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私、見る目がありますから!〜癖強クランで愛され異世界ライフ〜  作者: 阿井りいあ


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29 子どもたちには癒される


「手、洗ったよ!」

「エプロンもつけた!」

「ボクも手がピッカピカだよぉ」

「うん。みんな準備は完璧だね!」


 ハマーさんが甘党だという事実を知った私たちは今、キッチンでお菓子作りの準備をしています。

 糖分が足りなくなると不機嫌になってしまうというので、簡単なお菓子を作ろうと思って。


 すぐにでも解消してあげようと、本当は買いに行くつもりで誘ったんだけど……。


「こ、こんな図体でけぇ強面が行ったら迷惑になるだろうがっ」


 って拒否されてしまったんだよね。

 じゃあこれまではどうしていたのかと聞いてみたら、大きなマントで頭から足先まで隠してこっそり買いに行っていたのだとか。


 そっちのほうが怖くない……?


 ただお店の人を怖がらせるのは本意ではないらしく、極力行かなくてすむようにギリギリまで我慢していたのだとか。

 それであんなに不機嫌になっていたら本末転倒だよね。なんとかしてあげたい。


「もっと早く言ってくれればよかったのに……」

「ルリさんの言う通りだよ、ハマーさん。僕たち、そんなに頼りにならない?」

「そうだぞ! オレらおつかいくらいできるし!」

「できるしー!」

「わ、悪かったよ。けどよ……こんな顔で甘いモンが好きだなんて、格好がつかねぇだろ?」


 子どもたちも腰に手を当てて抗議していて、たじたじなハマーさんを見られた。貴重だね!

 その光景がなんだか可愛くて笑ってしまいそうになったけど、そこはこらえて私もはっきり言ってあげました!


「そんなことはありません。誰がどんなものを好きでもいいじゃないですか。現にここにいる私たちは誰も笑ったり馬鹿にしたりしていないでしょう?」

「むぅ、そう、だな。うん、そうだ。ありがとうな」

「ボクもあまいもの、すきだよ。おそろいだね?」

「ふはっ、ああそうだな、カン。お揃いだ」


 ほんの少しだけ気持ちを軽くできたかな? とも思ったんだけど、それでもやっぱりお店の人を怖がらせたくないというのと、毎回買いに行かせるのを渋っていたので、それならクランで作ればいいのでは? と私が提案したのだ。


 最初はそれさえ渋っていたけど、子どもたちが乗り気になってくれた。

 決め手はトンくんのもっともなお言葉だったかな。


「もう。あれもこれもイヤイヤ言ったらだめだよ、ハマーさん。みんな困ってるんだから、改善のために行動しなきゃ!」

「す、すまねぇ」


 考えているばかりで動かないのはダメだと、いつもはハマーさんが子どもたちに教えているらしい。

 これを言われちゃったら従わないわけにはいかないよね!


 というわけで、今にいたるというわけ! ……でも。


「うっ、またやっちまった……」


 ハマーさんは壊滅的に料理に向いてない人だった……。


 卵を握りつぶしてしまうのは仕方ない。予想もしていたしね。

 でもまさか混ぜるときに片手で抑えていたボウルをベッコベコに凹ませたり、調理台を割りかけたりするとまでは思ってなかったよ……。


 ハマーさんが使った調理器具の残骸が散らばっているのを私たちは呆然と見つめることしかできない。

 食器類は普通に使えるのに、料理となると余計な力が入ってしまうみたいだね……。


 簡単なものなら食べたいときに自分で作れて、ハマーさんにとってもいいかな、と思ってはいたけれど。


「ハマーさん」

「……おう」

「お菓子作りは、私と子どもたちに任せてください」

「…………おう」


 結局、私と子どもたちだけで作ることになりました。

 落ち込みぶりがすごい。強面がさらに強張っていてパッと見はとても怖いことになっている。


 しかし! 今のハマーさんは怖くないよ! 子どもたちもわかっているからハマーさんんの周りに集まって励ましの声をかけている。


「お世話になってるんだから、このくらいさせてよ。これからは僕たちがお菓子作るから。な、みんな」

「おう! やっと恩返しが少しできて、オレたち嬉しいんだぞ!」


 なんていい子たちなの……! うるっときちゃった。

 ハマーさんも毒気が抜かれたような顔をしてる。それから優しそうに笑って二人の頭をわしわし撫でた。


「そうか。ありがとうな、トン、テン」

「ボクもっ、ボクもっ!」

「ああ、カンもだな。ありがとうなぁ」


 近くでぴょんぴょん跳ねるカンくんにもハマーさんが頭を撫でると、カンくんはふんにゃりと嬉しそうに顔を綻ばせている。


 みんな嬉しそう。本当にハマーさんが大好きなんだなぁ。


「よし、それじゃあ簡単にできるお菓子、これから少しずつみんなに教えてあげるね」

「やった! ありがとう、ルリさん!」

「ルリ姉、頼りにしてるぜ!」

「ありがと、ルリねぇっ」

「ふふ、じゃあ続きをやろっか」


 仕切り直して料理開始! 材料を量るのはトンくんの係で、あとはみんなで分担して協力するように声をかける。

 トンくんは几帳面な部分があるみたいで、きっちり量ってくれるからお菓子作りに向いているかも。


「すまねぇな、ルリ。面倒かけちまって」

「面倒なんかじゃありませんよ。私もたまに甘いものが食べたくなるので、作る口実ができましたし」

「いや、それもあるが……子どもらがよ、あんな風にはしゃぐのは久しぶりに見たからな」

「そうなんですか?」


 子どもたちがクッキーの型抜きをしている間、ハマーさんが声をかけてきた。

 なんだかすごく申し訳なさそうにするのでこっちが恐縮しちゃうな。


 それにしても、はしゃぐのが久しぶりって……どういうことだろう?


「あいつらは身寄りがない。俺が保護するまでそりゃあ酷い生活をしてきたんだ。だから俺はいつか独り立ちして生きていく時のために厳しい訓練をさせてる。それなのにあいつら、弱音一つ吐かなくてよ。幼いカンはよく目に涙を溜めてるが、大泣きしたり訓練をやめるっつったりしたこともねぇんだ」

「すごい……」

「そんなもんだから、あいつらは普通の子どもみてぇに遊ぶって機会が極端に少ないんだ。俺がもっと配慮してやれればよかったんだが……保護者として不甲斐ない」


 ハマーさんと出会う前の子どもたちを見たことがないから想像でしかないけど……そこまで言うってことは本当に酷い状態だったんだろうな。

 もしかすると、誰のことも信用できない時期もあったかもしれない。


 でも、今の彼らを見てもそんな時代があったなんて想像もつかない。それはハマーさんがしっかり愛情をもって接していたからだって私でもわかるよ。


 不甲斐ないだなんて……そんなこと、絶対にない!


「身寄りのない子どもを引き取って育てて、将来困らないように訓練までして、ハマーさんはすごいですよ。誰にでもできることじゃないです」

「だが……」

「それに!」


 完璧な子育てができる人なんてきっといない。少なくとも、ハマーさんはちゃんとできてるって思う。


 そんなに自分を責めないでほしいよ。自分のしていることが、どれほど尊いことかもっと誇ってもいいくらいだもん。


 不安になっているのだろうハマーさんを少しでも励ましたい。

 その気持ちが先走って私はハマーさんの言葉を遮った。


「あんなにハマーさんに懐いてるんですよ? 信頼関係が築けているってことです。ハマーさんは立派な保護者ですから自信持ってください!」

「ルリ……」

「それに、子どもらしい遊びならこれから私がたくさん教えます。何事も遅いってことはないと思いますし、適材適所ですよ」


 遊ぶことなら私だって得意だよ! ただ、かけっことか外で体を動かした遊びは子どもたちの体力に負ける気がするけど……。

 ちょっとしたゲームとか、お絵かきとか、木材を貰ってブロックを作ってみるのもいいかも。カードゲームやボードゲームも教えられたらいいな。

 こういうところで前世の知識を活かしたいよね!


 両拳を作って私が言うと、ハマーさんはとても優しい目を向けてくれた。

 糖分が足りなくてピリピリしていた時のことなんて忘れちゃうくらいの。


「ありがとうな、ルリ。お前がクランに来てくれてよかった」


 それから、私の頭に手を置いて優しく撫でてくれた。

 こんなふうにされるのって、いつぶりだろう。思い出せないほどだ。


 なんか、嬉しいかも。

 ハマーさんが言ってくれた言葉も含めて。


 私はクランにいていいんだ、って思わせてくれる。


「え、えへへ。ありがとうございます、ハマーさん」

「なんの。こっちがお礼を言う立場だぞ」


 やっぱりとても温かい人だ、ハマーさんは。

 ほっこりと心癒されていると、キッチンのほうから私を呼ぶ声が。


「ルリさーん! 全部型抜きできましたー!」

「余った生地はどうすんだ?」

「あ、ちょっと待ってね。……ハマーさん、あと少しだけ待っていてくださいね」

「ああ。楽しみにさせてもらおうか」


 まだ甘いものを食べたい衝動があるのだろうに、今のハマーさんには苛立ちが見られない。

 それもこれも子どもたちの癒し空間があるからこそだろうな。


 よし、この癒しパワーが切れる前にクッキーを焼いちゃわないとね!


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― 新着の感想 ―
『…なんだか最近、ルリを見てると、こう、胸の中がザワザワするっつうかよ』 『…』 『トン、テン、カンがルリルリって言うもんだからよ、自然と目で追っちまうのよ』 『…』 『なんなんだろうな、これ』 『な…
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