお聞きしたいのか、その理由をご説明いたしますね」
馬鹿馬鹿しいなって思う。さすがにそれはないでしょ、って。
でも……ミルメちゃんに聞かなくても私の勘が言うのだ。
私の本当の家族が、キンドリー家の人たちなんじゃないか、って。




