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私、見る目がありますから!〜癖強クランで愛され異世界ライフ〜  作者: 阿井りいあ


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28 不機嫌マックスなハマーさんに挑む


 近頃、ハマーさんの様子がおかしい。


「うっわ、怖い顔~」

「めちゃくちゃ不機嫌だね、ハマーってば」

「な、なにかあったのかなぁ?」


 一緒にコソコソ話すのはメディとサンディ。今日も可愛らしい二人と、顔を突き合わせて内緒話中だ。


「んー、あんまり気にしなくていいと思うよ? 時々あんなふうに険しい顔をする日があるんだよねー」

「そそ。それでいつの間にかにこにこご機嫌になってるの。ちょっと気味悪いよね」


 い、言い方……! 気味が悪いかどうかは別として、心配にはなる。


 ハマーさんは基本的にとても優しい。誰よりも体が大きくていかつい……その、強面ではあるんだけど、身寄りのない子どもたちを放っておけないほど面倒見のいい人なのだ。


 双子のイタズラにもちょっと注意するだけで怒ったりしない、大人な面もあるんだよね。いつも怒ってるのはモルガンさんだし。

 あっ、別にモルガンさんが大人げないわけじゃないからねっ!


 私が言いたいのは、ハマーさんは滅多に怒らないってこと。

 そんなハマーさんを怒らせるってよっぽどだと思うんだ。


【怒っているわけではありません】


 え? あれ、そうなの?

 唐突なミルメちゃんからのメッセージに驚いてしまう。


 うーん、怒っているわけじゃないなら、ただ機嫌が悪いってこと? それこそ、優しいハマーさんなら不機嫌を当たり散らすようなことするわけないって思うんだけどなぁ。


【直接聞いてみるといいでしょう】


 うっ、直接聞く、かぁ。

 大丈夫だってわかってはいても、今のハマーさんに近付くのはなんというか、勇気がいる。

 慣れているはずのクランのメンバーだって距離を置いているくらいなのに、私なんかが近付いてもいいのだろうか。うーん。


「じゃ、ボクたちは行くね」

「ルリ、また夜にね! 朝食ごちそうさま!」

「あ、うん! いってらっしゃい、メディ、サンディ。気をつけてね!」


 今日は仕事に向かうという双子を見送り、再びハマーさんをちらっと見る。


 こ、怖い。ゴゴゴ、という音が聞こえてきそうなほどだ。

 どうしよう、と悩んでいると、柱の陰に小さな人影を発見。あれは……。


「トンくん、テンくん、カンくん」

「「「わぁっ!?」」」


 驚かせちゃったみたいだ。ご、ごめん。

 三人はそれぞれ胸を押さえながら振り返り、私だとわかるとほっとしたように息を吐いた。


「えっと、何をしているの?」

「ルリさん。えーっと」


 指し示した先には不機嫌そうなハマーさん。

 あ、そっか。この子たちにとって、ハマーさんは親だもんね。頼りになる親があんな調子じゃどうしたらいいのかわからないのも無理はない。


「ハマーさんね、たまにあーなるの」

「そっとしておいたらそのうちいつもの優しいハマーさんに戻るんだけどさぁ……」

「今日は仕事を教えてもらうって約束の日だったから。でも、声をかけていいのかなって……」


 カンくん、テンくん、トンくんの順に事情を話してくれた。なるほど、この子たちも困っていたんだね。

 でも、こういうことは初めてじゃないと知れただけ少しほっとしたかも。そのうち元に戻るっていう情報は大きい。


 とはいえ、機嫌が直るのをただ待つだけじゃ三人とも困るよね……。時間は有限なんだから。


 よぉし、子どもたちのためだ!


「私、話を聞いてみる!」

「「「えっ!?」」」

「大丈夫だよ。機嫌が悪くたって、ハマーさんが優しいことに変わりはないもの。みんなだって、理由がわかったほうが安心するでしょ?」


 いくらいずれ直るとわかっていても、対処法がわかるならそれに越したことはないはず。


 ……たぶん。ちょ、ちょっと、みんなあんまり震えないでほしい。


「ハマーさん、すっごく優しいけどものすごく強いんだぞ?」

「……強そうな体格しているものね」

「いつも、とっても気をつけてるんだよ」

「この前は寝起きに机を割ってた……」

「ひぇ」


 やめてよぉ、怖い話をするのぉ……! つまり、わざとじゃなくても力加減を間違えると危ないってことだよね? 不機嫌な時はその加減もうまくできないかもってことでしょ?


 ひぃん、怖い。で、でも。


【直接聞いてみるといいでしょう】


 さっきと同じこと言われたぁ!! ええい、信じよう!

 そうだよ、これまでミルメちゃんが嘘をついたことは一度もない。ずっと私を助けてきてくれたもの。


「平気だよ。大丈夫、そこで見守ってて」


 両拳をぐっと作って三人に意気込みを語るも、みんなまだ心配顔だ。


「わ、わかった。ルリ姉がそこまでがんばるなら、なにかあったらオレ、すぐに助けるからな!」

「ボクも!」

「もちろん僕もですっ!」

「うぅ、みんなありがとう。行ってくる!」


 こうしてトンくん、テンくん、カンくんに見守られながら私はおそるおそるハマーさんに近付いた。


 距離が近くなればなるほど迫力がすごい。普段は本当に私たちに気をつかってくれてるんだなって改めて実感するよ。

 よく見ると全身がプルプル震えている。な、なにをそんなに怒っているのだろうか。


 大丈夫、怒りの矛先は私じゃない。心当たりがないもん。いや、そもそも怒ってないんだったよね?


 いざ!!


「あのっ、ハマーさん!」

「ああっ?」

「ひっ」


 思い切って呼びかけると、ゆっくりと振り返りながら低い声でハマーさんが返事をした。が、がんばれ私!


「あ、あああああの、あの」

「……あぁ、ルリか。どうした?」


 ハマーさんは声をかけたのが私とわかると、ちゃんと話しかけてくれた。いつもより低い声だし、不機嫌さは消えていないけど、会話は成立しそう。


 それなら、ここは一気に聞いてしまおう。遠回しに聞いて、話が長引くほうが怖い。


「あのっ、何か怒ってますか!?」

「あん? 怒ってる? 誰が」

「ハマーさんですよぅ……」

「……俺か? むぅ」


 ハマーさんは意外そうな声を上げると、ちらっと周囲に目を向けた。

 子どもたちのほうに顔を向けた時、三人が軽くぴょんと飛び上がったのが見える。ちょっとかわいかったよ、今の。


 そんな三人を見てなにか思ったのか、ハマーさんは椅子の背もたれに思い切り寄りかかると天井を見上げながら長い溜息を吐いた。


 はわわ、余計に気を悪くさせちゃったかな……?


「はぁ。またやっちまってたか。ごめんなぁ、ルリ。お前らも。こっち来い」


 あれ、なんだか少しだけ雰囲気が和らいだ気がする……?

 ハマーさんに手招きされた子どもたちも戸惑いながら素直に駆け寄ってきた。


「怖がらせたな。悪かった」

「「「ハ、ハマーさぁん!!」」」


 目元を和らげながらハマーさんが謝ると、三人は同時にひしっと彼に抱き着いた。ふふ、こうしてみると本当に親子みたい。


 ただ、ハマーさんはまだ少しだけピリピリした雰囲気を残している。今なら理由を聞けるかな。


「あの、本当にどうしてあんなに怒っていたんですか? 話くらいしか聞けませんけど……」

「あー……いや、怒っていたわけじゃなくてなぁ」


 どうも歯切れが悪い。でも子どもたちがハマーさんに抱き着きながらウルウルした目で見上げてくるのに負けたのか、言いにくそうに口を開いてくれた。


 怒っていたわけではないなら、一体なにがあったんだろう。


「ちょっと、な。その。アレが切れちまうと、ストレスが溜まってな……機嫌が悪くなっちまうんだ」

「アレ……? ま、まさかっ!」


 ハマーさん、信じていたのにっ! い、いやでも、世界が違えば法律も違うのかもしれないしっ! この世界では違法じゃないのかもしれないしっ!


 お、おおおおお落ち着いて、私。そもそも危険な薬物とは限らないよね? タバコとか、なんかそういうものかもしれないし!

 あああああでも聞けないっ! 子どもたちの前ではとても聞けないよぉ!


「ハマーさん、アレってなぁに?」


 カンくんの純粋な質問がっ!! こてんと首を傾げた姿が可愛いっ!

 さすがのハマーさんも、うっと言い淀んでいる。

 やっぱり大きな声では言えないようなものなのかも……?


「あー、アレってのは……」

「だっ、だめですよ、ハマーさん! 子どもたちの前でそんなっ」

「えぇ? ……あっ、いや勘違いすんな。ルリ、そういうやばいやつじゃねぇんだ」


 急にハマーさんが慌て始めた。あっ、違うの? 私の早とちりだった?

 恥ずかしい……でも、勘違いでよかった。


「それじゃあ一体……?」

「……だ」

「え?」


 ハマーさんの顔がそこはかとなく赤い。普段は声が大きいくらいなのに、今はボソボソと何を言っているのか聞き取れず、ゆっくり耳をハマーさんに近付けた。


「スイーツ、だ」

「へ……」


 どうやら、ハマーさんは糖分が足りなくなると不機嫌になるタイプの人だったようです。


 な、な、なんだ~~~~。良かったぁぁぁぁ!

 んもう、なんで早く言わなかったのかなー?


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