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私、見る目がありますから!〜癖強クランで愛され異世界ライフ〜  作者: 阿井りいあ


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34 これは、まずい状況かもしれない


 足早に外の倉庫へ向かい、震える手で鍵を開け急いで中に入る。

 そのまま内側から鍵を閉めたところでようやくほっと息を吐いた。


 いや、状況的にはぜんっぜん安心なんか出来ないんだけど!


 カトリーヌさん、大丈夫かな。もしこっちに逃げて来た時にすぐ入れられるようドアの近くにいよう。


 倉庫の中は薄暗い。広さはそこまでないけど高さがあって、上のほうに格子付きの小さな窓が見えた。

 あれがなかったらここは真っ暗だっただろうな。それはそれで怖い。


「ミルメちゃん、外の状況わかる?」


 ただじっとしているだけなのが心細くて、ミルメちゃんに質問する。

 でも、さすがのミルメちゃんでも私の目を通して見たものじゃないと判断できないみたい。


 ぐぬぬ、倉庫の中に閉じこもっているんだからそれはそうだよね。

 私には見る目があるのであって、千里眼みたいなものがあるわけじゃないんだから。


 仕方がないのでドアに耳を寄せて外の音を拾えないか試してみる。

 なんとなく騒がしい気がする……。うぅ、カトリーヌさんが無事でありますように!


 しばらくして、さらに外が騒がしくなってきた。裏口のほうにも人が来たみたいで、話し声も聞こえる。


「おい、トウル元殿下の恋人はどこだ!?」

「ちっ、逃げられたか……?」


 トウル元殿下の、こい、びと……?


 もしかしなくてもそれって、私のこと!?

 本当は違うけど、そう噂されているのは私しか思いつかない。


「あの治療士のババァ! さっさと吐けばいいのに!!」


 えっ、ちょ、ちょっと待って。まさかカトリーヌさんが捕まったの!? 乱暴されてないよね? 大丈夫だよね!?


 手が震える。でも怖がってないで少しでも情報を集めなきゃ。


「くそ、トウル元殿下の恋人をなんとしてでも連れて行かなきゃいけないのに……」

「ん? おい、誰かそこの倉庫は調べたか?」


 ま、まずいっ! 慌ててドアから離れた時、ガチャガチャとドアを開けようとする音が響いた。


「くそっ、開かねぇぞ!」

「随分と頑丈じゃねぇか。怪しいな……おい、魔法使えるヤツ呼んでこい」


 ま、魔法!? まさか無理矢理開ける気じゃ……?

 鍵も閉まってるし、カトリーヌさんは建物も頑丈だって言ってた。で、でも、もしも壊されたら……? 


 魔法ってどれほどの威力なの? 何もわからない、怖い……!


「か、隠れる場所……!」


 時間稼ぎにもならないかもしれないけど、何もしないよりマシ!

 それに、もし中に押し入られたとしてもこの目で見さえすればこの人たちの情報を全て知ることが出来る。

 本当の目的、誰が暗殺者を送ったのか、どこから来たのか……いろんなことがミルメちゃんならわかる。


 ただではやられないんだから……! うぅ、震える。頑張れ、私!


 倉庫の一番奥にある大きな木箱の後ろに隠れながら縮こまる。


「誰かはわからないけど、きっとトウルさんを狙っているんだよね……? 恋人を人質に取ろうとするなんて、卑怯者のすることだよ。私は恋人じゃないけどっ」


 小声で呟いてないと怖くて泣いてしまいそう。

 今も外にいる人たちはこじ開けられないかとあれこれしているみたいで、ドアをガンガン殴り続けている。


 トウルさんは無事かな? クランの人たちも。

 ううん、あの人たちは強いからきっと大丈夫。ただ私のせいで困らせるのは嫌だな……。


 ああ、どうして世の中には悪いことをしようとする人がいるんだろう。

 どうして平和に生きられないのかな。誰かの平穏を壊してまで手に入れたい何かがあるというのだろうか。


「悲しい……」


 私はすぐに人を信じるタイプだ。それによって痛い目も見てきたよ。

 たくさん騙されたし、私自身が気付かないまま騙されていたってこともいっぱいあったと思う。

 バカだなって思われていたのかもしれない。いいカモだって。


 でも、それでも私は誰かが傷付くくらいなら自分が騙されたほうがいいって思っちゃう。

 香苗にはお人好しすぎるってよく言われたっけ。偽善者だって思われるよって。


 でも、悪人ぶるより偽善者のほうがいいと思う。少なくとも人に迷惑をかけないもん。


「みんな、離れろ! ぶっ放すぞ!」


 急に大きな声が聞こえてビクッと体が震えた。

 雰囲気的に、なんかすごい衝撃が来る気がする……! 爆発とかしたらどうしよう?


 私、死んじゃうのかな……?


 ギュッと目を瞑った時、建物にものすごい衝撃が走った。


 倉庫の中の物がドサドサッと落ちたり、陶器が割れたり、棚が倒れたり、もうすごいことになっている、気がする。


 気がするというのは頭を守ろうと丸くなっているからだ。音と衝撃だけでなんとなくわかる、というくらい。


 怖い、怖い、けどっ!

 見ないと……!


 勇気を振り絞って顔を上げ、パッと目を開く。

 倉庫の中は思っていた以上に酷い有様で、棚どころかドアや壁が破壊されていた。


【もうじき建物が崩れます。避難してください】


 そんなこと言われても、すぐには動けない……!


 崩れていく壁や天井、頭上からいろんな荷物が降ってくる様子がスローモーションに見えた。

 このままだと潰されてしまうな、って。そんなことを考える余裕もあって変な感覚だった。


 瓦礫の隙間から襲ってきた人たちの影がちらっと見えて、すかさずミルメちゃんが教えてくれたあらゆる情報が一瞬のうちに脳内に流れ込んでくる。


 ──でも。

 避けられない。きっとすごく痛い。


 そう思った瞬間、黒い影が私に覆いかぶさった。

 でも私は反射的にまた目をギュッと閉じてしまったから、それが何かはわからなかった。


 ……数秒後、耳元で声が聞こえてきた。


「怪我は」

「え……?」


 恐る恐る目を開けると、目の前に見覚えのある朱色の目があった。

 深い紫色の髪がフードから覗いていて、眼光鋭く私を見下ろしている。


「ラスロ、さん?」

「ん。で、怪我は」

「え、あっ、えっと。たぶん、ないです……」

「ならよかった」


 ガラガラとまだ瓦礫が崩れるような音が聞こえてきたけれど、呆然としたままの私をラスロさんはひょいっと抱え上げた。


「ひゃ、あ」

「ここから、離れる。掴まれ」

「は、はいっ」


 こういう時、ラスロさんの端的な指示はある意味助かるかもしれない。

 私は言われるがままラスロさんの首に腕を回してギュッとしがみつく。


 すると、ラスロさんは私を抱える力を少しだけ強めてから一気に跳び上がり、ものすごいスピードで移動し始めた。


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