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16 そこまでじゃないはずなのに!


 いつの間にかまた眠っていたみたい。

 辺りは真っ暗で、でも近くのサイドテーブルにある小さなライトが淡くオレンジ色に光っていてくれたから周囲の様子は見えた。


 人は……いない。夜中っぽいから当たり前か。


 ちょっと喉が渇いたな。そう思ってゆっくりと上半身を起こす。まだふらつくけど、ゆっくり動けば大丈夫。たぶん。


 ライトがあるサイドテーブルには水差しとコップが置いてあった。ああ、ありがたい。

 少し震える手でコップに水を入れ、ゆっくりと飲む。ふー、おいしい。


 改めて周囲を見回すと、必要最低限の物しか置いてない殺風景な部屋だった。まさしく病室といった感じ。


 ぼんやりとした頭で見ていたら、あまりにも静かすぎることが急に気になり始めた。

 病室なら静かで当たり前なのに、人の気配もなくて、静かすぎて、なんだか心細い。

 熱を出した時ってどうしても弱気になっちゃうよね。


 部屋の外なら、誰か起きてるかな……。

 いてもたってもいられなくなった私は、ゆっくりとベッドから下りた。


 その瞬間、部屋のドアが開く。

 ビックリしたのと慌てて顔を上げたからか、ふらりと身体が傾いた。


「っ、おい」


 思っていた以上に足に力が入らなくてそのまま倒れてしまう、かと思ったんだけど。

 恐らく部屋に入ってきた人物が私の身体を支えてくれた。あ、危なかった。


「危ないじゃん、一人で歩けるほど熱下がってないでしょ」

「ご、ごめんね。あれ、サンディ?」

「うん、そう。ルリ、目が覚めたんだね」


 薄暗い中ツインテールなのが見えて、一瞬だけ双子のうちどっちか迷ったけど、至近距離で見た時に青みがかった銀髪なのがわかった。


 サンディがゆっくりベッドに座らせてくれたので改めてお礼を言うと、サンディはどこか申し訳なさそうな顔を向けてきた。


「ごめんね、思わずちょっと乱暴な声上げちゃった。驚かせた?」

「そんなことないよ。でも、男の子っぽいところもあるんだなって、思ったかな」


 冗談っぽくそう言うと、サンディはようやくクスッと笑ってくれた。ふふ、よかった。


「ん~、まぁ? オレはかわいいものやかわいい格好をするのが大好きだけど、メディほど内面までこだわってないからね〜。咄嗟の時に雄みが出ちゃうんだよ」

「そうなの?」

「うん。かわいく着飾るのも、かわいいって言われるのも好き。けど、オレもメディも女の子が好きだし、男の心を持ってるよ。それがオレのほうが少し強めって感じかな〜」


 なるほどー。要するにかわいいものが大好きな男の子たちって感じかな?

 かわいいものは私も好きだから、やっぱり話が合いそうで嬉しいな。


「オレはたま~になら男っぽくなりたい時もあるんだけど、メディにその気は一切ないって感じ~」

「双子で好みが似ているとはいえ、当然だけど違う部分もあるんだね」

「まぁね! ……あのさ。ルリは、男っぽいオレのほうが好き?」


 かわいいサンディと男の子っぽいサンディのどっちがいいか、ってことかな?


 んー、それは難しい質問すぎるなぁ。だってかわいいのも似合っているし、たぶんカッコいいのも似合いそう。外見も振る舞いもね!


「どっちがいい、と聞かれると悩んじゃうな。だって、きっとどっちも似合うもん」

「そ、そう?」

「うん。どっちのサンディも素敵だなって思うし、好きだよ。だって性格が変わるわけじゃないんだから」

「う、そ、そっか」

「どんな格好をしていても、振る舞いをしていても、その人らしさっていうのは滲み出るものだと思うんだ。だからね、サンディがその時の気分で好きにするのも有りだと思う!」


 結局そんなはっきりしない答えになっちゃったけど、サンディはお礼を言いながら笑ってくれたから大丈夫、かな?

 うーん、もっとうまいこと言えたらいいのに。この程度のことしか言えなくてごめんね。


「あ、あのね。変なことを言うかもしれないんだけど。ルリを背負ってここまで来た時さ、その」

「うん」


 あれ、今度はなんだかちょっと恥ずかしそう。頬を掻いたり目を泳がせたり、落ち着きがないみたい。

 なにか言いにくいことでもあるのかな? と思っていたら。


「ふ、不謹慎かもしれないんだけどね? ……本当の女の子って、こんなに柔らかいんだ~ってビックリしたの」

「えっ」

「へ、変な意味じゃないからね!? 男だけど、下心とかじゃなくて! 純粋にビックリしたんだよ。女の子に触れることなんて、初めてだからさぁ」

「わ、わかったよ。落ち着いて」


 ちょ、ちょっとビックリしたかも。悪気がないのはわかるけどね! あまりにもサンディが慌てるから、なんだか私も照れてくるよ。


 他意はないわけだし、ここで私も照れてしまったら、きっとサンディが居た堪れなくなっちゃう。落ち着こう、年上として余裕を見せなきゃ。ふぅ。


「たださ、本当の女の子って男より力がないんだなって実感したっていうか。知ってはいたけどさ、本当に弱いんだなって思っちゃってさぁ。そりゃあ人にもよるんだろうけど、ルリは特に細くて、すっごく心配になっちゃったんだ」

「細いかな? 普通だと思うんだけど」

「オレにとっては細いの!」


 食い気味に言われてしまった。ご、ごめん?


「だからね、ルリ。いっぱい頼ってよね。オレは年下だし、かわいい恰好ばっかりして頼りなく見えるかもだけど、一応は男だし守れるよ。メディだって。せっかく仲間になったのに、ルリに何かあったら悲しいよ」


 あ、そうか。一緒に楽しくおでかけしていたのに、私が急に熱を出しちゃったから余計に心配をさせてしまったのかも。


 うぅ、これは私が悪い! 二人は年下だというのに、年上として本当に不甲斐ない。サンディもメディもまだ未成年だもんね? 不安になって当たり前だった。


 だというのにテキパキとお医者さんのところに連れて来てくれて、クランにも報告に行ってくれたんだよね?

 ……すごいなぁ。年下だけど、そういうしっかり者な部分は見習いたいよ。


「ありがとう、サンディ」

「ん。はやく元気になってよね」

「うん」


 まずは元気になること、だね。環境の変化についていけなくなったのかもだし、焦らずゆっくり慣れていこう。

 それで、少しずつ役に立てることを探していきたいな。


 ◇


 翌朝、だいぶ熱は下がったみたいだけどまだ微熱があるみたい。カトリーヌさんに、今日は一日ここで過ごしなさいって言われちゃった。

 お医者さんに言われたら嫌だとも言えない。早く治すことが今の私の仕事だからちゃんということ聞きます!


 汗をかいただろうからと、カトリーヌさんは温かいお湯とタオルを用意してくれた。あ、ありがたい! 

 買い物帰りだったおかげで着替え一式もここにあるのが不幸中の幸い。


 着替えを手伝おうか? とも言ってくれたけど、丁重にお断りした。自分で動けるくらいには回復したからね!


「それじゃ、胃に優しい食事でも持ってくるかね」

「あ、ありがとうございます。あの、代金は……」

「あはは! ごちゃまぜな工具ども(ジャンブルツール)の一員なんだろ? どうせあとでくるだろうトウルに請求してやるから安心しな!」


 それは安心できないんですが!? えっ、まさか本気で? ちゃんと私もお金持ってるのに!

 と、言おうと手を伸ばしたけれどカトリーヌさんは笑いながら部屋を去っていった。


 むむ、これは後でちゃんと話さないとね。なんとなくカトリーヌさんに、私は子ども扱いされてる気がするから。


 ……そんなに子どもっぽい? もしくは頼りなく見えるのかな。

 心配すぎて一人にさせられない、とは香苗にもよく言われたっけなー。


 なんて考えながら身体を拭いていく。はぁ、あったかいお湯とタオルが気持ちいい!

 全身を拭き終え、さっぱりしたところで服を着る。微熱があるからかいつもよりもたついちゃうな。


 そう、もう少しはやく着替えが出来ていれば。


「おう、ルリ。見舞いにきてやったぜ。調子はどうだ?」

「なっ、な、なななっ……!」


 急に病室のドアがガチャリと開いたとしても、こんな恥ずかしい思いをすることはなかったのに。


 な、な、なんでトウルさんがここにーっ!?


 わ、私まだ肌着なんですけど! なんなら下は下着だけなんですけどぉ!!


「きゃああああ! 変態っ!!」

「あぁ?」


 しかもこんな姿を見ているというのにあまりにも普通。なんならこのまま居座る雰囲気まで出てるし! 


 なんで普通に会話しようとしてるの!? 無理ぃ!!


「なにしてんだい!」

「あ、おい、やめ、やめろって」


 私の悲鳴を聞いて駆け付けてくれたカトリーヌさんが、箒でトウルさんをポカポカ殴って追い出してくれた。


 ま、まだ心臓がバクバク言ってるよぉ……!


 と、とにかく早く服を着よう。そう思って慌てて着替えていると、ドアの向こうからカトリーヌさんとトウルさんの会話が聞こえてきた。


「あんた! 覗きとはいい度胸だね!」

「んだよ、裸だったわけでもねぇのに気にしすぎじゃねぇか」

「気にしてなかったら悲鳴なんかあげないさ! あんたってヤツはデリカシーってもんがないのかい!」

「へーへー、俺が悪ぅございました」


 うわ、絶対に反省してない! 裸だったわけでもないって……下着姿もアウトだから!


 トウルさんは紳士的だと思っていたのに、これはない。

 もしかして、悪い意味で女性慣れしているタイプだったりするのかな? 女性の、その、は、ははは裸なんて見慣れている、とか? はわわわわわ!!


「反省してないね? はぁ、心配だよ。男ばっかりのクランにあんなかわいい女の子が一人で」

「誰もあんな細っこい身体を見て、妙な気は起こさねぇよ」


 えっ、細っこい? それって遠回しに子ども体型って言われた……?


 し、し、失礼な!!

 そ、そこまでじゃないはずだもん! 大きくはないけど! なにとは言わないけど!


 でも、そういえば町を歩いていた時に見かける女性はグラマラスな方が多かった気がする。


 チラッと自分の胸元を見る。

 ……大きくはないけど、小さくもない。うん、標準だ。

 ただ服を着るとすとんとして見えるのも事実。少なくともグラマラスではない。


 だとしても、失礼じゃない!? 変な気を起こさないのは助かるけど、なんか、こう、失礼!


 っていうかトウルさん、私のことそんな子ども体型だと思ってたくせに「俺の女」宣言したってこと? 

 本気じゃないってわかっているけど……! 釈然としないぃっ!


 なんだかムカムカしてきた。

 いまだに部屋の外でカトリーヌさんの説教が続く中、着替えの終わった私はバンっと勢いよくドアを開けた。


「お、着替えたか」

「悪かったね、ルリちゃん。このダメ男を止めらんなくて」


 いいんです、カトリーヌさん。むしろ来てくれて説教までしてくれてありがとうございます。


 問題は、トウルさんなので。


「トウルさんなんか、嫌い」

「……は?」


 ぷくっと頬を膨らませ、そっぽ向きながらそう言うと、トウルさんは呆気に取られたような顔を浮かべ、数秒後にカトリーヌさんの笑い声が響いた。


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